この時期、房総半島は水仙の季節。その水仙を見ようと、都心から二時間、ゆらゆらと電車に揺られてやってきたのは内房線の岩井駅。このあたりには無人駅も多いけれどここは有人駅で、駅舎の屋根には煉瓦色をした洋風の瓦が載っています。
今日は快晴で風もなく、サイクリングにピッタリの気候になりました。
その岩井駅からほんの少し西へ走ると岩井海岸に出ます。
岩井海岸は小さな湾になっており、奥行きは浅いけれど、いい感じの砂浜が広がっています。
その砂浜の向こうは浦賀水道で、三浦半島がぼんやりと見えています。
昨夜から風がなく、今朝方はもの凄い霜が降りたそうです。
その霜が太陽で急激に暖められ水蒸気が多量に発生したのか、ちょっと霞んでおり、富士山は三浦半島の遥か上に頭だけ出しています。
富士山を眺めたら、岩井海岸から内陸へ向かい、とみやま水仙遊歩道を目指します。
田んぼの中をどんどこ行くと、富山(とみさん)が見えてきます。
この山は曲亭馬琴作の南総里見八犬伝の舞台となったところで、伏姫と八房がともに暮らしたとされる洞窟、伏姫籠穴があり、ハイカーにも人気のところのようです。
その富山はまたの機会ということにして、その麓の怪しげな道を進んで行きます。
r89鴨川富山線に出ると間もなく、とみやま水仙遊歩道の入口に到着。とみやま水仙遊歩道は、鴨川富山線の北側にある山の斜面の中に作られた水仙畑の中を通る、2.5kmほどの遊歩道です。
その入口は、道脇にひっそり佇む小さな案内板がある切りで、これはここを目的に来た人でも注意しないと見落としてしましそうなものです。
案内板の横の狭い階段を上ると、咲いてる咲いてる、水仙。
この水仙はニホンズイセンで、古くに中国を経由して日本にやってきたものだそうです。
花は小ぶりでかわいらしく、甘い香りがそこら中に漂っています。
遊歩道は穏やかな斜面を上って行きます。
振り返れば足元に水仙、周囲は森で、先には南の山が見えます。
この姿を見て、今年も房総に来てよかったと思うのでした。
とみやま水仙遊歩道の前半は、水仙畑を抜けて狭い車道に出てお仕舞いになります。その車道から再び遊歩道に入ると、遊歩道の高度はピークに達し中盤に入ります。
その中盤はこんなふうに、ほぼ平らなところに水仙畑が築かれています。中には養峰の巣箱が置かれたところも。
遊歩道が下りになると、『展望台→』の標識が。その標識に誘われ、ごく僅かに登ると東屋が現れ、そこからは本日の出発地の岩井海岸あたりがよく見渡せました。
クッキーによるとこのあたりのどこかで水仙祭りが行われており、今日は七草粥がいただけるそうです。よく調べて見るとその場所はこのすぐ近くにある『道の駅富楽里とみやま』でした。しかし10時からとのことなので、今回は残念。
展望台からの眺めを楽しんだら、遊歩道の後半です。
この後半は森の中の階段の下りで、道脇の狭い範囲に水仙が咲いています。
前半の開けたところの水仙とはまた違った、よりひっそりとした味わいがここにはあります。
そういえばこの遊歩道ではまだ誰にも出会っていません。人があまり訪れないぶんだけここでは、ゆっくりのんびり水仙が楽しめます。
遊歩道には落ち葉がびっしりで、滑る滑る。スッテンコロリといかないように注意して下ります。
それなりに下ったところで、森の中一面に水仙が広がるところに出ました。これは圧巻。
前半の水仙は日向に咲いているので、すでに萎れかけているものも少しありましたが、ここは森の中で太陽の光が適度なのか、みんな元気に咲いています。
今朝の霜が水蒸気になったのか、花びらにはきらきらと輝く細かい水滴がびっしり付いています。
遊歩道の水仙はここを持ってほぼ終わりです。その後は竹林の中を下り、鴨川富山線に出ます。
下の鴨川富山線からとみやま水仙遊歩道がある山を見ると、こんな感じです。
さて、とみやま水仙遊歩道の散策を終えたら鴨川富山線にあるレストランで昼食をとり、その後午後の部へ突入。この午後の部はまず、鴨川富山線からそのすぐ北にある尾根道の嶺岡中央林道に上ることから始まります。
この上り道は林道下要路線といい、10%越えは当たり前みたいな感じで、きついきつい。
最後はへろへろ〜〜っと押し上げて、嶺岡中央林道に出ました。
『さっきの道、チョーきつかったですー。』 と、房総は三度目となるクッキー。
