2018年の夏はこれまでにない猛暑日が続く異常な夏になりました。9月になってもそれは続き、夜中でさえクーラーなしには過ごせないありさまです。自転車で走るどころではありません。でも、ちょっとは自転車に乗りたい。
そこで天然のクーラーがあるところで涼みながら、少しだけ自転車に乗ることにしました。
天然のクーラー、それは森と滝です。やってきたのは奥多摩、あきる野市の武蔵五日市駅。
この近くには秋川が流れ、その周辺にいくつも滝が落ちているのです。今日はこれらの滝の中のいくつかを巡り、途中、アクセントとして時坂峠(とっさかとうげ)に上ります。
武蔵五日市駅からは秋川に沿ってその上流へ向かいます。秋川の右岸にはr33檜原街道が通っていますが、これは道幅が狭い上に交通量があるので、左岸のカントリーロードを行きます。この左岸の道はアップダウンは少しあるものの、ほとんど車が通らず快適です。
走り始めの気温は24°Cとかなり涼しいです。都心を脱出してやってきた甲斐がありました。
左手、秋川の先に城山が見えてきました。
この日の天気は9時から晴れの予報ですが、まだ雲が低く垂れ込めています。
『雨、降りそう〜。雨装備持ってきませんでした〜』 と、雨を心配するクッキー。
しかしこの雲は間もなく消えてくれるでしょう。
秋川左岸の道は変化に富んでいて、眺めがあり、こんなふうに針葉樹林の中を抜けていくところもあり、飽きません。
二車線の道に出るとそれはr201で、左手に流れる川は秋川の支流の養沢川になります。
r201をこのまま進むと大岳鍾乳洞や大滝に行き着くのですが、今回はこれは見送り、秋川沿いに戻ります。
すると短いながらも激坂が現れ、大半のメンバーが押しに。
一人気を吐いてここを上るは、なんとシングルギアの自転車でやってきたサトちゃん。ん〜、強い〜。
いつもは強い赤シャツのシンチェンゾーは、先日気温36°Cの中を100マイル走って熱中症でぶっ倒れて以来、あまり元気がありません。36°Cの中を走るなんて、アホやな〜
秋川左岸の道はずっとは続かずいったん檜原街道に出ますが、檜原村の下元郷から再び左岸に入ります。
先頭のシュンシュンは、とある山岳コースの時に愛車ブロンプトンのチェーンリングを二枚にして以来、それをずっと付けっぱなしにしています。
『今日もこれでなんとか上れそう。』 と、快調シュンシュン。
ここは檜原村。東京都で島嶼部を覗けば唯一の村です。
この山深さ。そんなところに残る古くからの民家は味わいがあります。
この夏は大雨や台風が多く、この数日間もかなり雨が降ったところがあるようです。
そんなんで、今回の滝巡りは川の水が濁っているのではないかと思っていたのですが、この秋川を見ると、かなりきれいでびっくり。このあたりは大雨ではなかったようです。
快適な秋川左岸の道は終わり、檜原街道に出て檜原村の本宿へ向かいます。今日は日曜日なので檜原街道の交通量が少なくて助かりましたが、この道は平日や土曜日には大型トラックが通ることも多いのです。
空には青い色が見え出しました。こうなると気温はぐんと上昇し、すでに30°C近くになっています。
橘橋までやってきました。ここは南秋川と北秋川の落合です。橘橋の上から南秋川を覗き込むと、川幅は狭く急な流れで、あちこちに小さな滝ができています。このあたりは橘峡と呼ばれているようです。
下に続く階段があったので、これを使って川辺に下りてみました。階段周辺は草ぼうぼうでメンテナンスされていないのが残念ですが、流れはなかなかいい雰囲気で涼しく、今回の滝巡りの効果をすでに感じることができます。
この上流に吉祥寺滝という小さな滝があるので行ってみると、そこに下りる遊歩道と階段はこちらもほとんどメンテナンスされておらず、滝の上には、『川に入るな』という札がロープで渡されている始末。
