白馬の今日の天気は曇りで夕方には晴れ間が出る予報。雨は降らなさそうなので、予定の通りに八方尾根自然研究路のトレッキングを行います。
ペタッチは今日早めに帰宅しなければならないので、朝6時過ぎに宿を出発し八方尾根へ向かいます。八方尾根自然研究路へのアクセスは、白馬八方尾根スキー場の八方駅からゴンドラリフトに乗るのが一般的ですが、私たちは車で黒菱林道を行き、より高いところにある黒菱リフトに乗ります。これでリフト代が大分節約出来ます。
黒菱林道はくねくねとヘアピンカーブの連続で見通しも悪く、山道の運転に慣れていないと不安ですが、我らが名ドライバーのレイは慎重に運転して上って行きます。
残念ながら今日は雲が低く眺望はよくありませんが、晴れていればなかなか楽しめそうな道です。
黒菱の駐車場に着いたらさっそく黒菱第3ペアリフトに乗り込みます。
このリフト、昔ながらの2人乗りの上、安全バーもないのにちょっと驚き。今でもこんなリフトが残っていたんですね。
リフトはのろのろと高度を上げて進み、黒菱平に到着。
本日の参加者は左から、今日が最終日のペタッチ、名ドライバーのレイ、名ナビゲーターのレイナ、あたし乗るだけのサリーナ、カメラは載るだけのサイダー。
ここの高度感。この黒菱平が1,680m、下の黒菱のリフト乗り場1,510m、一番低いところが標高800m。
このリフトを降りたすぐ横には雲海テラスがあり、そこで朝食弁当をいただこうと思っていたのですが、この時はそこからほとんど何も見えずで、もうちょっと上って適当なところを探すことにしました。
黒菱平には鎌池湿原があります。この時期はピンク色のシモツケソウの群落などが見えますが、ここは帰りに時間があったら立ち寄ることにしましょう。
黒菱平ではリフトを乗り継いでさらに上へ向かうのですが、そのリフトが左に見えています。
リフト乗り場へ向かうと途中に、1998年に開催された長野オリンピックの女子滑降で使われたスタートハウスが立っています。長野オリンピック、ついこの前と思っていたのにもう四半世紀近く前のことなんですね。
その向こうに見えるのが私たちが乗って来た黒菱第3ペアリフト。
黒菱平から乗り込んだのはグラートクワッドリフトで、これはオープンエアのリフトですが4人乗りで先ほど乗って来たのものより高速です。
だいぶ雲が出てきました。というより、高度が上がって雲の中に突入です。このリフトの横に長野オリンピックの『男子滑降スタート地点 1,765m』の標識が立っていました。国際スキー連盟の要請になかなか応えられずに、すったもんだした挙げ句に最終決定された地です。
リフトを降りると目の前に八方池山荘が立っています。ここからいよいよ八方尾根自然研究路のトレッキングです。
八方尾根自然研究路は片道1.5〜2km、往復4kmほどで、最終目的地は標高2,060mの八方池。天気がよければこの八方池に白馬三山が映り込むといいます。標高はスタート地点のここ八方池山荘が 1,830m、最高は八方池の横に位置する第3ケルンで 2,080m。高度差は250mと大したことはありません。
八方池山荘を出るとすぐ道は二手に分かれます。
右は尾根づたいに行く傾斜がきつい登山道コース。左は傾斜が緩い木道コースです。登山道コースを下るのはちょっと危うそうなので上りに使う予定でしたが、木道コースには朝食に最適なベンチがあるので、ここは木道コースを行くことに。
ところがこの木道コースも序盤は結構きつい上りで岩がゴロゴロ。帰りの登山道コースが思いやられます。
しかしこの道沿いにはきれいな花がいっぱい。これは平地でもよく見掛ける花ですが、ノラニンジン(野良人参)? レースのようできれい。
これは標高が高いところに生えるキンコウカ。
6枚の黄色い星形の花が特徴です。下から段々に咲きます。
最初はきつかった道の勾配が落ち着き、穏やかになってきました。しかしまだ木道ではなく石の舗装です。
視界はゼロでな〜んにも見えず。(笑)
小さな可憐な花はウメバチソウ(梅鉢草)。ポツ、ポツッ、っと咲いています。
野花を観察しながらしばらく登って行くと、ついに木道がでてきました。ここからはかなり歩きやすくなります。
野花観察はまだこの先も続きます。
これはツリガネニンジン(釣鐘人参)だと思いますが、その高山型のハクサンシャジン(白山沙参)なのかもしれません。
ハクサンシャジンは上部3段ほどに密集して花を付け、ツリガネニンジンより花がふっくらしているといいます。これに似たものにはソバナ(蕎麦菜・岨菜)もありますから、高山植物に詳しい方でないと見分けがつかないかもしれません。
オトギリソウ(弟切草)はきれいな小さな黄色い花を咲かせますが、この花、なんと一日しか咲かない一日花だというのに驚きます。
