昨夜遅くから、ジャバジャバとかなり激しい雨が降り出しました。目を覚ましてみると、今朝も相変わらず雨。この旅で初めての本格的な雨です。
今日は65kmほどの行程で、渓谷ハイキングも予定していたので早めの出発を考えていたのですが、共用キッチンで朝食をとりながら少し待ってみることにしました。
1時間ほど待つとようやく小雨になったので、8時40分に雨具を着て出発。気温もやや低い。
高台にあるホステルから下りていく道の途中に、屋根の上に高い鉄骨の塔のようなものが立っている建物がありました。
これは、1792年に採掘が始まったフランツ縦坑(Francis's Shaft)で、現在は博物館として1800年代末の蒸気式ポンプなどが展示されているそうです。
イドリヤの町を出るとすぐにR102に入り、イドリツァ川に沿って北に向かいます。
3kmほどでSpodnja Idrijaという小さな町を通り、橋を渡ると今度はイドリツァ川の対岸を走ります。
雨は上がり、低くたれ込めていた雲も次第に上に上がり始めました。
ところで今日の行程は、まずこのイドリツァ川に沿ってモスト・ナ・ソチまで北上するのですが、そこはユリアン・アルプスの入口にあたるところなのでてっきり上りだと思っていました。実際には川は北に向かって流れており、従ってR102も緩い下り基調が続いています。
周囲は緑に覆われた丘に囲まれ、ときどき民家や牧草地が点在しています。
対岸の牧草地に渡る吊り橋があったので、ちょっと小休止。
さらにずんずん北へ。雨も止んで涼しい中を軽快に飛ばします。
16kmほど走ったところで分かれ道にさしかかります。ここはZelinというところで、右に折れてR210を4kmほど行ったでツェルクノ(Cerkno)には、第二次大戦中、渓谷の中に隠れたパルチザンの病院があったそうです。
私たちはまっすぐR102を進み続けます。
イドリツァ川は、このあたりから大きく蛇行しながら西に向かいます。
道の両側の丘は少しずつ険しくなってきました。
R102は川に近づいたりもっと高い場所を通ったりしながら、山並みの重なる中を分け入っていきます。
イドリツァ川に沿ってしばらく蛇行したあと、Dolenja TrebusaというところでR102は右に曲がり北西に続いていきます。
ちょうどこの曲がり角にカフェがあったので、小休止することにしました。
2階のテラスで休憩。今日はちょっと涼しいので、飲み物は温かいカフェオレです。
30分ほど休憩したら、さらにR102をどんどん進みます。
ときどき現れる牧場では、牛や馬、羊などが草を食んでいました。
Idrija pri Bačiというところまでやってきました。
小さな集落の入口には赤い屋根の教会が見えます。
続いて、道の前方にアーチ橋が見えてきました。
これはモスト・ナ・ソチとボーヒン湖、ブレッド湖をつなぐ鉄道の橋です。
R102はアーチ橋の下をくぐり抜けていきます。まるでローマ水道橋のようですね。
アーチ橋をくぐり、北東からイドリツァ川に合流するバチャ川(Bača)を渡ると、ほどなくモスト・ナ・ソチです。上空には青空が広がってきました。
R102はイドリツァ川沿いに町まで続いていますが、その手前で川の対岸に渡りました。
川面は青空を映して輝いています。やっぱりお日さまはいいですね。
川を渡ったところにはモスト・ナ・ソチの鉄道駅があり、そこから町までは川と鉄道線路に挟まれて、木々に囲まれた小道が続いています。
舗装路はすぐに終わり、ダートになりました。
比較的締まったダートなのでずんずん進むサリーナ。
林の中を走るのはなかなか楽しい。
そして林を抜けると小さな橋がありました。
ここはイドリツァ川がソチャ川(Soča)に合流するところで、出発地のイドリヤからずっと一緒に走ってきたイドリツァ川はここで終わりです。
橋を渡るとモスト・ナ・ソチの町の中心部に出ます。ちなみに『モスト・ナ・ソチ』とは『ソチャ川の橋』という意味だとか。
