坂道を下る
ポルト散策の二日目は歴史地区にある建物巡りから始めます。
昨日、大聖堂は内部を見られなかったので、まずはその大聖堂に向かいます。バターリャ広場からシモ・デ・ヴィラ通りを下って行きます。
大聖堂外観
サン・ベント駅から下ってくる広いドン・アフォンソ・エンリケス通りと合流すると、その先に大聖堂の北面が見えます。
この建物は12世紀初頭から建設が始められ13世紀に完成したポルトでもっとも古い建造物だそうで、ロマネスクをベースとし、バロックの玄関やゴシックの回廊を持ちます。
大聖堂西面メインファサード
このように現在の姿には様々な建築様式が取り入れられています。こういう場合たいてい元の様式は隠され、後世のそれが前面に出てくることが多いのですが、ここでは元のロマネスクがだいぶ残されていて、全体がどっしりとした印象です。
大聖堂前広場にあるグリグリねじりんぼうの柱はペロリーニョと呼ばれるもので、罪人のさらし台です。
大聖堂のパティオ
これがゴシックの回廊で、その上部に高い身廊を受ける飛び梁が見えます。この飛び梁を使った工法はこの建物がポルトガルで最初だとか。
大聖堂の回廊
回廊の壁はアズレージョで埋め尽くされています。
回廊のアズレージョ
これらのモチーフは大聖堂にふさわしく、聖母マリアを扱ったものなどです。
上のパティオの写真にちらっと写っているように、ここには屋上テラスがあり、その壁もアズレージョで飾られています。
大聖堂の身廊
内部は三廊式で、身廊は狭く背の高いトンネルボールト、側廊は背の低いボールト天井です。
この日はバスを連ねて、大勢の人々が参拝にやってきていました。
大聖堂の前の広場から西を望む
昨日のレポートでもお伝えしたように、この大聖堂の前の広場からはポルトの街がよく見渡せます。
これは西側で、丘の上に巨大な建物が建っています。
大聖堂から西に下る
大聖堂から下るのに昨日は南の狭い通路を使いましたが、今日は西に下ってみます。
こちらは南の通路よりは広いものの、それでも結構狭くて、意外に面白いです。
ミセリコルディア教会外観
ミセリコルディア教会は16世紀のロココ調ファサードを持つバロック建築で、これは典型的なイタリアン。
ミセリコルディア教会内部
内部も明るくカラフル。
エンリケ航海王子の像とボルサ宮
ミセリコルディア教会から坂道を下ってくると、エンリケ航海王子の像が建つ広場に出ます。
その横に聳え建つのはボルサ宮です。この建物は火災で焼けたサン・フランシスコ修道院の跡地にポルト商工組合の建物として建てられたもので、内部は豪華絢爛。黄金の間やアラブの間といった諸室があるのですが撮影禁止なので、公式WEBで。
サン・フランシスコ教会
ボルサ宮の横にはサン・フランシスコ教会があります。上の写真の左端にそのアプス部分が見えています。
この建物は14世紀末から15世紀初頭のゴシックですが、内部は17世紀の華麗なバロックで、金箔を多用した木の装飾でゴテゴテ。全体を構成するゴシックとこの内装は完全にミスマッチ、だと思うけれど。。
この内装は昨日訪れたサンタ・クララのそれととてもよく似てはいますが、こちらのほうが断然ケバい。
サン・フランシスコ教会地下のお墓
サン・フランシスコ教会の地下はカタコンベ(お墓)です。これはたしかサン・フランシスコ会のお坊さんの為のものだったと思いますが、壁と床下にびっしりと遺体が詰まっています。
なお驚くことに、あちこちに頭蓋骨などが置かれていて、ちょっと、、、
ポルトワインを試す
ちょっとおどろおどろしいので、口直しを。
ボルサ宮のすぐ北にはポルトのワイン協会があります。ここではポルトワインの試飲ができるので試してみました。白と、赤の中で一般にはLBVと表示されるレイト・ボトルド・ヴィンテージを。
白は主に食前酒として飲まれ、赤は食後酒として飲まれることが多いそうです。そうそう、食後にはチョコレートをかじりながら飲むとおいしいって。
カサ・ド・インファンテの標識
リベイラのカサ・ド・インファンテはエンリケ航海王子が生まれたといわれる場所ですが、これははっきりしないようです。
エンリケ航海王子については今更ながらですが、大航海時代の幕を開けた人であり、未知のアフリカ大陸西岸を踏破させるなどしたことで知られています。しかし本人はあくまでパトロンであり、自らが航海に出たわけではないようです。
