旅の紹介
◆ 香港島のアバディーン(香港仔)でサンパンで暮らす水上生活者の生活を眺め、ビクトリア・ピークから100万ドルの夜景を楽しみます。怪しげな露天を覗き、真っ暗闇の海峡を小舟で渡り、レイユームン(鯉魚門)で極上の魚介を堪能!
地図:Googleマップ
香港島のセントラル(中環)からバスに乗り、うねうねとした山道を走ること40分。
島の南側に出ると、そこがアバディーン(香港仔)です。
アバディーンの名は香港がイギリスの植民地になった時の外務大臣の名にちなんで付けられたのだそうですが、香港仔のほうは、小さな香港、リトル香港といった意味合いだそうで、香港島に初めて人々が住み着いたのがここだからだそうです。
アバディーンの中国名はシェックパイワン(石排灣)。ここは香港で最も古い漁村として栄えてきましたが、近年その環境は大きく変わりつつあります。
かつては5000隻ともいわれるサンパンがあり、水上生活者、つまり船を家にして生活している人々がかなりいたそうですが、近年、政府の奨励で住宅開発や工業地としての開発が進み、これらは激減しているそうです。
それでもまだ水上生活者はたくさんいました。
おそらくもう動かないだろうと思われるような作りの船、ええ、一応船なのですが、その上にはほとんど船を土台とした建物といったほうがいいようなもの作られていて、場合によってはその親船に、生活物資が積み込まれた子舟が繋がれています。こういった船が湾内にたくさん係留されています。
周辺に建ち並びつつある高層マンションとこれら水上の家々の対比はどう表現したら良いのか、時代の推移の中にある風景の一コマではあります。子供達はこういった屋根の上を無心に、いったりきたりして遊んでいます。
ぶらぶらしていると、おじさんやおばさんが、『船に乗らんかえ〜』 と声を掛けてきます。
このあたりの人々は、今は漁業より観光収入で生計を立てているのか、観光用のものと思われるサンパンもたくさんあります。サンパンの本来の意味は知りませんが、ここでは写真のような小型の木造の船を指すようです。
そんな中の一隻でベイ・クルーズをすることにしました。サンダル履きに、上半身は白い下着の半袖シャツを身に纏っただけのおじさんのサンパンに乗り込みました。
水上生活者の船の脇をかすめ、少し広々としたところに出るとそこには観光案内のパンフレットには必ずと言っていいほど出てくる、豪華絢爛というか、中国趣味というか、香港趣味というのか、水上レストランが現れました。一つならともかく、こんなのが3つもあるというのがなんだかね~。
痩せても枯れてもここはアバディーン。伝統ある漁港で船は生活になくてはならぬもの。
湾のとある一角に木造の船を作る造船所がありました。まだまだここでは船の文化が生き続けているようです。
ここは香港島とアプレイチャウ(鴨利洲)という島の間でにあるので、波が穏やかで船の避難場所としても機能しているとか。ドラゴンボート・レース(龍舟競賽)の始まった場所としても有名で、これは旧暦の5月5日、端午節に行われるそうです。
サンパンによるベイ・クルーズを終え陸に上がると、通りには魚介を売る露店が並び、その先には船乗りの守護神を祭るテインハウミュウ(天后廟)がありました。
アバディーンでベイ・クルーズを楽しんだ後は再びセントラルに戻り、ガーデン・ロード(花園道)からピーク・トラムでビクトリア・ピークに上りました。
このケーブルカー、40度はあろうかという急勾配を行くにもかかわらず、座席の背もたれが車体に直角なので、背中がこの背もたれに押し付けられてたいへん!
10分ほどがまんして山頂駅に到着すれば、そこからの眺めは噂に違わぬなかなかのものです。植民地時代の初期にはここに上るのに、竹で出来た椅子籠が使われていたというからビックリです。このピーク・トラムは香港の公共交通機関の中では最も早く機械化されたものだそうで、当初は蒸気で動いていたそうです。
ランタオ島方向を見れば、漁船でしょうか、たくさんの船が夕闇の中に浮かんでいます。
100万ドルの夜景。
ビクトリア・ピークで夜景をたっぷり楽しんだあとは、再びピーク・トラムでセントラルに下りました。
セントラルの湾沿いをぶらぶらしているとこんな露店が集まっているところに出ました。
食べ物系の露店が再開発の為に更地になったらしいところにびっしり。
店ごとに取り扱うメインの食材が違うようでこちらは鳥専門です。おばさんが丁寧に食材を吊り下げているところです。
そしてこちらはイカが専門のよう。丸ごと買うも良し、足だけ小分けで買うも良し。こんな店ではたいてい簡単な食事ができるようになっていて、食材を指定してお好みのものが食べられます。
しかし私たちはここで食事というわけにはいきません。今日の夜は、すばらしい魚介を安く提供することで噂になっているレイユームン(鯉魚門)に行くことにしているのです。
最近少しずつ知られるようになってきたというレイユームンは、ホテルのレセプションで聞けば、香港島の西の外れともいうべきシャウキワンからさらに先にあるとのことで、大分遠い。
