ムーズ川上流を見る
ベルギーに入って二週間が経ち、ナミュールから反時計廻りに廻ってきたアルデンヌの自転車旅は、ここワロン地域の中心都市、リエージュで一段落。ということで、今日は自転車休養日。
久々に大都市にやってきた私たちは、この街の大きさにちょっと戸惑うくらい、ここはこれまでの村とはなにもかもが違います。
ムーズ川左岸を見る
自転車のルートの検討に時間を費やしてしまった私たちは、この街ですることを特に決めていなかったので、気の向くまま、ぶらぶらすることにしました。
朝、少し遅めに起きて、部屋で軽い朝食をとったあと、街歩きを始めます。
リエージュの南を見る
私たちの宿はリエージュの中心である旧市街から見れば南の方、ムーズ川の対岸にあります。宿を出るとすぐにムーズ川の畔に出ます。
ムーズ川には大きな橋が何本も架かっていますが、そのうちの一本、ケネディー橋で左岸に渡り、それなりに歴史のありそうな古い教会の前を通って、とりあえず、見どころが集まっている旧市街方面に歩き出します。
商店街
すると、歩行者道が続く商店街に入りました。朝早いので、まだ人はまばらですが、ここは活気ある商店街のようで、カフェやレストランがたくさん並んでいます。
チーズ屋さん
新聞を読みながらコーヒーを飲んでいる人々を横目に進めば、チーズ屋さんが目に止まりました。
様々なチーズが並ぶ
チーズのことは詳しくないので、どんなものが置いてあるのかは良くわかりませんが、ここには様々なチーズが並んでいます。
エルヴチーズ
昨日、この近くで作られているエルヴ(Herve)チーズを買い損なったのを思い出したので、
『エルヴチーズありますか?』 と聞けば、
『もちろんあるわよ。軽いのと濃厚なのとどちらがいいかしら。』 との答え。
どちらがいいかはもちろん好み次第とのことでしたが、酒好きなら濃厚な方がおすすめだというので、濃厚な方を求めました。
エルヴチーズとオリーブのつまみ
このウォッシュタイプの牛のチーズは、ベルギーで唯一のAOCを持ち、5〜6cm角のサイコロ状をしています。
開封すると、まず強烈な匂いがします。ド〜ンとくる感じです。表面はオレンジがかった薄い茶色で、中はやや黄色がかった乳白色。かなり柔らかくクリーミーですが、塩気が強い。チーズ特有の強い匂いとこの塩気は、やはり酒飲みが好むものでしょう。
リンゴと洋梨を煮詰めたシロップ『シロ・ド・リエージュ』をかけるとおいしいのだけれど、買い忘れた〜
おしゃれなバイク・ラック
この商店街にはおしゃれなバイク・ラックがありました。
ヨーロッパの自転車にはスタンドがないものが多いことも影響していると思いますが、あちこちにこうした気の利いたラックが置かれています。
八百屋さん
こちらは八百屋さん。色とりどりのきれいな果物が並んでいます。
ヘーゼルナッツ
その中に見慣れないものがいくつか。最初に目に付いたのは『お手を触れませんように』とある、これ。
お店の方に聞いたけれど、どうやらお菓子に使うものだということしか分かりません。あとで調べてみると、なんとこれはヘーゼルナッツだって。このデリケートな葉っぱみたいなものの中にドングリが入っていて、それをさらに剥くと、良く知られているヘーゼルナッツの姿になるようです。
エルヴ
左下から反時計廻りに、赤いトマト、真っ赤で長いピーマン、緑のカボチャ、オレンジのカボチャ、ジャムやパイの具にされるルバーブ、食感はカブのような大根のような、それでいてブロッコリーのような味のコールラビ。
根セロリ
これはセロリの仲間で、日本ではセロリアックと呼ばれているものです。食べるのは茎や葉っぱではなく、根っこの部分。スープに入れられることが多いようですが、煮たり焼いたりもし、生でも食べるそうです。
日本ではあまり見かけないものもあって、結構楽しい。
カテドラル
この商店街の先は広場になっていて、その一角に大きなカテドラルが建っています。
カテドラルその2
堂々としたゴシック様式。
