朝起きると雨。気温は10°C。天気予報によるとこの雨は朝のうちだけらしい。
今日はここスキーリゾート地のビョーリ(Bjorli)から、ラウマ川(Rauma)に沿ってロムスダールフィヨルド(Romsdalsfjorden)のオンダルスネス(Åndalsnes)まで下る。途中には、滝、石橋、壁のような岩山と見所がいっぱいだ。
8時過ぎ、小雨の中を出発。
道脇にはラウマ川が流れている。この川は昨日通ったレスヤスコーグ湖(Lesjaskogsvatnet)に源を発し、今日の終着地のオンダルスネスでロムスダールフィヨルドに注いでいる。
昨日までは谷は広く山の斜面は穏やかだったが、ここからは谷が狭まり山の斜面もかなり急になってくる。
先の急斜面の山肌に、斜めに滝が流れ落ちているのが見える。
ストゥーグフロッ橋(Stuguflåtbrua)が見えてきた。
これは1923年頃に完成した石造の鉄道橋で、この上を景勝路線として有名なラウマ線が走っている。
道はドンボスからここまではほぼ平坦だったが、このあたりから急速にロムスダールフィヨルドに向かって高度を下げて行く。
それに応じるように、ラウマ川に滝が現れるようになる。この橋のところの流れはもの凄い勢いで、轟音が響き渡っている。
この奥にサーゲルヴァ水力センター(Sagelva Vasskraftsenter)があるので行って見ることにする。
まだ朝早いため門が閉まっていて中に入れなかったが、ここは1700年代からの歴史があり、水力を、製材と小麦粉製造次いで洋服プレスに利用していたという。
このあたりの山を見ると、そこら中に滝が流れている。
この景色を見れば誰でも、豪快に流れるこの水の力を利用できないかと考えるだろう。
サーゲルヴァ水力センターからE136に戻るとほどなく、オップダール県からレーム・オ・ロムスダール県に入る。ここからしばらくはE136一本だ。裏道も抜け道もない。
ここからは谷が狭まり、切り立った岩山が両側から迫ってきているので広い道は造れず、昨日まではかなり整備状況が良かった自転車道だが、それも見当たらない。
山の上から真っすぐに落ちてくる滝。
下にはそれらの水を集めてロムスダールフィヨルドへ向かうラウマ川が見える。
道脇で轟音を轟かせて落ちる名もなき滝。
道は下っている。だがそれは視覚的には良くは分からない。
ただペダルが軽く快調に進むので、下りであることが分かるのだ。
ラウマ川はスレッタ滝(Slettafossen)になって豪快に落ちて行く。
上の写真と見比べると一目瞭然だが、ここは両側から岩場が迫り、急に川幅が狭くなっているのだ。そこに押し寄せた川の水は、お互いにぶつかり合い、ぐるぐると渦を巻いて白いしぶきを上げる。
スレッタ滝の先のヴェルマには、ラウマ線が通る石橋のシリング橋(Kylling bru)が架かっている。道端にあった『撮影ポイント→』に誘われて行くと、細い道を谷底へ下って行く。Vターンしてさらに下ると、正面にアーチ橋が現れた。
この橋は長さ76m、川からの高さは56mで、この近くで産出した花崗岩でできている。1913年から建設が始まったが、第一次世界大戦の影響で物資と人出が不足し、橋梁エンジニアの手ほどきを受けた地元民によって1923年にようやく完成したという。
ちょうどオンダルスネス方面からの列車がやってきそうな時刻なので少し待っていると、二両編成のラウマ線が橋の上をゆっくり通過して行った。あの列車はこのあと、大きなループを描いてトンネルで斜面を上って行くことになる。
気付くと雨は上がっている。このあたりまで来ると、北西に延びる谷の両側に岩山が迫っているのが見えるようになる。
昨日までの穏やかな谷の表情とはずいぶん違うものだ。
その先に見える岩山に向かって下って行くと、左手にヴェルマ滝(Vermafossen)が落ち出す。
今日は滝のオンパレードだ。
いったん下りが落ち着くと谷が急激に狭まり、氷河特有のU字谷の様子がよく分かるようになる。
徐々に山の斜面の緑が少なくなり、ごつごつした岩肌が多くなってくる。
細かいカーブをいくつも廻って進むと山は切り立った岩壁になり、そこからたくさんの滝が流れ落ちている。
ここはもうU字谷ではなく、V字谷と言ったところか。
なんだか凄いことになってきた。
ここには二本の滝が落ちてきている。
道路の横にはラウマ線の線路が見えるので、この景色は列車からも見えるのだろうが、反対側の座席に座った人々は残念でした。
岩山と岩山の間からは細〜い滝が。
進めば進むほど、凄い景色が現れる。
相変わらず滝はあちこちに。
かなり狭まってきた谷だが、谷底の僅かな平場には民家も建っている。
コス(Kors)には木造の小さな教会が建っている。
その教会の上に見える岩山の頂部はギザギザだ。
そのギザギザがどこまでも続いて行く。
マーステイン(Marstein)というところにやってきた。
ここはこのあたりでは比較的谷間が広く、キャンプ場などがある。
そして広くはないが、牧草地もある。
恐ろしいほどの岩山と、やさしい感じのする牧草地の対比が不思議な感じをもたらす。
前には立ちはだかるようにしてごつごつした岩山が続いていく。
いったい何なんだ、この景色は。
とにかく凄い!
