ノルウェイにやってきて11日が過ぎた。ここまでで今回の旅のほぼ半分が過ぎた勘定だ。
ルストラフィヨルド(Lustrafjorden)の奥にあるショルデン(Skjolden)からさらに3kmほどのところにあるキャンプ場に連泊した私たちは、ここで前半に失った体力を少し取り戻した。
朝起きると、周囲は靄っているが青空が見える。だが今日の天気予報は曇りだ。このあたりの天気は大抵曇りで、いつ雨が降ってもおかしくないくらい降雨日数が多い。今日はどうだろうか。
キャンプ場の前には、きれいなフューリアス滝(Fureasfossen )が落ちている。
私たちの宿泊プランには朝食も付いていた。ありがたくこの朝食をいただいて、いざ出発。
今日はルストラフィヨルドを下って、世界遺産のウルネス・スターヴ教会(Urnes stavkyrkje)を見学し、ソグネフィヨルド(Sognefjorden)の奥にあるラールダール(Lærdal)へ行く。
距離は65kmと程々で、私たちにはちょうど良い。厳しい峠もなく今日は楽勝かとも思うのだが、事前調査では累積登坂高度が1,000mを超えている。あれれ、今日はいったいどんな道なんだ。
まずはショルデンまで下る。
道脇を流れるフォートゥンダル川(Fortundalselva)はすぐに広がって、アイズ湖(Eidsvatnet)となる。この湖の表情は、昨日は曇りだったので冴えなかったが、今日は青空の下で生き生きとしている。
ショルデンまではあっという間だ。この先はルストラフィヨルドの南岸を行く。
この前見たガイランゲルフィヨルド(Geirangerfjord)は大型客船やらクルーズ船で賑やかだったが、このフィヨルドにはそうしたものは一切見当たらず、ひっそりとしている。
『ここは静かで気持ちいいね〜』 と、静かなルストラフィヨルドに満足げなサリーナ。
フィヨルドに入るとすぐにトンネルが現れた。ノルウェイで二度目のトンネル経験だ。このトンネルは300mほどと短く、あまり問題なかったが、今日は実は三つのトンネルをくぐる。あとの二つは延長がそれぞれ1km近くあり、しかも照明がないというので不安だ。
そして程なく二番目のトンネルに入る。延長878m。狭い。照明はなく真っ暗で、しかもカーブしている。自分がどこにいるのかわからず、宇宙空間に放り出されたような感じだ。壁はゴツゴツした素掘りのようで、側面のリフレクターがないため、いつ壁にぶるかるかと不安がよぎる。幸いなことに車はまったく通らないのだが、逆に車のヘッドライトがほしいと思うほどだ。
ここはフィヨルド沿いに道がある。これは比較的珍しいのではないかと思う。フィヨルドは氷河が削り取ったU字谷に海の水が入ったものなので、大抵その周りは急峻な山だからだ。
フィヨルド沿いに道があるということは、山はなだらかで、山とフィヨルドの間に道が通せたということだ。だからと言ってその道がフラットであるということにはならない。
早くも上りが現れた。
だが、この上りは数十メートルのもので、ハヒハヒするようなものではなかった。
フィヨルドはどこまでも続いていく。その水面は鏡のように静まり返っている。
時々岸辺に写真のような小屋が現れる。これはどうやらフィヨルドで作業する漁業用のものだと思われるのだが、なぜかどこにも舟は見当たらない。だがこのあたりには、どうも漁業用に使われると思われる設備がフィヨルドの中に見受けられる。
ノルウェイを旅していると、フィヨルドは海なのか? という疑問が常に湧いてくる。ここは大西洋から200km以上も奥まったところだ。このあたりのフィヨルドの水はしょっぱくない。川滝の真水がフィヨルドに流れ込み、塩分を薄めてしまったからだろう。だから海の魚はきっとここにはいない。
一方で、フィヨルドに流れ込む川はほとんどが滝なので、川の魚も生息しにくいのではないか。だからフィヨルドではあまり魚が獲れないのではないかという気もするのだが、どうなんだろう。
静かすぎる。私たちが通っている道は、人一人、車一台通らない。サイクリングにはもってこいの道なのだが、なんでこんなに静かなのかと思ってしまう。
うしろを振り返ると、入り組んだ山が造る谷が見える。やっぱりここはU字谷ではあるらしい。
20km近く走ると、左手にフェイグン滝(Feigumfossen)が現れた。落差218mという結構なものだ。
滝の方へ道が続いているようなので行ってみることにしたが、これはすぐに地道の遊歩道になってしまったので断念。
フェイグン滝を出ると三番目のトンネルが現れた。延長900m。
二番目のトンネルを経験しているので、ちょっとドキドキだったが、このトンネルは真っすぐであまり不安なく通ることが出来た。カーブしているのとそうでないのとで、これほどの違いがあるのかという思いだ。
