小手指駅前
晩秋の首都圏の企画を、ということで、東京都と埼玉県にまたがる武蔵野あたりを巡ることにしました。映画『となりのトトロ』の風景のモデルになったという狭山丘陵には『トトロの森』があるというので、今回はそのあたりを中心に巡ります。
気持ちのいい朝、小手指駅前に集まったのは総勢8名。
小手指駅付近の風景
小手指駅を出るとすぐ、きれいに耕された畑に。そこにはこれからの作物が植えられつつあります。
その畑の先には秩父山地から丹沢山地にかけての山々が見えています。
小手指の住宅地
こうした畑の横を抜けて行くと、パラパラと住宅が建ち並ぶようになります。
その庭先の大きな柿の木は半分ほどは実を付けていましたが、残りの半分はすっかり落っこちてしまったようです。もう秋も終わり、冬の気配が少し漂っています。
狭山湖に浮かぶ富士山
まばらな住宅地の間を抜けて行くと、大きな水道タンクが現れ、その先で狭山湖に出ます。狭山湖はこのすぐ隣にある多摩湖とともに東京の重要な水瓶の一つで、昭和初期に造られた人造湖です。
狭山湖の堰の端っこまで進むと、ちょっとした東屋が現れ、その前は展望デッキになっています。よく晴れたこの日は、そこから富士山がきれいに見えています。
狭山湖周回路へ
狭山湖の周囲は鬱蒼とした森に包まれています。
このあたりの風景が『となりのトトロ』の情景のモデルの一つだそうで、これらの森の中には、『トトロの森』として取得されたトラスト地も多くあります。
周回路は砂利道
そのトラスト地は今では20を超えるほどあり、それらの多くは公開されているそうですが、そうしたところを全部巡るのは到底できないので、今回は狭山湖のすぐ外側を廻る道を進みます。
始めは少々荒れ気味の舗装路ですが、ほどなくそれは砂利道に変わります。もっともこの砂利道の路面は固く締まっているので、問題なく進みます。
砂利道を進むレイナ
最初は明るかった森が徐々に暗くなり、路面も少し甘くなってきました。
その砂利道をどんどこ行くレイナ。ダートがあんまり得意でないレイナからは泣きが入るかと思ったら、
『この前ニュージーランドでダートをたくさん走ったから、これくらいはへっちゃら。』 だそうな。
よろけるミルミル
道はいつの間にか狭くなり、アップダウンやぬかるんだところも出てくるようになります。
『おっとっと。すべってコケそう~』 と叫ぶはビジターのミルミル。
前回は花見川の砂利道を走りましたが、今回のほうが少しボコボコが大きいので、慎重にね。
雑木林
森は松やクヌギなどの雑木林です。広葉樹のあるものは落葉していて、その落ち葉がびっしり地面を埋め尽くしています。通るとカサコソと音が。
ここは都心からわずかな距離にあるとはとても思えない、鄙びたところです。
並んで進む
そろそろダート走行の疲れが見えてきた頃、『この砂利道、いつまで続くの~』 と、だれともなくつぶやく。
『もうちょっと行ったら展望台があるから、そこで休憩にしましょう。』 とサイダー。
舗装路は天国
6kmほど森の中の砂利道を進むと、ついに舗装路に出ました。
『やった~。ダート終了。やっぱり舗装路は天国ねぇ。』 と、ダートOKだったはずのレイナ。
六道山公園展望台
この舗装路を少し行くと、六道山公園の展望台が見えてきます。
かつてここは鬱蒼とした木々に覆われ、ちょっとお化け屋敷状態のような時もありましたが、現在は周囲が整備されたようで、なにか立派な施設のように見えます。
展望台より見る富士山
展望台に上ってみると、ここからも紅葉した木々の向こうに富士山がよく見えます。
東京方面を眺める面々
その富士山の反対側には、東京都心の超高層ビル群が重なり合って、これも山のように見えています。
『わお、こうして見ると東京って、まるで山みたいにみえるのねぇ~』
再び砂利道
六道山公園の展望台で眺めを楽しんだら、多摩湖との間にある県道に下ります。
『や~、また砂利道ですか~』 と、ここからはもう舗装路とばかり思っていたミルミル。
