ここまでの7月の日照時間はこの40年間で最低とのことで、気分の悪い日が続きました。台風9号が沖縄を通過すると、ようやく関東地方にも晴れ間が戻りました。この時を逃す手はない、まだ梅雨明けの発表はないのだから。ということで、突発企画発動。
梅雨明け前とはいえ、気温が30°Cを超える中で走るのは辛い。そこで高地に行って涼もうという計画です。しかし標高1,000mを越さないと、大して涼しいとは感じられません。東京から簡単にぱっと行けてこれに該当するのは、秩父か奥多摩でしょう。
詳細にルートを詰めている時間がないので、奥多摩から柳沢峠(1,472m)を越えて塩山に抜けるシンプルなコースにしました。このメインルートであるR411青梅街道は車の交通がそれなりにあり、サイクリングに極めて適した道とはいえませんが、前半には『奥多摩むかしみち』が、中半には一ノ瀬林道が横にあり、これらはなかなかいい道です。
奥多摩はいつでもハイカーでいっぱい。それにこの時期は暑くならないうちに高地に辿り着きたい、ということで、都心から一番の電車で奥多摩駅に。突発企画にもかかわらずここにやってきたのは、クッキー、サリーナ、サイダーの三名。
奥多摩駅前を出ると、すぐに氷川大橋を渡ります。ここからはこれから向かう西の山並みがよく見えます。
奥多摩郵便局の手前でR411青梅街道から右手に入る横道があります。ここが旧青梅街道である『奥多摩むかしみち』の起点で、奥多摩湖まで続いています。
急ぐなら現青梅街道を真っしぐらということになりますが、それはジオポタ的じゃない。私たちはここから『むかしみち』に入り、のんびり行くことにします。
この横道からすぐ左に延びる細道に入れば、右手に羽黒三田神社の石段が現れます。『むかしみち』はその下の羽黒坂を上って行きます。
この坂はコンクリート舗装で結構な勾配。しょっぱなからヨタヨタと押しです。
羽黒坂を過ぎると道幅が狭くなり、砂利道に。『むかしみち』の序盤はこうして、この先どうなるのか、と思わせるものがあります。
ここはちょっとした山道という雰囲気で、奥多摩湖の小河内(おごうち)ダム建設のための資材運搬用の鉄道だった水根線の線路がまだ残っています。その後道はきちんと整備された遊歩道になったりまた砂利道になったりと、ちょっと忙しい。
右手に小さなお地蔵様が現れると砂利道はおしまいになり、上から下りてくる舗装路に合流します。
ようやくここから普通に自転車に乗って進めるようになります。
周囲はすでに深い緑で覆われています。
紅葉の時期とはまた違った、このヴィリジャンの木々も美しい。
檜村(ひむら)で『むかしみち』は階段になるので、これを回避するためにいったん青梅街道に出、大きくUターンして檜村橋に出ます。
その檜村橋から見る多摩川はすでに渓谷の様相を呈しています。
檜村橋の手前から入った『むかしみち』は、多摩川沿いを穏やかに上って行きます。
川が近くなり、木々が覆いかぶさったこの道は、すでにだいぶ涼しい。そしてここからはずっと、多摩川のせせらぎの音を聞きながら進んで行きます。
はるばる奥多摩までやってきた甲斐があったね、などとおしゃべりしつつ進めば、すぐに『不動の滝』に到着。
ここは、小さな橋のすぐ横にせせらぎから落ちる低い滝があり、さらにその奥に高所から落ちる滝があります。
いくつかの資料には『不動の上滝』と書かれているので、おそらく奥にある滝がこの上滝でしょう。
ここから道は穏やかな下りに。
『不動の滝』から小さな境の集落に入ると、その上に水根線の鉄橋が通っています。水根線はとっくの昔に廃線になっていますが、こうした構造物は撤去されることなく残っているのです。
境からの道はこの先で青梅街道に下るのですが、『むかしみち』はその横の細い砂利道で、少し上ってこんもりとした森の中へ。
大岩が御神体だという白髭神社の階段を横目に進み、『弁慶の腕ぬき岩』、『耳神様』といった小さな見どころをかすめて進んで行きます。
このあたりにはほとんど民家はありませんが、これは数少ないそれの一つで、軒下にたくさん薪が積まれ、なかなかいい感じ。
惣岳(そうがく)不動尊を廻ると左手の谷が開け、多摩川が見えそうになってきますが、この時期は生い茂った木々の葉っぱに隠れ、なかなかその姿は見えません。
多摩川の川面がはっきり見えるのは、『しだくら橋』です。
