今日の目玉はトラピスト・ビールのオルヴァル(Orval)で有名なノートルダム・ド・オルヴァル修道院(Abby Notre-Dam d'Orval)。
昨日ブイヨンで少しのんびりした私たちですが、今日は少し長丁場です。走行距離は75kmと、平地なら問題ない距離ですが、ここアルデンヌは丘陵地。坂だらけで、上ったり下ったり、上ったり下ったりの繰り返しが待っているはず。前半は大きなアップダウンで、後半は細かなアップダウンです。とにかく平地は皆無!
ブイヨン
アパートメントで簡単な朝食を済ませ、やや早めの7時半に出発。まずはブイヨンの中心部に下ります。
昨日見学したお城を横目にフランス橋を渡り、東の丘を上り始めます。
高台から見るブイヨン城
この上りの途中でブイヨン城方面の眺望が開けます。
こうしてあらためて高台からみると、ブイヨン城はやはり大きく、立派です。
丘を上るサリーナ
昨日同様に結構きつい坂を上って、丘の上に出ます。
丘の上を行く
周囲にはいつものように牧草地が広がり、ここでは飼料用のトウモロコシ畑も。
彼方に見えるのは、これもいつものように森です。ここからぐわ〜っと下って、
スモワ川
出発から5kmほどの地点で、スモワ川の畔に出ます。
ここからスモワ川に沿ってその上流に向かいます。右手はスモワ川で左手に森。木々の合間からスモワ川がちらっ、ちらっと見え、左手は森が後退し牧草地になります。この辺りのスモワ川は細かく大きく蛇行しているので、道はその流れに完全に沿うのではなく、ショートカットして蛇行する川の頂部を繋ぐようにして延びていきます。
ドアン
牧草地の先に村が見え出すとそこはドアン(Dohan)で、この先で橋を渡り、スモワ川の左岸に出ます。
丘の上から見るスモワ川
道はスモワ川からまたスモワ川を繋ぐようにして延び、その間は上りと下りということが繰り返されるのです。
ということで、ここからもまずは上り。
森の間に開かれた牧草地
この道には、ところどころでスモワ川の眺望があります。
森の中を流れるスモワ川
スモワ川は森の中を流れ、その森の一部が開かれて牧草地になっているのがわかります。
モルトゥアン
森の中のアップダウンを繰り返し、小さな村に辿り着くと、そこはモルトゥアン(Mortehan)。
ここからさらにスモワ川に沿ってエルベモン(Herbeumont)に行けばお城が見られるのですが、ちょっと遠回りになります。今日は少々距離があるので、ここは安全に近道を。この近道はしばらくスモワ川を離れるので、ここでその流れを眺め、N865からカントリーロードに入ります。
牛さん
これまでは東に向かっていたのですが、ここから進路を南にとります。
森に囲まれた牧草地の中を穏やかに上って行くと、そこら中で牛さんが草を食んでいます。
牧草地を行くサイダー
いつの間にか牧草地はなくなり森に。その森の中で道が二手に分かれると、そこからは道幅が2mほどしかなくなり、かなり寂しげになります。こうした道を自転車で走るのは快適で、見知らぬ外国の人っ子一人通らぬ深い森の中の道ではあっても、何も恐ろしい気がしないのは、数kmごとに村が現れるからでしょう。
サント=セシル
3kmほどでこの寂しげな森の中の道が終わり、牧草地を下れば、すぐに人家が現れます。ここはサント=セシル(Sainte-Cécile)のようです。
サント=セシルからは牧草地の中の下りが続いています。
シャスピエールを流れるスモワ川
その下りが穏やかになると、シャスピエール(Chessepierre)に到着。ここで久しく離れていたスモワ川の流れに出会います。
シャスピエール
シャスピエールはちょっとした村で、カフェがありました。
ここでちょっと休憩したい誘惑に駆られますが、ぐっとがまんして、次のフロロンヴィル(Florenville)に向かいます。
シャスピエールからフロロンヴィルへ
ここまで南下を続けていた道は、シャスピエールの先で東へ向かうようになります。
牧草地の中を上って、その勾配が穏やかになると、麦畑の先に高い塔が見えてきます。
フロロンヴィル
シャスピエールから3kmほどでフロロンヴィル(Florenville)に到着。
ここまで35kmほど走ってきたのでカフェで一休みしようと思いましたが、高い塔に誘われて、まずは教会へ。
フロロンヴィルの教会の塔からの眺め
