箱根へ行こう!
東海道が通る箱根は、箱根の山。この山を越せば関東、江戸というように、取り調べの厳しい関所があったことや、正月の大学駅伝でおなじみのところです。特に駅伝五区の山上りは有名ですね。
上りが厳しいこともあるけれど、国道1号線は車が多く自転車向きじゃあない。東海道の旧道はさほどでもないらしいが、こちらは勾配がきついといいます。ということでこれまでこのどちらにも食指が伸びませんでした。
ある時、金太郎伝説の金時山を通って仙石原まで続くいい道があると教えてくれた人がいました。これは使えそうだ。そう思ってから数年が経ってしまいましたが、ついに実行する機会がやってきました。その道は矢倉沢の地蔵堂から始まる林道黒白線で、林道明神線へと繋がり、金時隧道に至ります。
それで予定としては、
小田原から丹沢を眺めつつ快適な自転車道で酒匂川を遡り、静かな林道黒白線と明神線で金時山へ向かいます。矢倉沢峠の金時隧道を抜け、芦ノ湖の東岸で遊び富士山を眺めたら、旧東海道を豪快に下って小田原城へ。
というもの。
集合は、JR東海道線に加え新幹線も止まり、さらに小田急線も乗り入れていて便利な小田原駅です。
ここのいいところはアクセスが便利ということ以外に、すぐ近くを流れる酒匂川に自転車道があるところ。
駅前を出ると程なくその酒匂川の畔に出ます。
北にまっすぐ伸びる自転車道の先には、丹沢の山々が見えています。
そして西を見れば、あの富士山が。
やっぱり富士山は、どこから見ても存在感がありますね。
丹沢と富士山を眺めつつ、酒匂川自転車道をどんどこ。
道脇にはだいぶ散ってはいるものの、まだ少し桜の花が残っています。
西の山々は、白銀山、明星ヶ岳、明神ヶ岳と連なり、富士山の手前に矢倉岳がぽっこり飛び出しています。
これからあの矢倉岳の麓を行き、明神ヶ岳のうしろに隠れている金時山へ向かいます。
かつて日本の並木の代表は松でした。日本中の街道のあちこちで松並木は見ることができましたが、いつだったか、マツクイムシによってそれらは壊滅的な被害を受け、日本から松並木はほとんど無くなってしまったのです。
この自転車道の横にはマツクイムシの被害から免れた、僅かな松並木が残っています。
r78をくぐり、開成水辺公園までやってきました。土手下のグラウンドでは子供たちが元気にサッカーの練習をしています。
先ほどまで矢倉岳の左にあった富士山はいつの間にか、鳥手山のうしろまで移動しています。
自転車道は小田急線の線路をくぐると、酒匂川の大きなカーブに沿って西に進路を取ります。
その正面に移動してきた富士山の足元には松林。これは日本的な風景ですね。
途中あちこちで立ち止まって小休憩をとってきたので、予定時間を少し超過気味になってきました。
で、ここはちょっと飛ばして新大口橋の袂の公園に入ります。
この公園で10kmほど続いた酒匂川の自転車道はおしまいになります。
ここで新松田駅からやってきたキルピコンナが合流。
公園で少し休憩したら、新大口橋を渡り酒匂川の支流の内川沿いに入ります。
今日は何はともあれ、金時隧道を抜けて芦ノ湖まで辿り着かねばなりません。この累積登坂高度は1,200m以上になりそうなので、序盤はあまり無理をせず、無難な道を選んで進んで行くことにします。
内川の南側の尾根を行く手もあるのですが、これはちょっとアップダウンが多い。で、内川の北側を行く道を。
酒匂川を離れた途端、道は上りに。もうここからは金時隧道までずっと上りです。
内川周辺には小さな田んぼが開かれていて、その周囲の山々には初々しい新緑がやってきています。
この時期は花の色がカラフル。この民家の庭先では桃が満開。
『キャあ〜、桃のピンク、きれい〜〜』 と久々に登場のクッキーは、春の色にルンルン。
北足柄の信号からはr726になります。
この道の勾配はあんまりきつくなく、県道にしては車が少なくてまずまずの走り心地。
