今日はフォート・ウイリアム(Fort William)から列車でハイランド中央部へ移動する。11:40発なのでまだ時間に余裕がある。町の中心部を散策することにした。
駅のすぐ近くにあるセント・アンドリューズ教会は1817年に創建され、その後荒廃したが1880年に再建されたという。
静かな教会の内部は石積みのアーチ、そして奥の祭壇はコネマラの大理石で白く輝いている。
次に、中心街を少し戻ってウエスト・ハイランド・ミュージアムに行ってみた。10時オープンなので、前の広場で少々待つ。
1920年代に創設されたこのミュージアムには、ウエスト・ハイランド地域の歴史や民俗文化、そしてジャコバイトとボニー・プリンス・チャーリーにちなんだ様々なコレクションが展示されている。
ここはハイランドの伝統的な生活を展示したエリアだ。
そして、こちらはキルトの絵。
キルトはもともと1枚の大きな布で、寒いときには頭からかぶったり、寝る時に毛布のようにくるまったりと使っていたそうだ。
そして、その布を折り畳んでプリーツにしてウエストをベルトで縛る。ポシェットのようなものはスポーランといって、貴重品を入れるお財布のようなものだ。
私たちの乗る列車は11:40発なので、あまり時間がない。スタッフのおじさんにお勧めの展示を尋ねると、「これだけはぜひ見て」というのがこちら。ボニー・プリンス・チャーリーの肖像画だ。
ボニー・プリンス・チャーリーがジャコバイトの反乱に敗れた後、その肖像を持つことは危険を伴った。そこで、お盆に描かれた一見何だかわからない絵がガラスの筒に反射すると、ボニー・プリンス・チャーリーの肖像画になるというわけだ。
このミュージアムの創設者が偶然ロンドンで発見し、ミュージアム一番の目玉展示となっている。
さて、そろそろ列車の出発時刻が近い。駅のホームには自転車の人も数人いた。
自転車を押してホームに入ると、係の人が「こっちこっち」と呼んでくれた。自転車を置くスペースのある車両だ。
自転車を置こうとしたら、「後輪を上のフックに引っ掛けて」と指示された。なるべく自転車を多く積むための仕組みらしい。
列車は静かにフォートウイリアムを出発。ここからは、スコットランドで最も広いといわれるランノホ・ムーアを横切る。車内は2座席ずつが向かい合い、その間にテーブルもある。
「ムーア」とは、日本語訳では「不毛の地」「荒涼とした地」などとあるが、そこには豊かな生態系があるという。荒野と湖の台地には、赤鹿、ゴールデン・イーグルなどの野生動物も多いそうだ。
列車は1時間ほどでランノホ(Rannoch)駅の到着。周囲には町などは見当たらず、下りる人も少ない。
しかし、ここはランノホ・ムーアへのハイキング拠点になっており、駅のホームにはカフェもある。
駅のホームから出口には珍しく歩道橋があり、自転車を担いで上ると、駅周辺に広がる丘陵地が見渡せた。
さて、ここからが今日の自転車の始まりだ。駅前からの道路B846にはほとんど車も自転車も見られない。
B846を行くとほどなくエイイーチ・ゴー・レザボアー湖(Loch Eigheach Gaur Reservoir)に出る。少しずつ雲の晴れ間が見えてきた。
雲がずいぶん切れ切れになってきて、青空が広がってきた。丘陵地と湖を眺めながら車交通のほとんどない道路を独占して走るのは楽しい。
いい気分だね〜 とサイダーが行く。
空がほんとに広い。うん、楽しいね〜 とサリーナ。
ところで、このあたりの左手に「ウインクするカエル」という山があるそうだが、どれがそれなのかわからなかった。
B846の道路はゴー川(River Gaur)に沿っ進んでいく。
川辺とはくっついたり離れたりしながらの道のりだ。もう天空はほとんど青空で、上着を脱いで軽装で走る。
そしてB846を右に折れて、ゴー橋(Bridge of Gaur)を渡る。静かな川を美しい緑の木々が囲んでいる。橋を渡るとブリッジ・オブ・ゴーという同じ名前の集落に着く。
主要道を離れて道は右へ左へと折れ曲がり、アップダウンも現れる。回りは牧草地という中をどんどん進む。
そして下りに入ると、目の前に大きな湖が現れた。ランノホ湖(Loch Rannoch)だ。
ランノホ湖は東西に長く、東西は16kmほどだが南北は1km程度と狭い。はるか東の湖の端が今日の宿泊地だ。
私たちはその湖の南岸を東へと進む。途中、湖に注ぐ川を渡ると、川の水は澄んでいるが茶色っぽい。
道は概ね湖岸だが、ときどき少し内陸側を走る。ここは牧草地が広がるまっすぐなシングルトラックだ。
そして再び湖岸に出れば、松林の木陰の中を進む道となる。木々の間から見える湖がいい感じ。
