なんということか今年の梅雨は例年より3週間も早く、どうやら昨日、6月29日に明けたようです。これは、嬉しいような悲しいような、ちょっと複雑な思いです。
そしてこの日の気温は30°Cを超し、湿度80%以上という予報。これはまずい。熱中症の恐れが出てきました。この企画は、千葉県の姉ヶ崎から入って鴨川で上がりという70kmのコースを予定していたのですが、この予報を見て急遽これを変更。鴨川から入る逆コースにしました。
なぜ逆コースにしたのかと言えば、この企画の目玉は麻綿原高原(まめんばらこうげん)のアジサイを見ることなのですが、それは終着地の鴨川の近くにあるので、途中でへばって行き着かない可能性が高くなったのです。そこで前半にアジサイを眺め、後半は状況により適当にエスケープということにしました。エスケープも逆コースにした方がバリエーションが豊富になります。
東京駅から高速バスに揺られること二時間と少々。予定より15分遅れで鴨川の亀田病院前に到着です。
亀田病院のコンビニエンスストアで今日一日の補給物資を調達します。今日の行程では、このあとまったくといっていいほど、飲食料を補給できるところがないのです。
さて、出発準備が整ったら海を覗いてみましょう。今日はいい天気で、海も空の色を反射して青く輝いています。梅雨空だったら海縁ではなく、交通量の少ない内陸の道を行こうと思っていましたが、こういい天気では海を見ながら走らないわけにはいきません。そこでR128をどんどこ行きます。
いい色の海!
うしろには極めて穏やかな弧を描く鴨川の湾、そしてその先に太海の東に出っ張る小高い山が見えます。
浜荻漁港を過ぎたところで国道を離れ、海沿いの細道に入ります。
前には幾重にも連なる小高い半島。こうして見ると、房総半島というのはどこまでも山だということが分かります。
天津漁港に入りました。この天津は『てんしん』ではなく、『あまつ』と呼ぶようです。立派な漁船が並んだ並んだ。
房総の海はここまで。このすぐ先で進路を変え、山に向かいます。
R128、JR外房線の踏切りと渡ると道は急に細くなり、次第に民家もなくなってきます。
砂田の集落を過ぎると、周囲は畑というか、草ぼうぼうの荒れ地になります。
周囲を見回せば、ぐるりと低い山が取り囲んでいます。こうした低い山がどこまでも続く。これが房総です。
道端に『林道天津線』の標識が現れました。そう言えば今日通る道の大部分は林道です。
道の勾配は徐々にきつくなり、片側が山裾ぎりぎりになります。その山が始まる際に、きれいなアジサイが咲いています。このあたりは東京あたりに比べると、だいぶアジサイの花は遅く、ちょうど今頃が見頃のようです。こうした花を見ると、自ずと麻綿原高原への期待が膨らみます。
視界が狭まり両側が森に囲まれるようになると、勾配がドーンと上昇。いよいよ本格的な上りに入ったようです。目指す麻綿原高原の標高は340mほどで、海岸からだと距離8kmで平均斜度4.1%。一気にそこまで上り詰めます。
えっこらよっこらと、マイペースで上るシロスキー。
上りになると元気になるのはシンチェンゾーとシュンシュン。
なんとこの二人、どちらも愛車はブロンプトンだから凄い。ギアは2X3でたった6段しかないのです。良く上るよねぇ〜
上り出してから5kmは平均勾配2.5%と穏やかだったのですが、それを過ぎると急に勾配が増し、その後林道終点までの1.6km少々は9.3%と、きつい!
