成田空港を出発した飛行機が2時間ほどで降下を始めると、真っ青な空だけだった窓の外に水平線が現れ、空の青よりもっと濃い青の海が現れました。
その海に浮かぶ小島と船以外はなにも見えない。
海が近づき、ほんの一瞬陸地が見えたと思ったら、そこはもう済州国際空港でした。私たちの飛行機は予定より30分近く早い、12時ちょうどに済州島に着陸しました。
飛行機が滑走路を出てターミナルビルへと向かうと、窓の外には韓国の最高峰である漢拏山(한라산 ハルラサン 標高1,950m)が。
到着ロビーの観光案内所でオルレのガイドブックをもらい、ジャンボタクシーで旧済州(구제주 クチェジュ)のホテルに向かっていると、道端に小径車が。関西空港から一足早く到着したジークが走っていたのでした。そのジークとも無事ホテルで合流です。
今回の済州島ツアーは合計5人。左からサリーナ、キルピコンナ、クッキー、前列にジーク、そしてカメラのサイダー。
初日の今日は、旧済州を徒歩で散策します。
まずはホテルのすぐ前にある塔洞広場(탑동광장 タプドングヮンジャン)へ。海に面したこの広場は広々としていて気持ちいい。
塔洞広場の東端から先のエメラルドグリーンの海には、西埠頭防波堤が突き出しています。この海の先、90kmほどのところに韓国本土はあります。
西埠頭防波堤のすぐ先の上空には、済州国際空港に着陸する飛行機が数分おきにやってきます。
『今日は泳げそうなくらい、いいお天気ですね〜』 と、海外自転車ツーリングは初めてのクッキー。
『済州島、こりゃあ期待できそーだぜ!』 と、いつものサイダー。
西埠頭に沿っては、鮮魚店が並ぶことで有名な「西埠頭名品刺身通り」があります。
このすぐ東は済州港で、そこで水揚げされた魚介類をここで堪能できるというわけです。
店先には水槽がびっしりと並んでいて、高級魚のクエやイシダイから、タイ、ヒラメ、鮑、サザエ、なまことなんでもあります。
さて、西埠頭名品刺身通りをひやかしたら、次は済州港をかすめて山地川(산지천 サンジチョン)に向かいます。
済州港の東側は巨大な客船が入港する旅客ターミナルがあるゾーンですが、西側は漁港のようで、こんなふうに漁船がならんでいます。その周りでは済州島名物の一つであるアカアマダイの天日干しが。
そして周辺には、魚の加工工場のようなものがならんでいます。中にはブリなどの巨大魚が泳ぐ水槽があるところもあります。
ここではサバをおろしているようでした。
ぶらぶらしながら辿り着いた山地川は、漁港に流れ込んでいました。
この川はかつては生活排水やゴミで汚染され、1960年代の半ばに覆蓋されましたが、1995年から復元工事がされ、2002年に元の姿に戻ったそうです。この河口付近では河川の改修と遊歩道の整備工事が行われていました。
済州島のメジャーな観光の一つにオルレがあります。オルレとは本来「通りから民家に至る小径」の意味だそうですが、現在はそうしたイメージの道を繋げ、島を一周できるハイキングルートにしてあります。
この山地川沿いは18番のオルレになっていて、遊歩道が整備されています。ここからはこのオルレを歩きます。
遊歩道を歩いて行くと、東門路の一つ手前のクァンジェ橋から西に延びるアーケードがあります。
このアーケードが、旧済州の繁華街・塔洞の中心となる七星路(칠성로 チルソンロ)です。
ここでオルレを離れ、ちょっとだけ七星路に入ってみることにします。この入口のあたりは商店街の外れになるためか、店は古めかしく、ちょっと寂れた感じです。
しかし中心に近づくにつれ、モダンな店が増え、活気が出てきました。200mほど進んだところで道が工事中だったため、中心までは行けずに引き返してしまったのがちょっと残念。
山地川に引き返し、川沿いを南下するとすぐに東門路の東門ロータリーに辿り着きます。ここはオルレ17番のゴールであり18番のスタート地点です。
キルピコンナはここにあるCUというコンビニで、オルレパスポートを購入しました。このパスポートにはスタンプラリーのようにして、各オルレの始点と終点、それから中間点に置いてあるスタンプを押せるようになっています。
