セキサイダーとは?
『セキサイダー』プロトタイプの本質とは? コンセプトからデメリットまで。
by サイダー・レモン 2001.10
はじめに
私が知らないうちに巷で噂になってしまった『セキサイダー』!
『セキサイダー』とは簡単にいうと、Birdy(BD-1~3およびPEUGEOT PACIFICの総称としてこのペイジでは使用します)用のリア・キャリアで、和田サイクルにて販売、サイダーがそのプロトタイプの設計をしたものです。 『セキサイダー』の命名は@nak(あ)さんが『積載』と『サイダー』を合体させて付けて下さったものです。 巷での噂があまり広がらないうちに、元の姿をお伝えすべきかと思いコメントすることにしました。
Birdy用 市販リア・キャリア
これまで一般的に入手可能な Birdy 対応リア・キャリアは3種類。 簡単に分類してみます。 いずれも販売はMIZUTANIによるものです。
形式 | 釣り下げワイヤー式 | 梯子型つっかえ棒式 | ゴロゴロ型 |
---|---|---|---|
開発者 | r&mと思われる | MIZUTANIと思われる | MIZUTANIと思われる |
販売価格 | 8,000円 | 8,000円 | 12,000円 |
メリット | 軽量。 リアフレームへの負担がない。 | 左よりは重いが、左の強度上の問題点を一応解決。 リアフレームへの負担がない。 | ゴロゴロころがせる。 |
デメリット | 巾が狭い。 構造的にいかにも不安定。 取り付け高さが高い。 | 巾が狭い。 シートポストへの固定部及び固定ボルトが外れやすい。 取り付け高さが高い。 | リアフレームへの負担あり。 取り付け高さが高い。 |
備考 | 折畳みには一応支障なし。 サドルの設置高が低いとテンションワイヤーを取り外す必要あり。 | 折畳みには支障なし。 対応は2001年モデルからとのことだがシートポストへの固定部を削ればそれ以前のモデルにも対応するようだ。 | 折畳みに支障なし。ただし、大きめの輪行バッグでないと入らない。 |
私は1998年製のBD-1に乗っています。 私にとってリア・キャリアは必需品だから本体購入時より使用しています。 『釣り下げワイヤー式』は半年でワイヤー巻取り軸が折れ、1年でシートピンへの固定プレートが損傷してしまいました。 『梯子型つっかえ棒式』は古いタイプのモデルには本来付かない様ですが、本体にアンカーするキャリア付属のプラスチック部品を削り何とか取り付けました。 しかし走行中にしばしば梯子の根元が外れます。 改良された固定プレート取り付けボルトも脱落しやすい。 『ゴロゴロ型』の使用経験はありません。 個人的に形が好きになれないからです。
Birdyに乗っている方でこれら市販のリア・キャリアに満足できないでいる方は結構いるのではないでしょうか。 私は少なくともそうでした。
開発序章
Birdy はいい自転車だと思いますが悩みの種はキャリアと泥よけ。 両者とも満足できるものがない。 そこでこの二つを同時に解決できないかと思いを巡らす。
出発はやはり輪行時の移動が大変ということからでした。 重量増を考えなければ誰でもゴロゴロできるキャリアがほしいんじゃないでしょうか。 ずいぶん前から『自分に最適のキャリアがほしい』との思いはあり、ある小径車が得意な自転車屋さんに相談したこともありましたが、そこでは対応出来ないようでした。
そのうち和田サイクルに出入りするようになったので、和田良夫さんにこの話題(下記基本方針に同じ)を持ちかけました。 すると答えは 『考えてみるよ』 とのこと。
しばらく時間が経ち和田さんから連絡がありました。 いきなり『試作品できたよ』。
私はやってくれるかどうかの返事があるものとばかり思っていましたので、少々びっくり!