『この先、道路崩落』の表示が。え、崩落って、聞いてないぞ〜、と思ったら、これはどうやらガードレールだけが流されたようで、道路面は問題ありませんでした。
房総の内陸部はどこに行ってもあまり見晴らしは良くありません。ごくたまに木々の合間からこんな景色が見えるだけです。
森が遥か彼方まで続いています。
小休憩を挟みながら、なんとか天津林道の終点に到着です。
ここは麻綿原高原方面へ上る大多喜町道老津線、小湊方面へ下る奥谷林道の起点であり、さらに清澄寺方面へ向かう一杯水林道もこのすぐ上で合流しています。
一呼吸ついて町道老津線に入れば、急に勾配が穏やかになり、ほっとします。
この道は道路の横にスペイスが生まれ、先ほどの天津林道より明らかに空間に広がりが感じられます。
道の先がちょっと開くと会所から上がってくる道が合流し、その先に麻綿原天拝園(まめんばらてんばいえん)と書かれた標識が建っています。
どうやらここが麻綿原高原のようです。先にちらりと水色のアジサイが見えます。
先へ進むと、道の両側にびっしりとアジサイの花が咲き出します。
これは見事!
今ちょうど見頃になったばかりで、みんな花が若々しく、萎れ花が一輪もありません。
麻綿原高原のアジサイは、天拝園と名付けられた妙法生寺の境内が中心になっています。
妙法生寺は1253年(建長5年)に日蓮聖人が朝日に向かい、『南無妙法蓮華経』を唱えたことが寺の名の由来だそうです。
先代の住職は、廃寺だったこの寺を1951年(昭和26年)に再興した際、法華経の文字数に合わせて7万本のアジサイを植えることにしたそうです。
この植栽には10年以上かかったそうですが、今ではアジサイの名所として知られるようになりました。
実はこの寺の住職の弟とサイダーは知り合いで、かつてインド哲学を学ぶべくデリー大学に留学した経験のあるケンちゃんにサイダーがインド旅行の相談をしたことがきっかけとなって、二人は四半世紀ほど前にいっしょにインド旅行をしているのです。
彼が子供の頃はここにはまだ電気も水道もなかったそうで、ここから山道を一時間かけて学校まで通ったらしい。とにかくここはとんでもない山奥なのです。
ここのアジサイは和種だそうで、白から青にしか変化しないそうですが、こうして見ると、それがかえって素朴で清楚な印象を強くしています。
もっともこれだけきれいに咲かせるには、それなりの手間がかかっているのでしょう。
妙法生寺の境内に入ってみます。
アジサイに囲まれて、確か観音様だったと思いますが、仏像が立っています。
花の色はみんな微妙に異なります。
この花は球形ではなく少し平べったく、半分しか丸くありませんね。
花も中央部は白が強く、半分青い。
本堂の近くにはこんな赤い花も咲いていました。何ていう花でしょう。
妙法生寺では7月の第3日曜日にそば供養が執り行われ、その日は無料でそばが参拝者に振る舞われるそうです。ここの住職はかつては参拝者を手打ちそばでもてなしていたようなのですが、今はこれはどうやら止められたようでした。
本堂にお参りしたら、道路からも見えていた高台にある六角堂に上ります。
このアプローチ道からは、本堂や休憩所の建物が下に、その先に町道老津線と周辺のアジサイ群が見えます。
アジサイ群を望遠で見てみました。びっしりです。
房総の山と小湊あたりの海が一望にできるところに、妙法生寺の六角堂は建っています。
ぐるり360°の眺望は、どこも山ばかり!