たまたま教会の扉が開いていたので中に入ろうとすると、一人の女性が現れました。この方は私たちが日本人だと知ると、それはそれはびっくりして、是非ここの塔を見学なさい、といいます。この方はこの教会を管理しているようで、こっちこっち、と先だって案内してくれました。
この塔、かなり高いので上るのに一苦労。しかし上った甲斐があり、下に流れるスモワ川とその先に広がるアルデンヌの丘が一望にできました。
ドゥシャス・デ・ブルゴーニュ
街の中心の広場に戻って一休みします。ここで飲まれていたビールは左のジュピラーと右のドゥシャス・デ・ブルゴーニュ(DUCHESSE DE BOURGOGNE)。
ドゥシャス・デ・ブルゴーニュはそのラベルに描かれている、ブルージュ生まれで、フランデレンをハプスブルグ家の領地に組み入れ、悲運の最期をとげたブルゴーニュ公国の公女マリーにちなんで命名されたビールだそうです。ここワロン地域ではなくフランデレン地域で作られており、レッド・ビールの傑作とされます。苦みはほとんど感じられず、オーク樽熟成による独特の酸味が強い。そして上品な甘さがある。これは好き嫌いがかなりはっきり分れるビールでしょう。
フロロンヴィルを出る
フロロンヴィルからはいよいよオルヴァルに向かいます。
レンゲ
フロロンヴィルはこのあたりでは比較的大きな街ですが、それでも直径1kmにも満たないので、カフェを出るとものの数分でまた牧草地になります。しかし珍しく、このあたりはアップダウンがほとんどありません。道脇の植物も珍しいことに、ここではレンゲが植えられています。
隣村のパン(Pin)から進路を南に取れば、そこは森の中の下り。ここで雨が降り出しました。
オルヴァル修道院の塀
しばらくこの森を進むと、右手に石造の塀が続くようになります。
オルヴァル修道院現わる
かなり雨足が強くなってきたところで、この塀の末端に建物が現れ、道が90°方向を変えると、そこがオルヴァルのトラピスト会のノートルダム・ド・オルヴァル修道院でした。
ノートルダム・ド・オルヴァル修道院正面
ここは12世紀の始め頃に建設されましたが、現在の修道院は1926年に再建されたものだそうです。
トラピスト会は厳律シトー会ともいい、戒律が厳しい会派で、修道院に一般人が足を踏み入れるのが困難なところも多いと聞きます。しかしここはその例外で、見学者を受け入れています。
現修道院ゾーン
もっともそれは、かつての修道院址などの一部で、現修道院部分とビール醸造所は対象外です。
土産物を売るショップを通り抜け、見学用の入口を入ると右手の生垣の向こうに、かなり大きな現修道院が見え出します。その左手は高さからして教会でしょう。何とこの教会の壁には、大仏のような像が立っています。
中庭
生垣の先はホールのようで、ビデオの上映と展示を見ることができます。この建物を回り込むと中庭に出ます。その一部には薬草などが植えられており、かつての薬局のようなものもあります。
中庭の先が、かつての修道院のメインスペースでしょう。
マチルドの泉
この修道院では、トラピストビールと呼ばれる、世界で7箇所でしか造られていないビールのうちの一つを醸造しています。そのビールの名はこの村(といっても修道院くらいしかない)の名と同じオルヴァルで、1931年から醸造されているそうです。
このビールのラベルには、魚が何かが丸いものをくわえた絵が描かれています。魚のようなものは鱒で、丸いものは指輪だそうです。
かつてこのあたりにあった泉に、マチルド・トスカニーという伯爵夫人が夫の形見の指輪を落としてしまいます。夫人はマリア様に、指輪が帰ってきたらここに修道院を建てると約束して、お祈りしました。すると、指輪をくわえた鱒が水面に現れました。夫人は驚きそして喜び、Val d'Or(黄金の谷)と叫んだそうです。こうしてここはOrvalと呼ばれるようになったそうです。もちろんこの夫人は約束の通り、ここに修道院を建てました。これがマチルドの泉の伝説です。
写真がそのマチルドの泉だそうです。修道院の生活水とオルヴァルビールにはこの泉の水が使われているとのこと。
旧修道院の中心部分
マチルドの泉の奥がかつての修道院の中心的なスペースで、ここに建っていた聖堂の柱の足下だけが残っています。
これを見るだけでも、かつての修道院も相当に大きかったことが見て取れます。
旧修道院とサリーナ
旧修道院は残っているものから想像すればゴシック様式だったようです。
