二月も下旬になり少し寒さが和らいで来たものの、まだ本格的な春という感じにはほど遠く、朝晩はかなり冷え込みます。それでも陽があり風がない日中はそれなりに暖かいので、この日はアクセスの良い近場ということで、鶴見川に沿ってポタポタすることにしました。
やってきたのは多摩の南大沢駅です。南大沢は多摩ニュータウンの終盤に開発されたところで、開発前はほぼ完全な山の中でしたが、今では首都大学東京があり、駅前には大きなスーパーマーケットやアウトレットモールもある街に成長しました。
その南大沢駅からまずは南に広がる団地へ向かいます。ところが走り出すやいなや、マージコがパンク。あ〜れまあ。なんとか修理をして再度出発し直します。
この団地の端っこにある道は緑道で、なかなか気持ち良く走れます。
緑道から一般道に出たら通称尾根幹ことr158をくぐり、小さな丘を越えて進んで行きます。今向かっているのは鶴見川の源流です。
鶴見川は東京都町田市上小山田町の泉を源流とし、神奈川県横浜市鶴見区で東京湾に注ぐ、全長42.5kmの川です。
下り坂の先が少し開けると、梅の花が咲いています。
今年は寒かったのでやはり梅の開花も遅く、まだ三分咲きといったところです。
梅の花のすぐ先には、人工的に見える小さな池のようなものがあります。写真では判然としませんが、この池の中央部からは水がこんこんとわき出しています。これが鶴見川の最大の水源とされる泉です。良く見ると左の方に川が流れ出しているのがわかります。
このあたりには谷戸がたくさんあります。それらの中心に位置するのが田中谷戸で、この泉はその中にあります。一日に1,300t の水を湧出するというこの泉と、周辺の谷からの絞り水が鶴見川の源流を形成しているのです。
この泉の周囲は『鶴見川源流泉のひろば』として整備されています。
1989年(平成元年)にここである事件が起こりました。川崎市の水道用トンネル改修工事が原因で、この泉が枯れてしまったのです。そこで、枯れた湧水の復活とそこに住んでいた生物を回復させる計画が作られ、今日見る『鶴見川源流泉のひろば』が完成したそうです。(環境省「環境用水の導入」事例集〜魅力ある身近な水環境づくりにむけて〜 No.44参照)
人工的な造りに見える源流の泉には、こうした背景があったのです。
谷戸だから田んぼの向こうには小山があります。
これからあの山の向こう側の小さい谷戸に入り、ぐるっと廻ってみることにします。
このあたりの谷戸はまだかろうじて田んぼとして残っているようです。
谷戸は奥の方が高くなっているので、当然道は上りです。
そして戻り道に入るとそれは田んぼの縁ではなく小山の中腹を通っており、ちょっとしたアップダウンが楽しめるのでした。
ここは谷戸田が転じた谷戸畑かな。
当然こうした谷戸には川が流れていて、それは鶴見川に合流することになります。
源流の泉を流れ出た鶴見川は、あちこちで小さな流れを合わせ、こんなふうになります。
残念ながら護岸のためのコンクリートばかりが目立つ、都市部によくある川の面をしています。
鶴見川の上流域には魅力的な場所がいくつかあります。その最右翼は小山田緑地でしょう。
ニュータウン建設のため多摩丘陵の山は削り取られ、そこに大きな道が通され、団地がとんどん建てられました。しかし、計画の中で緑地として残されたところもあるのです。その一つがこの小山田緑地です。
ここには多摩丘陵の原風景を思わせるものがまだ少しだけ残っています。小山田緑地は本園と三つの分園から成りますが、まず梅木窪分園をちょっとだけ覗いてみることにします。
ところがここでまたもやマージコにパンク発生。すでに最初のパンクで予定より遅れているので、大急ぎで修理します。
梅木窪分園には雑木林があり、吊り橋があります。
周辺からわき出した水が細い流れを作り、その流れが集まって小さな川になり、吊り橋の下を流れています。この流れは最終的に鶴見川に流れ込みます。
梅木窪分園はこの先アサザ池まで続きますが、何分にも予定が遅れているのでここで引き返します。
梅木窪分園を出たら、そのすぐ横にある本園に入ります。
『ここは東京なんですよね〜』 と、この保存された環境にちょっと驚き顔のキルピコンナ。
中には池もいくつかあります。
そして野球場、運動広場、みはらし広場も。本園をぐるっと廻ってみて感じるのは、ここはちょっと手が加えられ過ぎのような気がするということですが、このあたりは人により評価が分れるところかもしれません。
ここで富士山を眺めようとみはらし広場へ向かおうとすると、またもやマージコがパンクです。三度目だぞ〜 さすがにこれはなにかおかしい、と入念にチェックすると、タイヤの横腹に小さな穴が空いています。これがどうやらこれまでのパンクの原因のようです。
