1995.09.07(木)
ウブゥの宿はそれなりに快適で小さいながらもプール付きです。
朝ご飯を頂いたらこのプールで泳いでさっぱり。
今日はゴア・ガジャの近くでお葬式があるらしい。バリ島のお葬式は、これは祭りか、と思わせるような賑やかなものだと聞いたことがあります。これは行ってみなくちゃ〜
ということで、昨日ガイドを頼んだカレに案内してもらうことにしました。
しかし服はいつものカジュアルなものしかありません。カレがお葬式用の服を着たほうが無難だというので、一番安いものを買い求めました。
黒い腰巻きのようなサロンに、黒い八巻のような帽子のようなものでバッチリ身支度したサイダー。あっ、上半身は普通の服でいいようです。
カレに付いてお葬式が行われるという方向に歩いていくと、御神輿のようなものが道端に置かれています。なにかお祭りでもあるのかなと思ったら、何とこれで死者を運ぶんだそうな。
これにはかなり驚き。本当に日本とはまるで雰囲気が違います。
少し先へ進むと、大勢の人が集まっています。
どうやらこのあたりでお葬式は行われるようです。
女と子供は少し奥まったところで静かに待っています。
どうやら女は黒いブラウスを着るのがしきたりらしい。
一方の男たちはお葬式の飾り付けで大忙しの様子。
お葬式の準備は男の仕事なのでしょうか。
しばらくすると準備が整ったようで、神輿(ちょっと違いますがこう呼ばせてもらいます)が担がれてきました。
どこかから柩が運び出され、神輿の上に納められました。男が神輿に乗っていますが、この方の右手は柩が神輿から落っこちないように、その端を押さえているようです。
最初この神輿で死者を運ぶと聞いた時は、いったい何をどんなふうに載せるんだろうと思いましたが、柩が水平に置かれています。
いよいよお葬式が始まったらしく、まずバリ島の伝統的な音楽であるガムランの音楽隊の登場です。音楽からして日本のしんみりとしたお葬式とはまったく違い、銅鑼やシンバルのようなものが入り、かなり賑やか。
しかし日本でも、ここで使われているシンバルの小さいようなものを打ち鳴らす習慣がある地方もあるとか。それは遠い昔、この南国から渡来したものなのでしょうか。
ガムラン音楽隊に続いて神輿がやってきました。男たちがこれをゆすったり回したりと、まさにお神輿状態です。あまりの激しさに、頂部のきらびやかな飾り物は飛んだり跳ねたり。
神輿をグルグル回すのは、死者の魂が迷って戻ってこられないようにするためとのこと。日本の一部の地域ではここと同じように柩を回す風習のところがあると聞きますから、これもどこかで日本と繋がっているのかもしれません。
通りにはほとんど男たちしかいません。このころ女たちは別の場所で供え物をし、お祈りを捧げているのだそうです。
死者を載せた神輿はどうやら街はずれへ向かっているようです。
そしてこの神輿が着いたところはなんと森の中でした。
わっせ、わっせと神輿が少しずつ進んでいきます。
その先には何かが置かれています。最初はそれが何なのかよく見えなかったのですが、近づくとそれは獅子の張りぼてのようです。しかもこの獅子には立派な羽根が生えています。ペガサスのライオン版といったところですが、この獅子はシンガ(singa ambara)と呼ばれているようです。
いよいよクライマックスです。
張りぼての赤い獅子に神輿が近づくと、柩が降ろされます。ここで始めて柩がはっきり見えたのですが、それはどうやら船形をしていて、きらびやかな装飾が施されているようでした。
これまた日本のそれとはまったく違いますね。
この獅子、おっかないとも見えるし、愛嬌があるとも見えます。なんだか不思議な顔付きです。そういえばこの獅子、値段によって形や色が違うそうです。あたりまえですがね。
降ろされた柩は獅子の胴体に納められました。