先に、箱根の外輪山では最高峰となる金時山が見えてきました。この山は粘性の高い溶岩でできているため、山頂付近が尖った特徴的な姿をしています。
金太郎伝説の足柄山は、この金時山一帯の山域の呼称だそうです。
その金時山を目掛けてどんどこ行くと、矢倉沢(やぐらさわ)の集落に到着。
内川の南には関場という地名が残り、そこの一軒の民家の庭先に矢倉沢関所跡の碑が建っています。隣には「旧旅籠立花屋跡」という標識が掲げられた民家もあり、「足柄古道」の標識も見えます。
ここはかつて厚木を通り御殿場を経て東海道の沼津宿に至る脇往還として栄えた、矢倉沢往還の矢倉沢宿なのです。このあたりは柑橘類の産地のようで、斜面地には黄色い実が生り、足元では芝桜やチューリップが見事に咲いています。
この日の気温はかなり高く、GPSの温度計は30°Cを超えている。まあ実際にはそんなに高くはないはずだけれど、直射日光の下は25°Cはありそう。
鋭い日差しの下、かつての宿場町に思いを馳せつつ一休みしたら、「足柄古道→」の方向に進みます。
矢倉沢から金時隧道に至る道は三本あります。狩川に沿って谷を行く道、1kmほど先から尾根を行く道、さらに1kmほど先の地蔵堂から入る道です。
最初の狩川の谷を行く道はかなり鄙びていてジオポタ向きではあるのですが、ややアップダウンが多そう。最後の地蔵堂までは足柄街道r78を走る距離が延びます。ということで、ここは真ん中の尾根道を選択。
矢倉沢から足柄街道r78を行けば程なく「足柄古道入口」のバス停が見え、尾根道への分岐が現れます。
バス停のすぐ横からは、細道が私たちが進む道に沿って山奥へ延びています。これがきっと足柄古道なのでしょう。
尾根道の入口は両側が切られ、路面に○○模様の付いた激坂です。この道は足柄古道を車が通れるように拡大したものなのでしょう。
えっさ、えっさと激坂を上って行くと、そのうち両側にあったコンクリートの法が低くなり、尾根に出ます。
幅員はそれなりに広く尾根道特有の明るさがあって、道端では黄色い山吹が満開。
多少のアップダウンはあるものの車は通らず、これは快適。この道を選んでまずは正解と言えます。
この尾根道は全体の2/3ほどのところから下りとなり、地蔵堂方面から上ってくる林道黒白線に合流します。
この林道黒白線を500〜600mほど上ると、『全面通行止』の標識があり、係員がこの先は行けないと言います。詳しく聞けば4kmほど先で防護フェンスの工事をしており、通り抜けるスペースがないんだそうな。かなり粘って交渉してみたものの、押しても担いでもダメとのことなので、仕方なくこの先へ進むのは断念し、次策を考えます。
ちょっと検討した限りでは名案が浮かばなかったので、とりあえずいったん下って、近くにある『夕日の滝』を見に行くことにしました。
足下には菜の花が咲き、
山にはまだ桜がかなり残っています。
夕日の滝の入口にあるキャンプ場に着きました。そこにあった地図によれば、滝から先にハイキング道があり、金時山まで通じているようです。というわけで、とりあえずそのハイキング道を覗いてみることにしました。
夕日の滝はキャンプ場からすぐなのですが、滝の直前はほとんど道とは言えないようなものになり、担ぐのも大変に。
まあそれはともかく、なんとか夕日の滝に到着です。内川に落ちるこの滝は落差20mほどでそう大きくはないのですが、なかなかいいプロポーションをしており、周囲の静けさが滝を引き立てています。
この滝では滝行ができるといい、この日も数人の修行者が訪れていました。
夕日の滝を眺めたあとハイキング道を探すと、それは滝の奥ではなく、キャンプ場の入口付近から延びていました。この道の序盤は問題なく進めそうですが、金時山から下りて来た方に聞けば、自転車を持ってはまず行けないとのこと。
まあ、これはそうかなと思っていたので、地蔵堂まで下って昼食をとりながら次策を練ることにします。
結局芦ノ湖に出るには、足柄街道の足柄峠を越え、御殿場を廻って乙女峠を越えるしかないことが分かったので、本日は芦ノ湖を断念し、林道明神線で大雄山最乗寺へ向かうことに決定。
