猛烈な風が吹きまくった昨日と打って変わって、一夜明けた今日は風がなく穏やかそのもの。岩地温泉の民宿の朝ごはんは、鯵の干物と伊勢エビの頭が入ったみそ汁です。これをたっぷりいただいて、いざ出発。昨日は山コースだったので、今日は石廊崎(いろうざき)を廻って下田までという海コースにします。
いつもは極めて穏やかな表情の岩地の浜ですが、まだ昨日の風の影響が少し残っているのか、海はちょっと波が立っていて透明度も高くありません。しかし両側に岩場が張り出したこの地形は独特です。
ここで恒例の出発のセレモニーを。
伊豆の海岸線は出入りが激しくアップダウンが多いことで有名です。標高0mの岩地の浜を出るといきなり上りになります。
R136富士見彫刻ラインを西へ向かって上り出すとすぐに、北側に飛び出した萩谷崎の向こうに富士山が顔を出しました。このあたりには絶景の富士山ヴューポイントがいくつかあります。
岩地の入り江を下に見ながら坂を上って行くと、富士山もいっしょに付いてきて、萩谷崎の先端からその全貌を現しました。
優美な富士山の左から延びる山影を追っていくと、その上に雲が棚引いているように見える真っ白な筋が。
これを良く見れば、なんと南アルプスじゃあありませんか。
ここは富士山に南アルプスと、とても贅沢な眺めです。
『お〜、いいじゃないかここ。最高の景色だね〜』 と絶景富士山と絶景南アルプスに見とれる面々。
富士山の手前には小島が浮かび、加えて松の木とススキがより日本的な絵にしています。
『こんないい富士山、久しぶりに見るねぇ〜』 と感動のサイダーとムカエル。
富士山と南アルプスを眺めながらゆっくり進んで行くと、いつの間にか雲見温泉に着いていました。そこからは海に浮かぶ牛着岩(うしつきいわ)越しに富士山が見えます。(TOP写真)
牛着岩という一風変わったこの岩の名の言われは次のようなことだそうです。
昔々その昔(今から200年ほど前)、暴風雨によりこの一帯は大洪水になり、民家や家畜はみんな海に押し流されたのですが、一夜明けてみると、先の岩に流れ着いて無事だった牛がいたんだそうです。それ以来、雲見の人たちはこの岩を牛着岩と呼ぷようになったということです。
雲見も私たちが宿泊した岩地と同じく温泉地です。温泉の多くは山の中にありますが、伊豆は海辺にもいくつか温泉があり、海を眺めながら温泉に浸かれるのがいいですね。
ここには濃いピンクの桜が咲いています。そう、早咲きの河津桜です。
今年の河津桜の開花は例年よりだいぶ遅く、二週間ほど遅れているそうです。車窓から見た本家の河津も昨日通った下賀茂もほとんど咲いていませんでしたが、中にはこうして花を開かせているものもあります。
岩地から雲見までは海沿いに道がありましたが、この先は子浦まで内陸を行くことになります。
ということで、富士山とはこれでお別れです。
雲見で標高0mまで下ってしまったので、ここからはまた上りです。しかもこの上りはしばらく続きます。
『いよいよ上りね〜』 と覚悟を決め、ゆっくり上り始めるサリーナ。
そして、みんなを見守りつつ最後尾を締めるシロスキー。
石部の棚田への入口を横目に進み、オートキャンプ場の先でピークを迎えます。しかしここには何もないので先へ進めば、野猿公園への分岐まで下ったあと上り返します。するとほどなく夕日ヶ丘展望広場が現れます。
夕日ヶ丘展望広場からは西にお猿さんがいる波勝崎が、下に伊浜の集落が見下ろせます。伊浜の集落の中にあるビニールハウスではマーガレットが栽培されています。雲見から辿ってきたR136はマーガレットラインの愛称で呼ばれますが、それはこのあたりがマーガレットの栽培が盛んな地域だからだそうです。
夕日ヶ丘展望広場には小さな売店があるので、ここで小休憩。この売店には本わさびアイスクリームというちょっと変わったソフトクリームがあります。
ソフトクリーム休憩のあとは、下って上って下って上って下り。
雲見からのマーガレットラインからはほとんど海は見えません。その海が再び見えるようになるのは、子浦の少し手前です。
