プエンテナンサの朝。ちょっと肌寒いくらいの気温ですが、雲の合間から青空が顔をのぞかせています。
今日は途中から電車に乗ってラクチンコースか、はたまた峠を越える厳しいコースか、決め切れずそのまま出発。
まずは東に向かって走ります。朝日がまぶしい!
緑の絨毯を敷いたような丘の間を抜ける道です。プエンテナンサの近くは片側に歩行者・自転車帯がきちんととられていました。
4kmほど走って立ち寄ったカルモナは、16〜18世紀の伝統的な家並みが美しい村です。歴史のある家がホテルになっているところもあります。
ところで、カンタブリア地方には伝統的な木靴「アルバルカ」があり、カルモナには今では数少ないその職人さんたちがいるそうです。
アルバルカの特徴は下駄でいう「歯」のところで、前に2本、後ろに1本の丸い角を切ったような歯があります。歩きにくそうに見えるけど、おじいさんはシャキシャキと歩いていました。
自転車で走っていると、散歩していたおじさんから「この先はきついぞ〜」と声がかかりました。カルモナを過ぎると6kmほど続く上りが始まります。
わっせわっせと上っていくと、道はヘアピンカーブとなり、しばらく上った先の右手側にすばらしい眺望が開けていました。
緑の丘と谷が広がり、ちょうど正面下には先ほど通ったカルモナと、その隣の村サン・ペドロがよく見えます。峠のパノラマを眺めつつ走るのは最高の気分!(TOP写真)
右手側、すなわち西にすばらしい景観がずっと続いていますが、上りが終わったわけではありません。雄大な景色を眺めつつ、まだまだ上ります。
うねうねと蛇行する道路のまわりにはときどき木立もあり、変化する景観を楽しみながらゆっくりと上っていきます。
峠の頂上が近くなると、西側になだらかな牧草地が広がってきました。
そこには、グレーがかった角の立派な牛さんたちがいました。これはTudancaという種類のカンタブリア地方原産の牛だそうで、このあたりの山一帯で飼われています。
もうすぐ峠の頂上。森や牧草地のパッチワークの丘が幾重にも連なる美しい景色に満足げなサイダーです。
ようやく標高580mの頂上に到着です。周辺には同じくらいの標高の丘が連なり、かなり遠くまで見渡すことができます。
頂上からは、南側にもパノラマが広がっています。遠くの美しい山並みは、このあと上ることになるサハ・ベサヤ自然公園の山でしょうか。
4kmほど一気に下ったところで三叉路にぶつかりました。バジェの町に到着です。三叉路のすぐ近くにあったバルで小休止。
ここで選択するのは、ラクチンコースの北上か、峠越えコースの南下か、運命の分かれ道です。「どっちでもいいよ〜」と言いながら、サイダーの自転車はすでに南に向いている。「やっぱりこうなるよな」とつぶやくサリーナ、やっぱり峠を目指すことになるのでした。
ここからはしばらく平坦で、いくつかの村を通りながらサハ川に沿った道路CA-280を南下します。
サハ川はこれから上る峠あたりの山に源を発し、自転車初日に通ったサンティジャーナ・デル・マール手前で大西洋に流れ込んでいます。
このルートでは、サイクリストたちも結構走っています。みんな峠を目指しているんでしょう。
ところで、60という数字の下に自転車マークのある看板があったのですが、自転車は時速60kmまでっていうことですか? それって平地なら世界記録に近いのでは…?
バジェを5kmほど過ぎたあたりから少し上り坂になってきました。そのうち道は細い山道となり、木立の中を走っていきます。
青空に木陰、そしてときどき周辺の牧草地が広がる静かな道をもくもくと上っていきます。
そんな山登りが続く道の脇に突然現れたのは、感じのよさそうなバル・レストラン、El Mirador Pena Colsa Restauranteです。ここはエル・トホという集落を下りた幹線沿いにあるようで、ミラドール(展望台)というほどの眺望はありませんが、道路沿いの上りの小休止として貴重なところですね。
食事の時間にはまだ早い11時なので、私たちはバルには入らず、道ばたで一息入れて先へ進みます。
そのすぐあとに到着した集落はサハ。ずっと道沿いに同行しているサハ川の名前ですね。道沿いに10戸ほど、そしてその下の川沿いに10戸ほどの集落があります。
サハの標高は470mほど。ここから先の道は、サハ川に沿って標高1,250mの頂上まで約800mをひたすら上っていきます。
サハから4kmでサハ・ベサヤ自然公園センターがあり、ここが自然公園の入口です。回りにはもう集落もなく、ここからは右へ左へと方向を変えながら緑の中を上り続けます。
自然公園入口から2.5kmほどのところでサハ川を渡りました。ここでサハ川とはお別れです。
その後もいくつかのせせらぎを渡り、ここにはカーブのところにCanal de Ocejoという標識がありました。Canalって、これは運河なのでしょうか? 標高はまだ600mくらい。
数段の小さな滝があるこのせせらぎはArroyo de Ocejoという名前のようです。
山道は静かな森の中を進んでいきます。こんな森の中でも、どこからかカウベルの音だけが聞こえてきます。
いくつものせせらぎを越え、額に汗しながら曲がりくねった道をゆっくりゆっくりと高度を上げていきます。
標高960mのせせらぎを越えたあたりで、森が開け、左手に眺望が広がってきました。いよいよ頂上は近いのか? いや、峠の標高は1,250mでしたね…
しかし、景色がよければ気分も変わるもの。サハ・ベサヤ自然公園の山並みに歓声を上げながら、少し足取りも軽くなったように思えます。
後ろには、通ってきた中腹の山道と、その向こうに遠くまで連なる東カンタブアリア山脈の山々が望めます。西のピコス・デ・エウロパに比べると、ずいぶん穏やかな雰囲気の山並みが続いています。
森がなくなってきたところには牧草地が広がり、お馬さんたちが草を食んでいます。
その先、ちょうど北側にサハ・ベサヤ自然公園の山と森の眺望の広がるところにバルコニーが設けられていました。その名もバルコン・デ・ラ・カルドサ。
このバルコニーには、こんなお方が。Monumento Al Corzoとは、ノロジカの像だそうです。
しばらく眺望を楽しんだあとは、再び上りです。回りには牧草地が広がり、牛たちがのんびり休んでいます。
周辺は木立がなくなり、日差しをいっぱいに受けながら牧草地の中を上っていきます。
背後は1,200m前後の山並みが連なり、広々とした景色も爽快な道のりです。車はほとんど通らず、サイクリストもあまりいません。途中で10人以上は追い抜かれたはずですが、みんな峠を越えて先まで走っているのかしら?
