天草といえばキリシタンというくらいに、ここ天草と日本のキリスト教は切っても切れない関係にあります。豊臣秀吉の切支丹禁教令を皮切りに徳川幕府の弾圧を受け続けたキリスト教徒は、この地で隠れキリシタンとして生き続けたのです。
茂串湾
今日は天草でも見どころの多いコースで、崎津と大江の二つの天主堂を巡ったのち、東シナ海に面した西海岸の風向明媚な断崖絶壁を行きます。
天草下島の南端にある牛深の宿の窓を開ければ、空は青い。今日はこのルートにふさわしい最高のお天気になりそうです。
牛深の宿を出、トンネルを通り抜けるとすぐに静かな茂串湾に到着します。
茂串湾から魚貫湾へ
茂串湾には小さな漁港があり、漁船が数隻係留されています。他の船はすでに漁に出かけたのでしょうか。漁船の脇では漁師さんが作業をしている姿がありました。
港を出たところで、地元のおばちゃんが声をかけてきました。
『東京からやってきたんなら、浜も珍しかろう。もう少しすると潮が引くんだが、そうしたら○○なんかがいっぱい採れるよ。』 と教えてくれます。○○はなんのことか分かりませんでしたが、昨夜の銭湯内の会話のようにまったくわからず、ということはありませんでした。
黒石海岸
穏やかに下ると魚貫湾に面した黒石の海岸です。
先に複雑な地形が現れます。天草の海岸線はどこでも複雑に入り組んでいて島も多く、とても魅力的です。
浦越からの山越え
その黒石を過ぎると浦越からは桜川に沿って山に向かいます。
天草は海も豊かですが山もそれに劣らず豊か。
姫の河内
山道風のところをほんの少し上ると視界が開け、姫の河内に出ます。
ここは山の合間の静かな農村で、きれいなレンゲ畑がありました。
亀浦近くの山と田んぼ
レンゲ畑の先でまた山っぽいところを抜け再び視界が開けると、田植えされたばかりの田んぼに山が映り込んでいます。これは日本の原風景の一つですね。
亀浦川沿い
ここから亀浦川沿いの細道に入ります。
これまでも車はほとんど通らない道でしたが、ここには車はおろか、人っ子一人いません。快適快適、とサイダーとジークが行く。
亀浦
この細道が広い道に突き当たると、そこは湖のような亀浦。
波はまったくなく、水面に鏡のように周囲の景色が映り込んでいます。でもここは湖ではなく、入り組んだ湾の一番奥になる海なのです。
早浦
亀浦から一旦内陸を通り再び水面が見えると、今度は早浦。
こちらも海ですが、どうにもそうは思えませんね。
河浦の天草コレジヨ館付近の麦畑
湖とも海ともつかぬ早浦の幻想的な景色を眺めつつ進めば河浦が近づき、青々とした麦畑の真ん中を行きます。
ガッツポーズのムカエルは、この先の天草コレジヨ館を見学したのち離脱。
天草コレジヨ館から崎津天主堂に向かう
天草コレジヨ館がある河浦町は16世紀にキリスト教が伝わった地で、天草コレジヨという神学校が建てられました。そこでは天正少年使節団が持ち帰ったグーテンベルク印刷機により、平家物語や伊曽保(イソップ)物語などの天草本が出版されました。
天草コレジヨ館にはグーテンベルク印刷機や竹製のパイプオルガンを始めとする南蛮渡来の西洋古楽器など、当時の関連資料が展示されています。ここは一見の価値あり。
羊角湾を行くケロガメ
天草コレジヨ館からは崎津天主堂に向います。
河浦から西へ延びるR389はサンセットラインと呼ばれるようで、ここから西海岸の富岡まで続いています。入り組んだ湾は次々とその名を変え、ここは羊角湾。周囲の地形があまりに複雑で、なおかつグルグルとあちこちに方向を変えて進むので、方向感覚を失いそうになりますが、後ろに見える対岸の付け根に先ほど通った亀浦と早浦があります。
羊角湾を行くサイダー
海岸からはいきなり山が立ち上がります。
天草の多くの海岸はこんな調子で、たいてい山の中にあるといった感じ。
海の色が変わった!
羊角湾の出口にある小さな半島状の出っ張りを廻ると海は天草灘となり、外洋の東シナ海です。
出っ張りの先端付近までやってくると、突然、海の色が変わった!