嶺岡中央林道は尾根道で、若干のアップダウンはありますが問題なく進んで行きます。
この道は勝山と鴨川を結ぶ、房総半島横断道でもあります。
林道としては比較的眺望がある線で、この区間もちょっとだけ周辺の山々が見えました。
津辺野山の東で嶺岡中央林道を離れ、北側に下ります。
r184外野勝山線の筋に出ると、周囲は田んぼで、先に小高い山並みが続きます。
振り返れば津辺野山の東のこんもりとした山が見えます。
r184外野勝山線を渡り、上佐久間の集落を抜けて行きます。
道脇を流れるのは佐久間川で、この上流には佐久間ダムがあります。
上佐久間から佐久間ダムへは上りです。
ここは道幅が広く、勾配も穏やかで、上りやすい。
えっちらおっちらと上って行くと、佐久間ダムが作る湖に到着。
佐久間ダムの周辺は桜の名所で、3月末にはソメイヨシノがあたりをピンクに染めます。
さすがにこの時期は桜はまだ咲いていませんが、すでに梅がちらほら。
つぼみがふくらみ、こんなふうに花が開いたものも結構あります。
湖畔にはかなり開いている紅梅も見受けられます。
佐久間ダムの周囲には2.5kmほどの遊歩道が巡っています。
その半分を廻って、をくずれ水仙郷へ向かいます。
佐久間ダムからをくずれ水仙郷までは激坂の連続。
『ここは押してもきついよ〜』 とサリーナが呻く。
しかしこの道脇にはかなりのところで水仙が咲いていて、いい感じです。
最後に激坂を押し上げて、ついにをくずれ水仙郷に到着。
この入口の水仙はまだあまり花を付けていませんが、さらに奥にある畑は満開のようです。
をくずれ水仙郷を貫く道は穏やかに上って行きます。入口から少し上ったところに、いつも立ち寄る直販所が店を出していました。
今年もここでクッキーは銀杏をゲット。
をくずれ水仙郷は水仙の時期以外は何もないところで、小さな公民館が一軒ある切りですが、その公民館もこの時は閉まっており、特別なイベントもやっていません。
農家がそれぞれ家の入口にこんなふうな簡易直販所を作って、静かに水仙などを売っているだけです。
公民館のすぐ先には八雲神社があります。
入口のすり減った石の階段を上ると、大きな幟が二本立っています。
八雲神社の大銀杏の注連縄
そしてその横には巨大な銀杏の木があり、立派な注連縄が締められていました。
八雲神社下を見ると、満開の水仙畑が見えます。
その向こうにはこれぞ房総というべき、どこまでも続く山並みが。
とみやま水仙遊歩道の水仙畑は森の中だったのに対し、こちらは斜面地ではあっても森の中ではないので、畑という感じがします。
をくずれ水仙郷の『をくずれ』は大崩と書きます。ここは急な斜面地で、過去にはそれこそ大崩れがあったのでしょう。
そんな名前の村ですが、今は静かで何事も起こらないような、平和な日々が続いているように見えます。
右手は畑、左手は急な斜面で、その斜面にも水仙が咲くようになります。香しい水仙の匂いを嗅ぎながら、ゆっくりゆっくり上って行きます。
水仙が少なくなり、周囲が山がちになったところで数人のハイカーと出会いました。彼らはこのあたりの山歩きを終えて帰る途中のようで、この先に人骨山という、かつての姥捨て山があることなどを教えてくれました。
その人骨山や津森山といった標識を横目にえっこらよっこらと大崩の中を進んで行き、いったん下って急な短い坂道を上ると、そこは小さなピークになっており、先の視界が開きます。
下には法名の棚田が段々しており、谷の向こうには鴨川あたりに続く山が見えています。
その棚田が広がる法名に下ろうと、GPSの地図で発見した道を行こうとするも、民家に入ってしまったり、みかん畑の中の道とは呼べないようなものになってしまったりで、これは断念。
仕方がないので、いつものように法名の南を通る道で下って行くと、冬の様相の棚田はちょっとひんやりした印象で、水が張られた時期や黄金色に輝く時期とはまったく異なる表情を見せています。
法名から先は道が三つあります。
これらはいずれも先でr88富津館山線に出るのでどれを行ってもいいのですが、今回は一番北の道を使ってみます。
ここからあとはよりひそりとした道になります。棚田の中を下ってからは、ギャーッと声をあげそうなくらい、きつい上り返しが待っています。
フレームがギシギシ音をたてるくらいにふんばって、激坂を上って行きます。
いくつめかの激坂の先で、再び眺望が開きます。おー、これぞ房総!
