今日はピコス・デ・エウロパ(Picos de Europa)のハイキング。朝8時、バスターミナルのあるポテスからは、うっすらと雲のかかる空の下にピコス・デ・エウロパの山々が望めます。おお、今日はハイキング日和かな?
ポテスからフエンテ・デまでのバスは、行きがポテス発8:30、帰りがフエンテ・デ発17:00、その一往復のみです。バスターミナルには、バス乗り場などの表示は特にありません。ターミナルのレストラン・バルでカフェ・コン・レチェ(カフェオレ)を飲んで待っていると、小さな乗合バスがやってきました。運賃は乗るときに運転手に払う仕組みで、8時半にいざ出発。
ロープウェイのあるフエンテ・デまでは24km、バスで約30分です。谷間の小さな村をいくつか通り過ぎると、その向こうに白い岩山がどんどん近づいてきました。
ちょうど9時にフエンテ・デに到着。ここは町というよりロープウェイの発着地そのもので、大きな駐車場のほかは国営ホテルのパラドールがあるくらい。チケット売り場にはチケットを買う人たちの列ができていますが、9時から運行開始の朝一番ということもあって、それほど長い行列ではありませんでした。
北側をみると屏風のような白い岩山がそびえています。よく見ると、そこをめがけてちっちゃなハコが空中に浮かんでいます。
これがテレフェリコ(ロープウェイ)。20人乗りで、距離1,450m、標高差753mを3分40秒で運行しています。
9時半に乗り込むと、ぐんぐんと高度が上がっていきます。フエンテ・デの乗り場があっという間に小さくなっていきました。
窓の外にはごつごつした断崖の岩山が迫っています。
3分40秒の空の旅は迫力満点。上の駅エル・カブレからフエンテ・デを眺めると、すごい高度を上ってきたことが改めて実感できます。
とりあえず展望台にへ向かいましたが、見事なカンチレバーで岩の縁から突き出しています。しかも床はメッシュで下が垣間見え、『こ、こえ〜。。』と踏み出せないサイダー。サリーナはというと、近づくこともできないので写真係に徹します。
南を見渡すと、フエンテ・デの向こうにリエバナ地方の山々が連なっています。
早速ハイキングに出発。私たちがたどるのは『アリバの峠』というルートで、最初に少し上りがありますが、基本的には下りの10.8km。難易度は初級。
スタート地点のエル・カブレ周辺は荒涼とした白い岩山に囲まれ、どこか別の惑星に迷い込んだようです。
空は薄曇り。それほど寒くはなく、ロープウェイから降り立った人々が次々とハイキングを開始しています。
荒れ果てて何もないように見えた岩陰にも、高山植物が花を咲かせていました。全体に青くきれいですが、葉っぱがツンツンしていて乾燥に強そうに見えますね。
エル・カブレから15分ほど歩いたところに分岐点があります。北西に進むとピコス・デ・エウロパのバルコニーと呼ばれるHorcados Rojosに至るコースですが、上りが続き難易度が高い。連なる山々の標高は2,500m前後です。
私たちは北東方面の初級コース。分岐点には大きな岩のテーブルがあり、コースの目印がつけられています。後ろのとんがった岩はAguja de Tajahierro、『鉄の断崖の針』というような意味ですね。
下り基調の北東コースは、荒々しい岩山が連なっているものの、その麓には薄緑の絨毯のような草原が広がっています。
とはいえ、荒涼とした風景の中に削られたような一本の道を行きます。
前方にぽつんと赤い屋根の建物が見えました。エル・カブレを出て初めて現れた建物で、地図にはChale Realと書いてあります。周囲は草原になり、ところどころに羊や牛の姿が見られるようになりました。
金属のような白銀の花びらの高山植物。あとで調べてみると、カルリナ・アカウリス(キク科)というようです。
穏やかなアップダウンを繰り返しつつ進めば、岩山&ビロードのような草原の景色が続き、
足下にはところどころに小さな花が。ルリタマアザミというようです。
赤い屋根の建物の回りでは牛や馬が草を食んでいます。
黒い体に立派な角の牛さんたち。水牛のような外見ですが、水辺じゃないから違うかしら?