行ってみるとスチールパイプ製の四角形でメッキ仕上のゴロゴロできるキャリアがありました。 そばには失敗作も置かれていて苦労の跡が。 こうしてBirdy用 和田サイクル・オリジナル・リアキャリアが出来たのです。
セキサイダーの基本
しかし私が使うには少し問題がありました。 そこで正確な図面を起こして和田さんにお願いすることにしました。 ですから本来『セキサイダー』は、個人使用目的のワンオフもののはずだったのです。 『セキサイダー』の設計方針は以下としました。
■ 基本方針 ゴロゴロできて低重心で充分な積載量がありかっこいい
■ 走行状態
- リュック(500x350x200)が積める---長旅に使うサイズ
- モールトン用デイバッグが使用可能---日常的に使用したい
- シンプルな形状
- ゴム掛け用のフックを付ける---一般的な荷物の積載
- 泥よけの取り付けを前提---泥よけは必需品だと思っている
■ 折畳み状態
- ゴロゴロできる---輪行に便利
- 自立する ---全て折畳んだ状態、リアスイングアームを完全におよび、垂直に折畳んだ状態でも(前輪は折畳まないで)
- チェーンリング60Tに対応可能---私は使用しないけれど
■ 製作上の配慮点
- 加工が複雑にならないように --- パイプ加工は基本的に平面で可能とする
セキサイダーの設計
まずは Birdy 本体の採寸。 立体物だからなかなかきちんとした寸法を取るのが難しかった。 これを作図し、走行状態から折畳み状態までの図を起こし、いよいよ設計。
第一目的はゴロゴロできることなので、リアのスイングアーム側に取り付ける以外に手がない。 これはスイングアーム部への負担や後輪への加重が大きくなる構造だがやむを得ない。 過加重によりフレームが損傷しても誰も責任は負ってくれないだろう。 しかしこれで『泥よけ』が接地しないで済む。
低重心であることは走行時の安定性のために重要、泥よけ(個人的にモールトン用)が納まるぎりぎりの位置を割り出す。 積載量は日常的に使用しているデイバッグとリュックが積めることが前提。
完全に折畳んだ状態でスムースにゴロゴロでき、かつ最低の高さとなるラインを探す。 決め手はフロントサスペンションが接地しない高さ。 『ぎりぎりのライン』(図最下段の接地ラインに近似)を探ると水平よりだいぶ前上がりのラインとなる。 折畳んだときのフレームのメインチューブの角度も気になるところだが、このラインでほぼ水平近くにはなる。
全体の構造を思い描く。 キャリア固定部はフレームエンドのダボと折り畳み時のストッパー取付部以外にない。 積載面は量を考慮すると巾17~18cmはほしい。 これはダボ間寸法より広いので、平面的にはダボ部よりスイングアームに沿って後方は広がり前方は狭い形にする。 角度はスイングアームの角度に設定。 これなら側面部のパイプの曲げ加工が平面で済む。 これで少しは『かっこいい』かな?
キャリアの長さを決める。 デイバッグとリュックの積載を考慮すると、後方はタイヤの最後部より長く、前方はシートピラー直近まで必要であることがわかった。 しかし折り畳み時のことも考慮しなければならない。 本体より長いことは折り畳み時の機動性をスポイルする可能性があるから、後方はタイヤの最後部までとした。 ここで問題が発生、リュックは一部キャリアより後ろに突き出ることになる。 後側コロが積載面より突出しているとリュックの積載に支障がでる。 そこでコロと積載面とのギャップは最低限にセットすることにする。
積載面の角度を決める。 さきの『ぎりぎりのライン』を元にコロの位置と積載面の関係を探る。 考慮する点は
- 泥よけが付けられる
- キャリパー・ブレーキ(97年より前のタイプとBD-2&2.1に採用)にも対応できる。--- 個人的にキャリパー・ブレーキに変更の予定があるのとパートナーがBD-2.1に乗っているので
- モールトン用デイバッグが取り付け可能
- 水平かそれに近い角度
- チェーンリング60Tに対応可能
積載面を水平にすることは簡単なのだけれど、これらを満足させるとやや高い位置に設定しなかればならず、基本方針の低重心に反する結果となる。 コロと積載面の距離が離れるのもかっこわるい。 しかし積載面にあまり角度が付くと荷物を載せるのに支障をきたす。 水平から『ぎりぎりのライン』までのどこかに設定しないといけない。 前側の高さはデイバッグがスムースに取り付けられる高さ(シートピラーに巻き付ける固定用布の間隔による)でなければならない。 最終的には水平からやや後ろ下がりの角度に決定。 低重心を保ちつつ、荷物を載せるのに支障がない角度を選択した。
コロの位置の決定。 高さは『ぎりぎりのライン』に接することで必然的に確定。
平面位置は悩むところだ。