すでに予備チューブは使い果たしているので同じサイズのユッキーのそれを拝借し、タイヤを嵌めて空気を入れようとしますが、今度は空気が入りません。え〜、どうなってるんだ〜。。。タイヤを嵌める時にタイヤレバーを使ったので、チューブに穴を空けてしまったのでした。おいおい、かんべんして〜
とにかくなんとかパッチを当てて再度修理し直し。あ〜、疲れた〜
この日、みはらし広場からは丹沢山地がうっすらと見えていましたが、富士山は残念ながら見えませんでした。
みはらし広場をあとにし、小山田緑地を下ります。この最後の方に、しだれ梅が咲いていました。
『はんなり、いい香りが漂っていますね〜』 と、ビジター初参加のサトちゃん。
さてさて、小山田緑地を出たらいよいよ鶴見川下りです。
鶴見川の最上流部は細くくねくねしていて、その脇を行く道はありません。しかしr57相模原大蔵町線の図師交差点付近からは河川改修されたようでまっすぐになり、その脇に道が走るようになります。
この道は歩行者自転車道になっているようです。
最上流部と比べるとこのあたりは川幅が広がり、周囲の空間も広がっているので、伸びやかな印象です。
ほどなく川の中に島が現れます。この島もがっちりした護岸が造られていますが、その表面は石積みで、これまでのコンクリートむき出しのそれと比べると、少しだけ目に優しい。
ここは今から450年ほど前の鎌倉時代に築かれた鎧堰というものの跡だそうで、『鎧堰水辺の広場』として整備されています。鎧堰の名は、新田義貞と鎌倉幕府軍の戦いで亡くなった兵士の屍が、ここに折り重なって堰を作ったという説や、堰の模様が鎧のようだったという説があるようです。
400年以上に渡りこの周辺の田んぼに水を供給してきたこの鎧堰は、近年の河川改修で撤去され、その跡が水辺の広場として整備されたのだそうです。
鎧堰からさらに下ると、少しだけ川がうねったところに出ます。ここだけはかつての流れのまま流路が残されたようです。ここでは釣り人が糸を垂らしていました。この川、生物が住むにはあまりいい環境には見えませんが、何が釣れるのでしょう。
さて、時は既に正午を回っています。序盤の四回のパンクで、なんとここまで予定より一時間も遅れています。このままでは鶴見川の河口まで辿り着けないかもしれません。そこでこのあと予定していたヤブツバキとタブノキの大木がある野津田神社をパスし、次の目的地、椿守稲荷(ちんしゅいなり)へ向かうことにします。
町田市大蔵町で鶴見川を離れ、椿守稲荷へ。ところが川を離れた途端に激坂上りで、あへあへ。
なんとかこの坂をこなして椿守稲荷に到着です。
椿守稲荷はまさにその名のとおりで、ヤブツバキの大木二本に覆われています。
その外には見頃の紅梅も。
ここのヤブツバキの木はその大きさからも想像できるようにかなりの古木で、花を付けるのはかなり遅く、また数が少ないと聞いていましたが、この時はそれなりの数の花を咲かせていました。
椿守稲荷のヤブツバキを眺めたら、坂道を下って鶴見川沿いに復帰します。
鶴見川はその両側に道があります。大抵のところは歩行者自転車道なのですが、都市部を流れる川なので多くの道路と交差し、ここまではそうしたところには車止めがあり、これは少々鬱陶しく感じます。また自転車道ではなく一般道となることもあります。
道の造りや走りやすさは左岸右岸ともだいたい同じように見えますが、中流域以降については決定的に異なることが一つあります。それは鉄道の線路や大きな道路と交差する際、左岸にはアンダーパスがあるけれど、右岸にはないことが多いということです。
ということで、しばらくは左岸を行きます。このあとは車止めに煩わされることはなくなります。
町田市の三輪(みのわ)で鶴見川を離れ、横浜市青葉区の寺家(じけ)に向かいます。
はっきり言うと鶴見川下りだけではちょっと退屈だし、寺家には里山と谷戸田の田園風景が残っているからです。鶴見川上流部の原風景が残っているのが小山田緑地なら、中流域のそれはこの寺家周辺と言えます。
鶴見川を離れた途端に周囲は山になり、小さな切り通しを越えます。
この切り通しを下っていると、一瞬自分がどこにいるのか分からなくなるような、そんな感覚に襲われます。それほどここは、さっきまで走っていた鶴見川沿いとは異なる空間なのです。
寺家の谷戸の奥に下ってきました。
この周辺は『寺家ふるさと村』で、農業地の良好な景観の保全と地域の活性化を目的とする『横浜ふるさと村』のひとつに指定されています。
時は13時。予定よりだいぶ遅れてしまったので、まずお昼を。
道路からちょっと上がったところにある谷戸田が見下ろせる気持ちのよい食事処で、稲庭うどんです。
さて、昼食のあとは寺家の散策を。
先ほど通ってきた谷戸田の反対側の縁を奥へ進んで行きます。
『むじな池』という小さな池の先にはきれいな紅梅と白梅が咲いていました。
この梅が咲く小山を越えて、釣り場になっている『熊の池』を巡り、山の反対側の小さな谷戸を下りました。
メインの谷戸に出てさらに下ると鶴見川に戻ります。
