都内から西に向かう中央線が立川駅を過ぎると、先には北から南までちょっとした山並みが現れます。埼玉県の秩父あたりから神奈川県の丹沢あたりまで続く山脈です。その丹沢の上には真白な富士山がぽっかり。今日はいいお天気。
今回のコースは、たとえばGoogle マップの航空写真で見てもらうとわかるように、広大な関東平野が終わりいよいよ山になる、という境界部を走ります。東京都も西の端、山梨県に近い奥多摩地方になるとそこには自然がいっぱい。ミシュラン三ツ星で一躍有名になった高尾山もこのあたりにあります。
後ろに高尾山
出発地はその高尾山麓の高尾駅。この駅には高尾山やその他の山に向かうハイカーがいっぱいです。
駅前から北に向かう高尾街道は狭くてちょっと車が多いのですが、広めの歩道があるので場合によってこれを進めば、先にこんもりした森が見えてきます。
まず左手に桜の名所である多摩森林科学園の森、そして程なく右手に明治天皇や昭和天皇が眠る皇室用の墓地である武蔵陵墓地の森が現れます。
この森の間を抜け、高尾街道から分れた都道に入れば道幅が広がり、少し緊張をほぐして走ることができるようになります。
北浅川
八王子霊園を過ぎて都道から脇道に入ると、そこはひっそりとした道になり、坂を下ると細い川が現れます。
多摩川の支流浅川のさらに支流となる北浅川です。
陣馬街道
この細道が少し広い道に突き当ると、それが陣馬街道です。
陣馬街道の両側には伝統的な造りの家々がちらほら残り、先には小高い山が見えています。
徐々に山の中へ
道は北浅川沿いを大きなカーブを描きつつ穏やかに上って行きます。
この陣馬街道はかつては案下道(あんげみち)と呼ばれ、甲州街道の裏街道として使われていたようです。ちなみに案下とは武州案下、今の八王子のことです。
街並が途切れ周囲に畑が多くなると、先の山がぐっと近づきます。まだ朝の早めのこの時刻、畑には霜が残っていました。
宮尾神社
高尾駅から小一時間で『夕やけ小やけふれあいの里』に辿り着きます。その一角にある、地元で採れた野菜などの直販所の前で一服。
奥にある宮尾神社(交通安全の神様だそうですよ)にお参りすれば、手水には氷が張っている。ぶるっっ 今年の冬はかなり暖かでしたが、さすがにここ数日は冷え込んできています。
境内にはこのあたり出身の中村雨紅の有名な童謡『夕やけ小やけ』の碑があります。
ゆうや~けこやけ~のあかとんぼ~ ではありませんよ、出てくるのはカラスです。歌えますか~
さらに山奥へ
『夕やけ小やけふれあいの里』を出るとすぐ右手にちょっとレトロな上恩方郵便局があるのですが、うっかり通り過ぎてしまいました。
その先で北浅川は二手に別れ、それらに沿って道も二手に別れます。
醍醐川沿いを行く
左手は案下川に沿う陣馬街道で、レーサーに人気の和田峠に至りますが、私たちは右手の醍醐川に沿う道を進みます。こちらは醍醐林道に入って和田峠に至りますが、その醍醐林道は山の中を行く道でダートもあり、きっついのだ~
しかし私たちは醍醐林道に到る前に林道盆堀線の分岐に到達。ここまでは2~3%程度の穏やかな坂でまったく問題ありません。周囲は関東平野ではなくなり、とうとう山に入ったな、という感じです。
ここまで来ると川は狭い渓流となり、そこに架かる小さな『にしげいと沢橋』を渡ると林道盆堀線の入口です。
林道盆堀線に入る
この入口には黄色い車止めがあり、この先車は入れません。私たちにとってはこれは大助かり。車が通らない道はそれだけで魅力50%UPですね。しかしあきる野側のゲートは開いていて、時々車も来ることがあるそうですからちょっと注意を。
車止めから先に見通せる直線区間は上り勾配4~5%でしょうか。ところがカーブに差し掛かるなりいきなり10%超えとなり、その先もこの激坂がしばらく続きます。
盆堀線序盤
このあたりの道幅は車一台が通れる程度で、自転車で走るにはちょうどいい感じです。この激坂を3速しかないブロンプトンでス~ッと上って行くネコちゃん。これには、お~多摩消た!