古くから薬用として用いられており、止血や切り傷などに効くとされています。弟切草という名は、秘伝薬の秘密を漏らした弟を兄が斬り殺したという伝説によるものだとか。
この木道は上り用下り用の2本が整備されています。それが二手に分かれた中央部には荒っぽい岩の破片が散乱しています。
木道は一般的には湿地帯などぬかるんだところに設置されますが、ここは岩の上に造られているのです。
この岩は蛇紋岩というちょっと珍しいもので、その表面に蛇のような紋様が見られます。粘土質のため風化しやすく崩れやすい性質を持っているので、八方尾根は丸みを帯びた斜面なんだそうです。
さらにこの岩によってここの植生は、黒菱平から八方池の上まで、本来は標高2,500m以上の高山でしか見られない低木や花々が見られ、八方池より上になると、通常はもっと低いところに生えるダケカンバが現れるという逆転現象が起きています。
イワシモツケ(岩下野)は高山地帯の岩場でよく見られます。
ちっちゃい白い花がぎゅぎゅっと集まって塊になっています。
蛇紋岩のゴロゴロ道が終わると再び木道になります。
このあたりは完全に雲の中で周囲は真っ白。まったく何も見えません。
八方池山荘から40分ほど歩くと、木道の脇にテーブルとベンチが現れました。
この先にも連続してこうしたテーブルとベンチが何組か置かれているようですが、私たちは最初に現れたところで朝食弁当休憩です。昨日はおむすびだったので今日はサンドイッチ。レタス・トマト・キュウリ・タマネギ・ハム・ツナ・玉子の全部入り!
朝食を終えたら先へ進みましょう。
おっ、青空が見えてきた! 残雪も!
あっ、山が見えた!
『あれは双耳峰の鹿島槍ヶ岳(2,889m)ですね。』 と、すかさずクライマーのレイ。
一番左が鹿島槍ヶ岳、その右のバーンとした山は五竜岳、そして右端の雲の中に唐松岳。
『え〜ね〜、さすがに北アルプスじゃい。これで、上で白馬三山が見えたら申し分ないがのぅ。』 と、こちらも山男のペタッチ。
残雪を越えて少し上ると登山道と合流し、今度は五竜岳の反対側の山々が見えてきます。
この先に見えるのは不帰ノ嶮(かえらずのけん)。
不帰ノ嶮は、Ⅰ峰・Ⅱ峰・Ⅲ峰と3つの峰からなり、正面の三つの頂がⅢ峰。その右に見えているのがⅡ峰の南峰で、このさらに右手にⅡ峰の北峰、そしてⅠ峰と続きます。
『不帰ノ嶮って不気味な名前だけど本当に危険なの?』 と山を知らないサイダーが聞けば、レイが、
『ええ、時々滑落や死亡事故が起きます。特にⅡ峰の北峰とⅠ峰の間は一気に下らなければならない箇所が多く、鎖場が長く続くんです。』 と。
おお怖!
不帰ノ嶮のⅠ峰から右手には『天狗の頭』の穏やかな稜線が続きます。
そしてそのさらに右には白馬三山、トンガリ帽子の白馬槍ヶ岳(はくばやりがたけ)、杓子岳(しゃくしだけ)、白馬岳(しろうまだけ)と続くのですが、残念ながらそれらは雲の中です。
木道コースと登山コースの合流点からちょっと進むと、標高2,005m地点に不帰ノ嶮を背にして第2ケルンが立っています。
この写真の左奥には次の目印となる八方ケルンが見えています。
ここで不帰ノ嶮をよく見てみると、あちこちに雪渓が見えます。
やはり雪があると高山という印象が強くなりますね。
もう少しで見えそう、でも見えない。こんな景色はこれで結構楽しめます。
このあたりの山は当然森林限界を越えており、ゴツゴツした岩肌を露出しています。
そういえば我らがマージコはかつて、五竜岳からパラグライダーで飛び降りたことがあるそうな。乱気流でクルクル。おっそろし〜いっちゃ。
蛇紋岩の階段を上って八方ケルンへ。
上には青空も見えます。これは期待できるか。
標高 2,035mの八方ケルンは黒い石で目鼻口が描かれており、顔に見えます。
本ルート上にあるケルンでは一番大きいです。
八方ケルンまで来れば今日の最終目的地の八方池まではすぐ。
しかしここからは距離は短いですが、急な上りです。
下から撮っても上から撮っても勾配というのは分かりにくいものなので、横の斜面を写してみました。
どうです、結構急でしょう。もちろん三点支持で登るほどではありませんが。
ゴツゴツ岩をじょうずに除けながらここは慎重に登って行きます。
今日は距離が短いので楽勝と思っていましたが、普段歩き慣れていないサイダーとサリーナには結構きついのでした。
薄紫色がきれいなタカネマツムシソウ(高嶺松虫草)は高嶺とあるようにマツムシソウの高山型です。
マツムシソウより花が大型で直径は5〜6cmほどあります。
八方ケルンからの上りを終えると尾根道と八方池へ下る道の分岐に出ます。
ここには白馬連山展望図があり、晴れていればこれらの山々が見えるはずなのですが、先ほど広がってきていた青空はいつの間にかなくなってしまい、周囲は真っ白になってしまいました。ん〜〜ん、残念!