吉祥寺滝はちょっと残念でしたが、次は期待を裏切らない滝、払沢の滝(ほっさわのたき)に向かいます。
檜原とうふ店の左側の道を入って行くと、すぐに払沢の滝の入口に到着します。
沢の上に架かる小さな橋を渡ると遊歩道が続いています。
この遊歩道を進むとすぐ、郵便マークのあるちょっと古そうな建物が現れます。この建物は木工房「森のささやき」、また「ひのはらゆうびん館」と言い、1929年(昭和4年)に檜原村上元郷に檜原郵便局舎として建てられ、1969年(昭和44年)まで使われていたものを移築したものだそうです。
この前に高倍率の望遠鏡が置かれています。それを覗くと、山の中腹に勢い良く流れ落ちる滝が見えます。天狗滝です。写真は同箇所からバカチョンカメラで撮影したものなので、滝があることしかわかりませんが、望遠鏡のそれはかなり迫力がありました。
『結構豪快な滝ですね。』 と、久々に登場のマージコ。
『あの天狗滝には午後行きますよ。』 と、企て人サイダーが言えば、
『え〜、あんなところまで上るんですか?』 とは、ここのところほとんど走っていなくて、あまり足に自信がないクッキーでした。
レンズの奥の天狗滝を眺めたら、払沢の滝に向かいます。
以前来たときはこの遊歩道は地道だったと思いますが、その後整備されたようで木製のチップが敷かれていました。
左手に小さな滝が現れました。案内板によればこれはこれは忠助淵(ちゅうすけぶち)と言うようです。
ここですでにマイナスイオンを感じ、一同
『涼しくていいですね〜』
忠助淵からほんのちょっと上ると空間が開けて、こんな流れになります。落差は小さいですが、あちこちから落ちる水の流れが気持ちいい。
ここで足を水に付けてみると、冷たい〜 さすがに山の水ですね。
この少し上流に、『飲料水のため水に入らないでください』という表示がありました。すみませ〜ん。
さらに上ると、いきなり目の前に払沢の滝がドーンと現れます。忠助淵がホップ、その上の広がった空間がステップ、そしてこの払沢の滝でジャ〜ンプという感じ。
この滝は落差60mで4段になっているそうですが、ここから見えるのはその最下段部で、落差は26mほどだそうです。豪快に流れ落ちる水の音が心を洗ってくれます。いいですね、この滝。
払沢の滝で元気を貰ったら、時坂峠への上りに取りかかります。払沢の滝の駐車場から時坂峠までは、距離3.5km、標高差280mで、平均勾配8.0%とちょっときついです。
上り出すとすぐ、ヘアピンカーブが現れます。ここには北秋川に流れ込む沢があり、風が涼しくて気持ちいい。こうした所を通ると、川が天然のクーラーになっているのが良く分かります。
その後もヘアピンカーブが続き、えっちらおっちらと徐々に高度を上げていきます。気温はだいぶ上がってきていますが、森の木陰で涼しいです。
あるカーブのところに大きな屋根を持つ民家が現れました。
この建物はかつては茅葺き屋根でしたが、金属板で葺き直されていました。茅葺きはメンテナンスが大変ですからね。
序盤は頼りない走りに見えたクッキーですが、ここで猛然とダッシュ。
あれれ、調子、いつの間に戻ったの。
払沢の滝から距離にして2km少々、高度で200mほど上ると、開けた谷上に出ました。
奥に続く谷、下には民家。ここは眺めがいいです。
『時坂峠まではあと1km少々でよ〜』と、ここでみんなを励ますシンチェンゾー。
このすぐ上に『武蔵野水道・時坂の森』と書かれた標識があります。
その標識の先は左手が開けていて、勾配も緩くなり、気分良く走れます。
しかし木陰のないここの気温は32°C。まあそれでもここは一瞬通過するだけなので、大して暑さは気になりません。
穏やかに弧を描くカーブを廻ると、いつの間にか道幅は狭くなっており、明るい広葉樹の中を行くようになります。
ここは紅葉がきれいそう。
すっかり晴れた空と深い緑の山並み。