あとで調べてみたら、カンタブリア地方原産のTudancaという種類の牛だそうです。山の気候に適応し半自由に放牧されて、あまり手間がかからないのが特徴だとか。
ここでルートは右に折れ、ほぼ東に向かって進むことになります。
今度は白、黒、茶色といろいろな色のお馬さんたちが現れました。
草原の先に、今度は薄緑色の屋根の建物が見えてきました。Refugio de Alivaです。
ここは、このコースの中で唯一のカフェ・ホテル。まだお昼には早いので、ちょっとだけ飲み物休憩です。
カニャ(生ビール)で一服したあとは、再び東へ向かってどんどん下ります。
足下には、今度はピンクのちっちゃい花が。いかにも高山植物っていう感じですね。名前はわかりません。
曇りがちの天気でしたがちょっと薄日がさしてきて、谷の間に雲海が見えました。写真ではちょっとわかりにくいですね。
南側は草原の先に山並みが連なっています。こんな景色の中をどんどんと下っていきます。
そこへ、私たちと反対方向からやってきたサイクリスト3人。砂利道ダートの上に、かなりの勾配の上りです。『どうぞ、行って行って』と声をかけますが、『ちょ、ちょっと待ってくれ。キツいんだよ〜』。
こんなコースをつくったら、ジオポタでは大ブーイングですね(というか、参加者はいないでしょう)。
ハイキングコースはさらに右に曲線を描き、分岐点に出ました。私たちは南に向かいます。
見渡すと、草原の絨毯がピンク色がかっています。草に混じってピンクの花が咲き乱れていました。あとで調べたらメレンデラ・ピレナイカ(ユリ科)のようですが、ピレネーの固有種と書いてあったのでその仲間かしら?
さらに進むと、牧畜用の水場がありました。冷たくていい気持ち。
そして谷間の切り通しにさしかかると、その先に門が見えました。ハイキング専用ルートはここで終わり、ここからは一般道です。
門を抜けると緑の山並みの景色が目の前に広がりました。エル・カブレからは高度600mほど下ったここは標高1,250mで、木々の深い緑が目にやさしい。ここでちょっと休憩をとり、持ってきたリンゴをかじります。
先ほどの門から南西の道をたどれば6kmほどでロープウェイの下の乗り場フエンテ・デまで到達しますが、私たちはそのまま南へ下り、約2.5km先のエスピナマを目指します。
少し下ると、赤い瓦の家が集まっているところに出ました。
実はこれらの小屋は、牛用の冬の家畜小屋です。ここは、牛が自由に草原に出て草を食むにも、牧畜を営む人々が冬の間餌を与えに来るにも、ちょうど便利なところなのです。
小屋には牛用の入口があり、また上部にわらを貯蔵するスペースがあって、窓からわらを入れられるようになっています。
牛さんたちの集落を過ぎると、森の中に入りくねくねとした急な下りが続きます。
ずいぶん高度が下がり、日差しも出てきて暑くなってきました。木陰を伝いながらずんずんと下りていきます。
西を見れば、森の木々の上に赤い岩山がそそり立っています。
下りていく方向には、森の間に牧草地がつくられています。終点のエスピナマはもうすぐです。
そしてついに、人の集落が見えてきました。エスピナマに到着したようです。
エスピナマは40戸ほどの小さな村ですが、ピコス・デ・エウロパのハイキング拠点の一つでもあり、民宿やレストランなどがいくつかあります。
時刻は14時近くのほぼお昼どき、グッドタイミングです。村の真ん中にあるホテル・レストランで昼食にしました。日替わり定食メヌー・デル・ディアを頼んだら、ポテトサラダはバケツのような大盛り。メインは牛肉のステーキ、豚ほほ肉の赤ワイン煮込みで今日も満腹です。
村の歴史は古く、10世紀にまで遡るそうです。村の中央を流れるせせらぎは、私たちの通ったルートをピコス・デ・エウロパから流れてきたネバンディ川。古い石造りの橋がかかっていますが、車は橋を通れないので、そのまま川を横切るようになっているのが面白い。
こちらは17世紀に建てられた古い教会ですが、現在は使われていません。
昼寝の場所を探していた私たちは、村の奥の方に木陰を見つけてごろり。そこの向かいの小屋の中庭では、羊たちが一心不乱に草を食んでいました。
ようやく17時になり、帰りのバスがやってきました。無事乗り込んだと思ったとたん、『やばい!リュックをベンチに置いてきちゃった!』とサイダー。戻るしかないので、次の停留所で下りることに。
次の停留所は5kmほど進んだところで、周辺には何もない単なる十字路でした。運転手さんも事情を聞いて心配してくれましたが、バスは発車しなければなりません。ポツン、と取り残された私たちの残る手段はヒッチハイクのみ。。
10台ほど通り過ぎたところで、赤い小さな車が停まってくれました。乗せてくれた若いカップルはイタリアのボローニャから休暇で来たとのことで、英語、スペイン語、イタリア語でおしゃべりしているうちにエスピナマに到着。本当に親切にありがとう! リュックは置いたベンチにそのまま鎮座していました。よかった〜
エスピナマは小さな村ですが、尋ねてみたらタクシーがあり(バルをやっているおじさんが運転手)、何とか無事にオヘドまで戻ることができました。ハプニングはあったけど楽しいハイキングを終えて、今宵はホテルのバルでゆっくり過ごすことにしました。明日もこの周辺をのんびり散策です。