さて、この先は八方池へ下るルートを辿ることにしました。
上りと下りがあったら、私はやっぱり下りたくなってしまいます。(笑)
ほどなく小さな水溜まり(八方池の東の端)が顔を出し、その先にそれよりほんのちょっと大きな八方池が現れました。
えっ、これ〜ぇ、、、というのが正直な感想です。八方池は想像していたよりずっと小さいです。このあたりには何度も来ているはずのペタッチは、ここには来たことがないようだと言います。この池は冬には雪に埋もれてなくなり、その他の季節でも尾根を進んでいると気付かないこともあるのだとか。
八方池は小さいには小さいですが、それにしてもこんな高地になぜ池があるのでしょうか。この池は雪に押し流された土砂が堆積したところに、雪解け水や雨水が溜まってできたものだそうです。水深は最も深いところで4.4mほどで、サンショウウオやモリアオガエルが生息しているとか。
晴れていればこの向こうに白馬三山が見え、それが湖面に映り込むといいます。あ〜、見たかったな〜
池の向こう側に見える稜線を伝って登って行くと、唐松岳(2,696m)に辿り着きます。
ペタッチとレイは、その唐松岳から先の白馬三山や五竜岳に繋がる尾根の縦走を何度もしているベテランで、装備さえ持っていればいつでも登れるようですが、今日はここまでです。
ここはクガイソウ(九蓋草、九階草)がたくさん。
風に揺れていい感じでした。
八方池をぐるりと廻って尾根道へ向かいましょう。
池の対岸に第3ケルン(2,080m)が見えています。あのあたりが本日のルートの最高標高地点です。
八方池から尾根へ上るのはすぐでした。
白馬連山展望図があった分岐からは木道をずいぶん下ったような気がしたのに。
これが標高2,080mにある第3ケルン。
埋込まれた石板に『池方八』その下に『米五四』とあります。?と一瞬思ったのですが、右から読むんですね。(笑)
先ほど八方池に向かう時に使った木道が下に見えています。
なかなかいい感じの起伏です。
尾根道を進んで振り返れば、下に小さな八方池。確かにこれはペタッチが言うように、尾根を進んでいると気がつかないかも。
さて、白馬連山展望図がある分岐まで戻ったらあとはやってきた道を引き返します。そして第2ケルンの先で登山道コースへ入ります。
登山道コースの序盤は比較的穏やかな下りで、そのうち石神井ケルン(1,974m)に到着します。
このケルン、なんで石神井なんだろうと思ったら、東京の石神井高校山岳部が創立10周年記念として昭和38年8月に設置したのだそうです。国立公園の中に勝手にそんなの造ってもいいのかな? という疑問が湧かないでもありませんが。(笑)
石神井ケルンまで来たら出発地の八方池山荘まではもうすぐなのですが、登山道コースはここからゴツゴツ岩だらけの急峻な下りになり、歩きにくいのなんの。とても滑りやすいので慎重に下って行きます。
北側の谷が見えだしました。かなりの急斜面!
ごろごろ石が終わると今度は急な木道の階段下りです。逆さまに転げ落ちそう!
あれ、なんかここには青空が。上にいる時に青空だったらなぁ。。。
なんとか八方池山荘まで下ったら黒菱平へ下るのですが、ここには登山道があります。しかし私たちは横着して、やって来た時同様にリフトで。
黒菱平では、行きには外側を通ってしまった鎌池湿原の中の木道を歩いてみました。
ん〜ん、この時期はシモツケソウくらいで、他にはあまり見るべきものはなかったかな。
黒菱平からは、朝より下の黒菱のリフト乗り場や白馬のまちがよく見えました。
今日の温泉は『おびなたの湯』。誰もいなかったので写真を撮らせてもらいました。
この温泉にドンと設えらえているのは先ほど見てきた蛇紋岩です。温泉はこの岩と関係があるらしく、アンチエイジング効果が高い天然水素が含まれる珍しい泉質だそうです。つるつる美人の湯ですね。
ただしここは湯の温度が高い上に日影がなくて暑かった!
温泉を出ると駕篭の中に野菜が入っているのを発見。トマトはなんと1個50円也。
ということで、いっただきま〜す!
今日は冒頭のコース紹介にある、『眼前に広がる唐松岳』と、『八方池に映る白馬三山』の二つは叶いませんでしたが、五竜岳と鹿島槍ヶ岳が見えたし、高山植物がたくさん楽しめたので良しとしましょう。
さて、明日はレイナとレイも帰ってしまうので、中日の休みを予定していますが、天気が良ければ今日の黒菱平まで上って白馬三山を眺め、黒菱林道を自転車で下ろうかと思っています。