直江津付近の車窓から頸城山塊を望む
今年はなかなか暖かくなりませんでしたが、ここにきて急激に気温が上昇、いつものゴールデンウィークとなりました。そしてお天気も快調!
2012年のゴールデンウィークツアーは、北アルプスをぐるり。今日はその前哨戦で、新潟県の直江津から日本海を眺め、頸城(くびき)三山といわれる妙高山(2,454m)、火打山(2,462m)、焼山(2,400 m)を眺めながら、『塩の道』の起点である糸魚川まで。
越後湯沢で乗り換えた特急はくたか2号の車窓には苗場山あたりか、三国山脈の白い山々がくっきり。否応なく北アルプスへの期待が高まります。
日本海と岩殿山
越後湯沢から45分、到着した直江津駅近くから南に見える白い山は妙高山でしょうか。
北陸本線と信越本線が通る直江津はこのあたりでは名の知れたところなので、かなり大きな街なのだろうと想像していましたが、それは意外にこじんまりしていました。二階建の家々が並ぶ通りを西へ進み、国分寺入口とある交差点から北に向かうとすぐに日本海が現れます。
右手に青く静かな日本海を見ながら進めば、先にはぽっこりした岩殿山。
久比岐自転車道
その岩殿山の裾野の虫生岩戸、郷津交差点でR8に突き当たると、そこは久比岐自転車道の入口です。この自転車道はここから糸魚川まで33kmに渡り繋がっています。
久比岐自転車道はかつて単線だった北陸本線が走っていたところで、海際を走るため景色が良く、天気の良い日には佐渡や能登半島も見えるとか。しかしこの日は残念ながらそのどちらも見えないよう。しばらくはR8の歩道がこの自転車道を兼ねます。
久比岐自転車道から米山を望む
そこから後ろを振り返れば、遠くに見えるのは海岸まで迫り出した米山でしょうか。このあたりはとにかく山に恵まれています。
岩殿山の裾野を廻るようにして日本海に沿って進み、谷浜駅を通過したところでR8の交通が鬱陶しくなり、線路の内側を行く道にスイッチ。道脇には『くわどり湯ったり村』という温泉の看板が。
久比岐自転車道はこの先も日本海に沿って先へと延びていますが、このまま進むと糸魚川にはすぐに着いてしまうので、私たちはこの看板に誘われ、内陸にある『くわどり湯ったり村』へ向かい、残雪の頸城三山を眺めることにしました。
日本海と田んぼ
海まで山が迫り出してきているこのあたりは平地が少なく、猫の額ほどの小さな田んぼが、山と海の間にひっそりと作られています。
只今ここは田植えの準備中で、どこからともなくゲコゲコという鳴き声が。
r269土口谷浜停車場線
小さな丘越えをして入った地方道r269土口谷浜停車場線は二車線の普通の道ですが、交通量は少なく快適。
左手は落ち込んだ谷で、関東ではとっくに終わった桜が満開です。
先に白いものを残す山が見えてきました。
下綱子の桑取川
いつの間にか道幅が狭くなり、車線は一つになり、勾配は穏やかながらもずっと上りだとわかるようになります。脇を流れる桑取川は穏やかな浅いせせらぎで、周囲の山々の若い緑がきれい。
下綱子(しもつなご)からはr523に入り、中ノ俣(なかのまた)を目指すつもりでしたが、この道には冬期通行止めマークが付いているので、通り掛った方に様子を聞いてみると、案の定、雪でまだ通れないとのこと。そちらは諦め、これまで通りr269を進みますが、この道もたいへん雰囲気の良い道なのでした。
西横山付近
桑取川に沿って道は続いて行きます。
快晴のこの日気温はどんどん上昇し、長袖では暑いくらい。
西吉備の集落
西山寺、西横山と満開の桜、茅葺き民家の残る小さな集落を抜けて行きます。
西吉尾から火打山を望む
西吉尾の集落が終わり、坂を上っていると突然その先に真っ白な山が。
方向からすればあの山は火打山でしょうか。
桜に新緑、そして残雪の真っ白な山とここは素晴らしい!