夏の終わりが近付いてきていますが、雲はまだ秋のそれではないですね。
ぐんと勾配が弛むと右手に分岐する道が現れます。この分岐道を行くと本来の時坂峠ですが、その先は地道で行き止まりになるので、これは行かずにメインの道を進みます。
谷側が針葉樹に覆われるようになると、先に峠の茶屋の看板が見えてきます。
その奥に見える峠の茶屋そのものはもうだいぶ前に廃業したようですが、この大きな看板だけは今なお立ち続けています。
ここがこの道の最高標高地点で、自転車乗りの間ではここを時坂峠と呼ぶことも多いようです。
峠の茶屋の前にはちょっとしたスペースがあり、北の眺望が得られます。
そこからは御前山から大岳山が良く見えます。
ここの標高は600mに満たず決して高くはありませんが、上りの途中の数箇所と、この頂上に展望があるのがとても良いです。払沢の滝からここまでの勾配は8%ときついですが、登坂高度は300mほどと大したことはないので、初級者でも挑戦しやすいと思います。
さて、眺望を楽しんだら昼飯です。峠の茶屋から西に少し下ると道は二手に分れ、右の本線を来るとこの看板のところに出ます。そしてここから砂利道をちょっと奥に行くと蕎麦屋があります。
ここにはしばらく来ていなかったので道を忘れていて、確か蕎麦屋は奥まったところだったなという記憶から、分れ道を左に行ってしまいました。そしたら細い山道になってしまい、自転車を押し上げるのに苦労しました。
蕎麦屋から西に下る道はかつては砂利道でしたが、きれいなアスファルト舗装になっていました。しかしこの道は激坂な上に、斜面からこぼれた小石が落ちているので慎重に下って行きます。
するととあるカーブのところで、下に小岩の集落が見えました。
アスファルト舗装がコンクリート舗装に換わると、激坂度は益々増して転げ落ちそうなほどです。
ブレーキレバーをぎゅっと握りしめて、なんとか小岩まで下ってきました。
ここには茅葺き屋根の民家がまだ残っています。
その先には立派な倉と伝統的な造りの民家。
小岩からは北秋川に流れ込む神戸川(かのとがわ)に聳える神戸岩(かのといわ)に向かいます。
道は北秋川に沿うr205水根本宿線。
日曜日の水根本宿線はあまり車が通らず問題なく走れますが、北秋川の左岸に細道が出てきたところでそちらにシフトします。
大きく蛇行する北秋川に沿って、小さな集落があります。
ここは手前が宮ヶ谷戸で先が小沢というところのようです。
周囲は針葉樹林になりました。小さなアップダウンを繰り返しながら、この林の中を進んで行くと、
川を渡って広い道に出ました。この川が神戸川です。
いつの間にか知らないうちに道脇の川は、北秋川から神戸川に変わっていたようです。
道は穏やかな上り。神戸の集落の間を進んで行くと、徐々に谷が狭まってきます。
民家がなくなり周囲が杉林になるころになると、ペダルを踏む足がずっしりと重くなります。
穏やかに見える道ですが、このあたりになるとそれなりの勾配があるようです。
神戸川は水の戸沢と赤井沢が合流した流れです。その一方の赤井沢に沿って上って行きます。
沢に気を取られて下ばかり見ていて気付くのが遅くなりましたが、ふと目を上げると突然、目の前に岩の壁が現れました。これが神戸岩です。
この巨岩は、幅60m、高さ100mで、硬質なチャートでできているため、風雨による長年の侵食に耐えたと考えられています。足元には幅4mほどの渓谷が造られています。元々は巨大な一つの岩山だった神戸岩が地殻変動によって二つに割れ、その間に川の流れができたのだそうです。
大地が緑に覆われていてあまりはっきりしませんが、ここで神戸岩は左右に別れ、その間を沢が流れています。
さて、ここから渓谷に入って行きます。
小さな滝が落ちる岩の間に簡単な木の橋が架けられています。まずはこれを渡ります。