柩の移動が終わると、てっぺんにひらひらが付いた高い棒が添えられた、なんだか良くわからないものが運ばれてきました。
たぶんこれはお供えでしょう。
ざわついていた集団が徐々に静かになり、獅子を取り囲むようにして集まりだしました。
その一番前には遺族と思われる方が膝を着いて座り、手を合わせています。
着火。赤い獅子の中には何か油のようなものでも仕込まれているのでしようか、物凄い勢いで燃えていきます。あれよあれよという間に、獅子はあっけなく燃え落ちました。このあとはおそらくそれなりに手がかけられて、遺体は完全に灰にされるのだろうと思います。
灰は海に撒かれると聞きますが、ここは海からは少し離れています。どうするんでしょうか。まあ、車で移動すれば海まではすぐですが。
このすぐ近くには明らかに土葬とわかるお墓がありました。これはお金がなくて火葬に出来ない人々のもので、仮の埋葬だそうです。こうしたものはお金ができた時に掘り出して、火葬されるのだそうです。
これまで寺院をたくさん見てきましたが、そこには一つも墓はありませんでした。バリ島では墓はお寺にはなく、こんなふうに各村々にあるだけです。しかもこうした墓には、家の墓、個人の墓、というものはなく、ただ村の墓があるだけだそうです。
バリ島の有名なお葬式に立ち会った私たちは、ウブッを後にしサヌールへ移動しました。夜はペンジョールという店で夕食のついでに、またまたダンスの鑑賞を。
これはその中の一つのバリスという戦士の踊りです。三角形の冠が目印で、あでやかな服が何層にもなっていて、動きのたびに下の服がチラチラと見えかくれします。勇ましい戦士の象徴ということでか、怒らした肩でガニ股で歩き、ぎょろっとした目をして、まばたきをしないのが特徴だそうです。この店は夕食時間に舞台間近で見られますが、踊りの質はどうやらウブッ近郊のほうが一枚上のように感じました。
1995.09.08(金)
バリ島はマリンスポーツでも有名。せっかく海岸に来たことだしとサヌールでスクーバ・ダイビングを。タイミングが悪かったのか海は少し濁っていて今一つでした。なんでもバリ島で一番のダイビング・スポットは島の北西部、もしくは北東部だとか。
夜はペリアタン・ヴィレッジで、またまたダンス。
これはレゴン・ダンス。女性3人で踊られるしなやかなダンスで宮廷舞踊なのだそうです。バリ島のダンスの代表格で、敵にさらわれたお姫さまを婚約者の王様が助けるという、いかにもなお話です。写真は前夜のペンジョールでのもの。
1995.09.09(土)
サヌールのビーチに出てみました。
物売りはあまりおらず、たまに、『マッサージ、マッサージ』 と声を掛けてくるおばさんがいるだけの、静かなビーチです。
知人から、『パラセーリングやったら人生観変わるよ。高さ50メートルの青空に浮かぶとすごいよ!』 と聞かされていたサイダーはさっそくトライ。
しかしまあこれ、楽しいことは楽しいのですが、ハンググライダーのように自分で操縦するわけではないし、普段見ることのない海中を散歩するような気分のスクーバ・ダイビングと比べると、ちょっと…かな。
このあとは近くでシュノーケリングを楽しみましたが、ここには大物や珍しいものはいないみたいですね。
バトゥブランの村でバロンダンスがあると聞き、行ってみました。森の中といった感じの小さなお寺で、ロケーションが伝統舞踊を見るのには良い感じ。
男たちが威勢のいい踊りを披露し、
美しい女たちがしなやかに踊る。
そしていよいよバロン様のお出ましだ。善の象徴、聖獣バロンは悪霊を追い払うものとして信仰の対象となっているのだそうです。
バロン様に対抗するのは魔女ランダ。壮絶な戦いが展開されるが、この善と悪の対決は永遠に終わらずに幕。勧善懲悪の日本のものとはちょっと違った世界観がここにはあるらしい。
バリ島は街角のそこかしこに神様がいる、花いっぱい、神様いっぱいの美しいところでした。