ところで、すでに午後2時を過ぎている。もちろんこのあたりの道沿いにはレストランなどはない。お弁当を広げるのにいいところを探して、ランノホ・スクール(Rannoch School)近くの湖沿いに開けたところを見つけた。ここでサンドイッチのお昼タイムだ。
ランノホ・スクールは、1959年に創設された私立の学校で、10歳から18歳までの子どもたちが学んでいたという。校舎には歴史ある建物も使われていたそうだが、交通不便な立地でもあり、残念ながら2002年に廃校になったとのこと。
サンドイッチで元気回復、さらに森の中を東へと進む。
湖の視界が開けたところに出ると、対岸の先に白い建物群が見える。あれが今日の宿泊地に違いない。湖の東端はもうすぐだ。
湖沿いのこのコース、ほぼ平坦な道のりでサリーナもまだまだ余裕だ。木陰の道を元気に走る。
湖に沿って、道は左にカーブを描く。ついにランノホ湖の東端に到着した。そこには小さなビーチがあり、家族連れが遊んでいた。(TOP写真)
湖は深い藍色で、西側に長く伸びている。あの湖先端のさらに向こうから走ってきたのだった。
ここを湖に沿って少し北上して石橋を渡ると、キンロック・ランノホ(Kinloch Rannoch)という集落がある。橋の右奥に建物の屋根が見えてきた。
橋を渡り終えるとすぐに村の中心部で、教会と広場がある。広場のオベリスクは、スコットランドの教師であり詩人であったDugald Buchananの碑として建てられたものだそうだ。
集落はすぐに終わり、周囲は牧草地となる。湖の東端を回り込む形で、北側の湖岸へ向かう。
先ほどの集落から約600mで、マクドナルド・ロッホ・ランノホ・ホテルに到着した。目の前に湖の景色が広がる静かなリゾートホテルだ。
1時間ほどホテルで休憩した後、自転車を引っ張りだしてさらに東へと向かうことにした。
正面にとんがって見えるのは、シェハリオン(Schiehallion)の山だろう。
キンロック・ランノホの広場前を通過。小さな村では1軒のカフェを見つけたが、時間外だったようで閉まっていた。
キンロック・ランノホからはタメル川に沿ってB846を東へと進む。丘陵地の間で若干のアップダウンも現れる。
後ろから日ざしを受け、楽しげに進むサイダー。牧草地の奥の緑のところがタメル川だ。
宿からはタメル橋(Tummel Bridge)に向かっているのだが、往復を同じ道ではなく途中からB847を通るという選択肢もある。しかし、それは約200mの上りと聞いてサリーナがあっさり却下。往復ともB846を行くことにした。
キンロック・ランノホから12kmほどでタメル橋に到着。
石造りの古い橋と並行して車用の新しい鉄橋が設けられている。
この石造りの橋はスコットランドに派遣されたイギリス軍のジョージ・ウェイドが1730年に建設したもので、他にも多くの橋や道路を建設している。古代ローマ軍のように、その地域を支配するにはまずインフラから、というわけだ。
さすがに車は通れないが、自転車や歩行者は通行可能だ。というわけで自転車でアーチ橋を上ってみる。
橋の中央から見渡すと、穏やかに流れるタメル川を深い緑の木々が囲んでいる。
ここからは来た道を西へと引き返す。木々の間からの西日がまぶしい。
松林の中を進むサイダー
牧草地にやってきた。牛さんたちのいるカーブを曲がる。
何だこいつらは?という牛さんたちに見つめられつつ、どんどん進む。
一本道はタメル川の途中にあるデゥナラステア貯水池(Dunalastair Reservoir)に向かって下っていく。
そしてシェハリオン山を背に牧草地の中を進む。キンロック・ランノホはもうすぐだ。
ホテルに到着すると、一休みした後にホテル内のレストランへ夕食に出た。回りには他に食事をするところもないのでホテル内なのだが、レストランの落ち着いたゴージャスな雰囲気とパリっとしたサービススタッフにちょっとビックリ。
でもせっかくだからと、豪華なコース料理を頼むことにした。まず前菜はエビやイカなど魚介類とチョリソのシチュー。うわあ、美味〜
もう一つの前菜は鹿肉の薫製。西洋わさびのピリっとした辛さがきいたマヨネーズがよく合っている。
そしてメインは雄牛のほほ肉の赤ワイン煮込み。お肉が柔らかく煮込まれてたまりません。もう一つのメインは鴨のローストで、これもまたいいですね〜
大満足、満腹になり、食後のコーヒーは向かいのパブでとってもいいよと勧められた。先ほどから何やら賑やかな音楽と歓声が聞こえていた。
そこでパブに行ってみると、ミュージシャン3人の演奏に宿泊客が大盛り上がりだ。
演奏に合わせて歌う人、手拍子をとる人、踊りだす人。リクエストとアンコールがいつまでも続く。ついにはミュージシャンは「おれは家に女房と子どもがいるのに、なかなか帰してくれないんだよ〜(笑)」と歌っていた。
音楽に包まれて、ランノホ湖岸のホテルの夜は更けていった。