早々に17番と18番のスタンプのありかを探しに行きますが、これが見つかりません。道行く人々に聞いても知っている人はおらず、CUに戻って聞いてみるも、この店員さえ知らないといいます。オルレは観光客だけのもので、現地の人々は興味がないのかもしれません。
東門ロータリーには、済州島最大の市場である東門在来市場(동문재래시장 トンムン・ジェレ・シジャン)の入口が面しています。
17番のオルレはこの市場を通り抜けて進みます。
この市場の入口付近には果物屋がずらりと並んでいます。
様々な果物が売られていますが、ちょっと変わったものとしては、赤いサボテンの実があります。しかし圧倒的に多いのが柑橘類です。済州島はみかん類の産地としても有名なのです。
ここでは日本でも人気のデコポンをハルラボンと呼び、これが大変な高級品。10個程度入りの箱が30,000₩ほどするのです。これはちょうど今が旬ですね。
そして甘夏みかんもそろそろいい頃のようです。
果物屋のゾーンからさらに奥へ入って行くと、今度は魚屋のゾーンです。
魚屋は種類ごとに専門の店があるようで、ここは港で見たアカアマダイを扱う店。
アカアマダイと同じくらい済州島に来たら食さなければならないといわれるのが、この太刀魚です。これはポピュラーですがちょっとした高級魚で、大きいものだと市場でも50,000₩ほどします。
この前「ダーウィンが来た」でやっていたのですが、この魚は休む時は頭を上にして立ったようにして泳ぐそうです。しかも相当の集団で。でダーウィンではその状態を「太刀魚千本刀」と表現していました。実際に見てみたいですね。
この市場はメインストリートから枝分かれした道もあり、それぞれに特徴があって面白い。
一般的には食されない魚ですが、済州島ではポピュラーなのがこのスズメダイ(자리 チャリ)。
海の中ではキラキラ光っていますが、陸揚げされるとこのように黒っぽくなるようです。この魚は主に水刺身(물회 ムルフェ)に使われます。ちょっと骨っぽくてチリチリします。
韓国といえば焼肉を思い出す方も多いでしょう。しかしここ済州島では牛はあまり食べないようです。その代わりに豚が有名で、特に黒豚がとてもおいしいといいます。
この豚さんが黒なのか白なのかは分かりませんが、とにかくどこかで一度、試してみましょう。
アーケードの市場を出ると、今度は八百屋と白菜やそれを漬けたものなどのキムチ関係の食材を扱うゾーンです。ここには大きな漬け物用の桶なども。
このゾーンは西へと延びて行きますが、オルレは途中で南に向かいます。
オルレに従って進むとまもなく、済州郷老堂(제주향노당 チェジュ・ヒャンノダン)が現れます。
済州島はかつては罪人の流刑の地でした。ここは朝鮮時代に流されたり官吏としてやってきてこの地に貢献した五人を讃えるための祭壇です。
上の写真は現代のものですが、この奥に伝統的な建築様式の祠があります。その奥の道端には、切り干し大根だかなんだかが干されています。
地図にはここに「済州城址」とあるので、かつてはお城が建っていたところでもあるようです。
済州郷老堂を過ぎると南門交差点に出ます。
済州は新しく開発された新済州と古くからの市街地の旧済州に分れます。
ここは旧済州ですが、建物はすっかり現代的なものに置き換わっています。しかし新済州ほどは新しくないので、高層ビルはあまりありません。
17番のオルレはこの交差点から北に向かって行きます。大通りから小径に入って進めば、現代的な建物の中に、こんな伝統的な民家が現れました。
敷地は黒い石垣で囲まれ、藁葺きの門の中に、やはり藁葺きの背の低い家屋が建っています。
この藁葺きの家の向かいは、瓦葺きの門の家で、門の木の扉には細かい彫り物が施されています。
こうした民家の先で少し広い道に出ると、そこにはオルレを示す水色とオレンジ色の標識がありました。この標識、済州馬をイメージしたものだといいますが、どう見ても馬には見えないな〜