通行は3人までというこの吊り橋は結構揺れて怖い。
そこから見る多摩川は、深い緑の中にひっそりとした感じでありました。
ちょっと面白い木の根っこと小さな滝が。こうした小さな流れでも、近くにあると気分的に涼しくなります。
この先は、縁むすび地蔵尊、馬の水飲み場、牛頭(ごず)観音様、むし歯地蔵尊といった小さな見どころが続きます。
こうしたものを見ると、この道がかつての青梅街道、甲州裏街道であったことを思い出させてくれます。
道所橋(どうどころばし)は先の『しだくら橋』と良く似た吊り橋で、その川上の高いところには、これから行かねばならないあたりの民家が見えています。
え~、あそこまで上るの~~
道所橋から見る多摩川です。
道所橋からうねうねした道を進んで行くと、西久保の見晴らし広場に到着。ここからは多摩川の谷が下流方向に開けていて眺めがいいのですが、さすがにこの暑い日にはそこに誰もいません。
見晴らし広場の先で道は大きくUターンし、西久保トンネルへと向かって行きます。『むかしみち』はここから階段で山の中へと入って行くので、私たちはここで『むかしみち』を離脱し、青梅街道に向かいます。
中山トンネルの手前で青梅街道に合流。トンネルを抜けると東京の水がめである奥多摩湖です。
ここは広々として気持ちいいのですが、一気に気温上昇で、暑い暑い!
『水と緑のふれあい館』内の自販機の飲物でひと息付いたら、奥多摩湖を出発。
ここからは青梅街道をひたすら西へ向かいます。
進むにつれ広かった奥多摩湖がだんだん狭まり、西の山並みの中へと導いてくれます。
青梅街道は狭く路肩がない上にトンネルがあちこちにあり、さらに結構な交通量なのであまりジオポタ向きの道ではないのですが、ここはちょと辛抱。
しかしロードバイクのトレーニングには適した道なのか、レーサーに跨がったサイクリストはたくさん走っています。
奥多摩湖の西の端で青梅街道から大月方面へ抜ける道が分岐します。この大月方面に向かう道に架かるのが深山橋です。
深山橋を過ぎると、交通量はやや少なくなってきます。そしてロードバイク乗りも大月方面へ向かう人々が多いのか、ここからはめっきり少なくなります。
しかし気温はすでに30°Cと、ちょっと暑い。
深山橋の先、奥多摩湖がぐっと絞られたところで最初に現れる集落は留浦です。ここでトイレ休憩を。
このあたりは都心よりだいぶ気温が低いのか、ガクアジサイが今満開です。
留浦を出ると次ぎに現れるのは、多摩川と山の間の狭いスペースにへばりつくようにしてある鴨沢の集落。ここまでは東京都ですが、鴨沢からは山梨県になります。
『東京都と山梨県がくっついているってようやく実感しました。自転車で山梨県を走るのは初めて~』と、初山梨のクッキー。
このあたりでダム湖の奥多摩湖はぐっと絞られ、本来の川の様相を呈してきます。
そして青梅街道はうねうね度を増し、奥多摩湖の廻りではほぼフラットだった道の勾配が増してきます。
ほ~ら、こんなふうに。
いつの間にか多摩川はずっと下になっていて、山間に小さな保之瀬(ほうのせ)の集落が見えてきます。
このあたりは落石、落雪除けの洞門をいくつかくぐって進みます。
保之瀬を過ぎると次ぎに現れるのは丹波山(たばやま)の集落です。
ここは奥多摩湖から柳沢峠までの間で本格的な補給、休憩ができる数少ないポイントとなる道の駅があるので、一休み。
ここでようやく多摩川の様子が伺えました。川幅はまだそれなりにあるものの、あのたっぷりとした水を蓄えた奥多摩湖の様相はまったく消えていて、流れる水量はとても少ない。
このあたりの多摩川は丹波川と呼ぶようです。
その丹波川の幅もこの先でぐっと狭くなり、遥か道の下に消えて行きます。
先を見れば、狭まった丹波川の谷に山が押し寄せています。このあたりから、かなり山奥に来た雰囲気になります。
道脇には茸、茸、茸という看板が立ち並ぶようになります。
まつ茸、あみ茸は聞く名前ですが、ち茸ってどんなんでしょう? 保之瀬と丹波山の間の道端で食べられそうな茸を発見したのですが、もしかするとそれがち茸だったかも。
丹波山村あたりの丹波川は丹波渓谷と呼ばれるようです。
またその丹波渓谷は滑瀞峡(なめとろきょう)とかナメトロとも呼ばれるとか。この名は渓流が両岸の岩山をなめるように流れていることからきているそうです。
ぐっと川幅が狭まった丹波川です。