ひっそりとした針葉樹林の中をゆっくり上って行くと、そのうちに勾配は8%ほどに落ち着きます。道端には落ち葉が積もり、カサコソと音を立てます。この音が聞けるのが冬のサイクリングのいいところの一つですね。
つづら折れの道
木々の合間から上を見上げれば、つづら折れの道がずっと登っているのが見えます。
ヘアピンカーブをいくつか抜けた先で、右手の足元に水場が現れます。近くには、このあたりの飲料水を守ろうというような看板が建っているので、この水はきっとおいしいのだと思うのですが、あへあへの途中だったので立ち止まらずにスルー。
陣馬山から続く稜線
水場の先で道が大きく折り返すと空が開け、勾配が穏やかになります。
ここからは陣馬山から続く稜線が南に見渡せます。
上るムカエル
『お~っ、ここは陽が当たって気持ちいい~』
とはヨタヨタと上ってきたムカエル。
入口からここまで針葉樹に囲まれ薄暗かった道も、この先はこのような開かれた雰囲気になります。
さらに上れば、連なる山の稜線ときれいな針葉樹の林が見えます。
入山トンネル
勾配が穏やかになると入山トンネルに到着。ここまで林道入口から2.7km、230mの上りです。
あれっ、ずいぶん早く峠に着いたな。と思ったらこれは勘違い。トンネルのところが峠であることは多いのですが、ここはその例外で、入山峠はここからまだずいぶん先なのです。
小津川の谷と山並
このトンネルを抜けると先は明るく、北浅川の支流の小津川の谷が右手に広がります。
伐採痕
やたらに明るいのがちょっと不自然に思えたのですが、それにはこんな訳があったのです。
トンネル周辺はみごとな禿げ山になっていたのです。
関東平野と超高層ビル群
谷の向こうに関東平野が広がり、八王子あたりなのか街も見えます。
しかし良く見れば、ずっと彼方には超高層ビルの群れ、そしてその左にはあのスカイツリーも。
最後の上り
トンネル周辺の開けた景色を楽しみつつ、穏やかな勾配の道を進みます。
わずかに下った後はちょっときつい上り返しがあり、その最後にぐぐっとしたカーブが現れると峠に到着します。
入山峠
切り通しになっている入山峠は特に見晴らしはありませんが、トンネルからここまでは明るく眺めもあり、いい雰囲気でした。
入山峠の標識の前で、小さなガッツポーズを。
入山峠からの下り
入山峠からあきる野側に下り出すと北西に視界が開け、いい気持ち。
この日気温は低く、峠付近は摂氏3度で下り道の凍結が心配でしたが、陽が照っているためか、凍結している様子はなし。よかった~
それでも万が一に備え、慎重に下って行きます。このあきる野側に下る道は八王子側の上ってきた道に比べ、路面に荒れたところがあり、穴ぼこが開いていたり荒れたコンクリート舗装のところがあったりしますからちょっと注意を。
盆堀川沿いを下る
右手の視界が消えると左手に盆堀川の沢が現れ、針葉樹林の中をこの沢に沿ってどんどん下って行きます。いい感じです。
あきる野側のゲートらしきところを通過(ゲートの存在ははっきりしなかったけれど、あったにしても完全にオープン)してなおも下ると、採石場のようなところを通ります。このあたりには近年までダートのところがあったようですが、今は舗装されています。
盆堀の集落
民家が現れるとそこは傾斜地に家々が建つ盆堀の集落で、ここもなかなかいい雰囲気。
この集落の下にある小宮神社を過ぎると盆堀川が秋川に合流し、林道から続く道も檜原街道に合流します。と、とたんに交通量が増えます。もうここは武蔵五日市駅のすぐ傍なのです。
平井川とセメント工場
檜原街道沿いで昼食を済ませた後は、五日市線のガードを潜り秋川街道を北上します。道のすぐ右手には、武蔵五日市と武蔵岩井間を走っていたかつての五日市鉄道の廃線跡の低い土手が100mほどの区間に渡り延びています。