火打山
この山が火打山ならその右手にちらっと見えているのは焼山でしょう。
この二山と妙高山を合わせて、頸城三山と呼ぶようです。
大渕付近
大渕の先で桑取川が大きなうねりを見せると、その先ではあの山がこんなに近くになりました。
手前の山は大毛無山あたりでしょうか。
その山を目掛けてどんどこ行きます。道はずっと穏やかで、勾配は2~3%とのんびり行くには打ってつけです。
西谷内付近
西谷内(にしやち)までやってきました。
このあたりになるとさすがに山の懐に飛び込んだ感じが強くなり、今まで見えていた山のさらに奥にも雪を被った山が見えてきます。
そして足元にも残雪が現れるようになります。
横畑の集落
桑取川の筋の一番奥にある横畑(よこばたけ)の集落はひっそりとした佇まいで雪の中にありました。
その田んぼは雪に覆われ、氷が張っています。海岸付近ではすでに始まっていた田植えも、ここではまだまだ先になりそうです。
くわどり湯ったり村入口
集落の一番奥に『くわどり湯ったり村』はありました。時は11:30。さすがに温泉に入るには少々早すぎるので、ここは昼食だけにしました。
施設の方にこのあたりで良さそうなところを聞くと、この奥には南葉山登山道があるけれど、それはもちろん自転車では無理。隣の名立川(なだちがわ)の筋の奥からは火打山と焼山がきれいに見えるといいます。しかも土口(どぐち)からそちらへ抜ける道がちょうど昨日除雪されて開通したといいます。
これは行ってみるしかありません。
横畑から土口へ向かう
土口へ向かい、やってきた道を下ります。
同じ道を二度通るのを嫌う方もいるようですが、進行方向が違えば見える景色も違い、こんな素敵な道なら何度通っても楽しい。
土口の集落
土口の集落から西へ向かうと、すぐに上りになるかと思われしも、まずは平坦な道が続きます。
集落を抜けると道脇に林道土口東線の標識。
除雪されたばかりの林道土口東線
この標識のすぐ先には、なるほどこれで除雪したのかというブルドーザーが停車しています。
この林道土口東線は林道とは言っても良く整備された道のようですが、それでも向こう側まで抜けられると聞かなければ行くのを躊躇したことでしょう。
ここからは5%ほどの上りです。ゆっくりとペダルを回し、徐々に高度を上げて行きます。
林道土口東線を行く
道のすぐ脇は除雪された雪が小さな壁になっていて、楽しい。
『わ~、ここは雪の小回廊ね~』 とサリーナはルンルン。
林道土口東線その2
この谷間は狭く、序盤にはこれといった眺望はありませんが、進むにつれて高くなる雪の小壁の中、ひっそりとした山道を進むのは特別の気分です。
カモシカくん
針葉樹の木立を抜けると、小川の向こう側、白い雪の中にすくっと立つ動物が。良く見るとそれはなんとカモシカ!
