都心から水戸市近郊まで、関東平野を遊覧します。
東京から水戸までは100km。自転車で最速なのは国道6号をまっしぐらということになりますが、これは面白くない。できるだけ広大な関東平野を感じながら、あまり遠回りにならないルートを考えます。最大のポイントは、東京と水戸の丁度中間に位置する土浦あたりをどう抜けるか。土浦の東には日本第二の大きさを誇る湖、霞ヶ浦が、北には関東平野の雄、筑波山があります。
土浦市街を抜けることは到底考えられないので、別のルートを探ると、三つほど候補が上がります。その一は、霞ヶ浦の南東に位置する潮来まで東進し、霞ヶ浦と北浦の間を北上する。その二は、土浦と筑波山の間を抜ける。その三は、筑波山の北側を廻る。
一と三は最短でも130kmとなり、実走距離は軽く150kmを超えそう。これはこの時期にはちょっと厳しいので、二にターゲットを搾り、実走距離130kmを狙うことにします。
出発は小石川の播磨坂。まだ真っ暗です。この時刻に出ないと、今日は辿り着かないからね。
ところが、寝坊して、ちょっと集合時刻に遅れたサオリちゃんなのでした。
まず東京の都市部を抜けなければなりませんが、これはどこを通っても大きな違いはないでしょう。そこでその先が快適なところということで、江戸川自転車道を目指すことにします。
日暮里から南千住へ出、隅田川を渡ります。空はだいぶ明るくなってきました。
さらに荒川を渡り、中川の高砂橋を渡るところで、ちょうど日の出を迎えました。
その先の柴又で江戸川に出ます。
都心の早朝は日中よりだいぶ車が少ないのでかなり快適に走れますが、それでもここまでやってくるとさらに安心です。江戸川には江戸川自転車道があるので、ほっと一息です。
この右岸側、東京側の下流域は、日中は歩行者が多く混雑します。しかし、朝早くのこの時間帯はそれほどでもないので、このまま右岸側を北上。
金町の三角帽子の取水塔の前で、サオリちゃんとサイダーにプロちゃんが合流。今日は長距離とあって、参加はこの三人。
上っていく朝日を眺めながら、鼻歌まじりに快調に江戸川自転車道を飛ばします。
川沿いは遮るものがないので、風の影響を受けやすく、この時は向かい風3m/sで、ちょっと抵抗が大きい。しかし、何といっても車が通らない自転車道は快適。20km少し、どんどこ進んで、野田橋に到着。
今日の主役は筑波山なのですが、この時刻は空に雲が出ていて、残念ながらそれはまだ見えてきません。
野田橋を渡ると、千葉県です。
江戸川自転車道の千葉県側は、川まで近いので、川面を見ながら走ることができます。
一方で、住宅地までも近いので、東京側より周囲の空間が狭く感じられます。
千葉県側の自転車道を少し北上したのち、東に向かうと、清水公園です。
清水公園は現キッコーマンの初代社長によって開設された、めずらしくも私設の公園です。
ここのトイレをお借りして、ちょっと休憩。
清水公園からは、千葉のカントリーロードをずいずい。
この季節は、田んぼはもちろん、畑にもあまり作物はなく、周囲はひっそりとしています。
田畑の中を進んで行くと、ほどなく、利根川に出ます。
利根川はいうまでもなく、日本で最大級の川で、支流・分流は数え切れないほどあります。先ほどまで横を通っていた江戸川しかり、これから渡ることになる、鬼怒川や小貝川もこの支流です。
芽吹大橋には歩行者と自転車のための橋が併設されていて、安心して渡れます。
そのちょうど中間、利根川の中心線上が千葉県と茨城県の境。
茨城県に入ったら、利根川の土手を行きます。ここにも自転車道が設えられていて快適。
これは土手の上の自転車道から利根川の河川敷を見たところですが、この河川敷はとても広くて、川面は見えません。