平井川沿いを上流に向かえば、その五日市鉄道の終着点、武蔵岩井駅があったセメント工場が見え出します。この路線はこの工場で作ったセメントを運ぶためのものだったのです。
平井川に沿って進む
右手には低い山が続いています。この山にこれから向かう林道西の入・ホオバ線と林道北大久野線があるのです。
このあたりは平将門の伝説が残るところで、言い伝えでは、勝峰山(かつぼうやま)に立てこもった将門を目掛けて官軍の藤原秀郷が矢を放つと、その矢は将門の鎧をかすめて谷を越え、その先の山をも越えていったそうな。
この戦が不利と見た将門は、山を下り、間坂(まざか)(将門坂ともいう)を越えて青梅に逃れた、といいます。
先に勝峰山
セメント工場を通り過ぎると先にはその勝峰山が現れ、右手には山に登って行く細い間坂が。
このあたりの平井川は護岸工事がされておらず、とてものどかでいい雰囲気です。
ポニー
平井川沿いの都道は車が少なく快適なのですが、川向こうにも細道があるのでこれを行ってみます。
すると段々畑の下の梅の木には白髭ヤギさんが繋がれ、その先ではポニーが数頭草を食んでいます。のどかでのんびりした風景です。
林道西の入・ホオバ線の入口
左右から尾根が迫り、あたりが少し薄暗い感じになってきて細い平井川が大きくカーブしだすと、対岸の都道の向こうに林道西の入・ホオバ線の入口が現れます。
西の入・ホオバ線に入る
この林道の入口からは先に激坂が見えています。
態勢を整え、深呼吸をして、いざ西の入・ホオバ線に突入!
入口付近の激坂
この林道は先の盆堀線と違って、距離は短いものの平均斜度11%という激坂が続くのです!
というわけで、しょっぱなからその激坂をワセワセ。
ちょっと楽なところ
最初のカーブを曲がると若干斜度が落ち着きますが、それでも10%はあろうかという坂が続きます。
西側の展望
標高が低いこの道からの展望はほとんどありませんが、それでも所々で西側の勝峰山方面に視界が開けます。
峠までは僅かな距離ながら、意外と山深い感じでいい雰囲気です。
激闘ケンちゃん
頂上まであと僅か。
峠までは下から2kmもないので押しても30分、乗って上るのがきつい初級者でも問題なく到達できます。勾配の変化がほとんどなく、上り返しもないので中級者なら問題なしかな。
えっさえっさと最後の力を振り絞って上るケンちゃん。
通矢(つうや)尾根の林道北大久野(台沢)線へ
へとへとになって辿り着いた峠には名もなく、眺望もなく、ただひっそりとしています。
実はここは先の将門伝説で藤原秀郷が放った矢が越えていった山で、そのためにこの尾根は通矢(つうや)尾根と呼ばれているようです。
この通矢尾根を南東に延びる砂利道が林道北大久野(台沢)線で、今は錆びてしまった鉄のポストと黄色い工事中を示す立て看板にその名が示されています。
一休みしたのちは、その林道北大久野(台沢)線に突入。
締まった路面の北大久野(台沢)線
この路面は固く締まっており下り基調であることも手伝って、私たちの小さなタイヤの自転車でもなんとか走れます。
尾根を走るので、林道としては空が広く明るいので不安も大してありません。
徐々に山深く
しかし山の奥に入って行くにしたがい、この先本当に抜けられるのだろうか、とちょっと不安にもなってきます。
そして下り基調ではあるものの、やっぱり途中には小さなアップダウンも。
間坂峠
ここでは林道の本来の姿を垣間見ることが出来ました。道端には切り出された杉の木が同じ長さにそろえられて積まれています。
その丸太の置かれた先には、尾根上に這い上るように続く細い地道があります。
この細道こそあの間坂(将門坂)から抜ける道で、将門はここを通り水口(みのくち)に下りたといいます。ここの小さな峠は間坂峠と呼ばれているようです。
通行止め付近
さて、道はここから上りに。その道を500mほど行くと工事用の車両が停められており、その先は通行止めとなります。