まあそれはともかく、オルレの主要なところにはこの標識があり、標識が設置できないところには水色とオレンジ色のリボンが結ばれています。
オルレの標識のある道から再び細道に入って行くと、今度は伝統的な建築ではあるけれど、瓦葺きの立派な建物が現れます。この建物はなんなのか良く分かりませんでしたが、ただの民家ではなさそうです。
こうした建物を眺めながら進んで行くと、観徳亭(관덕정 クァンドクチョン)がある観徳路に出ます。
この観徳路の下には、東門在来市場の入口からここまでの400mに渡り、中央地下商店街(중앙지하상가 チュンアン・チハ・サンガ)があるので覗いて見ることにしました。
地下商店街は日本の都市部では良く見かけますが、これは世界的に見るとあまり多くありません。この済州島にそれがあるのにちょっと驚きつつ潜ってみると、これが意外と賑わっているのに再度驚きます。旧済州の一番の繁華街だと聞いていた先ほど通った七星路より、ずっと人が多い。
『おなかすいた〜』 と誰となく言い出したので、この地下商店街で軽食屋さんを探します。日本から済州島までの飛行機では一応昼食が出るのですが、これはとても簡単なものなので、実は少し前からみんなのお腹がググーいっていたのです。
『食べるんならやっぱり韓国のり巻きだよね〜』 ということで、ここはそれを。ちょっとうろうろしましたが、なんとかそののり巻きがある食堂が見つかりました。一皿2,000₩也。
韓国のり巻きは日本でいう太巻きで、一般的には具は野菜などで魚介類は入っていません。そしてのりにはごま油が付いています。韓国はおかず(반찬 パンチャン)文化が発達していますが、なんとこののり巻きにもそれは付いていました。そしてみそ汁も。
中央地下商店街ののり巻きで少し落ち着いたら、観徳亭(관덕정 クァンドクチョン)の見学を。
この建物は済州島最古の建築物の一つで、最古の木造建築だとか。李氏朝鮮の第四代王・世宗時代の1448年に兵士の練武場として建てられたものだそうです。
かつてはこの前で、立春には民俗行事が行なわれ、官吏登用試験の科挙(カキョ)が実施されたりしたそうです。
その前に立つトルハルバン(石じいさん像)は、先ほど通ってきた、かつての済州城の門前に立っていたものだとのこと。(TOP写真)
建物の軒先や柱に施されているのは丹青(タンチョン)と呼ばれる赤、青、緑の色鮮やかな装飾です。
観徳亭は済州牧官衙(제주목관아 チェジュ・モックァナ)という施設の一部だったようです。牧は村や町などの行政区を表すものだったと思います。当時の済州島には三つの行政区があったようです。そして官衙とは役所のことなので、ここが、朝鮮時代の済州村の政治・行政の中心だったことになります。
写真は済州牧官衙の外大門で、鐘楼でもあった鎮海楼。
チケット売り場の窓口に行くと、なんと今日はもう閉館といいます。うっ、のり巻きを食べていて、すっかり時間のことを失念していました。仕方なく帰ろうとすると、10分なら見てもいいといいます。それで大急ぎで入場料を払おうとすると、ちょっとの間だからお金はいらないとのこと。
係の方にお礼を言って早々に外大門をくぐり、蓮池を横目に進めば、二番目の門である中大門が現れます。
そしてその奥の左右に、実務を行っただろう建物が見えています。
その建物の一つに牧使の休憩所だった橘林堂があります。「橘」はみかんのことで、この庭園にはみかんの木が植えられているのですが、ある韓国人と思われる見学者はそこになっていたみかんをプチッともぎ取り、ポケットに放り込んでいました。これが当然という感じだったのに驚き、ちょっと日本と文化の違いを感じました。
済州牧官衙のもっとも奥にあるのが一番大きな建物の望京楼で、この2階に上れば、官衙の全景を一望にできます。
済州牧官衙からオルレは北へ向かいますが、私たちはここはちょっとショートカットし、西門交差点からさらに西へ向かいます。
済州牧官衙から800mほど西にある済州郷校(제주향교 チェジュヒャンギョ)は李氏朝鮮王朝太祖元年(1392年)に創建された済州儒学の本家で、先聖・先賢の位牌を奉安し、この地域の人材を育成する教育機関、済州島で最初の学校だそうです。なんとここは現在でも子どもたちに漢詩や道徳教育を行っているそうです。