聖堂への見学入口
かつての修道院址を見学したら、現修道院の一部の公開されているゾーンに入ります。
この入口は古そうな石造のトンネル状をしています。その室内側は長年かかってしみ出てきたのであろう石灰分かなにかで白く覆われています。この奥にある部屋に入ると、部屋のすべての壁と天井が真っ白。
教会内部
教会はかなり大きなもので、ロマネスクをデザイン要素としたものに見えます。
雨の中、カフェに移動するサリーナ
修道院の見学が終わっても雨は降り止みません。しかしこのすぐ近くに、修道院のカフェがあるので、そこで昼食にし、雨が止むのを待つことにします。
ランジュ・ガルディアン
『守護天使』ランジュ・ガルディアン(A l'Ange Gardien)は修道院の正面を300mほど下ったところにあります。
このカフェではもちろんオルヴァルを飲むことができます。周囲を見渡せばそこら中におるオルヴァルのグラスが置かれています。
オルヴァル
他のトラピストビールはだいたい3種類ほどのラインナップがありますが、珍しいことに、オルヴァルはたったの一種類だけしか市場に出していません。
瓶はやや細長で中央部が張った独特の形をしています。そこに貼られたラベルには、あのマチルドの泉伝説の鱒と指輪が描かれています。
アルコール度数は6.2%とトラピストビールの中では低めです。色はオレンジがかった茶色で、ホップの香りが強くフルーティーですが、強く深い味わい。酸味と甘みは低めで苦みが大変強く、一言でいえば男性的ですが上品さを失っていません。この独特の味わいは3回にわたる発酵と、ベルギービールでは稀な手法である発酵中にホップを加える、ドライホッピングによるところが大きいといわれています。
このビールは他のどんなビールとも違う。これは私のもっとも好きなビールの一つです。ちなみにここでは熟成一年以上のものと、それ未満のものとがメニューに載っていて、提供される温度も二種類から選ぶことができます。
オルヴァル・ヴェルト
オルヴァルにはビールは一種類しかない。ずっとそう思っていました。しかし、ここには二種類のオルヴァルがあります。一般に流通していない方は修道院内で飲まれているものだそうで、緑のオルヴァル(Orval Vert) と呼ばれています。
これはベルギー内でも流通していません。ここでしか飲めないそうです。修道士用なのでアルコール度数はやや低く4.5%。色はオレンジアンバーで、味は先のオルヴァルより酸味が強く苦みが少ない。極めてフレッシュな味わいがあります。原材料は前者と同じだそうですが、瓶内発酵をしないのか、ここのメニューには『生』と書かれています。
緑には若いという意味がありますが、瓶のオルヴァルに比べ、『若い』という表現がぴったりな感じです。ちなみにグラスのロゴのカラーも瓶のものは紺であるのに対し、こちらは緑のものが使われています。
オルヴァルのチーズ
さて、食事ですが、まずはチーズをやってみました。これは修道院内で作られる正真正銘のトラピスト・チーズ。 Authentic TRAPPIST Product と表記できるのは、シメイ、ウェストマール、そしてここオルヴァルの三つの修道院で作られるチーズだけだそうです。もちろん、ビールとの相性は抜群でしょう。小さなクッキーのようなパンも修道院で作られたものだそうです。
メインにオルヴァル・ビールで煮込んだ肉団子を。これは、まあまあってとこ。
フランスに入る
昼食を終えても雨は降り止む気配を見せないので、止むなく出発します。
修道院を出、N840を南下して1kmほど行くとフランス国境です。国境とはいっても今はベルギーもフランスもEUになったので、昔のようにゲートがあるわけでもなく、道端の標識にフランスと書かれているわけでもありません。国境は今はただ地図に線があるだけなのです。とにかく小さなマルシュ川(La Marrche)を渡り、ここからちょっとだけフランスを走ります。道は地方道を意味するアルファベットDを持つD17。国境を越えれば多少なりとも風景が変わるかなと思いましたが、これは期待はずれで、ベルギーのアルデンヌ地方とまったく変わりません。もっともフランスのこのあたりもアルデンヌの一部なのですが。
マルニー
フランスで通過した村はマル二ー(Margny)。かつて使っていたと思われる荷車を上手に使った花の飾りがある家がありました。
ちょっとフランスっぽい?