この建物は新しく、王子が住んでいた時代のものではありませんが、発掘により当時の遺構が出てきて、さらにその下にローマ時代のもの(きれいなモザイク)までが現れました。ここでは都市の上に都市が幾層にも積み重ねられたことがわかります。
カサ・ド・インファンテの展示
この内部はそうした発掘遺構を展示しています。写真のパネルの色分けは各部の時代説明などのものです。ここは規模は小さいのですが、なかなか興味深いものがありました。
酒屋のウィンドウ
ここで午前中の散策は終了。エンリケ航海王子の広場でお昼にしたあと、午後の部に備えて一旦宿に引き返します。
帰り道はぶらぶらとウィンドウショッピングをしながら。ここは酒屋さんでポルトワインがずらり。
路地からクレリゴスの塔を見る
ポルトの狭い路地は楽しく、いろいろな発見があります。ここは狭いながらもちょっとしたテラス席が設けられ、その先にクレリゴスの塔が見えています。
壊された壁に連続する建物
ポルトガルは今不況に喘いでいるようで、リスボンでもここポルトでも空屋が結構あります。そうしたところは外壁だけ残して(床の木の梁は残されることも)、建物の中身を全部撤去して(窓もドアもなにもかも)新しい内装が作られるのですが、こうしたところはあちこちで見られます。
サン・ベント駅の近くのこの建物はちょっと面白く、妙な具合に妻壁が残っています。この壁に連続してあった建物は取り壊されたのですが、ここを壊すとこれに接する建物が壊れてしまうので、この部分だけ残されています。日本だったらもっときれいに成型して壊すところですが、こっちは荒っぽい。
自転車で サント・イルデフォンソ教会の前を出発
さて、午後の部は自転車で出発です。
ドウロ川の対岸のヴィラ・ノヴァ・デ・ガイアのワイナリーに向かいます。
ドン・ルイス一世橋を渡る
大聖堂の後ろの道を下ると、その先はドン・ルイス一世橋。
この橋の上はトラムと人と自転車が通行できるのですが、ご覧の通りトラムとの間には簡単な低いポールが所々に建っているだけで、日本ではあまり経験できないスリルを味わうことができます。
ドン・ルイス一世橋から東のインファンテ橋を望む
かなり高いところを通っているにもかかわらず、この橋は手すりが低いので眺めは抜群です。
ドン・ルイス一世橋から南西のヴィラ・ノヴァ・デ・ガイアを望む
こちらがドウロ川対岸のワイナリーが密集するヴィラ・ノヴァ・デ・ガイアで、川に浮かんでいるのは、上流から樽に入れたポルトワインを運んでいたラベーロと呼ばれる船です。
これからあそこのワイナリーの一つに向かうのですが、ちょっとその前に寄るところが。それはここドン・ルイス一世橋とポルトの街が見事に見えるところです。
ドン・ルイス一世橋を上から見る
ドン・ルイス一世橋を上から見てみるとこんな感じ。
城壁とケーブルカー
ポルト側の橋のすぐ横には城壁らしきものがあり、またその横をすごい角度でケーブルカーが上って行きます。
このケーブルカーはレトロなリスボンのそれとは違い、現代的なデザイン。
ドン・ルイス一世橋と段々のポルトの街
ここからの眺めはとても素晴らしい!
サイダーとドン・ルイス一世橋
景色に見とれるサイダー。
サリーナとポルト
この展望台はヴィラ・ノヴァ・デ・ガイア側にある大きなノッセ・セニョーラ・ド・ピラール修道院の前です。
Taylor'sのぶどう棚
さて、目的地のワイナリーですが、テイラーズにしました。しかしここはヴィラ・ノヴァ・デ・ガイアの川岸ではなく丘の上だったので、かなりあへあへです。
簡素な入り口を入ると、ぶどう棚のある小さな空間が私たちを迎えてくれます。これでぐっと気分が盛り上がります。
ウェルカム・ポルトワイン
奥の建物に入るとカウンターで受付があり、ラウンジでウェルカム・ポルトワインのサービスを受けます。
『すっきりとした白からどうぞ。』
タイラーズのラウンジのサリーナ
ということで、まずはホワイトをいただきます。これは甘いけれど、なるほどすっきりしています。
ポルトワインは日本では英国風にポートワインと表記されることが多いと思いますが、これは本来、ポルトのワインという意味でしょう。こちらではヴィーニョ・ド・ポルト(Vinho do Porto)と呼ばれ、この呼称には現在はポルトガル政府により厳格な規定があるそうです。
ワイン蔵
また、ポルトワインはシェリーやマデイラなどと同じく、醸造過程でアルコールを加えることによりアルコール度数を高めた酒精強化ワインと呼ばれるお酒です。ここで添加されるアルコールは77度のブランディで、できたお酒の度数は20度。この製法で独特の甘みとコクが出るのだそうです。