シャウキワンまでは最近地下鉄が通ったとのことですが、やっぱり地上のほうが楽しかろうとセントラルから二階建て路面電車に乗り込み、コーズウェイ・ベイ(銅鑼湾)を通りノース・ポイント(北角)までやってきました。道が混んでいるからなのか、この路面電車はのろのろと進まずこのあたりで飽きてきてしまいました。大型電飾看板はここにもあるのですが、昨夜の九龍で見たほどグチャとしていなくて、わりかしおとなしいし、こんなものはせいぜい30分も見れば十分なところを、もう1時間以上も走っているのです。
その電飾看板がほとんどなくなったころ、ようやくサイワンホー(西湾河)に到着。周辺はちょっと寂しい感じです。道行く人にレイユームンの場所を聞けば、なにやら怪訝な表情をしています。
『レイユームン? それはこのへんじゃあなくて、ずっと遠くだよ!』 とおっしゃいます。
『え〜、そんな〜 … 』 しかしホテルの人はここから行けと確かに言ったのです。何人かに訪ねるとようやくその中の一人が、
『レイユームン、ああ、魚屋がいっぱいあるところに行きたいの?』 とそれらしいことを言ってくれました。
『そうそう、そこに行きたいんです。そこにはレストランもありますか?』 と聞けば、その人、うんうん、とうなずいてこっちへ来いという。言われるままに後を付いて行くと、いつの間にか通りを外れ寂し気なところへ。おいおい、どこへ行くんだ… 5~600mほど歩いて着いた先はどうやら湾のようですが、ほとんど明かりがなく、かなり暗い。
『あそこの舟に乗りなさい。そしたらレイユームンに行くから。』 と我らが水先案内人。あっ、ありがとう、と言ってその舟に乗り込むも、状況判断が出来ていない私たち。なぜ舟に乗るの?
その舟は真っ黒な海の中をどんどん進んで行きますが、どっちに進んでいるのかまるでわかりません。現地で手に入れた地図を良く見れば、鯉魚門の文字はシャウキワンの湾内、海の中に水色で表示されています。どうやらレイユームンは島らしい(実はこの文字は海峡名で、村は九龍側にある)と分かりました。数分でこのボートはどこかに着きました。船頭さんが私たちを手招きしています。その指差す方を見れば、真っ暗闇の中にぼんやりと一つのあかりが灯っています。そこには今乗ってきた舟よりずっと小さな、手漕ぎの渡しのような舟がありました。船頭さんは、あれに乗れ、あれに乗れ、というふうしきりに私たちに合図します。
『えっ、また舟に乗るの~ いったいどこに行くんだ?』
現地の人が2~3人その小舟に乗り込んだのを見て、まあ、これに乗っても香港に売り飛ばされることはないな(笑)、と思い、私たちもその小舟に腰を据えました。小舟は真っ暗な闇の中に漕ぎ出しました。どこに向かっているのかさっぱりわからないので、このあとどうなるのかと内心ドキドキです。しかしこの舟は乗ったと思うが早いか、あっという間にどこかに着きました。船頭はここだ、ここだ、下りろ、と合図しています。
とにかくも舟を下り、先に下りた人々の後に付いて行くと、そこは魚の市場のような雰囲気になりました。どうやらここがレイユームンのようです。
細い通りの奥まで魚の入ったケースがびっしりと並び、さらにその奥にレストランがあります。魚を売っている所は良く見ればいくつかの店に分かれているようで、同じ舟に乗っていた現地の人は、おなじみらしい魚屋で魚を買い求め、また舟に戻って行きました。
私たちはと言えばどうしていいのか分からずに、だたその辺をうろうろするばかり。一軒の魚屋さんの女主人が声を掛けてきました。
『あなたたち何がほしいの? ここにはおいしいものがいっぱいあるわよ。好きなものを言ってみて。ここで買って、向こうのレストランに持って行けば、好きな調理方法で料理してくれるのよ。』 と言ってくれました。お~、そうなのか、ここで好きな食材を買えばいいのか。
『じゃあ、海老をお願い~』 と言ったらこのお女主人、もの凄くでっかい海老を持ってきて、
『これ、絶対お勧めよ~』 とおっしゃいます。
『ひゃ〜、で、でかい! いくらなんでもこりゃデカすぎるからもっと小さいのをちょうだい!』 ということで、まずは海老をゲット。あとはお勧めだという魚と貝を買い込み奥のレストランへ。
レストランで食材を渡し、あとは適当に頼むよ! と言っておまかせしましたが、海老はちょっとピリ辛味のプリリ〜ン、魚は香菜入りの蒸し物、貝はさっとした煮付けでほっぺたが落っこちているサリーナでした。持ち込みでは足りないものや副菜、野菜ものなどはレストランのメニューから選ぶことができるようになっていました。
行き着くまではちょっと大変でしたが、ここでは最高の食事にありつくことができました。ちなみにあとで調べてみると、鯉魚門とは九龍側の南東に突き出した半島の先の地名のようで、香港島のシャウキワンとその鯉魚門の間の狭い海峡を、鯉魚門海峡と言うそうです。鯉魚門海峡は600メートル程しかなく、私たちはここを香港島の側から舟で渡って行ったのです。九龍側にあるのになぜわざわざ香港島から渡ったのかといえば、この時点では鯉魚門までの陸路は発達していず、香港島からの方がアクセスが良いのだそうです。