妙法生寺でアジサイと眺望を楽しんだら、筒森に下ります。下るとは言っても、房総ですから、当然アップダウンです。
『ギャー!』 と、シンチェンゾーが急ブレーキ。何事が起こったのかと思えば、どうやら山蛭に喰われたらしい。このあたりには山蛭がうじゃうじゃいるとのことだったので、みんな防虫スプレーを吹き掛けていたのですが、この日は暑くて汗だらだら。きっとそれはすぐに流れ落ちてしまったのでしょう。
まあ、すぐに払いのけたので大して喰われてはいないようですが、やはりあとでそこは少し腫れてきたようでした。
筒森側の町道老津線もあまり眺望はありません。そして所々で木々の合間から顔を出す風景は、あのずっと山が続くいつものそれです。
妙法生寺から70mほど一気に下って底に達すると、少しの間勾配が緩くなり、細かい上下動を繰り返します。
そしてすぐに上りに。その先はより振幅の大きな上下動になり、御嶽山付近でピークを迎えます。
周囲は木ばかりでしたが、ここまで林業関連の施設や材木そのものの切り出し現場は見ませんでした。ここに来て道端に丸太が積まれているのを発見。
千葉ではまだ林業は少しは残っているようです。
御嶽山のピークを過ぎると道は老川方面と筒森方面の二手に別れます。
私たちは筒森方面の星井畑林道を下ってR465清澄養老ラインに出ました。
R465は二車線の立派な道。これまで細い林道ばかりでしたから、その差にびっくりするくらいです。道脇には棚田が作られています。房総ではこんな狭い平場でも利用しない手はないのです。
この平場はあっという間になくなり、道はすぐに上り出します。ピークでトンネルをくぐって下ると、ほぼ下り切った先にトンネルがあり、このトンネルを抜けたすぐ先に戸面蔵玉(とづらくらだま)林道の入口があります。
戸面蔵玉林道はここ蔵玉と養老渓谷の戸面を結ぶ線ですが、入口に交通連絡員がいて、大型トラックが降りてくるから気をつけて、と言います。横には大型車輛通行一日64台と表示があります。この先のどこかで工事をしているらしい。
戸面蔵玉林道は結構な勾配の上りで、えっちらおっちらと上って行くとトンネルを抜けます。このトンネルの先にもう一つトンネルが見えると、その手前で右に上る道が分岐します。これは大福山林道。私たちはここから大福山に向かうので、この林道に入ります。
大福山林道はぐるりと廻るようにして、先ほどくぐった戸面蔵玉林道のトンネルの上を通って行きます。
ここは立体交差なのです。
大福山林道は尾根道なので、これまでより頻繁に眺望が開きます。
あ〜、房総の山並み〜
大福山林道はそのうち砂利道になります。ここは以前からそうでしたから驚きはしませんが、そこを大型トラックが降りてくるからやっかいです。
それも、ごくまれにというわけではなく、時々という程度に。工事現場はこの先のようです。
時々停止して大型トラックをやり過ごし、砂利道をガタゴトと上って行きます。
工事の為かこの路面には比較的新しい切り込み砕石が敷かれていて、タイヤを痛めそうなのでできるだけ慎重に上って行きます。
大福山までもうちょっとというところで、左に坂畑林道の分岐が現れます。
ここを見た瞬間にとても驚きました。この分岐のところが例の工事現場で、それもかなり大掛かりなもののようなのです。
標示板には産業廃棄物最終処分場とあります。さらに進んでさらにびっくり。谷がぜんぶ埋め尽くされようとしています。ここの開発区域面積は204,541ha。開発期間は平成13年3月30日〜平成36年3月31日。
とんでもなく大掛かりなものです。ここは以前にも通っているのですが、こんな工事が進行しているなんてまったく気が付きませんでした。
産業廃棄物最終処分場からあとの大福山林道はちょっときつい。
なんとか堪えて上って行くと、ようやくアスファルト舗装が復活。ここまで来ると大福山の女ヶ倉(めがくら)林道の分岐点まではすぐです。
V字ターンで女ヶ倉林道に入ります。この入口、今回は、こんなにきつかったっけ? と思うほどでした。ここまででかなり足にきているのです。
女ヶ倉林道は大福山山頂のすぐ南を等高線に沿って延びて行きます。この線は房総の林道の中では比較的眺望の良い路線なのですが、この時期は木々が生い茂り、それがちょっと阻害されていたのが残念。
ここでシンチェンゾーのバイクに異変。タイヤが回らない。なんでも少し前からおかしかったと言う。調べて見るとリアの泥よけが変形してタイヤに擦っている。腕力で元の形状に戻して、ホッ!