ルストラフィヨルドから横に伸びる入り江が見えてきた。あの奥にはソグネ山岳道路(Sognefjellet)の終点のガウプン(Gaupen)がある。
その上にはヨステダール氷河(Jostedalsbreen)を含むヨステダール国立公園(Jostedalsbreen nasjonalpark)の雪山が見える。ヨステダール氷河はヨーロッパ大陸でもっとも大きな氷河だそうで、その長さはなんと60kmもあるという。しかしあの山はたかだか2,000mほどしかない。この氷河は低温ではなく、高い降雪量によって維持されているという。
ここでフィヨルドを見ると、水面にきれいな縞模様が浮かんでいる。
今日は風が強いわけでもなく、これは船が通ったあとでもない。潮目というやつだろうか。
ここはちょとだけフィヨルドから逸れ、川沿いを行く。
フィヨルドにはこうした川が無数に流れ込んでいる。さっき見た潮目は、もしかしたらこうした川が作り出すのかもしれない。
川を渡ると道はUターンして、また元のフィヨルドに戻る。
先にはなだらかな山がどこまでも続いている。
さっきは見事なほどはっきりした潮目がみられたが、ここはまるで穏やかだ。
潮というのは場所によって、こうも違うものなのか。
道脇に小さな滝が落ちている。
ここまでのルートは特別なアップダウンもなく、劇的なフィヨルドの変化もなく、どちらかというとやや変化に乏しいとも感じるくらいなのだが、こうしたちょっとしたものが、小さなアクセントになってくれる。
オルネス(Ornes)に入った。フィヨルドの対岸にはソルボルン(Solvorn)の集落が見える。
ここオルネスには、世界遺産のウルネス・スターヴ教会が建っている。ウルネス・スターヴ教会はウルネスではなくオルネスにある? 教会の前に付く名は大抵の場合、それが建っている場所だが、このウルネスは地名ではないのか?
いや、ウルネスは地名だ。実は "Ornes" も "Urnes" も同じ村を指している。ここだ。元来は "Órnes" だったようだが、ノルウェイはデンマークに統治された時代があり、その時にここは "Wrnes" や "Vrnes" と呼ばれた。その後これが "Urnes" になったということらしい。
さて、そのオルネスだが、この村には集落と呼べるほどに密集した住居群はなく、フィヨルドのフェリー乗場付近にパラパラと家が建っているくらいだ。そのあたりで教会を探すも見当たらない。そのうち『ウルネス・スターヴ教会→』の標識が現れた。その標識は急坂の上を指している。
『あれ、上は山だけだけどなぁ。。』 と、サリーナ。
急坂を上って行くと、それはすぐに激坂に変わった。エッサエッサとなんとかこの激坂を上って行く。なんとウルネス・スターヴ教会は、海抜100m以上のところに建っていたのだ。
道路のどん詰まりから山側に一歩入ると、小さな教会が見える。その姿は驚くほど小さい。
これまでにスターヴ教会は、オスロに移築されたゴルのものとロムで見たが、これはそのどちらよりも小さい。そして両者に共通してあった竜頭飾りもここにはない。塔も低く、ずんぐりしている。パッと見た目には、かなり質素に見える。
ここは世界遺産だからか、見学に案内人が付く。そんな訳で、ツアーが開始されるまでの15分ほどの間、切符売り場の奥にあるスターヴ教会に関する展示を見る。
この教会はもっとも古いスターヴ教会の一つで、1,130年ごろ建てられた。ノルウェイでは、ブリッゲン(Bryggen)とともに登録された最初の世界遺産の一つだ。
ツアーは外まわりから始まった。屋根と外壁の一部が柿葺きなのはこれまで見てきたスターヴ教会と同じだ。主要な壁が竪に嵌められた板なのも同じ。
ここで注目すべきは北面の彫刻だ。
この特徴的な彫刻は『ウルネススタイル』と呼ばれるもので、柱とポータル、そして二枚の厚板に見られる。
この場所には11世紀の始め頃に建築された教会があったらしい。
現在の教会に残されているウルネススタイルの彫刻は、この元あった教会の装飾を転用したものだと考えられている。ポータルは、元の教会の正面入口のものであった可能性がある。
その装飾だが、それは唐草模様のようにも見えるが、絡み合う蛇のようにも見える。下にはその蛇に噛み付いている動物らしきものがいる。この装飾のキリスト教的解釈は、蛇は悪魔の象徴、下の動物はライオンでこれはキリストの象徴とされる。悪と戦うキリストということだ。
この当時の装飾には、北欧の神話が用いられた可能性が指摘されている。ノルウェイのある伝説では、絡み合った蛇やドラゴンは世界の終わりを表すという。
この装飾は当時造られた他の物と比べて、傑出していると言える。ヴァイキングの芸術!