ここは海にダイブする感じで落っこちていきます。
下に子浦の集落が見えるようになると、道はその上に架かる橋を渡り、
大きな弧を描いて子浦の浜に下っていきます。
子浦は雲見と伊豆半島最南端の石廊崎のほぼ真ん中にある小さな集落で、静かな入り江にあります。
その入り江を眺め、一服して出発。
子浦から三つの小さなトンネルをくぐり抜けると妻良(めら)です。妻良は子浦のほぼ向かいにある漁港で、ここからまた上りが始まります。
『また上りですかぁ〜』 と呻きつつ、えっさこらさと上るマージコ。
150m弱上ってトンネルを抜けると、そこからは下りとなり、一色へ。
一色には山間に開かれた小さな畑が並んでいます。
一色で南に進路を変え、差田から石廊崎を目指します。
穏やかに上り、また三つトンネルをくぐり、中木に下ります。
中木からはひと上り。またまた(笑)三つトンネルをくぐって進むと『あいあい岬』です。
あいあい岬は漢字では愛逢岬と書くそうです。こう書くと、ここはとってもメドドダマが似合いそう。(笑)
この名前の善し悪しはともかく、ここからの眺めはなかなかに素晴らしいです。
北にはトガイ浜とその先の入り組んだ岩場が。
南にはヒリゾ浜と大根島(おおねじま)。
この写真ではよく分からないかもしれませんが、ヒリゾ浜はとてもきれいな水で、シュノーケリングのメッカになっています。
きれいなヒリゾ浜とは対比的に、その先にある大根島にはちょっと悲しい物語があります。この島には半世紀ほど前に観光目的でタイワンザルが放たれました。その後この猿たちは遊覧船から投げられるわずかな芋などを食料として生き延びていましたが、タイワンザルが特定外来生物に指定されたことにより、どうやら捕獲・殺処分となったようなのです。
あいあい岬から南東を見ると、丘の上になにかがあることに気が付きます。これはユウスゲ公園の『出会いの鐘』です。愛逢岬に出会いの鐘! なかなかですねぇ〜
まあそれはさておき、あそこにはユウスゲの群落があり、7月から8月にかけて可憐な黄色い花が見られるといいます。
さてさて、あいあい岬でひと息入れたらいよいよ伊豆半島最南端に位置する石廊崎です。石廊崎には灯台とコバルトブルーの海、そしてすばらしい眺めがあります。
石廊崎の入口までやってくると、かつてあったジャングルパークの跡地の再開発が本格化したようで、新しい道が建設中でした。このため上からは石廊崎にアクセスできなくなっています。
石廊崎への本来のアプローチは石廊崎漁港からなのですが、このルートは激坂です。今日は最終の踊り子号では帰りたいので、ここは石廊崎を取るか盥岬(たらいみさき)を取るか思案のしどころ。協議の結果、石廊崎は諦めることに。
そうと決まればこのジャングルパーク跡地をさっさと出て、昼飯処へ急ぐだけです。
ジャングルパーク跡地から石廊崎漁港の入口まで下ると、シンチェンゾーがやっぱり石廊崎に行きたいと言い出します。そこで再協議するも、これはあえなく却下。すまんシンチェンゾー、石廊崎はまた今度。
この先はちょっとした上りはあるものの、きつい上りはなくなります。奇岩が並ぶ蓑掛岩を横目にどんどこ進んで行きます。
蓑掛岩のあたりには食堂が一軒あるのですが、本日休業でがっくり。
その先には南国風の街路樹が並びます。このあたりは、青い空にコバルトブルーの海!
もっこりした岬が見えてきました。あれは弓ヶ浜の手前に飛び出した岬でしょう。
『腹へったよ〜、昼飯はまだ〜』 と叫びつつ走る面々。
下流(したる)はこのあたりではちょっとした集落で、民宿がたくさん並んでいるので食事できるところがないか探してみますが、見つかりませんでした。
こうなれば手石まで行くしかないと、先を急ぎます。その手石には旧道なのか、こんなトンネルがあります。
このトンネルを抜けた先のドライブインのようなレストランに駆け込むも、なんとネタが終わってしまったというではありませんか。ありゃまあ!