カテドラル内部
この都市の歴史は古く、ローマ帝国の時代にはすでに移民がいたといい、1世紀中頃にはレウディクス村として記録に現れるそうです。
その後、リエージュ司教領の首都として栄え、司教君主制となってからも支配領域を拡大していったといいます。
St Jean Baptiste
つまり、ここはかつて宗教都市であったわけです。
そんなわけで、リエージュにはあちこちに立派な教会が建ち並んでいるのです。
説教壇
この聖ポール大聖堂の元は10世紀に造られた礼拝堂で、現在の教会は13〜15世紀に建設されています。
その後、西のポータルが16世紀に、塔は19世紀になってから加えられたようです。
ステンドグラス
内部にはやや青みがかった石灰石と黄土色の石灰石が用いられており、ステンドグラスもきれいです。
ゴシックで統一された小空間
小さな空間もゴシックで統一されています。
西の回廊
回廊に出てみると、西のそれは背が高く、
南の回廊
南と東のは低い。天井の材料も違うので、これは異なる時代に造られたのでしょう。
続商店街
カテドラルからはさらに北西に進みます。
先ほどまでの商店街は、この先も続いています。
ロイヤルオペラ
歩行道が終わると、そこにはロイヤルオペラが建っています。
19世紀の始め頃建てられたこの建物の正面二階の柱は、元々はある教会のものだったそうです。
聖アンドレ教会
歴史地区の中心はマルシェ広場あたりのようなので、そちらに向かえば、正面に聖アンドレ教会(St-André)がデ〜ンと座っています。
君主司教宮殿
立派な建物の前に出ました。これは皇子司教が住んでいた君主司教宮殿で、11世紀に建てられ、その後16世紀と18世紀に改修され、現在の姿になったようです。現在は裁判所や州政府の庁舎として使われているそうです。
その前のサン・ランベール広場は、かつての聖ランベール大聖堂の跡で、PACOの文字が見える金属の柱は、かつてそこに大聖堂の柱があったことを示しているとか。
ローマ時代の遺跡
その下は、考古学的サイト、Archéoforumです。
聖ランベール大聖堂の基礎や古代ローマの遺跡、先史時代の痕跡などが発見されているとか。
ローマ時代の彫刻
ここの解説にはipadが用いられていて、結構わかりやすいです。
マルシェ広場へ
聖ランベール広場から続くのが、旧市街の中心とされるマルシェ広場。
タウンホール
この広場に面して、18世紀に再建されたタウンホールが建っています。
マルシェ広場
広場自体は、有名な割りには狭く、カフェやレストランのテラス席で埋め尽くされています。
ペロン
その中央に建つのが、17世紀の終わりに造られたペロン(perron)の噴水。
塔のてっぺんの十字架の下の松ぼっくりは、司教から市民が獲得した都市の権利を示すシンボルなのだそうです。
もう一つの噴水
ペロンの東にはもう一つ噴水があります。
リエージュのフォークロアなレリーフ
これは18世紀の始め頃再建されたもので、その基壇部には、ファークロアなダンスやマリオネットなどのレリーフが嵌め込まれています。
クルチウス
マルシェ広場ではやっぱりカフェに寄らなくちゃ。リエージュはジンの一種であるペケという酒が有名だそうですが、それにはまだ早いということで、ここは地ビールを。
クルチウス(Curtius)はここから数百mのところに醸造所があるビールで、もちろんここでも生が飲めます。
さらにもう一つ噴水
マルシェ広場で一休みしたあとは、ビューラン山(Montagne de Bueren)に登ってみることにしました。
マルシェ広場の一本北側の道を東に向かえば、そこにもう一つ噴水があります。
たぶん鱒
頂部にはバロック的な彫像が載り、基壇部には妙な生き物が彫られています。
口から水を吐き、胸ひれと尾びれがあるので魚に違いないと思いますが、なんともヌメっとしていて、ひょうきん。これ、何となくオルヴァル・ビールの瓶に描かれている鱒に似ていると思いませんか?