これまでの海は水の透明度はあるものの、どこかくすんだ印象でした。ところがここに来てそれは、光を透過してどこまでも透き抜けるような、爽やかなブルーに見事に変化したのです。
崎津天主堂を後ろに
そして小さな凸先を廻ると突然すぐ近くに対岸が現れ、下り坂の先に集落。その中に小さな崎津天主堂が建っているのが見えます。
このアプローチはとても印象的。東側から崎津天主堂にアプローチする場合は崎津トンネルを使うのが一般的だろうと思いますが、この海岸沿いのルートのほうが劇的だと思います。
対岸から崎津天主堂を望む
坂を下るにつれて大きくなる崎津天主堂。その前の小さな入り江の水は驚くほど透明で、天主堂へのアプローチを一層魅力的にしています。
ここは漁村でもあるようで、湾の中に数隻の漁船が係留されています。その漁船を横目に街中の細い道を進み、さらに小径を入ったところに崎津天主堂は建っています。
崎津天主堂
先の河浦町と同様にこの地にも16世紀にキリスト教が伝えられ、その折にここに最初の教会が建てられました。しかし17世紀に豊臣秀吉により切支丹禁教令が発せられると、天草のキリシタンは隠れキリシタンとしてその信仰を守り続けたといいます。
時代が移り明治になってその禁教令が解かれると、ここに再び教会が建てられました。この崎津天主堂はそれから三代目のものだそうで、1934年(昭和9年)の建造。
ゴシック風のファサードは鉄筋コンクリート造で、その後ろ側は木造。内部は木造のゴシック風の意匠で、床は日本の古い教会にたまに見られる畳敷きです。
崎津天主堂から大江天主堂へ
崎津天主堂を見学したあとは街中でただ一軒の食堂で昼食。ちゃんぽんは大盛りでおいしかった。
崎津からは大江天主堂に向かいます。大江天主堂は大江の街はずれにあり、その大江まではいくつかトンネルを通ると近いのですが、ここはジオポタのルールに従いトンネルを回避、海岸線をぐるっと廻って行くことにします。
首越峠への上り
海岸線は相変わらずで、きれいな景色がしばらく続きます。しかし軍ヶ浦からは山道になり、エッチラオッチラが始まります。
こうした海から山への変化が楽しめるのも天草の特徴です。
先に大江天主堂
なんとか首越峠をパスすると、一気に大江の街に下ります。大江の街の中心部を外れたところで進路を内陸に変えると、左手の丘の中腹に真っ白な大江天主堂が現れます。
大江天主堂
このメインロードから枝道に入り、さらに天主堂の前に出る道へ。ここはもちろん丘の上の天主堂めがけて、少しの間エッコラします。
大江天主堂の建設は1933年(昭和8年)で崎津天主堂とほぼ同時期。建築家も同じ人ですが、崎津天主堂がゴシック風のファサードだったのに対し、こちらはロマネスク風。構造も異なり、こちらは全体が鉄筋コンクリート造のようです。内部も崎津の床は畳でしたが、こちらには絨毯が敷かれています。白とベージュの壁と天井、内部の柱にはギリシャ風柱頭飾りが。
大江天主堂脇の激坂を進む
大江天主堂からは西海岸に出ます。
天主堂の横から続く道を行けば裏山を上るようにして尾根を越え、西海岸に出られるようです。ところがこの天主堂横の上りが凄かった。超激坂で、即押し!
西海岸へ向かう
それからもこの道はちょっと厳しく、一気に高度100mを上ることになります。
しかしおかげで、今まで走ってきた南東方面の景色を高台から見下ろすことができました。
奇岩の西海岸
しばしヨロヨロしてようやく辿り着いた西海岸。そこにはアッと驚くような絶景が! エメラルドの海を下に、断崖絶壁が続きます。上った真っ正面に見えるのがこの光景。
これまでの海岸線沿いの道は標高0mに近いところだったので、海面は近かったのですが、こんな風景は見ることはできませんでした。遠くに奇岩、これから向かう右手にはごつごつとした岩場、そして目の覚めるような海の色! この海の色はとても写真では表せません。
待望の下り!
この西海岸に出たところが本日のピークなので、ここからは待望の下りです。
すばらしい景色を眺めながらのダウンヒルは最高!
続く断崖
その道はこんなところを通っているのです。入り組んだ海岸線から急激に立ち上がる斜面の中腹に、山を無理矢理に削り取った一本の道が伸びて行きます。
海はエメラルド
この崖から下を見下ろせば・・・
絶壁を行く
絶壁の中腹を行く道は徐々に高度を落としながらも、どこまでも続いているように思えます。
この道、所々に上りもあるのですがそれらは大したことはなく、快調に進みます。
白鶴浜に下る
5kmほどこの断崖とすばらしい景色を楽しんだあとは、こんな道があるのか、と思わせる激坂下りです。
大きくカーブしながら下って行くこの坂の中盤からは、先に穏やかな弧を描いている砂浜が見え出します。あれが白鶴浜でしょう。
白鶴浜から十三仏公園へ
白鶴浜は真っ白な砂浜が弓なりに連なるきれいな浜辺で、松林の海側に遊歩道が整備されています。
その遊歩道の終点まで進み、車道に戻るといきなり上り。ここからまたエッチラオッチラが始まります。白鶴浜が下に見えだし、湾の反対側の山の中腹に先ほど下ったキョーレツな下り坂が白い帯となって見えます。
十三仏公園からの眺め
道がカーブして、その白い帯が見えなくなると十三仏公園に辿り着きます。
ここは公園とはいっても、小さな展望台があるだけのところですが、その展望台からの眺めがこれまた素晴らしい。これから向かう妙見浦が小さく見え、さらに先へ続く断崖。
天草色の海
下には天草色の海。
妙見浦を望む
十三仏公園から少し進むと、ちょっとした展望スペースがあります。家族とやってきていた女の子が、
『あ~、ゾウさんがいる~』 とはしゃいでいます。なるほどここから北の海岸を望めば、まさにゾウさん岩が。あれが国指定名勝で天然記念物の妙見浦です。
R389サンセットラインに出るとほどなく妙見浦の上に到着。妙見浦の海岸には降りられるようになっているので行ってみました。褐色の岩肌をむき出した奇岩があちこちに飛び出、足元にはごろごろゴロ太石。海の水は驚くほど透明で、この先はダイビングポイントだそうです。
鬼海ヶ浦展望所にて
妙見浦からは一旦川筋まで下り、ちょっとした山を越えて鬼海ヶ浦展望所に向かいます。この展望所の手前のトンネルの迂回路は落石のため通行止めだったので、止むなくトンネルを通り抜けます。
鬼海ヶ浦展望所には売店やレストランが入った施設があり、その海側に展望台があります。下にはここにも奇岩とため息が出そうなエメラルドの海!
鬼海ヶ浦展望所からR389を下ると天草最古の温泉、下田温泉です。ゆっくり露天風呂に浸かり、窓からぼーっと天草灘に落ちる夕日を眺めるのは最高! なになに、今宵はアワビ蒸しか。
本日のコース、天草の必見ルートなり。