冬晴れの日、久しぶりに房総半島の水仙を見に行きます。水仙は冬の季語だし、実際、関東地方で咲くのは12月から2月ごろまでなので、真冬の花です。しかしこの花は、いつも春の到来を感じさせてくれます。
都心からバスで東京湾を渡り、一時間ちょっとの上総湊駅前に降り立てば、そこは僅かに潮の匂いがします。ここは東京湾の入口である浦賀水道に面した港町。
せっかく海のすぐ側にいるので、まずは上総湊湾海浜公園に出て海を眺めることにします。
青い海のすぐ向こうには三浦半島が迫り、その上にぽっかりと富士山が浮かんでいます。
その富士山を背景に、まずは全員集合。
今日は雲一つない快晴で風もなく、サイクリング日和です。
上総湊湾海浜公園からはしばらく湊川に沿ってその上流に向かいます。
湊川の河口は漁船の船溜まりになっていて、ちょっと楽しい。
大きく蛇行を始める湊川から道は離れ、南の山の裾野に広がる田んぼの中を東へ進んで行きます。
不入斗(いりやまず)というかなりむずかしい読みの集落から、湊川に注ぎ込む小さな川に沿って、山間の細道に入って行きます。
日影では、降りた霜がそのまま凍り付いて、真っ白になっています。
房総はちょっと山の中に入ると、鄙びたいい感じの道がたくさんありますが、ここもそうしたものの一つで、当たりでした。
『房総、自転車では初めてです。房総って海だけかと思っていましたが、こんなところもあるんですね。』 と山奥の風景に興味津々で快調に進むサオリちゃんでした。
とはいってもここは房総の山。序盤は穏やかだった勾配が急に増し、10%超が続くようになります。
ヘコヘコとなんとか回っていた足も止まり、自転車を押し上げなければならなくなると、ほどなく房総名物の素掘りのトンネルが現れます。
荒々しいごつごつとした岩肌がむき出しのトンネルです。
この道は多少交通があるのか、路面はきれいで簡単ながらも照明が付けられています。
トンネルの先は大抵は下りになるものですが、ここはトンネルを抜けてもまだ上りが続きます。
えんやこら、ともう一踏ん張りすると、鹿原(しっぱら)の集落に到着。山間に開かれた狭い土地に十数軒の民家が寄り添うようにして建っています。
鹿原からは道が広くなり、さらにちょっと上ると、梨沢への下りが始まります。
この下りの途中で道が分岐しているところに出ます。そこを南へ向かうと、七ツ釜という渓流と大滝があるようですが、冬のこの時期はちょっとということで、梨沢に真っすぐ下ります。
民家が数軒現れるとそこが梨沢の集落で、小さな橋を渡るといよいよ保田見(ぼてみ)林道になります。
この林道にはそれを示す標識はないようですが、鹿原から下って来ると急に道が細くなり、まっすぐ進めばそのまま保田見林道に入っていきます。
『ほう、これが噂の保田見林道かいな。意外と道はきれいじゃな。』 とまだ余裕のシロスキー。
保田見林道の序盤はまずまずの路面状況で、こんなきれいなところも僅かにあるのですが、
しかしそれはすぐにこんなことになってしまうのでした。
かつての舗装は剥がれ、ほとんどダートと化しており、積もった土には水が溜まり、ぐちょぐちょのところも。
乗ったり押したりしつつ進めば、ここにも素掘りのトンネルが現れました。トンネル入口には筋目の地層がはっきり見えています。
このトンネルには照明はなく、路面はかなり荒れていて水も滲み出しているので、自転車を押して通り抜けます。この先、同様の素掘りのトンネルがあと二つ続きますが、もっとも長いのがこの最初のもの。
三つトンネルを通り抜けると少し平場が続き、そのあとははっきりと上りとわかる道になります。
えっこらえっことゆっくり上り詰めます。しかしこの勾配はきつく10%超え。
トンネルから2kmほど進むと、最初のピークがやってきます。
そのピークのすぐ先で、水仙が咲き乱れているところに出ます。
房総らしい山間の小さな隙間に水仙畑が作られています。
水仙の原産地は、ポルトガルやスペインを始め、地中海湾岸、アフリカ北部あたりで、日本には中国経由で入ってきたようです。
それはニホンズイセンと呼ばれる品種で、このあたりで見られるものもそれです。
香しい水仙の匂いが広がる日だまりで、ちょっと休憩を。
一服のあとはさらに保田見林道を進みます。
このあたりの斜面にはあちこちで水仙が見られます。
先の水仙畑からはいったん下って上り返します。この上りがまた、キツー!