内部は長方形の身廊と狭い聖歌隊席で構成されている。
外観から想像できるとおり、全体にかなり狭いので、林立する柱が逆にあまり目立たなくなっている。
内部でまず目に付くのは、正面のクロスブレースだ。
これは後世に取り付けられたものだろうと思ったのだが、実は違うようで、中世からあるものらしい。もちろん建築当初にはなかったのだが、無理な改築をしたために必要になったらしい。日本人の感覚からすると、ちょっとどうかと思う造形だが、こちらの方にとって×は特別な意味があるらしいので、その感覚の違いが影響しているかもしれない。
×は十字の一種なのだ。十字と言えばキリスト教だ。ノルウェイを始めとして、多くの国の国旗に十字が用いられているのは、キリスト教と関係があるのかもしれない。×は聖アンデレ十字といい、これはキリストの十二使徒の一人で、×型の十字架で処刑されたとされる聖アンデレから来ている。スコットランドの国旗がこれだ。ここにあるのはクロスブレースには違いないが、もしかするとそれは聖アンデレ十字なのかもしれない。
正面右に見える説教壇の装飾はケルトの芸術だそうだ。これもヴァイキングが持ち帰ったものだろう。その後ろの柱の上には、外部のポータルなどに見られる彫刻と同じようなものが彫られている。
さて、林立するパイン材の柱だが、これらの頂部には柱頭が載っている。そしてその上にアーチ。
これらは明らかに石造建築から来た意匠だ。それもロマネスク。バイキングが石の文化の国の建築技術を持ち帰って、それを木造に置き換えたのだ。
この写真の右端の柱はカットされ、下部がない。これはその下に、ある機能を付加するために改修する必要が出てきたからだが、かなりむちゃくちゃだ。切られた柱は、隣の柱の途中に梁を架け、それに載せているが、この梁と柱の接合部の仕舞いなどは少し雑に感じる。まあ、そんなこんなで正面にクロスブレースが必要になったのかもしれない。
屋根を受ける梁の入隅には、直行方向の梁どうしを繋ぐ水平部材が入れられている。これは火打梁のようなものかと思ったが、ある解説によると、逆にクッション材だそうだ。ヴァイキングの船には左右の縁同士を繋ぐ材があり、これの応用と考えられている。
これが柱頭だ。ここに掘られている文様は一本一本すべて異なる。ケンタウルス、グリフィン、それに跨がる人、鳥、ライオン、蔓などが刻まれている。
現在この教会にはいくつかの窓が開けられているが、それらは後世に追加されたものだろう。元々は身廊の上部にあるいくつかの小さな小さな丸窓(二つ前の写真の右上参照)だけだったはずだ。現在でさえ内部は充分に明るいとは言えないが、建築当時はほとんど真っ暗に近かったと思われる。
ウルネス・スターヴ教会は、中世ロマネスクの石造建築の意匠をベースに、バイキングの伝統とケルトの芸術を複合化させた建築と言えそうだ。
教会の前ではおいしそうなラズベリーを売っていた。日本で出回っているラズベリーはほとんどが輸入品だが、これは地元産。今が旬だ。そこら中でこの畑を見ることが出来る。
スターヴ教会からはオルネスのフェリー乗場へ下る。この航路は一本/hなので、予定の便に乗れる時間であることを確認して出発する。
教会を見学している間にパラパラと雨が降って、路面が濡れている。ここは慎重に下らなければならない。
これがオルネスのフェリー乗場付近。村の中心部だ。スターヴ教会はあの丘が山に切り替わるあたりに建っている。どうしてこんな何にもない村に世界遺産のスターヴ教会があるのか。
理由はこうだ。かつてスターヴ教会は北ヨーロッパにたくさんあった。ところが黒死病(ペスト)の流行で人口が激減し、教会を維持できなくなる。人口が増えて再び教会を維持できるようになったころには、スターヴ教会は使い物にならないほど痛んでおり、新しい教会が建てられた。こうしてスターヴ教会はどんどん姿を消していき、ノルウェイでは28棟を残すだけになってしまった。
ではなぜ28棟は生き残ったのか。その村に新しい教会を建てるだけの資力がなく、元からあったスターヴ教会をなんとか使い続けるしかなかったからだ。つまり、人口が少なくて貧乏な村であればあるほどほど、スターヴ教会は生き残ることになった。人口が少なければ教会を拡張する必要もなく、経済力がなければ、やりたくても増改築ができない。そういう条件が揃うと、ほぼオリジナルの状態のスターヴ教会が残ることになる。