後側はコロの芯をタイヤの最後部に設定する。 これは、キャリアの最も広い部分だから折畳み時の横力に対して有利。 リアスイングアームを垂直まで折畳んだ状態でも安定し、折畳んでも本体の寸法内に納まる。 後側の泥よけはリアスイングアームを垂直まで折畳んだ状態では、物理的に端部が接地することになるが解決の方法が無い(泥よけを加工する以外には)
前側はゴロゴロ時の安定を考慮すると後側のコロからの距離が大きいほど良い。 物理的にはキャリアの最前方でも良い。 しかし横力に対してはコロ横間の距離が小さくなると不利。 重心と加重に対するコロ4点での反力を頭の中で推測して、横力は問題ないと見た。
前側コロの位置の決定要因は複数ある。
- 足に当らないこと
- 後側のコロからの距離を大きく
- デイバッグの側面への膨らみを規制する ---膨らむと足に当る
- リュックの前方のストッパーになる ---リュックが前に出過ぎると足に当る
これらを考慮して割り出したのが図の位置。 足が大きい方なら前側コロに足が当るかもしれません。 その場合はコロを取り付けプレートの内側にセットすれば多分OKでしょうが、安全策を取るなら後方にずらすべき。 後方にずらすと 2 をスポイルするし、リュックの積載に支障が出る。
問題が一つ。 前側コロの位置はフレームへの固定プレートより前方に位置し、カンチレバー部分に取り付く。 自重に対しては問題なしと見たが、ゴロゴロ時の衝撃加重はちょっと心配。 ゴロゴロ時は前方を少し持ち上げて移動するよう心掛けることにする。
以上でほぼ全容が固まった。 詳細設計に入る。
ここからはおもしろくない話題なので省略します。 一点だけいうと、
和田サイクル・オリジナルは主要パイプ径が10mmなのだが『セキサイダー』は8mm。 私の最後の基本方針『かっこいい』からすれば10mmではちょっとごつく見えるので。 ただしキャリアの強度については当然10mmより劣りますね。 でも充分重いので軽量化も必要。
数日後、概念図と2分の1の詳細図を和田さんに託した。 塗装は黒つや消しで指定。
2ヶ月後、和田サイクルから完成の連絡。 受け取りに行くと、ビルダーが余計に3つ?作ったのでそれを販売するらしい。 なぜかこれが巷で噂になってしまったらしい。 ちなみにその最初の購入者が『セキサイダー』の命名者 @nak(あ)さんでした。
使用感
折畳み 特に問題なし。 リアスイングアームを垂直または、完全に折畳んだ状態どちらも自立する。 前輪は畳まないでもOKだ。
ゴロゴロ これは大正解。 東京駅の移動も辛くなくなった。 問題は電車の中で勝手に移動してしまうのでどこかに固定しなければならないこと。 また、私の自転車は前輪を折畳んだ時にそれを固定する金具を外してあるので、前輪の落下を防ぐためにフレームと前輪をゴムバンドで固定している。 金具がある場合でも衝撃で前輪が落下する可能性はあるからなんらかの固定を考えたほうがよいだろう。 前輪が落下するとフロントサスペンションが地面に当ってしまうから。
積載 デイバック、リュック共に問題なく積める。 フックがあるおかげでゴムネットを使い、小型リュック等は数秒で固定できるようになった。
セキサイダーのメリット、デメリット
『セキサイダー』は以上のように個人用に設計したものなので、自分ではメリットもデメリットも理解しているつもりです。
メリット 『セキサイダーの基本』に書いたことです
デメリット 重い --- 一般的に入手可能な Birdy 対応リア・キャリア3種類より重い
フレームを損傷する恐れがある---キャリア自身が重い上に、積載面が大きいので過加重によりフレームが耐えられなくなる可能性がある。
スタンドは加工しないと取り付かない --- 一部を削れば取付可
高価 --- 和田サイクル販売価格 2万円 (内、コロ代4,000円とのこと)
個人的にはデメリットも理解した上で使用する訳ですが。
質問があったことがら
いくつかの点について購入予定の方から質問があったので整理してみます。
■ 取り付けは簡単か?
六角レンチとスパナがあれば取り付けられます。
■ ホイールの着脱に支障はないか?
ありません。 クイックレバ-式でも問題ありません
■ パニアバッグは取り付くか?
想定していません。 そもそもBirdyのリアフレームは大きな荷重を掛けられるように出来ていないと思われるので、上面への積載のみ考えています。 物理的には和田サイクルバージョンの四角形のものなら付く可能性はあるでしょう。
■輪行時に勝手に転がってしまうことへの対策はないか?
知人は前側のコロをはずして、スチールパイプ椅子の脚先に使うゴムキャップを取り付けています。 サドル側を少々持ち上げてゴロゴロすれば移動は問題ありません。
■セキサイダーの耐荷重はどの程度か?