そう、もう少し砂利道は続くのです。しかしここからは下り基調なので、あまり力を使わなくて済みますよ。
六地蔵
森が開け明るいところに出ました。野山北公園を見下ろすデッキが現れ、その先に小さな石塔が建っています。
これは六地蔵といい、明治時代に赤痢が流行し多く方々が亡くなったのを供養するために建てられたものだそうです。四角形の塔の三面に各二体づつ、お地蔵様が彫られています。
さらに砂利道を下る
六地蔵からも砂利道・・・
しかし、ここからの砂利道は短く、1kmほどで下の県道に出ます。
狭山湖と多摩湖の間のr55
狭山湖の北東の堤からこの県道まで約9km。そのうちの8kmほどが砂利道といえそうです。
さて、県道に出たら少し東へ進み、多摩湖の南側を行く自転車道に入ります。
多摩湖自転車道の紅葉
r55は結構な交通量ですが、この多摩湖自転車道の横の道は路面に苔が生えるほどで、交通はまったくなく、ひっそりしています。
武蔵野の路
自転車道が大きくUターンするところに小さな公園があり、その向こう側に黒い門が見えます。門の上にはカブトムシが。この門の先には小さな橋が架かり、その名はなんと『かぶと橋』。このあたりの雑木はクヌギが多いようですから、カブトムシもたくさんいるのでしょう。
このかぶと橋は『武蔵野の路』の入口です。本当はここを行くつもりはなかったのですが、カブトムシに誘われてついついつい入ってしまった。で、その先は階段になり、さらに落ち葉が降り積もる地道に。あ~れ、まあ。。
『しまったぁ~、こっちに来る予定じゃあなかったのになぁ~』 と、いつもいいかげんなサイダー。仕方ないなぁ~、でもこの道も気持ちいい、という表情で続くキルピコンナ。
村山うどん
本当はこれからみかん狩りをするつもりでしたが、武蔵野の路を進んだので、昼飯処に予定していたうどん屋が近くなりました。で、今朝早起きしたみなさんは昼飯が先でもいいというので、まずそのうどん屋へ。
武蔵野といえば『武蔵野うどん』だそうです。その中でもここ武蔵村山は『村山かてうどん』と称するものを出しています。冷たいうどんに温かい汁は武蔵野うどんと同じ。『かて』は糧と書くようで、茹でた野菜の付け合わせのようなもの。これは単に茹でてあるだけなので、ネギや柚子のような薬味と同様、汁に入れて食べるのかも。ここでは天ぷらの単品であったので、その中からかき揚げをいただきました。
住宅街の激坂を上る
かてうどんでお腹がいっぱいになったところで、デザートのみかんを狩りに向かいます。
みかん狩りの農園まではうどん屋からすぐなのですが、裏道を進んで行ったら住宅街の激坂を上る羽目に。
ぎゃー。。
みかん狩りの説明を受ける
狭山といえばお茶で有名ですが、同時にみかんの産地でもあるようで、この企画の直前にキルピコンナが新聞でこのあたりでみかん狩りができるという記事を発見したことから、急遽、このみかん狩りとなりました。
r5で『みかん狩り』の案内板を発見。その矢印に誘われて先ほどと同じような激坂を上って行くと、目的の農園がありました。
みかん畑
その庭先には車がぎっしり。意外や意外、みかん狩りは大人気なのでした。受付で入園料を支払い、みかん狩りの仕方の説明を受けます。特にむずかしいことはないのですが、鋏を使って切ること、できるだけヘタの近くで切ること、ここの茎が出っ張って残ると運搬時に実を傷つけてしまうので、もし出っ張っていたらさらに短く切ること、などの注意を受けて、裏山へ向かいます。
なだらかな斜面の裏山にはみかんの木がびっしり。今が盛期と見えて、どの木もたわわに実を付けています。
みかんを狩るマサちゃん
さあて、どれを採ろうかな、とめぼしいものを探しますが、遠目にはびっしりなっていたように見えたみかんも、ちょうどいい高さのものは先客に採られていてあまり残っていません。
ちょっと背伸びをして、エイと鋏を入れるマサちゃん。それを見守るコンタ。どれどれ、このみかんの味はどうかな、と皮を剥くキルピコンナ。
