今日はラールダール(Lærdal)に連泊する日で、ここから30kmほどのボルグン・スターヴ教会(Borgund stavkyrkje)まで往復します。
実は明日はかなり大変な行程なのでラールダールでゆっくり休憩しようかと迷っていたサリーナですが、スターヴ教会の中でも独特の形で見応えがありそうなボルグン・スターヴ教会なので、やっぱり見に行くことにしました。
なお、この地名'Borgund'は日本語で「ボルグンド」との表記もありますが、ノルウェイ語では最後のdは発音しないようなので「ボルグン」と表記することにします。
ラールダールは良港を持ち、ノルウェイの東西を結ぶ交通の要衝としてにぎわっていたといいます。私たちの宿は、そんなラールダールの歴史的保存地区の真ん真ん中。ここには築100〜170年くらいの下見板張りの住宅や小さなオフィス、ギャラリー、店舗など170棟が軒を連ねています
かわいらしい街並みの中を走り出すサイダー。
ラールダールの住宅地の中には、1869年に建てられた白壁のハウゲ教会(Hauge kyrkje)があります。
この教会は、ノルウェイでは珍しい2つの塔を持つ教会です。
町をあとに、ラールダール川沿いを遡っていきます。この川の運んだ土砂がつくりあげたデルタの上に、ラールダールの町があるわけです。
川の両側には屏風のようにそそり立つ崖。おなじみのU字谷の中を進みます。
両側にそびえる山の足元には緑の牧草地が広がり、牛たちが静かに草を食んでいました。
川をさかのぼっているわけですから少しずつ上っていくはずですが、このあたりはまだほぼ平坦。
気持ちよく走っていくサリーナです。
橋を渡り対岸へ。ローカルな道Fv272はトラクターが通るほかは至って静か。
道沿いには農家が点在し、牧草地や畑が連なっています。
ここまでの旅で牧草地以外に「畑」はあまり目にしませんでしたが、ここには麦畑が広がっています。
さて、この麦の種類は何でしょうか。小麦かな?
そして隣には別の種類らしき麦畑も。
まだ青いですね。知識不足のため種類はわかりません。あとで専門家に聞いてみたら燕麦(オートミールにするオート麦)では?とのこと。
道はカーブを描き、南に分かれる別の谷も入り込んで、山並みが途切れては連なる。
そんな中をどんどん走っていきます。
牧草地の中に牛や羊ではなく見慣れない動物が。あ、鹿です。
群れが草を食む中、1頭がじっとこちらを見て警戒しています。
さて、道の途中でよく「集合郵便受け」を見ましたが、その配達風景に遭遇。
赤い郵便配達車に乗ったポストマンが手紙を配っていました。思わず頭の中では“プリーズ・ミスター・ポストマン”がリフレイン。
そして、白い布で覆われた棚には真っ赤なイチゴ。
前に見たものは地面に直接植えられていましたが、こちらは棚ですね。果物ではほかにリンゴやラズベリーなどが見られました。
道に山が迫って狭くなったところでは、斜面が牧草地になっています。
これから次第に谷間に分け入っていきます。
いよいよ谷間だね〜 と嬉しそうなサイダー。
ラールダール川にかかる小さな橋を渡って対岸へ。
少しだけ住宅地の中の道を通ったあとは、幹線のE16に合流です。
橋の上から来た方向を振り返れば、大きなU字谷が続いています。
このU字のふもとに農地が広がっていたんですね。
そして川沿いにE16を上れば、目の前はより傾斜の深いV字谷となっています。
道路も少しずつ傾斜が出てきました。
川にかかる小さな橋があったので、しばし小休止。
美しい流れのそばにある建物ビョルクム・ガール(Bjørkum Gard)は宿泊施設になっています。川には釣り人もいました。
途中から車道とは分離された自転車歩行者道が現れました。走りにくさはないものの、道路は上り勾配がきついところに差し掛かりました。
川の流れは渓谷のようです。
その上りを越えたところで自転車道が左側に移り、E16から離れて川沿いの地道になりました。
締まったダートなので問題はありません。E16はこの先、自転車の通れないトンネルに入るので、私たちは川沿いに迂回する道路Rv630を進むことになります。
地道がRv630に合流すると、再び舗装路になります。この道は川の両側に山が迫り、ところによっては頭の上に岩が張り出しトンネルもあるので車高制限もあります。
というわけで車も少ない川沿いの景色は美しく、ソクニ滝(Soknifossen)の流れも楽しめます。ここの崖地にはかつてガルダーネ(Galdane)という農家の集落があり、歴史的なハイキングルートとなっています。
Rv630は川に沿ってぐるりとカーブを描きます。
その先には小さなトンネルが見えてきました。
トンネルをくぐると、先ほど分かれた幹線道路E16のトンネルのちょうど出口あたりに出てきます。
こちらのちっちゃいトンネルは、大型車では通れませんね。
小トンネルの先に小さなパーキングスペースがあったので行ってみると、橋がかかっていてハイキングルートになっていました。
そして川を覗いてみれば、狭い川幅に小さな滝シュールハウ滝(Sjurhaugfossen)があり、水が渦巻いて甌穴をつくっていました。
さて、幹線道路E16はここから再びトンネルに入り、私たちは引き続き川沿いのRv630を進みます。
このあたりは両側に崖のように山が張り出し、まさに渓谷の中を走るコース。上り基調で路面はちょっと荒れていますが、車がほとんどないのでなかなか快適です。
川をぐるっと回って周辺の山の傾斜が少し緩やかになったところでは、牧草地と農家がありました。
そして「ボルグン・スターヴ教会 1km」の看板の先から、最後の上り。
渓谷に沿って、わっせわっせと進みます。
勾配が緩やかになり視界が開けたと思った瞬間、独特の形をしたボルグン・スターヴ教会が目に飛び込んできました。
青空の下、ついに到着です!