町の西端から橋を渡ってみると、ソチャ川でカヌーを楽しむ人たちの姿が見えます。
このあたりは川というよりも湖ですね。実はこの少し下流にダムがあり、ここはダム湖になっているのです。
再び橋を渡り、橋の横から階段で川岸に下りて、湖のような川沿いの小道を走ってみることにします。
そこは本当に鏡のように静かな湖面でした。
青みがかった水が周囲の山並みを映し出しています。
湖岸の小道は湖のすぐ横で、「魚いるかな〜」などと青く透き通った湖面を眺めつつ走るのはとても楽しい。
家族連れが湖岸でのんびり楽しんでいる姿にも遭遇します。ここはボートやカヌーを楽しむには最適ですね。
湖岸を北上していくと、右手に丘の麓の集落モドレイ(Modrej)が見えます。
湖と牧草地の間の小道を楽しそうに走るサリーナ。
山々が重なり、それを映す湖とあわせて絵のような景色です。
湖岸の小道はそろそろ終わり、R102に戻ってしばらく走ります。
トルミン(Tolmin)の町の少し手前で枝道に入り、吊り橋で小さなトルミンカ川(Tolminka)を渡ります。
ソチャ川に注ぎ込むこの川を遡れば、このあとハイキングするトルミン渓谷に至ります。
ほどなくトルミンの町に到着。ここは人口3,500人ほどで、この周囲では比較的大きな町です。
ソチャ川やユリアン・アルプスの自然を楽しむ拠点として、またパラグライダーや夏の音楽祭でも評判なのだそうです。
ここでお昼にしましょう。いくつかあるピザ屋さんの一つに入りました。
ピザ以外にもパスタなどいろいろあり、ハンバーガーを頼んでみたところ、でっかいバーガーにフライドポテト、マヨネーズとケチャップ付きでした。
おなかがいっぱいになったら、早速トルミン渓谷へ出発です。
トルミン渓谷は町のすぐ北にあります。
トルミンカ川沿いに渓谷に行こうとしたら、牧場の中のダートになってしまいました。
でも、すぐ先に渓谷の入口があるはずです。
そして、渓谷入口に到着。トルミン渓谷はトリグラウ国立公園の最南端に位置しています。
入口で入場料1人6€を払うと、案内パンフと地図をくれた上、地図の説明担当の青年がハイキングコースの行き方を説明してくれました。
まずは川のそばまで石段を下りていきます。
石段を下りる途中、木々の間からトルミンカ川の涼しげな流れが見えてきます。
そして、あたりにはかわいい草花が見られます。
これはホタルブクロですね。サイダーは子どもの頃、この花にホタルを入れて遊んだそうです。
そしてこちらはシクラメン。日本でよく見る園芸種のシクラメンよりかなり小さな姿です。
川のそばまで下りてくると、小さな木造の橋がかかっていました。
ハイキングの人たちが流れのそばで一休みしています。中には水にバシャバシャと入っていく若者も。ちなみに水はかなり冷たいです。
先ほどの橋から上流を眺めると、白っぽい水が岩の間を流れる渓谷のはるか上に、別の橋が渡っているのが見えました。
これは、20世紀初頭に地元の人たちがボーヒニ鉄道の労働者と一緒につくった橋だそうです。
渓谷を流れる川は、青白い神秘的な色をしています。
この先に次のスポットがあるというので、川沿いを先へ進んでいきます。
その見所とは「温泉』だそうで、「温泉なら浸かっちゃおうかな〜」とワクワクのサイダー。
先ほどの高い橋の下あたりに『温泉』がありました。浸かるどころか、「あの辺からお湯が吹き出しているらしい」というところを覗き見るだけでした。せめて足湯くらいはしたかった。
写真の右の小さい洞窟のようになっているところからお湯が吹き出しているようです。温泉といっても20度くらいだそうですが、トルミンカ川の流れの5〜9度に比べれば温かい。
先ほどの橋のところに戻って、河原でちょっと休憩。
さすがのサイダーも、5〜9度の川には浸かりませんでした。
再び橋を渡り、今度はZadlaščica川の方へ進むとすぐに吊り橋がありました。Zadlaščica川には、マーブル・トラウトという大理石柄の鱒が生息しているのだとか。
