水郷潮来駐車場にて
梅雨の季節に似合う花は? あじさいもいいですがアヤメや花菖蒲はどうでしょう。この時期は茨城県と千葉県の境にある水郷地帯の潮来と佐原であやめ祭りが行われており、花菖蒲が満開とのことなので出かけてみることにしました。
東京駅から高速バス(JRバスは自転車輪行不可)に乗れば、隅田川、荒川と越え、江戸川を渡って千葉県に入ります。成田空港に発着する飛行機を眺めていると、ほどなく利根川を渡り、すぐにまた常陸利根川を渡ります。
東京から一時間半で東関東自動車道の現在の終点である潮来インターチェンジを出ます。これを下りるとすぐに、田んぼの中にある大駐車場に到着。ここで自転車を組み立て、いざ潮来の前川あやめ園へ。
田んぼの中を行く
目的地のあやめ園は前川が常陸利根川と合流するところにあるので、前川を東側から辿ることにします。
まずは広い田んぼの中をどんどこ。
きれいな生垣の民家
関東平野は風が強いので、防風のための生垣が家の廻りを囲っています。この生垣は大きくて立派。
前川の上米橋
出発点から2kmほど走ると前川が現れます。
このあたりは今でこそ陸路が当然のようにありますが、かつて水運が主な交通手段だった水郷地帯では、人が行き来するため水路に小さな橋がたくさん架けられていました。この前川にも橋が12あることから、それらは前川十二橋と呼ばれています。その十二の橋とは、常陸利根川側の前川水門橋からr50に架かる前川橋までを指すようです。
愛友酒造の白壁
前川橋の次の上米橋は欄干が木で出来ていて、ちょっとした趣があります。この橋を渡り先に進んで行くと、白壁の立派な造り酒屋、愛友酒造があります。
愛友酒造見学
水郷地帯は米どころ。米とくれば酒がないはずがありません。かつてこのあたりには数軒の造り酒屋があったそうですが、現在残っているのはこの愛友酒造唯一軒だそうです。
ここは無料で見学できるので、おじゃましました。写真正面の神棚がある奥が酒蔵で、解説者の後ろにあるのは米を蒸す時に使う『せいろ』のような役割をする容器で、なんとそこには米が2tも入るそうです。ここで米を玄米の7割(一般的な清酒)から3割り(吟醸)ほどになるまで研いで、蒸し上げるのだそうです。
酒蔵
仕込みは年一回、冬場に行われ、造られた酒はこの昭和40年ごろ製造のタンクで保管されます。タンクは鉄製ですが、内部はガラス質のホーローのような素材でコーティングされていて、品質に変化を生じさせないようになっているとか。
肝心の麹や酵母を混ぜて酒を造る主要な行程を行う場所は、この貯蔵所の奥にあります。そこで出来た酒の元を木の板に挟んで搾ると、そこに酒粕が残ります。酒粕が平べったい形をしているのにはちゃんとした理由があったのですね。そして出てくる液体は、微発泡のシャンパンのようだとか。
ん~ん、これは一度味わってみたい!