ビューラン山登り口
さて、ビューラン山の登り口は建物と建物の間のこんなところでした。
374段の階段
その奥に、延々と続く階段が見えます。これはシタデルから街の中心を結ぶために、19世紀の始め頃作られたアートなんだそうです。
なんでこれがアートやねん。
階段を上るサイダー
階段の段数は374あるそうです。自転車でも、ずっと先まで見えるまっすぐな上り坂は精神的にきついけれど、この階段もそれとまったく同じで、ちょっと登る気がしません。
しかし、この上からはリエージュの街が一望できるというので、気を取り直し、登ることにします。
階段中腹から下を見る
わっせ、わっせと登って、階段の中腹までやってきました。
ここで気付いたのですが、この階段に面している建物にはどうやら後ろに車などがアクセスできる道がないようなのです。いや〜、ここに住んでいる人は大変だわ。
モニュメントの塔
さて、なんとか階段を登り切ると、何のモニュメントなのかはよくわかりませんが、こんな塔の下に出ました。
塔から街を見下ろす
景色はどうかなと振り返ってみると、手前の木立がじゃまで、あまり眺望はよくありません。な〜んだ。。
リエージュを展望するサイダー
しかしその少し東に、遠くまで見渡せるポイントがありました。(TOP写真参照) ここはなかなかいい眺めで、旧市街、ムーズ川、そして対岸の街からその向こうに広がる森までが見渡せます。
この展望所の後ろにはシタデルの址があるのですが、城壁とごく一部の遺構があるだけのようなので、街に下ることにしました。
聖バルテルミー教会
聖バルテルミー教会( Église Saint-Barthélemy)は12世紀に建てられたロマネスク様式の教会で、内部は18世紀にバロック様式に変えられているそうです。
ここにはベルギーの7大秘宝の一つ『聖バルテルミーの洗礼盤』があるのですが、バロックにもお宝にもあまり食指が延びないので、ここは外をちらちら。
マルシェ広場の一本北側の道
お昼をだいぶ過ぎたので、レストランを探しつつマルシェ広場方面に向かいます。
パエリャ
これまで旅していたアルデンヌは海から遠く、街も小さいところばかりだったので、海のものはあまり食べられませんでした。ここリエージュは大都市なので、大抵のものは食べられるでしょう。一軒のレストランからいい匂いがしてきました。
なんとそこはスペイン料理屋で、パエリャがあります。お〜、パエリャ! というわけで、お昼はここに決定。パエリャもよかったけれど、アルメハス(アサリ)が最高!!
グラン・クルティウス
午後の部は、17世紀初頭にスペイン人クルティウスが建てた邸宅で、現在は博物館になっているグラン・クルティウス(Le Grand Curtius)へ。
11世紀のモザン美術の一つ
ここは考古学的な出土品や宗教関係、ムーズ川の中流域地方において中世に発展したモザン美術からアールヌーヴォーまで、幅広い展示が楽しめます。
高層ホテルと古い街並
グラン・クルティウスでかなりの時間を費やした私たちは、もう一つの見どころ、ワロン民族博物館は諦めて、宿に戻ることにしました。
端は木骨造の建物
ムーズ川の左岸を上流に向かって歩いていると、後ろに現代的な高層のホテルが建ち、その前にレンガや石造の建物が並ぶ、ちょっと面白いロケーションを見つけました。
その一番端に建っている建物は、これまでいくつか見てきたコロンバージュのようです。ちょっと変わっているのは、窓の下のゾーンに細かいXXが入っていること。
木のモニュメント?
さらにその脇はちょっとした広場になっていて、先端が斜めに切り落とされた木の丸太が二本建っています。なにかのモニュメントかと思われますが、これは一体何でしょう。
グランドポスト
ネオゴシック様式のこの旧グランドポスト(Grand Poste)は、ムーズ川を渡る歩道橋の袂の一際目立つ所に建っています。
このあたりは日曜日には有名なマーケットが開かれるところで、この建物は現在、ホテルや商業施設に生まれ変わろうとしているところだといいます。
ムーズ川の歩道橋をくぐる大型船
その歩道橋でムーズ川の右岸に渡ると、橋の下をゆっくりと大きな船がくぐりぬけて行きました。
リエージュでは見なければならないところがもう一箇所ありますが、それは明日にします。
さて、明日からは再び自転車の旅に戻ります。ここからディナンまで列車で移動し、時計廻りに廻ってシャルルロアまで行くつもりです。