横浜市道18号線(環状4号線)に架かる常磐橋から下流側は歩行者自転車道になります。
このあたりの川の護岸には植生が見られ、コンクリートむき出しのところと比べると、とても目に優しいですね。
市ヶ尾駅のすぐそばまでやってきました。ここで午後の部に参加のシンチェンゾーが合流。
いや〜、待たせてゴメン。
市ヶ尾駅周囲には巨大都市構造物が現れます。
大山厚木道路、田園都市線の高架橋、そして東名高速の横浜青葉ICのループ橋と、ここは凄まじい。
しかしそのゾーンを通り過ぎると、再びのどかな雰囲気を取り戻します。
緑区中山町で鶴見川に恩田川が合流します。この辺りから上流部の鶴見川は谷本川(やもとがわ)とも呼ばれます。
恩田川を合わせて川幅が広がった鶴見川を眺めながら、中原街道の落合橋、アーチ橋の鴨池大橋をくぐって進んで行きます。
このあたりになると河川敷もぐっと広がっていて、スポーツグラウンドとして使われているところも出てきます。
第三京浜の港北IC、そして横浜港北JCTから続く首都高速横浜北線は超巨大構造物で、しかもこれが建設中なものですから、周辺はもの凄いことになっています。
工事の影響でか、この付近の土手上の道は砂利道です。しかし比較的良く締まっているので、走行に支障はありません。
巨大施設といえば、このあたりからは対岸の新横浜公園の先に建つ日産スタジアムも見えます。
新横浜大橋をくぐると鶴見川は大きなカーブを描いて進路を北に変えます。
新横浜のプリンスホテルを始めとするビル群がうしろに遠ざかっていきます。
新羽橋をくぐると再び鶴見川は大きなカーブを描き、東に向かいます。
このあたりは歩行者自転車道ですが、かなり広くて快調に飛ばせます。
先に東急東横線の橋梁が見えてきました。
ここまで来ると、河口がだいぶ近付いてきた気がします。
東急東横線のすぐ先の大綱橋をくぐってさらに先へ進みますが、ここでトイレタイムがほしいと言い出す者あり。鶴見川沿いにはトイレがないので、少し戻って大綱橋の袂のコンビニエンスストアに寄ることにしました。
つでにここからは大綱橋を渡って右岸を行くことにします。スポーツグラウンドがある河川敷の鶴見川樽町公園を横目に、東海道新幹線の橋梁をくぐり、r111の鷹野大橋付近までやってきました。時は16時過ぎで陽が傾きつつありますが、この分ならなんとか河口までまで辿り着けそうです。
鷹野大橋のすぐ手前で矢上川(やがみがわ)を合わせた鶴見川は、その幅をかなり広げています。
このあたりから周辺には、湾岸部らしい工場などの大型施設が目立つようになります。
鶴見スポーツセンターの前に架かる斜張橋は森永橋。この右岸側には森永製菓鶴見工場があるのです。
森永橋を過ぎると、前方に横須賀線と東海道本線の橋梁が見えてきます。このあたりも道は広く快適です。
右岸の道は鶴見線の線路を過ぎるとあらぬ方向へ行ってしまうので、潮鶴橋を渡り左岸を行きます。
鶴見線の鉄橋をくぐると自転車道の終点はもうすぐです。
先に首都高速横羽線が見えてきました。あそこがこの自転車道の終点です。
この少し手前には鶴見川の河口からの距離を示す0.0kmの文字があったので、川としての鶴見川はここでおしまいなのかもしれません。
しかし実際の鶴見川はまだ流れていきます。そこで自転車道を離れ、東京湾へ向かいます。
この先は明らかに人工的な埠頭状の土地で、これを縦断する道に入りますが、その付け根付近には緑道があり、その先も広めの歩道が整備されています。
周辺には横浜市立大学と湾岸地域らしい工場が建ち並んでいます。
この道の最先端にあるのが『ふれーゆ』という温水プールと大浴場がある施設です。汗をかく季節だったらここでひと風呂浴びてもいいのですが、この日は湯冷めするといけないので施設をちょっと覗くだけにしました。
ふれーゆの先にはプロムナードがあります。プロムナードとは言ってもここまでわざわざやってくる人はほとんどいないようで、釣り人が数人糸を垂らしているだけのところになっています。
そのプロムナードの先にはかなり長大な斜張橋の『鶴見つばさ橋』が架かっています。あの先が東京湾です。
さて、肝心の鶴見川はというと、写真の右手から東京湾というか、その内側の運河というべきか、まあそこに流れ込んでいるのですが、残念ながら高い鉄のフェンスが張り巡らされていて、ここから鶴見川が東京湾に注いでいるぞ、というところは見えませんでした。しかし、まあ、とにかく、これで鶴見川の源流から河口まで辿ってきたことになります。
鶴見川はわずか全長42.5kmしかない川ですが、その上流部と河口付近ではまったく異なる表情をしています。中流域はあまり特徴がないとも言えますが、少し川を離れると、里山と谷戸田の田園風景が残っているところもあります。僅か半日でこうした変化を楽しみながら、源流から河口まで走破できるのがこの川の良いところでしょう。寄り道をしなければほぼ完全にフラットで、初心者でも問題ないコースです。