ラウマ川は現れたり見えなくなったりしている。またラウマ川の流れが戻ってきたと思った時、うしろを振り返ると、これまでやってきた谷がいい感じで見えている。
この景色、U字谷らしい景色だ。
『
「そろそろ『トロールの壁(Trollveggen)』に着くよね。ここがこれだけ凄いんだから、『トロールの壁』ってどんなかな。」 と、サリーナ。
『
「何でも、もの凄く高い岩壁が垂直に立ち上がっているらしいよ。」 と、サイダー。
『
「ここもほとんど垂直に見えるけどね〜」 と、サリーナ。
『
穏やかなカーブを描いて岩山の下を廻って行くと、『トロールの壁』のビジターセンターが見えてきた。
『
「うわ〜、これが『トロールの壁』か〜」 と、呻くサイダー。
『
「わ〜、この岩山、本当に垂直に切り立っているね〜」 と驚くサリーナ。
その高さは1,000mほどあるという。そして頂部は鋸の歯のようにギザギザで、垂直どころか50mほど張り出している。
『トロールの壁』の向かいにはロムスダールスホーネ(Romsdalshornet)が聳えている。
『トロールの壁』からだと近すぎてその尖峰は良く見えないが、底部のどっしりとした岩の塊は迫力がある。
『トロールの壁』を見終わったら、あとはオンダルスネスへ向かうだけだ。
『トロールの壁』の先にはキャンプ場があり、そこからラウマ川沿いに下る道があったので行って見ると、ラウマ川がとても近くてなかなかいい道だった。
『
振り返れば、ラウマ川越しに『トロールの壁』が見える。
『トロールの壁』のあとも岩山は続いている。
そしてラウマ川沿いの道は、線路をくぐって先へ続いていく。
下にラウマ線の線路とE136が並んで通っている。その向こうは『トロールの壁』から連なる岩山だ。
そしてあのロムスダールスホーネの尖峰が雲の中にうっすらと見えている。
写真でははっきりしないかもしれないが、ずんぐりした親指みたいな形だ。
穏やかな弧を描いてラウマ川は流れていく。
その向こう側は牧草地だ。そしてさらにその先には、どこまでも続いているように見える岩山の壁がある。
あの岩壁には明日上る、『トロールの梯子(Trollstigen)』という11連続カーブの強烈な坂がある。
その『トロールの梯子』から流れ落ちてくる川がここでラウマ川に合流し、ラウマ川は大きく広がる。
奥にはとんがり山が見えている。あの山の東斜面に『トロールの梯子』はある。
広がったラウマ川の岸には砂利敷きの自転車道が続いている。
先に橋が架かっており、そのさらに先にぽっこり山が見えてきた。
あの山はロムスダールフィヨルドの反対側にあるものだ。ということは、あの橋の先がラウマ川の出口、ロムスダールフィヨルドだ。
オンダルスネスに到着だ。ついにノルウェイのフィヨルド地方に入ったのだ。
高台からはロムスダールフィヨルドから奥に延びる狭いイスフィヨルド(Isfjorden)が見え、その手前にはラウマ線の赤い列車が停車しているのが見える。あそこがオンダルスネス駅だろう。
宿に入る前に港を覗いておくことにした。レジャーボートやフィヨルドのクルーズ船など、結構多くの船が停泊している。
うしろにポッコリした山が見える。あの山にはランパストレッケン(Rampestreken)という展望台があり、ロムスダールフィヨルドとイスフィヨルド、そしてオンダルスネスの街が一望にできるというので、このあと宿に荷を解いてから上る予定だ。
フィヨルドの先を見るとうっすらと雪を残した山々が見える。
ここからクルーズをしてもいいが、なんだか雲行きが怪しくなってきた。
港を一廻りしたあと宿に入った。一休みする間もなく、雨が降り出した。この雨は止む様子を見せず、かなり強く降っている。結局ランパストレッケンもボートクルーズもせず、宿でまったり過ごすことになった。
さて、本日の夕食は自炊だ。この宿にはキッチンがある。サラダ、蝶々パスタのジェノベーゼソース、ステーキといった簡単なものだが、まずまずだった。ビール付き!
ノルウェイの物価は高い。その中でもレストランは非常に高い。スープやサラダは1,500円、ハンバーガーは2,000円、メインの一品は3,000円はする。ビールは400mlで1,300円以上する。つまりごく普通の食事でも、一杯ビールを飲めば、6,000円の出費は覚悟しなければならない。毎食この出費は痛い。
そこで今回の旅は、できるだけキッチン付きの宿を選んだのだ。ここまでこれは成功している。
今日までは旅の序章だ。いよいよ明日から本格的なノルウェイ・フィヨルド地方サイクリングになる。絶景ルートの "the Golden Route" と呼ばれる道を行き、11連続カーブの『トロールの梯子 』をひたすら上り、ストールフィヨルド(Storfjorden)の奥のヴァルダール(Valldal)へ下る。