入口の看板にあったように、この林道は工事中でまだ完成していないのです。
間坂峠まで引き返し、私たちも将門に倣い、峠の向かいのコンクリート舗装の激坂を下って都道に向かいます。
最終加工前の卒塔婆
都道に出る前には卒塔婆(そとば)がならんだならんだ。ここ大久野は元禄時代ごろから江戸に卒塔婆を出荷していたらしく、日の出町の昔ばなしには、村人がお伊勢参りの帰り浜松あたりで助けたお坊さんに、樅の木で塔婆(とうば)をこしらえて江戸に売ったら良い、とアドバイスを受けたのが始まり、というようなことが書かれています。この工場はその伝統を引き継いでいるのですね。
坂を下って出た都道を北に向かえば梅ケ谷峠を越えて青梅に抜けます。
将門伝説は青梅にも残り、なんと青梅という名もその一つから来ているようです。それは、将門が挿した梅の木の実が秋になっても青い実が落ちない、というものです。
関東平野から山並みを見る
ここからは細道を選んで秋川に向かいます。
秋川が近づくときれいにならされた畑の向こうに山並みが。あの山並みのどこかに午前中走った林道盆堀線と入山峠があるはず。
ここは関東平野に西の果てなのです。
秋川沿い
東京サマーランド付近からは自転車道のような造りの道が秋川に沿って延びています。
引田橋の先で民家の脇を入れば小さな青い水門があり、そこから秋川に沿ってこんな細道が延びます。ここは自転車同士でもすれ違えないくらい細く、夏なら草に埋もれてしまいそう。
観覧車と六枚屏風岩
この極細道が終わると少し広めの土手道に出ます。
そのころには前方に東京サマーランドの観覧車とその手前の六枚屏風岩が見えてきます。秋川沿いのこの道は特に自転車道とかサイクリングロードの表示はないのですが、自転車で走るのにぴったりの道です。
このあたりは対岸は小高い山、手前側は田んぼで周囲が広く感じられとても気分よく走れます。
秋留橋で河川敷に下り、レトロな東秋留橋を潜り抜けたところからは桜並木が続く土手上を行きます。この土手上からは広い河川敷が見渡せます。土手が途切れると再び河川敷に。
東秋川橋付近
東秋川橋に差し掛かると秋川は大きなうねりを見せ、川の中にはこんな構造物が現れます。
『秋川渓谷』の標識のあるこの河川敷はBBQ場になっているようで、その設備のレンタル施設とトイレがあります。
多摩川
東秋川橋を過ぎると、すぐに秋川は多摩川に合流します。
さすがに多摩川の河川敷は秋川とは比べ物にならないほど広い。
ダートの多摩川自転車道
睦橋を渡って福生南公園に入ります。福生南公園からは多摩川自転車道を。
下流では広い多摩川の流れもこのあたりではかなり細く、それに比例するかのように自転車道も狭くて、静かでのどかな感じです。
一部にはこんな狭いダートもあって楽しい。
先に多摩大橋
自転車道の幅がいつの間にか広がり、快走。
多摩モノレールが走る立日橋で多摩川自転車道を離れ、立川駅へ。
あとがき
このコースは平地では飽き足らなくなった初級者が挑戦するのにいいのではないかと思います。
まず東京都にありながら自然がいっぱいです。
次に林道盆堀線(入山峠)は序盤はきついものの、中盤からは勾配が穏やかになり眺めのいいところもあります。下りも恐ろしいところはなく、快適でしょう。
林道西の入・ホオバ線は勾配はきついものの、距離が短いので押してもたいして時間は掛かりませんし、標高が低い割に山の雰囲気を味わえます。中級者ならこの勾配を上れるかどうかの足試しにもいいでしょう。
三つ目の難所、 林道北大久野(台沢)線はダートですが比較的良く締まっている上に下りですから、これもダート入門編としては適当だと思います。明るいので不安なく走れます。
最後に、秋川と多摩川の川沿いをのんびり行けば、前半から中盤までの疲れを癒せるでしょう。ここはロードレーサーでカッ飛んでくる人も歩行者も下流域に比べれば圧倒的に少ないですし、下り基調で景色もいいですよ。