急いで逃げる風もなく、しばらくこのカモシカくんとにらめっこ。『熊注意!』の標識は見かけたような気がしますが、なんとここでカモシカに出合えるとはびっくりです。
ムカエル、ジーク、サリーナ
『この道、サイコ~ォ』 とムカエルが牽き、ジーク、サリーナと続く。
開けた眺望
ここまで眺望がなかった前半ですが、後半に入り道幅が広がり、ところどころで高い雪山の頂が並んでいるのが見えるようになります。
穏やかなアップダウンを繰り返えすうちにどうやら峠に辿り着いたようです。ここまで激坂はなく、ジオポタ向きの穏やかな上りでした。
下に東蒲生田
峠からはうねうねとした道を一気に下り、下に屋敷林を抱える民家群が見え出すと、そこは名立川の筋の東蒲生田(ひがしかもうだ)の集落。
狭い名立川の谷間には、いかにも日本の山村という趣の民家が、川の向こうにもこっちにもパラパラと建っています。のどかでいい雰囲気。
東蒲生田から南を望む
川まで下ると南には雪山。あれは火打山でしょうか。
雪深いこの地方の雪解けの季節、この時期にここを訪れることができたのはとてもラッキーだと感じざるをえません。そんな素晴らしい景色が続きます。
山奥の東飛山へ向かう
東蒲生田からさらに山奥には瀬戸、そして東飛山という集落があるようです。そうした集落を目指してとにかく南へと向かいます。この名立川の筋の道も桑取川のそれと同様に、2~3%という穏やかな上り。
先に見えていた山は徐々にその姿を変え、一つだった塊がいくつもに分れ、先の山がなんという名なのか分からなくなります。
そこで近くにいた人に山の名を尋ねてみますが、分からないといいます。このあたりに暮らす人々にとって、山はただ山、それだけなのでしょうか。
火打山、右に焼山がちらり
瀬戸から道は大きなカーブを描き、東飛山の集落までやってくると、正面に真っ白い雪山がバ~ン。
ここで再び山の名を確認すべく農作業中の方に問うと、詳しい方を連れてきてくれました。その方によれば、正面の雪山は火打山で、あと数百メートル進むとその右手に焼山が見えるといいます。
ここまで来たからには焼山を見よう、と先へ進みます。道端に林道南葉山線の標識が現れました。ここから分岐する道はなく、この地方道がそのまま林道となるようです。
ここで正面の火打山の右に、ちらりと焼山の山頂が顔を出しました。
彼方に焼山
さらに進むと、道端に小さな炭焼き小屋のようなものが現れ、その先で道は突然に雪の中に消えてなくなっています。
ここまで来ると火打山は手前の山に隠れ、雪原の上遠くに焼山がその頭を出すだけとなります。
この雪原に寝転べは、強い日差しと冷たい雪の感触がとても心地いい。
名立川を下る
名立川の筋はこの雪原でおしまいとなりました。ここからはやってきた道を戻ります。
しかし何も考えずにここまでやってきた企て人のサイダーは地図とにらめっこ。ふむふむ、この先の西蒲生田から花立峠を越えれば、西の能生川(のうがわ)の筋にでられるな、、、などと言っております。しかし、途中出合った方によれば花立峠は通れないとのこと。ガビ~ン。。。
しかし少し北の桂谷からなら抜けられるかも、とのことでまずは桂谷まで下ることにします。
平谷からの上り
桂谷のすぐ手前の平谷から入る細道が、桂谷から上がってくる農道高倉線に繋がっているようなのでこれを行ってみます。
しかしこの道は10%超えの激坂で路面も荒れていてきつかった。
そして高倉線に入ってからもこのきつい坂は続くのでした。
農道高倉線から見る山々
しかしこの道からの眺めは素晴らしいものがありました。
『この道、僕のGPSには載っとらんよ~』 とちょっと不安そうなジーク。
しかし道の様子からすればなんとか抜けられそうな感じで、ここはあまり不安なく進みます。
農道高倉線のピークへ向かう
この峠の標高は400mとこれまで越えた二つの峠よりちょっと高く、勾配もきついのですがなんとか上って行きます。
脇を見れば、こんな谷間にも小さな段々田んぼが築かれていることに驚かされます。
農道高倉線のピークから日本海を望む
峠を越えるとすぐに、右手の彼方に日本海が現れました。
谷浜駅の先で別れを告げた日本海に、ここで再び出合いました。
農道高倉線を下る
日本海を眺めたあとは下りです。
しかしこの下りの先には小さな上り返しがあり、再び下り始めるとそのすぐ先に高倉方面への分岐が現れます。直進すれば山王川の筋から、または大洞を経て日本海に至るようですが、ここは高倉から能生川に下ることにします。
ふきのとう
足元にはあちこちにふきのとうが咲き出しています。
これはもうずいぶん育ってしまったので食用にはなりませんね。
左から火打山、焼山、権現岳、鉾ヶ岳
高倉方面の上り返しが終わったと思ったら、その坂の上から真正面にあの火打山と焼山。そしてその手前にはごろりとした権現岳と鉾ヶ岳の塊。これは圧巻!
ここはスイス? と思わせるようなそんな雄大な景色が広がります。
スイスアルプス?