はっきりしませんが、10kgや20kgは大丈夫だと思います。 パニアバッグのところで述べたように、フレームのほうが心配ですから、ほどほどにしたほうが良いと思います。
■Vブレーキのブースター(U型をした補強材)は付くか?
考慮していません。 たぶん付かないと思われます。
セキサイダーの今後
すでに和田サイクルでは『セキサイダー』プロトタイプは早々と売り切れてしまったという。 そこで改訂バージョンを考えているそうで、少し違った形で販売されるらしい。
サイダー・バージョンの改訂セキサイダーがあるとすれば
汎用性を高めること、軽量化、価格を押さえることに尽きると思う。
- デイバッグの為の前方への張り出しを止める。 一般的にここは使わないだろうから。
- 巾をリア・スイングアーム内法まで詰める---若干加工がむずかしくなるが、プロトタイプの巾は一般的にはややオーバースペックぎみ。
- 後部の長さをタイヤ外側とコロ外側が一致するようにほんの少し詰める。 プロトタイプは泥よけ(モールトン用)取り付けを前提にしているので、ごく僅かだがタイヤより後方に出るので。
- OPTION 軽量な材料(アルミ等)で作る。 一長一短だが軽くする最終手段はこれしかない。 コスト高になり、アルミならパイプは太くなるね…
以上が『セキサイダー』プロトタイプの概要です。
製作他この件に関わって下さった方々に感謝致します。
特に和田サイクルの和田良夫さんには大変お世話になりました。
たぶんこれからも『セキサイダー』は和田さんの手によって変貌、進化することでしょう。
その時を私は今から心待ちにしています。
Ver 1.1
その後の経過についてコメントします。
サイダー使用のオリジナル(Ver 1.0)が曲がってしまいました。
全く予測外の加重を受けたためだと思います。
超満員の新幹線で輪行中、同行者が周りの方にその方のバイクを指して、『自転車だから腰掛けてくれてもいいです。』と言いました。 僕も同じことを言ってしまったかもしれない。 酔っていて良くは憶えていないのですが…
翌日、キャリアを見ると前側のカンチレバー(張り出し)になっている部分の根元から5度位折れている。
もし、60kgの人が腰掛けたとしたら… 結果は日を見るより明らかだ。
ここは設計時に少々不安があったところではある。 カンチレバー部分にコロを取り付ける必要があったからだ。 しかし、通常のゴロゴロ時の衝撃程度なら問題ないと見ていた。
前段の設計のところでは述べていないが、実は万が一の時に補強できるように、最前部のバーの位置を微調整しておいた。
このバーに補助プレートを溶接して、フレームのエラストマー固定部へ『控え』を取ることにする。
早々和田さんに連絡して、Ver 1.1 への改訂をお願いした。
ちなみに、この折れ曲がりの問題はVer.1.0以外にはないはずだ。
前方へのカンチレバーがあるモデルでも一般性を考えると、前側コロはカンチレバー部ではなく、その後方に取り付けたほうが良いと和田さんと話したので。
2002.01
Ver 2.1
以前から、ジオポタ内部でも『セキサイダー』の購入を希望する方が数名いた。
そこでついでに、少々汎用性の高いモデルを作ることに。
Ver 2.0
基本方針 --- Ver 1.0からの変更点
1 小型化---前方への張り出しを止める。
(MOULTONデイバッグの取り付け用なので、一般性がないから)
---後部の長さを若干詰める。
(タイヤ外側とコロ外側が一致するまで。1.0はやや大きく感じる。)
作図を終えたが、希望者の一人サリーナから、最低リュックが載る大きさにしてほしいとの要望が出された。 そこで Ver 2.1 へ。 検討の結果積載面が水平の方が、後部の長さを同一にした場合には積載面積が大きいことが分かった。
Ver 2.1
基本方針 --- Ver 1.0からの変更点
1 小型化---前方への張り出しを止める。
2 積載面の水平化--- 勾配を付ける必然性がないなら一般的には水平が良い。
後部の長さは Ver 1.0と同じ(L)ものと Ver 2.0と同じ(S)ものを用意した。
サリーナは Ver 2.1(L)を選択。 試作の意味も含めてとりあえず発注。
Ver 2.1(L) が出来上がってきた。 よく見ると積載面が水平ではない。 まあ製作誤差の範囲なのかな?
2002.01
Ver 3.0
チコからの連絡。 私もセキサイダーほしい! でも荷物は大して積まないし体力ないからゴロゴロできることを主とした小さくて軽いのがいいとのこと。 Ver 2.0を元にさらに一回り小型のものを作ってみた。 ゴロゴロには問題がないらしい。
2002.04