みかんを狩る人々
このみかん畑からもあの富士山がよく見えていました。みかんの木の間にはちょっと空いたスペースがあるところもあるので、お弁当を持ってきてここでお昼でもよかったかな。
そうそう、肝心のみかんですが、これはとてもおいしいのですがさっきうどんを食べたばかりなのであまりたくさんは食べられませんでした。コンタはたったの三つでギブアップ。やっぱりみかん狩りは昼食の前にすべきでしたね。
多摩湖自転車道と並走する車道
みかん狩りを楽しんだあとは立川の昭和記念公園に向かいますが、農園からは先ほど通らなかったかぶと橋から東の多摩湖自転車道を通ってみます。
この自転車道はまともな舗装ですが、それに並走する車道の方はちょっと荒れ気味で、自転車道の方が走りやすい。
茶畑の横を行く
多摩湖自転車道から南に向かう細道に入ると、これがまたなかなかいい道で、森の中に小さく開かれた茶畑の横を通って、下の集落に下りていきます。
番太池から続く自転車道
r5をかすめ、昼食前に下りてきた武蔵野の路方面へ向かいます。番太池まで戻ると北東に延びる細道があり、その先に赤坂トンネルの入口が見えます。しかしこのトンネルは現在工事中で通れないので、西へ向かう自転車道を行けば、
『おっ、トンネルだ~』
横田トンネル
御岳トンネルが小さな口を開けているのでした。
このあたりにはこうしたトンネルが連続していて、さらに赤堀トンネル、横田トンネルと続きます。
r55側の横田トンネル入口
横田トンネルを抜けるとr55にぶつかり、これでトンネルはおしまいです。
トンネルの逆の東側はどうなるかというと、赤坂トンネルを抜けるとそこは鬱蒼とした森で、さらにその先にもう一本トンネルが見えるのですが、このトンネルの入口は完全にガードされていて立ち入ることはできません。したがってこれから東は調査できませんが、実はトンネルはこれだけではなく、そのさらに東にもう一本あるのです。これは通常はどこからも見えません。このあたりには計6本のトンネルがあり、そのうち通れるのは赤坂トンネルから横田トンネルまでの4本ということになります。
野山北公園自転車道
トンネルの先には野山北公園自転車道が続いています。この自転車道、地図で見るとよく分かるのですが、他の道と異なり西に向かってまっすぐ延びています。
実はこの自転車道と先のトンネル群は、多摩川の水を多摩湖に導水するための管を敷設するために造られた、羽村山口軽便鉄道の跡なのだそうです。
残堀川
野山北公園自転車道は横田基地の近くまで続きますが、私たちは残堀川(ざんぼりがわ)に沿って昭和記念公園に向かいます。
この川と玉川上水が交差する地点では、川の立体交差が見られます。
昭和記念公園玉川上水口
昭和記念公園は立川基地の跡を利用して作られた広大な公園で、紅葉の名所としても知られています。
イチョウ並木
ここは奥多摩などの山を除けば東京でもっとも早く紅葉が訪れるところで、この時期はすでにそのピークを過ぎているようでしたが、それでもこんな素敵なイチョウの黄色い絨毯が見られました。
この公園内にはこうしたイチョウ並木が三ヶ所あるようです。
黄色い絨毯の上を走る
『いやぁ~、このイチョウはすごいですねぇ~』 と、晩秋を楽しんで走るマサちゃん。
公園内の自転車道
昭和記念公園には14kmに及ぶ自転車道が巡らされています。この数字を見てもこの公園がいかに広大なのがわかりますね。
イチョウ以外にもあちこちで、赤や黄色の紅葉が見られます。
みんなの原っぱ
公園の中心にあるのは『みんなの原っぱ』。
お天気のこの日は大勢のグループで賑わっていました。
水鳥の池
中之島がある広大な池の周辺は、木々がいい秋色をしています。
湖面にはボートが幾隻も浮かんでいて、これも楽しそう。
玉川上水沿い
昭和記念公園をぐるりと廻ったら、玉川上水沿いに出ます。
このあたりの水路沿いは昔の環境をよく留めていて、緑豊か。ここから武蔵小金井まではこの玉川上水沿いを行きます。