下ってきた道を引き返し、再び林道黒白線を上ります。
林道黒白線から明神線に入るには、先ほどの『通行止』より先まで行かねばなりませんが、事情を説明すると警備員はあっさり通してくれました。
ゆっくりゆっくり上っていくと、左手の視界が開け、小田原あたりが下に見えます。こうして見ると、それなりに上ってきたようです。
林道黒白線は、地蔵堂から夕日の滝方面へ数百m入ったところから始まり、林道明神線までの1.4kmほどの道です。
周囲は針葉樹に覆われており眺望はほとんどないものの、路面は良好で走りやすい。
林道黒白線をまっすぐ行くと自動的に林道明神線に入り、金時山方面へ向かうことになります。
地蔵堂から1.8kmほどの地点で、このルートの支線のような形で、最乗寺側へ延びる林道明神線が枝分かれします。その入口にはゲートがあますが、山ウドを採りにきていた地元の方に聞けば、この先も問題なく通行できるとのこと。
林道明神線はアスファルト舗装されていることは分かっていたので、大きな問題はないとは思っていましたが、やはり地元の方の情報があると、より安心できますね。
狩川の左岸を進んで行くと2kmほどで分岐が現れます。川を渡る方が明神線で、まっすぐ行くと矢倉沢です。このまっすぐな方の道は、実は午前中に矢倉沢からのルートで挙げた一番目のものなのです。
こちら側の林道明神線はあまり使われていないようで、枝葉が落ちているところがかなりありますが、これは問題になるほどではありません。
川を渡ったあとは少し上りになりますが、それ以外はおおむね穏やかな下りで、車はまったく通らず快適そのもの。ジオポタ専用道路なのでした。
狩川沿いは谷なのでやや開いていて、木々も広葉樹が多かったのですが、川を渡ったあとは鬱蒼とした針葉樹林の中になります。しかしそんな中にも所々、鮮やかな新緑を見ることができます。
先ほどまではかなり暑かったのに、この森に突入したとたん、ひんやりとした空気に包まれます。
下りの勾配が増し、カーブが連続するようになると、突然『抜けた』という感じで『足柄森林公園丸太の森』の入口に出ます。ここまでの林道明神線は黒白線の分岐から10kmほどあり、結構楽しめました。
丸太の森はかなり広く、キャンプ場や大型遊具、郷土資料館、古民家などがあるようですが、入場料400円を払って入るほどでもないだろうと、最乗寺へ向かうことにします。
丸太の森から最乗寺まではすぐ。ここの道端には野生のシャガがたくさん咲いていました。
下の広い道に出ると、そこには立派な杉並木が。これが最乗寺の参道です。こんな山奥にもかかわらず道は県道のr723。この寺のためだけに造られたような道です。これを見れば、最乗寺がこのあたりで占める重要度がわかるというものです。
ここから道はかなりの斜度で上っていきます。その突き当たりに茶店が現れると、いよいよ寺の境内となります。道はさらに上にある駐車場まで続くのですが、自転車は置いてここからは徒歩で階段を上って行きます。
巨大な杉の木が生える中にまず現れるのは、比較的最近建てられた山門。この2kmほど下にはこの門とは別に仁王門があるようです。
山門をくぐってさらに上っていくと瑠璃門です。
芽吹いたばかりのカエデの若葉が美しい。
瑠璃門を入ると正面に書院、その隣に本堂が建っています。
本堂横にはまだしだれ桜が残っていました。この花はちっちゃくて、はかなげ。
南へ向かうと、奥には多宝塔が建ち、結界門を出てさらに奥へ進めば、奥の院へと続く長い階段があります。
その途中には、大小たくさんの高下駄が置かれています。この寺のマークは天狗の団扇で、天狗の像もいくつか見られます。天狗の履物である高下駄は一対揃ってはじめて役に立つところから、夫婦和合の信仰となり、ここには奉納者が後を絶たないそうです。
この境内には赤、白、そしてこの濃いピンクのシャクナゲが咲いていました。
いずれの花も巨大!