利根川の自転車道にはまったく誰もおらず快適なのですが、これをどんどこ行ってしまうと銚子に着いてしまうので、少しだけ様子を見て、下に降ります。
利根川の自転車道を降りると、そこはまたまたカントリーロードで、ほとんど車は通らず、田畑の他はパラパラと民家が建っているだけ。
たまにあるアクセントは、名もなき小川で、こうした小川にはこの先も何回も出会うことになります。
林の中に開かれたこの小さな畑では、冬に作る作物の準備に忙しくしています。
そうそう、今日のコースは真っ平らな関東平野を行くので、大きなアップダウンはありません。最大標高差は30mしかないのです。しかし、川が流れ、谷戸があるので、ちょっとした上りはそれなりにあります。そんな坂道はひっそりとした森の中を行くことが多い。
カントリーロードに砂利道、地道は付きもの、ということで、たまにはそんなところを走ります。
ダート苦手のサオリちゃんは、そんなところではどんどん遅れてしまいます。
多くの田畑は休養中ですが、中にはこんな青々とした作物が育っているところもあります。
その向こうの木々は紅葉しつつあるようです。
広々とした青い空。
その下に広がる何もない田んぼの中をどんどん行きます。
行く手に立ちはだかる土手を上れば、
それは鬼怒川で、ここの少し南の守谷市で先の利根川に流れ込んでいます。
鬼怒川の先は当然のごとくカントリーロード。
そして利根川の支流の小貝川を渡ります。
このあたりの川はみんな静かな流れですが、その中でもこの小貝川は流れているのかどうかわからないほど。
小貝川の先もカントリーロードを行くのですが、田畑以外にあるのは、こうしたちょっとした林くらいのものです。
ここはちょっとした広場なのか、芝生のように広がる草が、赤くなっていました。
温暖なこのあたりは、寒さの厳しい地方のようなきれいな紅葉はないのですが、それでもそろそろ見頃という木々がたくさんあります。
これまでのカントリーロードから車の通りがある広い道に出ると、そこは筑波の研究学園です。
時は12時近く。お腹も減ったし、このあたりでお昼にすることにします。
研究学園は、なんにもなかった田畑の真っただ中に、研究機関や大学などを集めた人工的な都市で、かつては巨大な建築がポツポツと建っていただけでしたが、つくばエクスプレスが開通し、ショッピングセンターなどもできてきて、都市らしくなってきました。
先に見えるのは巨大な商業施設で、レストランもたくさん入っているので、ここでお昼に。
昼食後、プロちゃんが離脱。残ったサオリちゃんとサイダーはさらに東を目指します。
この都市は南北には長いのですが、東西は狭いので、一気に通り抜けます。
研究学園の中心部を抜けたところで、ようやく筑波山がはっきりと見え出しました。
今日は午前中からずっと筑波山を眺めながら走るはずでしたが、なかなかそれは見えず、ここでようやく拝むことができたのでした。
住宅地を抜けると、道はいきなりカントリーロードです。
筑波山を眺めながらどんどこ行くサオリちゃん。
筑波山の南には前山があるので、しばらくすると筑波山はその山に隠れて見えなくなってしまいます。
ありゃ、筑波山と記念撮影していなかったねと、遅ればせながらここでパチリ。
桜川を渡って少し行くと、ちょっとした森を背後に、赤く色付いたケヤキ並木が見えてきました。
このケヤキ並木のところには、土浦市と桜川市を結ぶ『つくばりんりんロード』が通っています。
サオリちゃんは、ここからこの自転車道で土浦駅に向かうことになり、サイダー一人、東進を続けます。
しばらく行くと、森に囲まれた田んぼが続く快適な道に出ます。この田んぼの中にはどうやら小川が流れているようなのですが、なかなかその川面は見えません。