愛友酒造酒蔵外観
愛友酒造は創業200年ほどだそうで、この酒蔵もだいぶ古いものですが、補修を繰り返しながら大切に使っているようです。内部はこの時期でもひんやりとしていて大変涼しく、日本の伝統建築の良さが感じられます。
酒蔵見学のあとにはお決まりの試飲が待っています。樽酒に始まり、夏用のすっきりしたもの、そして日本酒に漬けた梅酒もあります。ここでしか手に入らない逸品も! このあやめ祭りの期間中は飲み放題とのことで、ちょっとコース設定を誤ったぁ~
前川と十二橋巡りの舟
さて、お酒の匂いだけ嗅いで愛友酒造を後にし、前川に戻れば千石橋を渡ります。
前川の橋のほとんどは、今では車が通れる立派なものに架け替えられていますが、ここは歩行者用なので一昔前のスケールに近いかもしれません。こうした橋を眺めつつ、前川を下って行きます。
前川あやめ園
前川が常陸利根川に合流する直前にあるのは『前川あやめ園』。
ここは白や紫の花菖蒲が満開です。花菖蒲に良く似た花としては、アヤメとカキツバタがありますが、咲く時期はアヤメ、カキツバタ、ハナショウブの順で、この時期はアヤメとカキツバタはおしまいだそうです。
前川あやめ園の花菖蒲
この中で一番花が大きく華やかなのがハナショウブで、これが今満開なのです。
前川あやめ園の花嫁さん
あやめ園の一角にすごい人だかりが。その中にはきれいな花嫁さんがいました。
船頭、長持ちを持つ人、仲人に続いて花嫁さんが歩いてきました。
ろ舟乗り場で舟に乗り込んで『嫁入り舟』の支度が整ったようです。花嫁さんを乗せたさっぱ舟が出発。
嫁入り舟
もともとこの地方は陸路より水路が発達しており、何をするにも、どこに行くにも笹の葉に似た『さっぱ舟』が使われていました。花嫁さんも昔はこの『さっぱ舟』に乗ってやってきたわけです。
潮来ではあやめ祭りの期間中だけ、この『嫁入り舟』を復元しているのだそうです。もちろん花嫁さんは、本当の花嫁さんです。
長勝寺参道
華やかながらもしっとりした『嫁入り舟』を眺めたら前川あやめ園を後にし、長勝寺に向かいます。
長勝寺本堂
長勝寺は源頼朝の創建と伝えられている古刹で、水戸藩主徳川光圀が再建した禅寺です。
国の重要文化財の銅鐘、茅葺きの本堂があり、その奥に、
方丈庭園
手入れが行き届いた清々しい方丈庭園があります。ここはなかなか良いお寺です。
長勝寺の裏手に広がる小高い森は稲荷山公園で、これを上れば、野口雨情の『船頭小唄』の詩碑が建ち、潮来の市街地と水郷が一望できます。
常陸利根川の自転車道
常陸利根川の土手上には自転車道があります。これを使って北上すれば、川沿いには水郷北斎公園が延び、さらに北上すれば霞ヶ浦です。
ちなみに常陸利根川は北利根川とも呼ばれるようで、国土地理院の地形図では常陸利根川が、道路標識には北利根川が使われています。
霞ヶ浦
霞ヶ浦は琵琶湖に次ぐ大きさの湖として知られますが、これは地図で見てもわかるように、デコボコしていて、あんまり湖らしくありません。だいたいにして、どの範囲が霞ヶ浦なのか、よく分からない。
なんと河川法では霞ヶ浦を含むこの周辺一帯は、さっきまで土手上を走ってきた常陸利根川という扱いになっているのだそうです。つまり霞ヶ浦は川なんですね。
権現山公園に上る
広い川である霞ヶ浦を眺めたら、ちょっと逆戻りして潮来の街外れの小高いところにある権現山公園に上ります。
『うわ~、この上りきつっ~~ 15%くらいあるんじゃあないの!』 とわめきつつ上る面々。速、押しの方も何人か。でもこの坂は15%もありませんよ。
権現山公園からの眺め
えっちらおっちらした甲斐があって、権現山公園の展望台からは常陸利根川沿いに広がる水郷地帯と霞ヶ浦が一望できます。そして晴れていれば筑波山や富士山も見えるのだそうですが、残念ながらこの日はそれらの姿はなし。
このあたりは今でも牛堀と呼ばれ、北斎の富嶽三十六景『常州牛堀』が描かれた場所といわれているようです。ちなみに富嶽三十六景は36枚ではなく、46枚あるのをご存知でしたか。最初は36枚で打ち止めのはずだったのですが、あまりの人気の高さに10枚追加したのだそうです。
常陸利根川の千葉県側を行く
常陸利根川の一番霞ヶ浦側に架かる北利根橋を渡って千葉県に入ります。茨城県と千葉県の県境のほとんどは利根川になっていますが、ここだけ千葉県が出っ張った形で常陸利根川が県境になっています。