こうなればもう日野まで行くしかないと、青野川沿いを進みます。
このあたりは河津桜で有名なのですが、昨日のレポートで紹介したように、まだほとんど咲いていません。代わりに昨日通ったところではほとんど終わっていた水仙が、ここではまだ白い花を咲かせています。
日野の菜の花畑の近くにあるレストランに辿り着きました。今年は菜の花も河津桜もまだなので客は少ないかと思っていましたが、それなりに訪れる人はいるようで、意外と賑わっていました。
ここは海鮮丼!
さて、おいしい海鮮丼をいただいたら午後の部開始です。午後のメインイベントは盥岬散策です。
日野から青野川の河口に下ります。ここにはボートが並んだ並んだ。
青野川の出口には弓ヶ浜があります。
弓ヶ浜はその名のとおり、弓形に湾曲したきれいな砂浜で、夏には海水浴客でごったがえしますが、まだ寒いこの季節は閑散としています。しかしそのひっそりとした感じがいいのです、ここは。
弓ヶ浜に立つサリーナ。
そのうしろには、左にお椀を伏せたような整った形の利島、右に平べったい新島、そのさらに右にうっすらと神津島が見えています。
弓ヶ浜からはその隣にある逢ヶ浜(おうのはま)へ向かいます。
弓ヶ浜を出、小さな岬を越えると海岸の様子は一変します。
弓ヶ浜はきれいな砂浜でしたが、ここは砂利っぽくて奇岩が立ち並んでいます。
逢ヶ浜に到着しました。逢ヶ浜は『おうがはま』ではなく『おうのはま』と呼ぶそうです。
ここはゴロタ石の先に奇岩がたくさん。弓ヶ浜とはまるで異なる景観を呈しています。先に見える穴の空いた頂部が尖った岩は『エビ岩』で、この他『雀岩』や『姑岩』などがあります。
逢ヶ浜の突き当たりまで行くと、うっすらとした道らしきものが先の小高い丘の中に消えていっています。この道らしきものの先には階段がありました。
『あれ〜、道、ないじゃん!』 と、ここは二度目のはずのムカエル。
それにかまわず階段を上り始めるサイダー。
『え〜っ、ここを行くんですか=』 と、このルートは始めてのシュンシュンが目を飛び出させます。
ずり落ちそうになる自転車を担いで、階段をよろよろと上ります。ここでコケて階段真っ逆さまになりそうだったもの約一名!
このルートは盥岬遊歩道といい、逢ヶ浜から盥岬を廻って東海岸の田牛(とうじ)に抜けています。
約80段ある階段を上り終えると、分岐点に出ます。ここは四本の道が交わるいわば十字路のようなところで、内三本は盥岬へ向かい、もう一本は田牛に抜けます。私たちはここから盥岬へ行くのですが、下りの『らくらくコース』、上りの『健脚コース』、そして海岸沿いを行くアップダウンの『海岸コース』とあります。
ここはやっぱり『らくらくコース』でしょう。(笑)
分岐点に駐輪して、ちょっとした森を行き、ウバメガシなどの灌木が生える中を進むとぱっと先が開け、盥岬の先端に到着します。
先端のやや手前からは西に逢ヶ浜のエビ岩や弓ヶ浜が見えます。
岬の先端に立てば、東に爪木崎と伊豆大島が、南には利島、新島、神津島などが、そして西には今日は行けなかった石廊崎が見えます。
この岬にはスケールの大きな眺望があり、岬らしい岬と言えるでしょう。
盥岬で眺望を楽しんだら分岐点まで戻りますが、帰路は海岸コースを。
海岸コースは岩場を行くので雨上がりや風の日は危険ですが、この日は大丈夫。
先に半円形の口を開けた岩、『三ヶ月の大洞』が見えてきました。あそこがこの遊歩道の終点です。
海岸を離れた『海岸コース』はボードウォークの階段を上り、分岐点に戻ります。
分岐点で自転車をピックアップしたら田牛へ向かいます。
この分岐点から遊歩道の田牛側の出入口である『三ヶ月の大洞』のところまでも階段はありますが、ちょっとだけ乗車できる区間もあります。