オルネスからはルストラフィヨルドを渡って、対岸のソルボルンへ。
ソルボルンが見えてきた。ここにはオルネスとは比較にならないくらい、大きな集落が形成されている。
丘の中腹に立派な教会が見える。もちろんこの村には資力があるから、それはスターヴ教会ではない。
ソルボルンにはカラフルな建物が並んでいる。特に印象的なのが、フィヨルド沿いの倉庫群だ。
これはブリッゲン(Bryggen)と呼ばれる。Bryggeは桟橋を意味するノルウェイ語で、ベルゲンの世界遺産『ブリッゲン』もここから来ている。
驚いたことにこの村には立派なホテルが建ち、レジャー施設もある。
対岸なのに、本当にオルネスとはまったく違う。
フェリーで渡っている間に、白い雲が開いて青空が顔を出した。さっきまで雨が降っていたのに。今鳴いたカラスがもう笑った状態だ。ノルウェイの天気は変わりやすいのだ。
晴れ間が出てきて気持ちいいので、ここで弁当休憩を。
弁当を食べ終えたら午後の部開始だ。ソルボルンからまず20kmほど先にあるソンダル(Sogndal)を目指す。
ソルボルンの家々の間を抜けていくと、すぐに道は上りになる。
これはいつものことだ。フィヨルドを離れればいつでも上りになるのだ。
午前中は細かいアップダウンだったが、ここはきつくてちょっと長い。えっこらよっこら、のろのろ上って行く。
海抜200mを超えるとRv55に出る。Rv55は幹線道路なので交通量が多く、ちょっと走り難い。
ここで大きな上りは終わり、細かなアップダウンが始まる。右手にハフスロ湖(Hafslovatnet)が現れると、道は下りに転じる。
ハフスロ湖から流れ出るオーライ川(Årøyelvi)に沿って下ると、Rv55の横を行くいい道があった。
ここは川が近くて気持ちいい。
オーライ川はバースネフィヨルド(Barsnesfjorden)に流れ込む。するといつしか道もRv55に戻る。
バースネフィヨルドの先には小さくアーチ橋が見える。あそこがソンダルだ。
ソンダルはこのあたりでは最大の街で、バスターミナルがあり大型ホテルが建っている。周辺には住宅地も広がっている。
写真は街の反対側で、中心部はこの橋の手前を右にしばらく行った所にある。しかし私たちはそこには用がない。
ここから私たちが向かうのは、隣村のカウパンゲル(Kaupanger)だ。
橋を渡って進むと、ソグネフィヨルドから分岐したソンダルフィヨルド(Sogndalsfjorden)の入口方面が見える。
ソンダルから道はR5になる。これは幹線中の幹線道路で、交通量が多い上に道が狭い。もちろん自転車道は付帯しておらず、かなり走り難い。
その上ここに来て、道は上りになった。また海抜200m近くまでえっこらしなければならない。
なんとか一山越えて、下りになった。
カウパンゲルはアムラ湾に面した村だが、近年、その中心は R5 が通る高台に移ってきたようだ。
この街の中心からアムラ湾に下ると、これがもの凄い坂だった。
実は私たちはこの道を戻らなければならない。帰りを考えると下りたくない気分だ。
なぜカウパンゲルまでやってきたのかというと、ここには残っている28のスターヴ教会の一つ、カウパンゲル・スターヴ教会が建っているからだ。
この教会はウルネスのものに比べるとかなり大きい。
そしてこれまでに見てきたスターヴ教会にはない特徴がある。
まず外観で目に付くのは、外壁が竪羽目ではなく水平に積まれていること。
もう一つは屋根が柿葺きではなく、日本の大和葺きのようなものであることだ。
この教会は12世紀の半ばに建てられたと考えられているが、1862年に大規模な改変が加えられた。
窓が開けられ、外壁は白く塗られ、暗い色のタイル屋根が被せられた。しかしこの改変は、20世紀の半ばに17世紀の外観に戻された。
内部には22本の支柱が林立する。ちなみにスターヴ教会の "stav" とはこの柱のことだ
内陣は四本の独立柱が屋根を支える。柱の上部にはあのXが見える。