常磐自動車道の高架をくぐると、ついにその川が現れました。ちょうどそこに遊びに来ていた親子がいたので、この川の名を聞いてみると、『天の川』だといいます。あの夜空に流れる天の川と同じ名だそうです。
名付けるにはちょっと勇気が入りそうですが、なかなかいい名前ではないでしょうか。
ここから道は天の川に沿って続いていきます。
天の川は霞ヶ浦に流れ込む恋瀬川の支流で、まっすぐ行けば恋瀬川にぶつかるのですが、残念ながら道はその直前で荒れ荒れのダートになってしまい、ちょっと迂回します。
まあ、恋瀬川に出ることができても、その土手上の道はこんな調子なので、ここは迂回して正解でした。
筑波研究学園の先で前山に阻まれ、いったん見えなくなった筑波山ですが、東に廻ってきたので、ここでは再びその姿が見えています。
視線を右に移動していくと、筑波山の北にある加波山あたりも。
恋瀬川の右岸の土手は、r221より上流は非舗装ですが、それより下流は恋瀬川自転車道となり、舗装路となります。この恋瀬川自転車道を下って行くと、JR常磐線をくぐり、その先で土手下の田んぼ道となり、恋瀬川最下流の橋に繋がるr118に出ます。
r118の橋を渡り恋瀬川の左岸に出れば、こちら側は下流に向かって自転車道らしきものが延びています。
この道をどんどこ行けば、ほどなく霞ヶ浦となります。
霞ヶ浦は琵琶湖に次ぐ、日本第二の大きさを誇る湖で、その湖岸では人々が釣りを楽しんでいます。
振り返れば、ここからもあの筑波山が。
霞ヶ浦の北岸の土手上の道は快適なのですが、これはどんどん南東に下ってしまうので、ちょっとだけこの道を使って東に移動し、湖岸を離れて北上します。
霞ヶ浦からは一気に標高20mまで上ります。これが意外ときつくて、よろよろ。
ここは小美玉市(おみたまし)という、ちょっとお洒落な名前の市です。小美玉市は平成の大合併で、小川町、美野里町、玉里村がくっついたもので、単にそれぞれの最初の文字をくっつけただけだといいます。少々安易に名付けられたようにも感じますが、できた名前は美しいし、少なくともかつての名前の片鱗が残っているので、いいかもしれない。
このあたりには小さな川がたくさんあり、その周囲に狭い田んぼが作られています。
その縁には自転車にぴったりの道があることが多いので、こうした田んぼを繋いで進んで行きます。
空に低空で飛ぶ飛行機が見えます。あれはここのすぐ東にある、航空自衛隊百里基地に併設された茨城空港に発着する旅客機でしょう。
時は15:45。日が大分傾いてきました。日が短いこの季節では、もうすっかり夕方という雰囲気が漂い出します。少々急がねばなりません。田舎道は夜になると本当に真っ暗になってしまうので、そうなる前に目的地に到着したいのです。
周囲はこれまで同様、田畑が続くだけで特に変わったものもないのですが、こにはめずらしく、小さな池がありました。
夕日を受けた紅葉がきれい。
茨城の農家周辺の風景はだいたいこんな感じ。
きれいな田畑と立派な造りの家、そのうしろに屋敷林というものです。
東京を出てからここまで、大した起伏もなく、周囲は田畑に森、そして時折川が現れ、ポツポツと民家が建つ。これが繰り返されるだけ。
これだけで言えば単調極まりないようにも思えますが、同じ風景は一つとしてなく、ここまでまったく飽きることはありません。
時折、こんな生き物もいるし。
さて、涸沼が近づいてきました。涸沼川の支流の寛政川沿いに入ったようです。
周囲は小高い丘で、その中が田んぼになっています。おそらくここは谷戸なのでしょう。
この田んぼの縁をどんどん行くと涸沼川に出ます。涸沼川はこのすぐ東にある涸沼に流れ込んでいます。
できれば涸沼まで行って、その夕暮れを楽しみたかったのですが、もうその時刻ではありません。
僅かな残照を頼りに、先を急ぎます。