千葉県側の常陸利根川の土手上も自転車道で快適です。
加藤洲十二橋
その常陸利根川を前川あやめ園の対岸まで下ると、そこにはもう一つの十二橋、加藤洲十二橋が架かっています。
この水路は前川よりずっと狭く、橋もずっと小さい。ここは、昔はこんなところがたくさんあったのだろうな、と思わせる、そんなところです。この狭い水路に十二橋巡りの舟がやってきます。反対側からも舟が来るとこれは大変。ゆっくり慎重にすれ違って行きます。
加藤洲十二橋の橋
ここの橋は民家の庭先から反対側の民家の庭先を繋いでおり、一軒に一本の橋があるように見えます。こうした橋は人一人がやっと通れるくらいのもので、中には欄干がなく、ただの板きれを渡しただけのようなものもあります。
ここは日本のベニスですね。
舟と共に与田浦に向かう
加藤洲十二橋を出ると水路の巾は倍以上になり、その脇にはこれまでなかった道が付くようになります。ここに出ると十二橋巡りの舟はもう一安心とばかりに、モーターを回して速度を上げて行きます。(TOP写真参照)
十二橋巡りの舟が向かうのは、この先にある与田浦です。このあたりは利根川の流れが移動したあとに残った湿地帯を開拓した地域で、十六の集落が形成されたことから通称十六島と呼ばれています。
十六島の田んぼの中を行く
十六島は昭和30年代後半に土地改良事業が行なわれ、どんどん埋め立てられていって、今は島ではなくて立派な陸地になったのですが、その残りが与田浦ということなのでしょう。
与田浦
ただ一面緑の田んぼの中を走って行くと、川のような、沼のような与田浦に到着。
水郷佐原水生植物園
その北西端に加藤洲十二橋巡りの舟の発着所があり、その向こう側に水郷佐原水生植物園があります。
この水生植物園は、失われゆく水郷景観を保存するために造られたそうで、5haという広大なものです。
さっぱ舟による水路巡り
ここでもあやめ祭りが行われています。このあたりは行政の線が引かれるまでは潮来と同じ地区だったといってよいところでしょう。そんなわけで、ここにも『嫁入り舟』があるのですが、こちらは香取神宮の神主さんがやってきて挙式をあげ、巫女さんの踊りもあるそうです。しかし残念ながらそれは明日だそうです。
さっぱ舟に乗る
ここではさっぱ舟に乗ってみます。
さっぱ舟から見る風景
花菖蒲や柳の木を見上げるようにして、舟は静かにゆっくりと進んで行きます。水面には一時絶滅を危惧された黄色いアサザや蓮の花が浮かんでいます。このさっぱ舟は水が近くて、なかなか気分いい。
花菖蒲の花を摘む
この園は入園料が必要ですが、それを支払うだけの価値があります。花菖蒲はびっしりと咲いており、その中でお仕舞いになった花を摘む、絣を着て笠を被った係の人の姿もあります。
水路を行くさっぱ舟
園を一廻りして、そろそろ出発しよう、というところで空からポツポツと。
水郷は雨も似合います。
与田浦沿いを行く
水郷佐原水生植物園を出て、与田浦に沿って東に向かいます。
一面の田んぼの中を行く
周囲は一面、緑の田んぼで気持ちいい。しばらく行くとJR鹿島線の高架橋が見えてきます。
これをくぐると次は、朝バスで通った東関東自動車道の利根川橋が現れます。
利根川を渡る
この利根川橋に沿って、歩行者と自転車のための橋が架けられているので、これで利根川を渡ります。
しかしこの通路は真っすぐで長く、ちょっと不気味。夜は通りたくありませんね。
利根川右岸の大利根サイクリングロード
利根川右岸の土手上は大利根サイクリングロードという自転車道になっています。
津宮鳥居
これを遡って西に向かえば、やがて川岸に鳥居が現れます。
これは香取神宮のかつての表参道の一の鳥居、津宮鳥居です。香取神宮は利根川から参拝するのが本式ということでしょう。12年に一度のお祭りではここから神輿が御座舟に乗せられるそうです。
香取神宮の森
この津宮鳥居からかつての表参道で香取神宮に向かいます。
先にこんもりとした森が見えてきました。あの森の中に香取神宮は建っています。
香取神宮への上り
周囲が木々に覆われ真っ暗になると、道はその中を突然上り出します。
この上りはちょっときつい。しかし距離はほんの少しなので問題ありません。
香取神宮山門