外観のイメージは内観に共通するものがある。がっしりした感じがあると同時に、シンプルでもある。
この教会には柱頭飾りはないが、入口に、やはり石造の建築から来た意匠を思わせるアーチが見られる。
カウパンゲル・スターヴ教会を見終わったら、上の街の中心であるカウパング・センター(Kaupangsenteret)に急ぐ。私たちはそこからバスでラールダールへ移動するのだ。
やってきた時大変だと思った坂を上り返し、なんとかバスの時間までにカウパング・センターに着いた。するとバス停の向こう側に虹が二段になって輝いていた。
バスは定刻にやってきた。長距離バスで大型のもの。これが私たちのノルウェイでの初めてのバス輪行だ。ノルウェイではまったく問題なくバス輪行できると聞いてはいたが、やはりちょっと不安だ。このバスは一日に何本もないのだ。
結果的には、自転車は折り畳まないで、そのまま胴体の下のトランクルームにホイッと放り込んでおしまい。何の苦労も入らなかった。しかも、料金はクレジットカード払いOK。これは至極便利だ。WEBから事前購入もできるらしい。
ここでバスに乗った理由はというと、先にあるトンネルが自転車通行不可だからだ。ノルウェイは険しい山国でトンネルが多い。その中には長大なものもあり、そうしたものは自転車通行不可なのだ。
そのトンネルが近付いてきた。このトンネルは延長3km、そしてその先にはさらに長い6.6kmのトンネルが待ち構えている。そうそう、ノルウェイは同様の理由からだと思うが、道幅が狭い。当然トンネルも狭く、大型車同士がすれ違う際はヒヤリとする。
トンネルを抜けるとソグネフィヨルドをフェリーで渡る。
バスは直接これに乗り込む。
フィヨルドをフェリーが渡っている間に、車外に出てフィヨルドを眺めてみる。
一部に青空が見えるが、そのすぐ隣の雲からはシャワーのような雨がフィヨルドに落ちているのが見える。
そして、一方の岸には虹が掛かっている。
これがノルウェイの天気だ。
対岸に渡ったバスは6.6kmのトンネルを抜けて、ラールダールに入った。
ラールダールの中心部には18世紀の木造家屋が密集して残っている。この一帯はラールダールソイリ(Lærdalsøyri)と呼ばれるようだ。
バスはこのラールダールソイリの中心部にある役場の前に停まった。そこから私たちの今宵の宿まではたったの100mほどだ。
宿はそれなりに歴史ある建物で、木造二階建で小屋裏付。1840年代に建築されたものらしい。外壁はライトグレーに塗られている。この村の建物はピンクやクリーム色といった淡い色調のものが多く、おとぎ話か映画のセットのような感じだ。
玄関のベルを鳴らすと、甲高い女性の声が響いた。珍しい。ノルウェイの人々はみんなもの静かで、寒い国だからか、口をあまり開かないでしゃべることが多いのだ。家の中に入れてもらってやりとりを始めて、またびっくりすることが起こった。英語が通じない! これは今回の旅で始めてのことだ。
ノルウェイの人々はほぼ完璧な英語を話すが、ここではその英語がほとんど理解されなかった。こちらはノルウェイ語はまったくわからない。まあ宿泊するだけだから大して困ることもないが。あとで分かったことだが、彼女はチリの出身だった。それでその後はスペイン語でやりとりすることに。彼女だけが特別なのか、それともこのあたりはちょっと田舎なので、英語をしゃべらない人が多いのか、これは結局分からなかった。
さて、今日もなんとか走り切った。ところで累積登坂高度が1,000mを超すかどうかという件は、ウルネス・スターヴ教会までの上り、その後のソルボルンからの上り、そしてソンダルからの上り、カウパンゲルからの帰りの上りが主だったもので、結局、事前調査のとおり、1,000m以上を上ったようだ。
今日はウルネスとカウパンゲルの二つのスターヴ教会を見学したが、明日はこの近くにあるもう一つのそれを見に行く。ボルグン・スターヴ教会(Borgund stavkyrkje)だ。これはノルウェイでもっとも有名なスターヴ教会と言って良い。完成度と保存状況の良さでは、世界遺産のウルネスを凌ぐとも言われている。私たちのスターヴ教会巡りの頂点を成すもので、今から楽しみだ。