マルニー付近の丘を行く
アルデンヌは丘、というわけで、ここにも穏やかな上りがあります。
国境の標識
4kmほどフランスを走って、再びベルギーに入ります。
道端に大きな荷物を積んだ自転車が二台停まっています。一人がもう一人をカメラに収めています。ここはフランスとベルギーの国境で、先ほどと違い、道路標識の一方にベルギー、反対側にフランスと書かれていました。彼らはオランダからスペインのサンチャゴ・デ・コンポステーラへ巡礼に向かっているとのことで、この標識の下で記念撮影をしていたのです。ついでにと、私たちの写真も撮ってくれました。
ジェルヴィル
ベルギーに入ってからちょっとだけ幹線道を走って、ジェルヴィル(Gérouville)に到着 。この村からは国境線に沿って南下して行きます。
雨はまだ降り止まない。
ジェルヴィルのあとの上り
ジェルヴィルからは勾配は緩いとはいえ、またまた上り。アルデンヌに平地はないのだ!
ジェルヴィル付近の丘
森へ
ここでも牧草地から森、また牧草地から森へということが繰り返されます。
りんごをいただく
時は17時半。雨はかなり小降りになってきました。大分疲労感が出てきましたが、座って休むわけにはいきません。そんな時、道端にりんごの並木が現れました。木は牧草地を隔てるフェンスの外。つまり、これは公共の木ってことです。時折こうした果樹を篭を持ってきて、もいで集めている人を見かけることがあるので、これは取っても問題ないものなのでしょう。
ということで、一ついただきました。疲れてきた時、糖分の補給は元気が出ます。
まだまだ上る
このあたりには小さな村がたくさんあります。そして大抵村と村の間には上りがあるのです。
ふえ〜ぇぇ
晴れ間が見えた
本日の終着地トルニーまであと8km。空がようやく明るくなってきて、青い所も見え始めます。
ラマルトウ
ちょっときつい上りのおしまいで、下に村が見えてきました。あれがトルニーか、と期待しましたがこれはラマルトウ(Lamorteau)という別の村でした。
ここからもまた上り。。
トルニーへの下り
お日様が顔を出し、雨にぬれた牧草を照らすようになると、道は穏やかな下りとなり、やっとベルギー最南の村トルニー (Torgny) に到着します。
トルニー
今朝出発したブイヨン、途中立ち寄ったオルヴァルからこのあたりにかけてはアルデンヌの中でもゴーム地方(Gaume)と呼ばれ、ベルギーでもとりわけ温暖で緑豊かなところ。
ベルギーではまったくといっていいほどワインの生産はされていませんが、ここトルニーでは少量ながら、ワインを作っているそうです。今晩はこのワインに決定ですね。
トルニーのエルミタージュ付近
トルニーは僅かに人口200人強の小さな村で、その中心にはローマ時代の水場が残り、小高いところにエルミタージュと呼ばれる小さな庵と教会があります。ここではたった一人の修道女が自給自足で信仰生活を送っているとか。丘の上からは500mほど先のフランスとの国境を流れるシエール川(La Chieres)を望むこともできます。
この村には有名なホテル・レストラン『ラ・グラップ・ドール(La Grappe d'Or)』があります。ここは当然大変高価なので、私たちはその弟分のホテル・レストランに宿泊しました。そしてそこで夕食。
この村のワインを、とお願いすると、給仕の女性は、残念ながらこのレストランには置いていない、といいます。それは大変高価なもので、グラップ・ドールでは飲めるらしいのですが。いや〜、残念!