この先はかなり険しい道なき道のようなので、吊り橋は行って戻るだけにしてハイキングルートを進みます。
ここからは、Zadlaščica川に沿ってアップダウンが続く。
石段をハヒハヒと上るサイダー。
途中のところどころから、岩の間を流れる清流が望めます。
「きれいだね〜」とサリーナ。
そして、とてもせばまったZadlaščica渓谷の間に、岩が挟まっています。
苔むしたこの岩は『熊の頭』と呼ばれています。
さて、ここからはZadlaščica川を離れてひたすら上り。キツい石段をよろよろ上ります。
すると舗装路に出て、その先にZadlaška洞窟があります。別名「ダンテの洞窟」だそうですが、これは、14世紀初めにトルミンに滞在したダンテが洞窟を訪れて、それが『神曲』を構想するきっかけになったからだとか。
この洞窟には照明もなく、ガイドと一緒に適切な装備を持たないと入れないので、入口を覗いただけでした。
洞窟から舗装路を戻り、トルミンカ川に向かって歩いていきます。
前方にはユリアン・アルプスの山並みがかすかに見えます。
そして着いたところは、先ほど下から見た鉄橋でした。ここは車も通れます。
当初木造で、その後鉄橋とされ、さらにその後車交通のために幅が広げられて、1966年、この先の村に初めての車が到着したそうです。
そして鉄橋から見下ろせば、はるか下にさっき通った川沿いの通路が見えます。
ずいぶん上ったものです。
こんなに高いところに橋をかけるわけですから、この渓谷がいかに狭く切り立っているかがわかるでしょう。
鉄橋をバックにするサリーナ。高くてちょっと怖いね。
トルミン渓谷一周ハイキングコースは、距離は2kmほどですが、上り下りが多く変化に富んだコースでした。
さて、ここからはソチャ川を上流に向けて北西に進んでいきます。R102は右岸を通っていますが、ここからは左岸の小さな集落をつなぐ一般道を走ります。
このルートは車交通も少なく、周囲には牧草地や林、そしてときどき集落と、自転車には最適な道でした。
集落を通り、りんご畑を過ぎると、
村はずれにポツンと白い教会が。
そして、前方には険しい頂の山々が姿を見せ始めました。
いよいよユリアン・アルプスに分け入ってきたという感じです。
ソチャ川を見渡せるベンチでマウンテンバイクのカップルが休んでいたので、私たちも一休み。
彼らは次の村に泊まっているそうで、私たちはコバリードまでだと言うと、「あと3kmだよ」と教えてくれました。
緩やかに流れる川を、カヌーが2漕通り過ぎていきました。
そんなところに、遠くからゴロゴロと不気味な音が。空を見上げると、黒い雲がゆっくりと動いています。
やばい! 急げや急げ!
わっせわっせと走ったら、3kmほどで『ナポレオン橋』に到着しました。
渓谷の川幅が最も狭いここには昔から橋があったそうですが、1616年にヴェネチアが橋を破壊した後、ナポレオンの軍隊が1750年に石橋を建設したため、この名前が付けられたそうです。その後、第一次世界大戦の間にも破壊と再建が行われたそうですが。
絵の具を流したような青い川の上を、鮮やかな黄色のカヌーが通り過ぎていきました。
そして、その上を見ると黒い雲が近くまで迫っています。急げ〜
「急げ〜」と言っても、橋から町の入口まではちょっとした激坂なのでした。
ハヒハヒ、と最後の力を振り絞るサリーナ。
そして、夕方5時少し前に本日の宿に到着したとたん、ザバザバと雨が降り出しました。助かった〜
今日は天気が心配されましたが、終わってみれば途中雨には降られず、陽の差す中を渓谷ハイキングもできてとてもいい1日でした。コースも自転車としてお勧めです。
宿は町の中心にあり、夕食は近所のピッツェリアでラザニアとサラダでカンパ〜イ。
さて、今日はあまり上りはありませんでしたが、明日あさってとユリアン・アルプスを抜ける峠を目指し、ついに本格的な上り行程が始まります。