このちょっと日本離れした景色に見とれながら、高倉の集落に入ります。
足元には鏡のような棚田。
下倉の集落
高倉の集落からはあのごろりとした権現岳と鉾ヶ岳との塊が間近に見ることができました。
高倉からの下りは谷の南側を廻る良さそうな道があったのですが、それに気付く前に村の下まで下りてきてしまったので、ここはそのまま高倉川の北側を下ることにしました。これまで満開だった桜はここではもう終わりかけで、ここはこれまで巡ってきた地より暖かいことを認識させられます。
後ろに妙高山
下倉の集落を通り過ぎ、能生川に下りました。
その正面にはボテッとした塊の鉾ヶ岳と権現岳、そして上流側を見ればこれまでほとんど姿を見せなかった、頸城三山の一角、先の尖った妙高山がくっきり青い空に浮かび上がっています。
ここからは鉾ヶ岳の裾野を巡りもう一丘越えと行きますか。いえいえそれはジオポタ向きではありません。ここまですでに充分に頸城山塊を楽しむことができました。この素晴らしい気分を損なうことなく、明日からの北アルプスに繋げるとしましょう。
能生川沿いを下る
というわけでここは、能生川沿いを日本海まで下ります。
能生川沿いの田んぼは田植えの準備中、あちこちでトレーラーが行ったり来たり。
年老いた農作業姿のおばあさんは、なんと押し車に掴まって出動の様子。ここに日本の農村の現状を垣間見ることができます。
再び久比岐自転車道
能生からは再び久比岐自転車道に入り、日本海を眺めながら梶屋敷まで。
直江津付近では国道の歩道だった自転車道は、ここではその国道から一段上がったところを走る独立した道になっていて快適です。
この自転車道、民家のすぐ脇を通ることもあり、そんなところでは道にゴザが敷かれ、山菜が干されていたりと楽しい。
早川橋から見る頸城山塊
久比岐自転車道は梶屋敷で終わり、早川橋を渡ります。
この橋からはこれまで見てきた頸城山塊が一望に。
そして糸魚川が近づけば、いよいよあの北アルプスがその片鱗を見せ始めます。
北アルプスの前哨戦と位置付けたこの日のコースは、前哨戦という言葉を撤回せざるをえないほど魅力的なところでした。
西頸城の奥深さに初めて触れ、その豊かな景色を満喫した一日となりました。ここはとにかく素敵なところです。
◆ひとこと by サリーナ
数年前に富山に一人で出張した時のこと。ふと列車の外を眺めると、左には雪を頂いた山脈が屏風のように連なり、右には静かな海が広がる。こんな凄い景色は見たことがありませんでした。
今回の「北アルプス」企画は、その凄い山の景色をじっくり愛で、「高熱隧道」「黒部の太陽」のトロッコ列車や立山黒部アルペンルートを楽しみ、白馬で温泉に浸かる。ゴージャスそのものです。
特に印象深かったのは、序章とばかり思っていて無防備だった?初日の頸城山塊コース。雲一つない最高の天気で、雪の残る山里を軽装で走り抜けると、前日に除雪したばかりの山道はジオポタ専用の小さな雪の回廊となり、カモシカくんまで歓迎のお出迎え。雪の山脈はまるでスイスアルプス、それらが水を張った棚田に映る姿は本当に美しく、また山ばかりか海の景色まで楽しめるすばらしい一日でした。
とはいえ、やはり行程には試練が組み込まれていました。3日目の宇奈月-立山は、激坂を上って下ってまた上って。。新緑や棚田、そしてその向こうに見える白い山並みと景色はすばらしいものの、最後の激坂を越えて宿にたどり着いた時には立ち上がる気力もなく、せっかくの温泉も食事もそこそこにバッタリ。。これは相当きつかった!
北アルプスを走る今回のコースは、日本の山里にアルプスの山並みが重なるという、世界に自慢できる景色を堪能できました。こうした風景を活かし、日本でもスイスのように安全で楽しめる観光サイクリングコースをつくってサインやマップを充実させると、滞在型の観光客がもっと増えるんじゃないかな。ただしお手軽コースの用意も忘れずに。。