さて、道は羽根戸トンネルをくぐるとさらに勾配を増してきます。まあ増したといっても平均では5%ほどなので大したことはないのですが、暑さがともなってきつい。
時々休憩しつつも、へこへことペダルを廻し続け、大常木トンネル、一之瀬高橋トンネルとくぐります。
このあたりは丹波川に一之瀬川が合流するポイントで、そこは『おいらん淵』と呼ばれ、ちょっと怖い伝説が残るところです。しかしその『おいらん淵』に至る旧道は廃道工事が行われていて入れません。
ということでこの写真は『おいらん淵』ではなく、一之瀬高橋トンネルの西の丹波川こと多摩川です。
一之瀬高橋トンネルの先で青梅街道から一ノ瀬林道が分岐します。ようやくその入口に到達しました。ここまでのアプローチは長かった。
一ノ瀬林道はこの標高900mの分岐から藤尾山を廻るようにして進み、標高1,000mから1,300mの一ノ瀬高原を通り抜け、犬切峠(標高1,379m)でピークに達します。この林道が今回の涼みどころ。
最近走っていないサリーナは一ノ瀬林道はちょっときびしいということで、この分岐から青梅街道で直接柳沢峠に向かうことに決定。
恐れを知らぬ、いや、どういうことになるのかよくわかっていないクッキーはなんとなくサイダーに付いて行くことに。これがそもそも間違いだったとこのあと気付くことになるのですが。。
一ノ瀬林道は青梅街道とは違ってほとんど車は通りません。ロードレーサーもここにはいない。ということでジオポタにぴったりの道なのですが、唯一の難点は勾配がちょっときついということです。7~8%位かな。しかし10%を超える激坂がないのがいいところでもあります。
道の脇には渓流一之瀬川が流れています。
せせらぎの音を聞きながら上るのは楽しい。いや、くるしい~~っと、急に勾配が上昇したのでアセアセのクッキー。
『この道がずっと続くんですかぁ~。私、サリーナさんといっしょに行った方が良かったかも。。』 しかし、時すでに遅し。
一ノ瀬林道はしばらく森の中を進んで行きます。かなり長い間という感じで。この道は藤尾山とそれを取り囲む山々の間の狭い谷を行くので、見晴らしはまったくといっていいほどありません。しかし思惑のとおり、この道に入ると急激に気温が低下。入口では30°Cほどあった気温が、あっという間に25°Cまで下がっています。
林道入口から5kmほど進むとようやくキャンプ場が現れますが、そこまではほとんど何もなし。ただ黙々と上るのみ。
そしてさらに1kmほど上ると二つ目のキャンプ場が現れます。ようやくこのあたりからポツポツと民家が現れ出します。このあたりは一ノ瀬高原と呼ばれているようですが、一般的にイメージする開放的な高原の印象とはずいぶん異なります。
一ノ瀬高原は下から、一之瀬、二之瀬、三之瀬という地域に分れていますが、一之瀬と二之瀬の集落は木々の奥に隠れているようで見えず、三之瀬になって初めて集落が現れるように感じました。その三之瀬にはなんと民宿が一軒あり、蕎麦が食べられます。
とにかくへこへこと標高1,300m近くまで上り詰めて、その民宿に到着。しゃきっとしたおばあちゃんが作ってくれたこんにゃくや煮物のおかずはほっとする味で、おいしかった。
クッキーとサイダーが三之瀬で蕎麦を食べているころ、一人青梅街道を進んだサリーナは、柳沢峠への上りの途中にあるわらび餅やさんでわらび餅を食べていました。
これもなかなかいけます。
蕎麦となつかしい味のおかずで満腹になったクッキーとサイダーは、さらに一ノ瀬林道を進んで行きます。
高原には白樺、ということで、一之瀬高原にもそれはあります。そして鹿も出没。
普段平地しか走っていないクッキーは昼ごはんで少し体力を回復したものの、連続する坂に足が回らなくなってきているようです。
それでもカメラを向ければ愛想する余裕があるから、まだまだ行ける?
一ノ瀬林道は三之瀬からさらに北へ向かい、いったんピークを迎え、その後南下を開始し、沢まで少し下ったのち再び高度を上げていきます。
そしてこの林道の最高点である犬切峠(1,380m)のすぐ北で展望所に出ます。
この展望所からは東の山々が見渡せます。これらの中には二百名山に取り上げられているものもあるそうで、先の民宿にはそうした山に登るために、福井県からはるばるやってきたという方がいました。
ここでほぼ死んだように眠る人、一人(笑)。確かにここは昼寝には最適の23°C!