ゆっくり最乗寺を見学した後は、その参道に出ていた『彗春桜→』の標識に引かれて枝道に入ります。この標識の横には『林道明星線』の標識も。
彗春は最乗寺開山当時の高名な尼僧の名だそうで、この桜の名もそこから来ているのでしょう。しかしこれは完全におしまいで、花は散り、緑の葉が出ていました。
さて、この先どうしようか。。林道明星線についてはまったく予備知識がなかったのですが、せっかく入ったのでこれを行ってみることに。
しかしこの道、延々と砂利道が続き、数日前に降った雨のためか、そこら中に水溜まりが。あ〜れまぁ。
ロードバイク並みの細いタイヤのクッキーは、ここはほぼ完全に押しに。すまん、クッキー。
離脱しようにもそれができないのが林道。とにかく舗装路に出るまでペダルを漕ぎ続けます。悪いことは重なるもので、この砂利道でシロスキーのギアチェンジができなくなってしまいました。で、シロスキーもクッキー同様、押しに。
この道、眺望はまったくといっていいほどないのですが、一ヶ所だけ小田原方面に開けたところがありました。最終目的地である小田原までのルートはこうして見てもイメージできませんが、下界が見えると距離感が掴めるためか、なんとなく安心します。
3kmほどで明星線に交差する舗装路に出ました。もうダートはおしまいにしようとその舗装路に入って下って行くとすぐ、長泉院の前に出ます。
この参道は見るからにきつそうな坂道。ここを上って行くサイダーに、他の面々は下で冷たい視線を浴びせています。ありゃ、みんな行かないの。。
この参道の入口には屋根付きの橋があります。ジオポタにはいくつかの特別部会がありますが、最近賑やかなのが、実は屋根付橋部会なのでした。
屋根付きの橋はスイスなどによく見られ、これらは厳冬期でも安全に橋を渡れるように、また雪や氷、風雨から橋そのものを守るために付けられています。日本では一部地域でこれと同じような理由から屋根付きとなっている橋もありますが、その他に美観のためや財産や権力の誇示として造られたものもあります。この橋はどうなんでしょう。
長泉院を出ると、なんとか里らしい景色になってきました。横の畑の作物は、小さいけれどきれいな花のエンドウ豆。下には酒匂川の畔の街が見えています。
そろそろフィニッシュを考えようと、桜が残る畑の片隅で小休止。やっぱり最後は温泉だよね〜、ということで、小田原付近の温泉を調査。小田原の街中にある『万葉の湯』は便利だけれど2,300円は高いということで、風祭の『小田原温泉八里』に決定。
風祭はここからほぼ真南にあります。その南を見れば、丘と山が。しかし、シロスキーのギアが不調であることを考えると、山道はもう無理そう。もっとも無難なのは、狩川まで下って小田原市街を経由して行くことだけれど、あんまり街中は通りたくない。
ということで、街まで下るよりはいいかと、ちょっと交通量は多いけれど広域農道を使って南下し、小田原の少し山側に出ることに決定。
小田原市役所まで下ったところで、そこからは小田原厚木道路に沿う道を使ってみることに。
ところがこの道、途中からかなりきつい上りとなり、へろへろ。すまん、シロスキー。
なんとかこのアップダウンをこなし、風祭の国道1号線沿いにある小田原温泉八里に到着。うしろには白銀山に至る山並みが見えています。
小田原温泉八里は温泉であるにも関わらず、入浴料500円と格安。湯船は4〜5人でいっぱになってしまう程度しかありませんが、コストパフォーマンス抜群で満足です。帰りに主人のおばあさんが飴とビスケットをくださいましたよ。
温泉に向かう途中通った風祭の旧道は祭りの準備中でしたが、そこを帰りに通れば、ちょうど子供たちが牽く山車が出てきたところでした。
わっしょい、わっしょい、という子供たちのかけ声がかわいらしい。
風祭の祭りを横目で眺めたら、あとは小田原にまっしぐら。
駅のすぐ南にある小田原城は耐震改修工事中で、5月に再オープンだそうです。その天守閣の下を通って、小田原駅へ。
今日は、金時山から仙石原に抜け、芦ノ湖から旧東海道を下るという本来の目的は達せられませんでした。林道を使う場合は基本的に交通規制情報をチェックするのですが、今回は小田原の近くの割とメジャーな道ということで安心し切ってしまい、チェックしなかったのが敗因です。
でもまあ、酒匂川の自転車道は快適だったし、夕日の滝も見られたし、大雄山最乗寺に至る林道明神線はまずまずだったし、その最乗寺はかなりいい寺だったし、風祭では温泉に入れた上祭りに出会えたし、とりあえず良しとしよう。