ここには道路沿いに3つの建物が建っています。
まずもっとも手前の南側にある赤い建物は、1868年に建てられた新しいボルグン教会です。この教会が建てられて以降、スターヴ教会は遺産保存協会の所有となり保存されています。
その隣にあるのは鐘楼で、大きな鐘を収納するために13世紀に建てられたものです。
このような鐘楼はノルウェイに現存する唯一のものだそう。
そして、最も北側にあるのがボルグン・スターヴ教会。
さすがの存在感です。この教会のための木材は1180年冬に伐採されたということで、そのすぐ後の建築だといいます。
屋根の上の小塔は小さな鐘のある鐘楼で、1階からロープを使って鐘を鳴らしていたそうです。
そして、2段の屋根の両端には竜頭飾りが張り出してその存在を主張しています。
さて、スターヴ教会にはここで入場料を払って入れるのですが、ビジターセンターにノルウェイのスターヴ教会に関するミュージアムもあるということで、まずはそちらに行ってみることにしました。
かつては1000棟もあったスターヴ教会ですが、現存するのは28棟のみ。そしてこのボルグン・スターヴ教会は建てられた当初の姿を最もよくとどめているといいます。竜頭飾りは近寄るとこんなに大きいんですね。
そして再び、ボルグン・スターヴ教会へ向かいます。
教会は本堂を囲んで外回廊が巡らされ、そこに下屋が取り付けられ、何だかスカートをはいたような独特の外観を構成しています。
そして西に正面入口、南にサブの入口があります。
見上げれば、屋根が幾重にも連なり、竜頭が突き出ています。
建物西側のこちらが正面入口。
この向きから見ると、すっと細く背の高い教会に見えますね。
正面入口は2本の柱にアーチがかかっています。
その柱やアーチは唐草模様、そして柱頭には獅子なのか? 何やら動物が狛犬のようににらみをきかせています。
本堂に入れば太い柱(スターヴ)がぐるりと囲み、梁と梁の間には聖アンデレ十字の支柱が設けられています。
そして壁の上部に小さくあいた穴が、わずかな光の差し込む明かりとりです。
本堂の天井を見上げれば、逆さになった船のような形をしています。
この肋骨のようなアーチは、木の幹と根の間にある自然に曲がった頑丈な部位でできているそうです。
本堂奥の内陣には、中世の祭壇があります。
ここに置かれている祭壇画は1654年のもの。
こちらは南側の入口。
柱ばかりでなく、そのはめ込まれた壁面にもいっぱいに浮き彫りの装飾が施されています。植物の間に動物も潜んでいるよう。
そして建物周囲をぐるりと巡る外回廊は、外壁と出入り口を保護し、悪天候時の風雨よけにもなっています。
石造を模した形状の柱とアーチが続いています。
外からみると、回廊を覆う屋根はこけら葺きで、板の厚みは4cmほどとかなり分厚い。
写真では白く見えますが、外部の屋根や柱にはタールが塗られて黒い色をしています。
本堂の壁は敷居に差し込まれた厚い板で、これがスターヴ教会を日本語で「樽板教会」とも呼ぶ所以のようです。
そして丸く突き出た後陣(アプス)は、単独の高く丸い屋根が設けられています。
後陣の側から建物をみると、塔が連なっているように見えます。
見応えのあるボルグン・スターヴ教会を十分楽しみ、ビジターセンター脇のテラスで持ってきたサンドイッチの昼食を終えたら、帰り道のスタートです。
来た道を帰るのだからずっと下りのはず、と嬉しげなサリーナ。
ラールダール川に沿ってRv630を戻る。
スターヴ教会のあたりはそれほどでもなかったのですが、かなり雨が降ったようで路面が濡れています。
でも今はお日様が出ていて快適。
下りをどんどん飛ばすサリーナ。
U字谷のエリアに戻ってきました。
雄大な景色の中を飛ばすサイダー。
一度通った道は、何となく気分も楽です。
景色を楽しみながらどんどん進むサリーナ。
行きの半分くらいの時間で無事ラールダールに到着。
宿でしばらくゆっくりしたあと、周囲の歴史的地区をちょっとだけ歩いてみました。この赤い建物はパブやカフェを備えたホテルです。
小さな店舗やギャラリーなどが並ぶこの魅力的なエリア。6月のサマーフェアと9月のオータムフェアでは大いににぎわうそうです。
そして、歴史地区の西端にはフィヨルドから続く運河に面した埠頭があり、かつて11あった倉庫のうち7つが保存されています。
倉庫といっても、純粋な倉庫から上階に住宅を持つもの、ボートハウスの上にロフトがあるものなどさまざま。対岸から見れば、静かな鏡のような運河に建物が映し出されています。
ラールダールフィヨルドの方では、水はV字の空の景色を映しています。
静かなフィヨルドですが、明日は山越えして次のフィヨルドに向かわなければなりません。またしても厳しい上りのようで、嵐の前の静けさか。。