ほどなく大福山山頂下にある東屋に到着します。時はすでに13時半。ここまで適当なピクニック場所がなかったので、この東屋で弁当を広げます。
弁当を平らげたところで、シンチェンゾーとシュンシュンが水が尽きそうだというので、水場を求め、この東にある二ヶ所のトイレを調査するも、一方は水なし、もう一方は飲料不可でした。
仕方ないから次の補給箇所に向かおうとしたその矢先、今度はサイダーのバイクからパーンという乾いた音が。バースト!
この音、最近良く聞くようになってしまったので、すぐに分かります。タイヤに数カ所穴が開いている。先ほどの鋭利な砂利でやっちまったようだ。なんとか応急処置をするものの空気圧は上げられず、サイダーはここでリタイアと決め、最寄りの養老渓谷駅へ向かうことにしました。
時は14時半を回っています。水がないシンチェンゾーとシュンシュンもここで上がりでいいというので、自動的に養老渓谷が最終目的地になりました。
距離は短いものの雰囲気のいい女ヶ倉林道を下り、朝生原(あそうばら)林道に入ります。
上に青い橋、前方に赤い橋が見え、養老川を渡ります。養老渓谷まで下ってきたのです。
なんとかサイダーのタイヤもここまで持ちこたえてくれました。
養老渓谷では、温泉に浸かって宴会して、というプランでしたが、その前にとりあえず駅を覗いておこうと養老渓谷駅に向かいます。
駅に到着すると、なんとそこにはSLが止まっているではないですか。あれ〜、小湊鐵道にSL走っていたかな。。向きからして上総中野方面行きかなと思っていると、これは五井方面行きで、このあとの列車は一時間半後になると言います。
そこで急遽予定変更。この列車に乗車することにしました。輪行準備時間はたったの5分。大急ぎで自転車をパッキングして乗り込みます。
SLだと思っていたこれは、実はかつてこの路線を走っていたSLをモチーフにして新しいデーゼルエンジンを載せた機関車だそうです。
私たちが乗った車輛はオープンエアのトロッコ風車輛で、風を受けて気持ちいい。久しぶりに童心に帰ったようで、車内ではしゃぐ面々でした。
この列車、特別臨時便かと思ったら、なんと季節限定の通常便のようでさらにびっくりです。トロッコ列車代はたったの500円なので、かなりリーズナブルだと思います。
小湊鐵道は景色も楽しめます。
養老川を渡り、
こんな狭い切り通しを抜け、幾多のトンネルをくぐり、
野山の中を進んで行きます。
この路線は鄙びた駅もまた楽し。
ここ月崎駅には涼しげに風鈴が良い音を立て、関係者が手を振って見送ってくれました。
窓のない窓の外には緑色の田んぼが広がるようになります。
その向こう側には、あの房総の低い山。
里見駅には小湊鐵道で現役で活躍しているキハ200形気動車が止まっていました。
これもいい味の車輛で、古いものは1961年製造だそうです。
里見駅を過ぎると、周囲は緑の田んぼ一色です。養老川流域に平場が広がってきたのです。
稲が生長をし出したこの時期の田んぼは本当にきれいですね。
上総牛久駅に到着。このトロッコ列車はここが終点で、五井へは接続列車が待っていました。
養老渓谷駅からこの上総牛久駅までの一時間、たっぷりトロッコ列車を楽しみました。いいです、これ。
今日は元々、後半どこで上がろうかという企画でしたが、ま、予定調和とはいきませんでしたが、アクシデントからトロッコ列車の旅という瓢箪から駒で、なかなか楽しめました。
あ、麻綿原高原の紫陽花も良かったです。でもそこまでの上りはかなりきついですね〜 いつか千葉側からリベンジしたいと思います。