そこは椿園になっていて、こんな花がひっそりと咲いています。
この遊歩道、かつて何度か通っているのですが、大抵今頃の時期で寒いせいか、これまで誰とも出会っていません。
三ヶ月の大洞までやってきました。その隣には遠国島が海から突き出ています。
ここで盥岬遊歩道は終わり、このあとは普通の道になります。
田牛に下ってきました。
田牛にはちょっとした見どころがあります。
その一つは龍宮窟で、これは海食洞の天井が崩れ落ち、直径50mほどの天窓が開いたものです。洞窟を通って天窓の下に立てば、正面の穴から波が打ち寄せ、蒼い海水とその周囲の黄褐色の火山礫の壁の神秘的な美しいコントラストを見ることができます。
また、この天窓の周囲には遊歩道が巡らせれていて、これを廻って龍宮窟を見下ろすこともできます。
この遊歩道から見る海の色はエメラルドからウルトラマリンまでと幅広く、美しい。
もう一つの見どころは龍宮窟のすぐ横にあるサンドスキー場。
これは強い風によって吹き寄せられた砂が自然に積みあがってできた天然のものだそうです。この日は数人しか滑っていませんでしたが、かなり勾配がきつくて、頂部まで這い上るのは大変なようです。ですがその分、滑り落ちるのは楽しいでしょう。
さて、龍宮窟とサンドスキー場を眺めたら、本日の観光は終了。あとは下田へ向かうだけです。
昨日通った吉佐見大浜に出、大賀茂川に架かる吊り橋を渡って、
ハマボウ樹林の中のボードウォークを進みます。
R136からはいつも通るお気に入り、下田海中水族館の横を通る道へ。朝方通るこの道は、朝日を浴びた海がとてもきれいなのですが、陽が落ちてきたこの時間帯はどうでしょうか。
白い砂浜とエメラルドグリーンが美しい鍋田浜は、やはり陽の光ないとぱっとしません。
その先の私たちのお気に入りだった『和歌の浦遊歩道』はなんということか、こんなことになっていました。あちこちで路面が跡形もなくなっています。去年の10月の台風で被害を受けたのだそうです。
かなり悲惨な状況ですが、ありがたいことにこれは今年度中に復旧する予定だそうです。
なんとか和歌の浦遊歩道を乗り切ると下田海中水族館です。
今日は遅いのでイルカショーはもうおしまいですね。
水族館から下田公園を廻るようにして海岸沿いを進むと、下田のまちが見えてきました。
下田のまちの入口、下田湾に注ぐ稲生沢川(いのうざわがわ)の河口にはペリー艦隊来航記念碑があります。
ご存知ようにペリーさんはアメリカ海軍の東インド艦隊司令長官として、鎖国状態にあった日本を力づくで開国へと導いた人です。当時の日本ではペリーさんを『天狗』や『赤鬼』などと呼んで恐れていたようで、そうした風刺画を多くの人が一度は見ているでしょう。でもこの銅像、そんなにおっかなくは見えません。
そのペリーさんが300人の部下を引き連れて行進したという道がここ、ペリーロードで、この先には下田条約を締結した了仙寺があります。
かつては花街だったこのあたりには、細い平滑川(ひらなめがわ)の両側になまこ壁や伊豆石の家が残り、柳並木が独特の風情を作り出しています。
漁船が並ぶ稲生沢川沿いを行き、予定時刻に下田駅に到着です。想定のとおりに駅弁は売り切れでしたが、スーパービュー踊り子号には間に合いました。これで乗換えなしで東京まで帰れます。もちろんこのあとは東京まで車内宴会と相成ったのでした。
この二日間の南伊豆の旅は、菜の花と河津桜がほとんど咲いていなかったのにもかかわらず、大満足です。おいしい魚介類に温泉、そして絶景の富士山と碧い海。これ以上何を求めるというのでしょう。
やっぱり伊豆は最高です。