001 愛の笛/デイビット・マンロウ
最初に何を紹介すべきか? ということを考えてしまうと『ああだ、こうだ』と大変なことになりそうです。
そんな訳で悩まない方法を取りました。 私のレコードのコレクションの中で一番左端にあるものを紹介します。 何故右ではなくて左なのかということは機会があれば…
現在ではバロック期の音楽を中心に据えた活動をする演奏家がずいぶん増えました。 それ以前の音楽についても同様です。 しかし数十年前、私が音楽をはじめたころ、それらの時代の音楽を『専門』にする演奏家、もしくはグループというのは非常にめずらしかった。
ある時ラジオから透明な笛の音が聞こえてきました。 今となってはそれがなんという曲だったのかはわかりません。 知らない曲だったかもしれません。 しかし、僕はそのときの衝撃を忘れない。
ベートーベンやチャイコフスキーの音に馴染んで、それらとは違うバッハという世界も知って、自分の体内に『音』というものが芽生えたころでした。 そのラジオから流れ出た『音』はそれまで僕が体験したことのないものだったのです。 その音というのがデイビット・マンロウの笛だったのです。
デイビット・マンロウはリコーダー(小学校でもやるたて笛)をはじめ多くの種類の笛の達人で、ロンドン古楽コンソートという古楽器(オリジナル・インスツルメンツ)によるグループを結成し、当時未知であった中世・ルネッサンスの音楽を積極的に世の中に紹介していった人物として知られています。 彼の残したレコードはどれも傾聴に値するものばかりですが、ここでは古い音楽としてはわりと馴染みやすい、バロック期の曲を取り上げたものを紹介します。 彼の笛の特性が非常によく出ている一枚だと思います。
このレコードについて
リコーダーを中心としたバロック期の作品を取り上げたものです。
『ファロネルのグラウンド(ラ・フォリア)』(作者不詳)
最初の響きを聞いただけで、この演奏家が持っている深い悲しみを感じ取れるでしょう。
メロディーはコレルリのヴァイオリン・ソナタ12番の主題としても有名な『ラ・フォリア』です。
『6羽の鳥の鳴き声』(作者不詳)
むくどり、カナリア、ナイチンゲールなどの鳥の鳴き声を模して作られた曲集によります。 小品。 フラジョレット(親指用の穴が二つのたて笛)による独奏。 こんな楽しい曲があるのかという感じ。
ダニエル・パーセル(1663頃-1717)/ソナタ ニ短調
ヘンリー・パーセルの弟。 兄に比べ知名度は劣るが良い感じの小品。
その他、ヘンデルのソナタのようなメジャーな曲も収録されているが、アクセントや装飾音など、一般に聞き慣れたものとは少し違ったものが楽しめるでしょう。
演奏者
デイビット・マンロウ:リコーダー、フラジョレット
オリバー・ブルック:バス・ヴィオール、チェロ
ロバート・スペンサー:テオルボ、ギター
クリストファー・ホグウッド:ハープシコード
蒼々たるメンバーです。 最後のホグウッドについてはいずれ取り上げることになると思います。
レーベル:argo
※ CDもありますが、レコードのほうが音は良いようです。
マンロウの仕事の紹介を兼ねて、中世やルネッサンスの音楽を楽しみたい方への手引きとして、この本を紹介します。
マンロウ著、音楽之友社刊
現代からバロック期あたりまでの楽器についてはだいたいの見当が付く方でも、中世やルネッサンス期の楽器となると、見たことはもちろん聞いたこともない、という方が少なくないでしょう。 そんなときに役に立つ一冊!