この眺望ポイントからあとは下りです。ぐわ〜んと下って金束の田んぼの中をどんどこ。
うしろには、さっきまでもがいていた山が見えています。
金束の交差点の先でr88富津館山線に出ました。
ここまで細道ばかりだったので、こんなに広い道に出るのは久しぶりです。
この先はこの富津館山線を進むか、一本北にある山道を進むか迷うところです。山道の方はもの凄い上りがあり、押しは間違いなし。一方の富津館山線の方は、少し車の交通があります。
ここまで予定より少し遅れ勝手なので、ここは富津館山線を選択。
富津館山線はたまにトラックが来たりしますが、そう問題になるほどの交通量ではありませんでした。
引越までやってきたら山中林道に入ります。
山中林道は後半の山中側はダートだと聞いていました。ところが引越側の序盤からすでにダートがあります。ただ、ここは舗装替えの工事中なのかもしれません。
しかしこの先も何度か予期せぬダートがあり、ちょっとこの道は私たちに序盤から、精神的なダメージを与えてくれます。
ともかくそうしたダートも乗り越え、やっとピークに辿り着きました。
この先の山中側は1km少々に渡りダートが続きます。
まずはよくある、ある程度締まった砂利道です。
ここはなんとかかんとか進んで行きます。
ところがそのうち、砂利道とはいってもこんなことに。
土と石ころが混じった路面は、雨で流されたところが出てきて、部分的に深く掘り込まれた状態となり、とても走れなくなります。
特にタイヤが細いクッキーはこのあと、ほぼ全面押しになってしまうのでした。
斜度が落ち着き、路面もまずまずになったところで乗車し、転げ落ちないように慎重に下って行きます。
なんとかかんとか、r182上畑港線、通称もみじロードと呼ばれる志駒川沿いの道に出ました。
この道はもみじロードの名の通り、秋には紅葉が見られ、時々見える志駒川の渓谷もきれいです。
そのもみじロードをどんどこ行き、鹿原(しっぱら)林道の入口に辿り着きました。予定ではここから鹿原の集落へ向かい、その北にある素掘りのトンネルを抜けて上総湊へ向かうつもりでしたが、ここまで30分ほど予定より遅れています。
すでに日没時刻が迫ってきているので、鹿原林道はまたの機会ということにして、このままもみじロードを北上します。
山間を抜け、前方の空が広がりました。周囲には田んぼが広がっています。
田原でR465に並行する道に入り、夕闇が迫る中を上総湊へ向かいます。
上総湊駅前に着いたのは、予定時刻を少し過ぎた17時15分。真っ暗になる直前で、ぎりぎりセーフかな。
さて、房総といえば海の幸でしょう。高速バス乗場の前にある寿司屋に飛び込みました。まずは地物の刺身を。鯛も鯵も新鮮でおいしい。
そして『はかりめ』です。『はかりめ』とはかつて河岸や市場で使用していたは棒ばかりのことですが、このあたりで穴子を指します。
これは穴子の側線がはかりめの点々に似ていたことから、業界用語として使われだしたものだそうです。
で、ここでははかりめの天ぷらと寿司を。どちらもふっくらで激ウマ。もちろん地魚のにぎりも美味しいですよ。
さて今回の企画ですが、後半は特に見どころがなく、期待していた山中林道には花も眺望もないので、残念ながら苦しいダート走行だけの印象となってしまいました。この後半はやはり戸面原ダムや川廻しの秘境といわれるあたりを廻った方がよさそうです。
しかし、『をくづれ水仙郷』はいつもながらの穏やかな装いで、その手前の佐久間ダムや、あとの法明の棚田あたりもいい感じでした。そして今回の発見はなんといっても、初めて訪れた『とみやま水仙遊歩道』です。ここは誰もおらず、ひっそりとしていてとても良いところでした。ジオポタのお気に入りに入れておきます。