ぶどう畑はドウロ川の上流域にあり、この限定された地域で収穫されたぶどうを使ったものだけがポルトワインと呼ぶことができます。この地域は1756年に世界で初めて原産地管理法が導入されたところでもあります。写真で見るとこの生産地はもの凄い丘陵地で、ガレガレの土地に作られた段々ぶどう畑がドウロ川におっこちて行きそうなところです。ここは後日自転車で巡ることにしますからお楽しみに。
ラウンジでウェルカム・ポルトをいただいたあとは、このような説明を聞きながらワイン蔵などを見学します。
案内してくれたスタッフと並べられたのLBVとヴィンテージ
そもそもポルトワインはどうしてできたのか? それは英仏の百年戦争でフランスからイギリスにワインが入らなくなり、イギリスがポルトガルにそれを求めたのが始まりだとか。だから今でもポルトワインを製造するワイナリーにはイギリス系のところが多いのです。このテイラーズもしかり。
白は一種類のようですが赤はたくさん種類があり、ルビー、トゥニー、レゼルヴァ、コレイタ、LBV、ヴィンテージとあるようです。
見学の内容は、生産地の写真数点のごく簡単な説明があったあとと、貯蔵蔵を巡るだけ。これはちょっと消化不足です。ここは上流から樽詰めされたワインを貯蔵するだけの施設ですから、ある程度やむをえないところもありますが、生産の全過程をもっと詳しく展示説明されるとよかったと思います。
Taylor'sからドウロ川に下る
見学を終えると、最初のホワイトに加え、赤のルビーとヴィンテージが用意されます。ルビーは明るい赤で、収穫年の異なるものをブレンドし、3年ほど寝かせたもの。ヴィンテージは濃い色の方で、特に良くできた単年のぶどうから作られ、樽で2〜3年寝かせたあと瓶詰めされ、さらに10年ほど寝かせたもの。飲み方にもよりますが、やはりヴィンテージの方がまろやかで美味しいように感じます。
テイラーズは丘の上にあるので、眺めの良いレストランで食事をし、ゆっくりとポルトワインを楽しむのには最高のところだと思います。
そのテイラーズからドウロ川への帰り道は、密集するワイナリーの間の激坂下り。しかもこれが石畳ときました。
ドウロ川に浮かぶポルトワインを運んだラベーロ
慎重に下ってドウロ川の畔に辿り着きました。
ラベーロとポルト
そこには幾隻も、かつて上流からワイン樽を載せて下って来たであろうラベーロが浮かんでいます。これは想像したよりずっと小さな舟でした。
ここから対岸のポルトを眺めると、それが丘の街であることがはっきりわかります。
ドン・ルイス一世橋を見上げる
近くにはあのドン・ルイス一世橋が架かっていますが、ここでこれを渡って帰るにはまだ少し早すぎます。
そこで大西洋を拝むことにしました。
大西洋に向かって歩行者道を行く
ヴィラ・ノヴァ・デ・ガイアから大西洋に向かって歩行者道が延びています。
この歩行者道は自転車も走っているので併用なのでしょう。しばらく進むとそれは木製デッキになり、ドウロ川の中に張り出して作られるようになり、気分よし。しかしこのデッキには釣り人がたくさんいるので注意して進みます。
昨日の遊覧船はうしろに見える橋で引き返したので、ここからは未体験ゾーンです。
ドウロ川河口付近
ドウロ川の河口付近で木製のデッキは途絶え、今度は明らかに自転車道と分かるゾーンが続くようになります。
大西洋
この自転車道になると程なく、大西洋が姿を現します。
ここはドウロ川の出口を塞ぐような形で川の中に張り出したところで、三日月形のビーチになっています。しかしここはちょっと人工的な感じで、今ひとつ開放感がない気がしたので、先まで行ってみることにします。
大西洋岸を行く
ドウロ川の河口を離れた道が南に向かい出すと、すぐに広々とした大西洋に。
そして先に小さな浜辺が見えてきました。
ペドラス・アマレラス海岸
着いたのはペドラス・アマレラス海岸です。近くにはコンドミニアムかホテルがあるようで、ビーチ際にはカフェもあります。驚くことにここには、この周辺を走るためのレンタサイクルもあります。
本当にちっちゃなビーチですが、私たちはしばしここで寛ぐことにしました。
さて、明日はポルトを離れ、北部のスペインとの国境に近いトラス・オス・モンテスのシャベスに移動し、本格的な自転車の旅の準備に入ります。