この坂を上り切ると香取神宮です。
この神社の創建は神武天皇の代と伝えられ、明治以前に神宮の称号を与えられていた、たった三社しかないうちの一つとのこと。あとの二つは伊勢神宮、そしてここのすぐ近くにある鹿島神宮です。この時本殿は改修中で覆いが被せられていたので山門の写真を。
この由緒正しき香取神宮にお参りしたら、いよいよ佐原の街に向かいます。しかしお参りしているうちにゴロゴロ様の太鼓が大きく鳴り出して、雨が強くなってきました。10分ほど様子を見るも改善の兆しがないので、やむを得ず出発。
佐原の小野川沿いの街並み
香取神宮と佐原の街は2kmほどの距離なので10分ほどで小野川の畔に到着。
佐原は江戸時代に利根水運の中継地として栄えたところです。小野川沿いには当時の街並みが残っており、その周辺は重要伝統的建造物群保存地区に、また華やかな山車が出る『佐原の大祭 』は国の重要無形民俗文化財に指定されています。
正上と『だし』
佐原の中で最も古い建物は、佃煮を製造販売している正上(しょうじょう)はでないでしょうか。店は江戸時代は天保3年(1832年)の建造で、元は赤い紅殻(べんがら)で塗られていたそうです。そしてその脇の明治初期建造の蔵は黒漆喰。赤と黒という色の対比がいきですね。
正上の前を流れる小野川の縁には、『だし』と呼ばれる荷揚げ場があります。小さな川の畔に柳というのも日本的で洒落ていますね。
佐原の小野川沿いの街並みその2
この小野川とr55が交わったところに架かる忠敬橋が古い建物が集まっている地区の中心です。忠敬橋の忠敬とはかの伊能忠敬のことです。
伊能忠敬は全国を測量し、初めて日本の国土の正確な姿を明らかにした人物として知られています。その忠敬が婿養子に入った先がこの佐原の伊能家で、ここで忠敬はしばらく家業の酒や醤油の醸造や貸金業などを営んでいたそうです。伊能忠敬旧宅の前を流れる小野川の縁にも、『だし』を見ることができます。
小野川をはさんだ伊能忠敬旧宅の向かいには伊能忠敬記念館があり、その半生や伊能図が紹介されています。伊能図の中でも1821年完成の『大日本沿海輿地全図』、その中でも縮尺1/36,000の大図は感動ものです。今回ここは雨だったので入館しませんでしたが、是非どうぞ。
忠敬橋西側の正文堂、小堀屋、福新呉服店など
忠敬橋の袂には土蔵造りの店などが並んでいます。そうした中に創業文化元年(1804年)の福新呉服店があるのですが、ここのおかみが始めた、古いものを店先に展示する『まちかど博物館』がきっかけとなり、それが今では『まちぐるみ博物館』に発展したそうです。この店の中には古い時計が掛けられています。
佐原に古くからある店を覗くと、その家に代々伝わるちょっと懐かしいものや珍しいものに出会えます。この向かいにある中村屋商店では一枚の紙で折られた千羽鶴の『連鶴』が展示されています。
三菱館
洋風建築も。これは大正3年(1914年)建造のイギリスの煉瓦を使った旧三菱銀行佐原支店の三菱館。
雨が降り止まないので早々に街並み見学はおしまいにして、宴会に入ろうということに。
うなぎ割烹山田の『じか重』上
佐原には洒落たフレンチやイタリアン、そして本格的な日本料理が味わえる店がありますが、ここはやっぱり鰻でしょう。佐原は鰻で有名なようで鰻やはたくさんありますが、駅近くのうなぎ割烹山田におじゃましました。
ここの鰻は備長炭でじっくり焼かれ、それから蒸されます。付け出しの肝煮に続いて上白焼きを。これは上品で美味。鰻重上は3,200円(肝吸い、香の物付)とちょっと高いのですが、たれが絶妙で、香ばしくおいしい。ごはんは二人前かと思うほどの量で、これはちょっと多過ぎじゃあありません?
鰻重は二種類あり、『じか重』はごはんの上に蒲焼きを乗せた一般的にいう鰻重で、この店で『うな重』と呼ぶものはごはんと鰻が別々に出てきます。これは好みですが、私たちの人気は半々といったところでした。とにかく全員、満腹、満足満足。
佐原駅前
さて、鰻を食べている間に雨は上がったようです。バスの時間までまだ間があるということで、ちかちゃんは柏屋のもなかと榎屋のおせんべいを、サリーナは中村屋商店の『干しするめいかの麹漬け』を買いに向かったのですが、どちらもタッチの差で買い損ねたとか。佐原の店じまいは早いのでご注意を。