ここは残念ながら開館時間を過ぎていて、内部の見学はできませんでした。
済州郷校の横の路地に入ってみると、そこにはトタン葺きの民家が残っています。
交通量の多い大きな道を渡ると、そこから龍淵(용연 ヨンイェォン)が始まります。ここは17番オルレの枝部分になっています。
この上流部はごつごつとした岩場でほとんど川の流れが見えないほどですが、
右岸に整備された遊歩道を進んで行くと間もなく、その岩場が開き、中に美しい流れが現れます。
『まちの真ん中にこんな静かなところがあるなんて、、、』 と、ここは全員ため息です。
さらに下って海の近くにやってくると、赤い展望東屋があり、その先に吊り橋が見えています。
龍淵はあの吊り橋のすぐ先で海に流れ込んでいます。
吊り橋から龍淵を振り返ってみるとこんなふうで、
その吊り橋に乗ってみるとこれはかなり揺れて、ちょっと怖い。
私たちのうしろからやってきた若い女性は、数歩進んでから、本当に動けなくなっていました。
この吊り橋を渡ってさらに西へ行くと、海岸に有名な龍頭岩があるのですが、それは明日に。
日が大分傾いてきました。今日の散策はここまでにし、夕食に向かいます。
龍淵の出口から東へ向かうと、赤、青、緑のトタン屋根の民家が残るブロックが見えます。
周囲には大型ホテルや高層のビルも建ってきていますが、旧済州の中にはまだこんなところも残っているのです。
これは明日向かう西の海岸線。
美しい夕日が明日のお天気も約束してくれているようで、否応なく明日からの旅に期待を持たせてくれます。
今宵の食事はホテルに戻る途中にあった鮑料理店で。日本以外で鮑を食することは中国くらいしかないなと思っていましたが、ここ済州島は鮑でも有名なのだそうです。
この鮑の刺身は天然ものとのことで、かなり身が締まっており、コリコリシコ。このほか、焼いたものとお粥、それに済州島のスープの定番であるウニわかめスープ、なまこの刺身、さざえのつぼ焼きなどをいただきました。
済州島の良さは美しい風景に加え、こうしたおいしい食べ物にあると言えそうです。
さて、明日はここから半時計廻りに海岸線を進み、西海岸の翰林(한림 ハンリン)まで行きます。翰林には済州島のすべてがあるという翰林公園があります。今からとても楽しみです。
◆ひとこと by キルピコンナ
初日と5日目の感想を…と言われたものの、既に8日間が脳内でグチャグチャ。まさに混ぜて混ぜて終いには何もかもが混然一体、えもいわれぬ素晴らしい味を引き出す韓国料理みたいな状態です。楽しかったなぁ~オルレ。美味しかったなぁ〜、ヘムルタン。etc、etc。
とはいえ、料理の味から素材の味を探り出すように…。
初日は旧済州の徒歩観光でした。済州は再開発の只中にあるようで、あちこちで工事中。大型公共工事もあるようです。市内を流れる川もソウルのチョンゲチョンみたいにライトアップされてしまうのでしょうか。ちょっと残念な気もします。
小腹が減ったところで東門市場に突入。きっといろいろ買い食いができるに違いないと期待していたのですが、あにはからんやフェ(刺身)の屋台はあれどもキンパプやホットクが見当たりません。中央地下商店街でようやくキンパプにありつきました。おやつについてはミョンドン(ソウル)のようであってほしかったなぁ。
そんなこんなで観徳亭についたときにはなんと拝観受付時間オーバー。あわや…というところでしたが、そこは大らかな島民性? あわあわと騒ぐ日本人観光客に「10分で見てこい」と無料で入れてくれました。カムサハムニダ〜。
観光地なので当り前と言えばそうなのかもしれませんが、皆さんとても親切でフレンドリー。助けていただくことが多かったですね。(特に私はオルレスタンプ収集で。でもその話はまた今度)
夜はアワビ三昧だったのですが、これは感想を述べるまでもなく… 写真が雄弁に語ってくれますね。チョンマルマシッソヨ! 2日目からのオルレが楽しみで楽しみで、うきうきとした夜でした。