多摩都市モノレール
民家と玉川上水の間の砂利道を進んでいくと、上にモノレールが。
これは多摩都市モノレールで、玉川上水駅に出たのです。
玉川上水(玉川上水駅付近)
玉川上水は江戸に飲料水を供給していた上水道で、多摩川の羽村から四谷まで43kmほどあり、1653年に築かれたそうです。
広葉樹が生い茂る玉川上水
当時は電気やガソリンはおろか石炭さえない時代ですから、掘削は当然すべて手作業で行われ、全区間が露天掘りでした。
エーちゃん
当初取水は困難を極めたようですが、掘削は意外にも早く、わずか半年あまりで羽村から四谷までを掘り抜いたそうです。
掘削跡が感じられる土がむき出しの部分
江戸時代から400年以上も流れ続けているこの水路は、当然当時のままの状態ではなく、幾度となく補修工事がされたでしょう。しかしその補修はできるだけ当時のままの状態を保全しようとしているようで、コンクリートで覆われたりせずに、今でも削り取られた土壁を見ることができます。
紅葉
その水路の上にも紅葉がやってきています。
落ち葉がびっしり
『ここが都会の真ん中だなんて、ちょっと信じられませんねぇ~』 と、キルピコンナを先頭にどんどこ行きます。
江戸東京たてもの園
玉川上水のすぐ横にあった土の道がなくなり、車道を走るようになると間もなく、小金井公園に到着します。この小金井公園も昭和記念公園に負けず劣らずの大公園で、中に自転車道が巡らされているのも同じ。
小金井公園の一角は『江戸東京たてもの園』になっており、江戸時代から昭和初期までの30棟ほどの建造物が集められています。
天明家
通常たてもの園は夕方までの開園ですが、この時は特別に夜間のライトアップがあり、『あかり』の展示がされていました。
この建物は現在の大田区で名主を勤めた旧家で、内外ともとても農家とは思えない格調高い造りです。
天明家の囲炉裏
その天明家の囲炉裏には火が灯されていました。
今回の企画では、こうした囲炉裏がもう二軒で行われ、その他にガス灯や行灯などの展示があります。
子宝湯
子宝湯は昭和時代初期の建物で足立区の千手元町にあったものだそうです。唐破風や格天井など、神社かお寺を思わせるような造りです。そういえば足立区にはこの建物にそっくりな大黒湯が現役でがんばっていますね。
狭山丘陵がトトロならこの子宝湯は、映画『千と千尋の神隠し』の『油屋』のモデルといわれているようです。
荒物屋の内部
子宝湯のあたりは下町の雰囲気を展示したそうで、神田須田町の三省堂には筆がぶら下がり、元は書道用具を扱うところだったことなどがわかって面白い。
この一角にあった荒物屋は、現在はもう見ることのできない商売でしょう。荒物とは家庭用の雑貨をいい、ざるや籠、箒といった雑多なものを扱う店でした。現在はホームセンターの一角がこれに取って代わったということでしょうか。
キャンドルナイト
『三丁目の夕日』色の照明の都電を見て『東の広場』に出ると、そこにはたくさんキャンドルが並んでいました。
ちょっと残念なのは、このろうそくの火よりそれを取り巻く店の光が強かったこと。
奄美の高倉
西のゾーンは東に比べ、ずっとモダンな建物が並んでいるようです。カフェになっている洋館や建築家前川國男自邸などが並んでいます。
そしてその一番端っこにあるのが茅葺き屋根の民家三軒と、奄美の高倉です。高床式の倉庫というのは世界中にありますが、この奄美の高倉は、本体がなく屋根が地面から持ち上がっているという印象です。どうやら倉部はその屋根の中のようです。これはちょっと面白い造形。
武蔵小金井駅
江戸東京たてもの園はゆっくり見たら一日たっぷりかかってしまうので、今回は主要なものだけを見て切り上げました。終着の武蔵小金井駅はいつの間にか立派な駅になっていて、びっくりポンです。
トトロの森、村山うどん、みかん狩り、紅葉狩り、玉川上水、たてもの園と今回はかなり盛り沢山になりましたが、ダート道をメインに武蔵野の雰囲気が味わえて、意外と楽しかったかな。