この上りの途中で、浦賀水道への眺望がありました。房総の山奥は、こうした海がちらちらっと見えるのもいいところ。
それにしてもこの保田見林道はアップダウンの連続で、どこが最高のピークか体感的には良く分かりません。
林道の最高点を越えてさらにもう一度上り返せば、空が開け、房総らしい山並みが現れます。この景色は、房総の山奥の典型的な風景といえるものです。
アップダウンが多くかなりきつかった保田見林道ですが、この景色が現れると、そのあとはずっと下りになります。
保田見林道を下り終えると、もみじロードと呼ばれるr182に出ます。この道脇には志駒渓谷が流れ、秋には紅葉がきれいだそうです。
もみじロードからr34の長狭街道(ながさかいどう)に出、ごく僅かに上ると横根峠です。この峠には蕎麦やがあるので、そこでお昼に。
午後の部は『をくずれ水仙郷』と『大山千枚田』です。
まず横根峠から細道で大崩(おくずれ)に抜けます。この急勾配の道を上ると、そこからは富士山が。
まっとうな道に下り、トンネルを抜けるとそのあたりが大崩の集落です。
『をくずれ水仙郷』はこの大崩周辺を指し、ここから南の佐久間ダム湖まで、水仙畑がたくさん広がっています。
このあたりの水仙は江戸時代から元名水仙の名で、船で江戸に運ばれていたといいます。
民家の庭先ではこのようにしてその水仙が売られていますが、今年はこうした販売所がとても少ない。周囲の畑の水仙も例年よりずっと少なく思い、ここの方に尋ねてみると、今年はお正月の雪で、多くの水仙が倒れてしまったのだとのこと。
しかし、こんなふうに残っている水仙畑もそれなりにあります。
房総はみかんの栽培でも有名です。
この時期、普通のみかんはもうおしまいのようで、あまり見かけませんが、夏みかんはそこら中で見ることができます。
房総半島の山はみんな低く、標高が400mを越えるのは最高峰の愛宕山しかありません。
しかし、低くともここの山々は途切れることなく、どこまでもどこまでも続いています。
大崩から東に延びる道沿いを上っていくと、道脇の水仙が増えてきます。
一部は雪で倒れたとはいえ、こうして立派に咲いているところもたくさんあったのです。
水仙は平場の畑より急な斜面地でよく育つそうです。
そんなわけでか、なだらかな斜面の畑の花より、道脇の急斜面に咲く水仙のほうが元気なようでした。
そんな元気な水仙を背景に、『今年も来た甲斐があったね~』と、にこやかな面々。
『をくずれ水仙郷』の水仙に満足し、次の目的地『大山の千枚田』に向かいます。
大崩からは勾配は穏やかなものの、しばらく上りです。
その上り坂が下りに転じ、上り返しが始まると、これはちょっぴりきつい。
最後はぐぐっっと反り返るような坂となり、その坂の先に青空が見えると、そこは眺望ポイントで、東に視界が広がります。
下を見れば、すぐ先に棚田が広がっています。
地図に法明と記されたところにあるこの棚田は、陽の光を浴びてとてもきれい。
田んぼの縁には水仙が植えられていて、これは棚田と相まっていい景色を作っています。
この棚田の間の道は、とても自転車に乗っては下れないほどの勾配です。このすぐ下の民家の庭先には黄水仙が咲いていました。
法明から東のr88に下れば、平塚入口の交差点付近から『大山の千枚田』までは、棚田ロードともいうべき快適な道が続いています。
日向はポカポカなれど、日陰は寒く、そうしたところの田んぼには氷が。
一方、日向の田んぼの氷は解けて、水たまりに。
この畔にも水仙が植えられていますが、ここは咲いていないようです。
棚田ロードは大山不動尊まで上りますが、この後半は結構勾配がきつく、多加久良神社の先から下ることにします。
その頂部付近からの景色がこちらで、房総の山とその下に広がる棚田がよく見えます。この道は本当に気持ちいい。写真の左から1/4あたりの山頂にまん丸い構造物が見えますが、あそこが千葉県最高峰の愛宕山(408.2m)の山頂です。
さて、その棚田ロードの終着点がこの大山の千枚田。
この棚田は現在オーナー制で運営されており、4haに375枚の田んぼがあるそうです。
日本で唯一、天水のみで耕作される大変めずらしいものでもあるようです。
棚田の規模としては驚くほどには大きくないけれど、周囲の山々とのコントラストがきれいです。
『やっと棚田に辿り着いた~』 と、千枚田の前で一服の面々。ここで少しのんびりしたいところですが、時はすでに15時。急がないと、日のあるうちに終着地に辿り着きそうもありません。ということで、休憩はほどほどにし、重い腰を上げます。
大山の千枚田からまず向かうは、白石峠。白石峠は嶺岡中央林道1号線の起点となるところで、このあたりを走る時にはキーとなる地名の一つです。
千枚田からカントリーロードを下って少し広い道に突き当たると、それが白石峠へと続く道です。ここまで細道ばかりを通って来たので、この道はやたらに広く感じられ、また上りがずっと先まで見えるものだから、ちょっと・・・
とにかくなんとか白石峠を上り終え、そこからは嶺岡中央林道3号線の入口に向かうのですが、それには山越えをしなくてはなりません。
ここはもっとも一般的に使われる道ではなく、その南の道を選んでみました。ところがこれは激坂が続く山道で、大半が押しということに。上ったあとにちょっとした展望はあったのですが。。
なんとかこの山道を抜け、r184に下ってからもまたまた上りで、嶺岡中央林道3号線の入口に辿り着くまでにもうへとへとです。
そして嶺岡中央林道3号線の入口がまた激坂とあって、アヘアヘ。
しかしこの入口の激坂をこなすと、そのあとは穏やかなアップダウンはあるものの、快適な道となります。
嶺岡中央林道3号線は尾根伝いに延びているので、所々で視界が開きます。
遠くの山並みが見え、
反対側には夕日を浴びた近くの山もあり、
中景にも山が連なっています。ここはどこを見渡しても山の連続。
こうした山々を眺めながら進み、嶺岡中央林道3号線も終盤に入れば、海が見え、ついに富士山までも望めるポイントが何箇所も出てきます。
そして最後に岩井方面への眺望が開けるところに出ます。この眺望ポイントには最近、道から少し南に奥まったところに東屋が建てられました。そこからは、海の先、左に伊豆大島が、そしてその向こうに伊豆半島が見える絶景が広がります。
このポイントから下るとすぐに林道はおしまいになり、r184に出ますが、この下りがまた絶景。開けた海にダイブするように落っこちていき、その正面にはあの富士山!
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1003をくづれ水仙郷・保田見林道
1101早春の房総
0702房総林道3