いるのは黒牛さんばかり。じっと物思いにふけっています。
ゆったりとしたカーブを曲がると、左手下に牧草地が広がりました。下に黒牛軍団。
道の上の黒牛さんに見つめられながら走るサイダー。
このあたりの牧草地には柵がなく、自由な放牧状態です。牛さんたちは、夜はどうしているのかなあ。
景色が開けてから意外に長かった上りも、ようやく終わりが見えてきました。
ついに峠の頂上に到着! パロンベラ峠、1,260mという看板がありました。すでに14時を回っており、バジェから4時間も上り続けてきたんですね。疲れた〜
峠の頂上には広々とした牧草地があり、お馬さんたちもいました。人は少ないものの反対側から一人のサイクリストが上ってきたので、峠到着の写真を撮り合いました。
この方、家族で海辺のサンビセンテ・デ・ラ・バルケーラへバカンスに行く途中だそうですが、自転車で行こうと誘っても誰も同行してくれず、「ぼくだけ自転車。あとの家族は車で先に行っちゃったよ!」だって。
サハ・ベサヨ自然公園のエリアとはここでお別れ。一服したら、さあ下りです。
南の山並みの手前に村が見えます。14時半を過ぎ、おなかも相当すいてきた。あの辺りにレストランはあるでしょうか。
峠から6kmほど南に下ったソトという村にたどり着くと、道路沿いに白い大きな建物があり、パラソルが並んでいます。よかった〜 レストランがありました。
峠道ではほとんど人に出会わなかったのに、ここには大勢の人たちが車でやってきています。時刻は15時前、スペイン人のお昼どきピークで、しばらくテラス席で待たなければならないほどの大賑わい。
ようやく席につき、本日の定食メヌー・デル・ディアは、まず冷たいスープのガスパチョとパエリャ。ガスパチョが爽やかでおいしい! そしてメインはパプリカの肉詰めです。
ゆっくり昼食を楽しんで、時刻は16時半。ソトを出発して2kmほどのエスピニージャで左に折れ、CA-183を東に向かいます。
CA-183の途中にあるフォンティブレは、スペインで2番目に長い川「エブロ川」の水源にあたります。
今日の宿泊地レイノサは、この地域の中核都市です。町の中心まで1.5kmくらいのところで幹線を離れて街区の中に入ってみると、教会前の広場では何かイベントでしょうか、子どもたちが歓声をあげて走り回っていました。
しばらく進むと、レイノサの中心部に出てきました。3〜4階建ての建物が並ぶ通りを走っていくと、
路地を曲がったところ今日のホテル、アブレゴ・レイノサがありました。青い看板のところが入口です。
ところが入口には鍵がかかっていて、「御用の方はこちらに電話を」と貼り紙。携帯電話は持ってない、どうしよう、と貼り紙を見つめていると、若い男性がやってきて携帯で電話してくれました。どうやらここのお客さんのようです。助かりました。
スタッフはすぐにやってきて、無事チェックイン。上りが続くきついコースを終え、しばらく動けず部屋で休み、21時頃からようやく街の散策に出発です。
現代のレイノサは製鉄業や食品関係の工業都市ですが、中世からの歴史があり、エブロ川を渡った旧市街には16世紀に建てられたサン・セバスチャン教会の塔が見えます。
教会の前を東へ進むと、プラサ・エスパーニャという広場に出ます。広場に面した石造りの立派な建物は市役所です。
エブロ川にかかる橋を再び渡って南に戻る「カルロス3世橋通り」沿いには商店が並び、バルが賑わいを見せています。建物の上階はガラスのサンルームが設けられ、ちょっとオシャレな雰囲気。
夕食はホテルの近所にあった食堂で、タコのガリシア風をいただきま〜す。カンタブリアでは、どこに行ってもおいしい海の幸が楽しめるのでいいですね。
さて、レイノサを流れるエブロ川は、ワインで有名なリオハ地方を経由して地中海に流れ込んでいます。私たちは明日から、このエブロ川に沿って形成された渓谷を走ります。どんな景色が待っているのか楽しみです。