『あ~、ここでずっと寝ていたい~』 とクッキー。
さてさて、昼寝のあとは犬切峠から落合橋まで快適なダウンヒル。しかし路面はかなり荒れ気味なので注意して。
とにかくぐわ~んと下って、青梅街道との合流点にある落合橋までやってきました。
しかしそこで見たものは。。
青梅街道はここから柳沢峠に上って行きます。その上り口は勾配こそ大したことはなさそうですが、直登という感じの長い坂が見えていて、これまでの疲労が一気に噴出。がび~ん。。
もう上を向いては上れないと、ずっと下を見っぱなしのクッキー。
道脇にはあの多摩川が今度は柳沢川と名を変え、さらさらと流れています。思えば今日は一日、こうした水の音を聞いてきました。この音も涼みの効果がありますね。
青梅街道は国道だけあって上りの勾配も緩く、せいぜい6~7%といったところで、斜度の変動もほとんどなく、まあ上りやすい道と言えるでしょう。
落合橋から柳沢峠までは5kmほどですが、ちょうどその中間あたりにサリーナが食した『名水わらび餅』があります。クッキーとサイダーもここに立ち寄りたかったのですが、峠であまり長くサリーナを待たせるのもなんなので、ここは涙を飲んでスルー。
このあたりにあった表示によれば気温は23°Cで快適なのですが、わらび餅を食べられなかったからか、クッキーの足がパタンと停止。精神的ショック? いや~、やっぱりわらび餅、食べればよかったね(笑)。
柳沢峠が徐々に近づいてきます。振り返れば先ほどまでいた一ノ瀬高原周辺の山々が重なって見えています。今回のルートはどこを見ても山ばかりです。
のっそりのっそりと標高1,472mの柳沢峠に到着。
この峠にはどうもはっきりと目立った峠の表示はないようでした。あるのは写真の道路標識だけなのがちょっと残念。
峠のすぐ塩山よりにレストハウスがあります。その前のベンチで先に到着していたサリーナと合流。わらび餅ショックから立ち直れなかったクッキーは、最後は押しでなんとか峠に辿り着きました。
『途中、峠まで辿り着けないかと思いました~』 というくらい、クッキーはへとへとだったようです。
いや~、ここまで長かったです。ちなみにここの気温は18°C。涼むにはもってこい、というか寒いくらいです。
柳沢峠の標識は、レストハウスのベンチの横にひっそりと建っていました。ここからは天気がよければ富士山が見えると聞きますが、この日は残念。
さて、峠で少しまったりしたら、塩山への豪快な下りの始まり。
距離にして17km、標高差1,000mの下りです。
しかもこの下りは、適度な勾配で急なカーブがない高速の下りです。スピードを出し過ぎないように注意してね。
途中にはループ橋がいくつかあります。とにかく青梅街道をぐわ~んんっと下って、大菩薩峠への分岐から県道に入ります。
こうした長い下りでは、通常経験しない気温や気圧の変化を感じることができます。この時も下るにつれ、重くなる空気、だんだんぬめっと暖かくなってくる空気を感じ、耳は気圧変化で詰まったようになります。
塩山の街に入れば、そこかしこに桃や葡萄といった果樹園が。
みんなおいしそうになっています。
この県道はほとんどカーブがなくて一直線の下りなのでかなりスピードが出ますが、より高速走行を望むなら青梅街道、民家の様子を覗いたり、果樹園の様子を見たりするならこちらの県道といった選択になるでしょうか。
予定時刻に塩山温泉に到着。宏池荘の公衆浴場でこの日の汗を流させてもらいました。入浴料400円で、この時はおみやげに桃を好きなだけ持って帰れましたから、これは超お得でした。駅前で入った居酒屋で出てきたサービスのぶっといキュウリもすばらしく美味しかったです。
今回のコースですが、青梅街道は山奥の雰囲気は味わえますがあまり変化がなく、恐ろしいほどではないにしろ交通量がそれなりにあるので、予想の通りあんまり楽しくありませんでした。『奥多摩むかしみち』は鄙びていて○、一ノ瀬林道は涼むには良かったけれど、閉鎖的で景色の変化に乏しいので△。柳沢峠から塩山までの下りは豪快でまずまず楽しめます。全体としては、目的である『涼み』はそれなりに達成できたと思います。
どこか近場で、標高2,000m近くまで簡単に行けて、そこからしばらく高原を廻って下りてこられるところはないものかしら。