この橋の先にも小さな滝があります。飛び散る水しぶきとザザーという音が涼しげ。
滝の横には金属製の梯子が架けられています。
この梯子は滑りそうでちょっと怖いのですが、梯子自体は下の岩に固定されていてずり落ちる心配はありません。
梯子を上り切るとそこは高い岩壁の下で、人一人がかろうじて通れるだけのごく狭い通路が造られています。脇には細い渓流が轟音を響かせながら流れ落ちています。
岩壁に取り付けられたチェーンの手摺につかまって、恐る恐る進んで行きます。
振り返ると、両側から迫る岩壁の姿がよくわかります。
岩壁の間を抜け出ると、そこは少し広がったスペースで滝が落ちています。ここで滝壺にジャブンは、いつものサイダー。
『お〜、冷たくて気持ちいいよ。みんな入りなよ。』 と、サイダーは周囲を見回しますが、この言葉には誰も乗ってきません。
この滝の上はさらに空間が広がっており、川幅がぐんと広がります。その流れは浅くて穏やか。
ここなら足くらい浸せそうと、クッキーとシンチェンゾーが川に入って行くと、シュンシュン、サトちゃん、マージコと次々にそれに続きます。
最初は足だけのつもりだったクッキーは、遊んでいるうちにびしょびしょになってしまい、ついにザブン。
『わ〜、冷たくて気持ちいいですね〜』 と、半身浴状態。これを見たシンチェンゾーは、
『そんじゃあおいらも行くか。』 と、ジャブン。
『あ〜、気持ちええ〜』 こら、ここは風呂かお前ら!
ジャブジャブ遊びで涼んだら、トンネルをくぐって神戸岩まで戻り、自転車でやってきた道を下ります。
r205水根本宿線に出てちょっと行くと、シュンシュンの自転車からパーンといういい音がしました。(笑) パンクです。後輪のバルブがぶっちぎれています。こうなるとチューブ交換しかありませんが、ブロンプトンは内装ギアなため、タイヤを外すのにちょっと時間がかかってしまいました。
なんとかパンク修理を終え走り出すと、すぐのところの北秋川に不動の滝が落ちています。
この滝は細く、落差も9mほどしかないので、あまり迫力がありません。滝に近づけるかなと思い川縁に降りてみましたが、残念ながら見えず。
このあたりで滝巡りは終わりにして温泉に直行しようという意見もあったのですが、この先には、払沢の滝に行く途中に望遠鏡で見た天狗滝があります。時刻は15時40分とまだ早く、天狗滝の登り口までは水根本宿線から1kmもないので、ここは天狗滝を見てから温泉へ向かうことに決定。
ところがこの天狗滝の登り口までの林道が凄かった。超が付く激坂です。距離850m、標高差135m、平均勾配16% ! ほとんど押しです。
林道終点まで行ったシュンシュン、クッキー、サトちゃん、サイダーは後続を待ちますが、いつまでたってもマージコとシンチェンゾーがやってきません。二人は激坂にめげて下で待っているとのことなので、温泉に先に行ってもらい、そこで落ち合うことにしました。
先行していた四人は、ここまで来たからには滝まで行くしかないと山に入ります。ところがこの山道も凄かった。まずは幅は狭いものの千足沢を渡り、
この沢に沿って、かなりの急斜面の岩場をよじ登るようにして上っていきます。
へとへとになったころ、
『あった〜、天狗滝〜』 という声が聞こえてきました。
『あれ〜、おかしいな、この看板には小天狗滝って書いてありますよ。』 と、シュンシュン。
そうなのです。これは小天狗滝で、目指す天狗滝ではないのです。天狗滝はさらにこの上なのです。ここでちょうど上から降りてきた方がいたので、天狗滝までどれくらい掛かるか聞いたところ、あと5分くらいとのことだったので、気を取り直して上り続けます。
道は小天狗滝を巻いて上って行きます。確かに小天狗滝から5分ほどで天狗滝に辿り着きましたが、この道もかなり厳しいものがありました。そして最後は滝までちょっと下ります。これがまた落っこちそうなくらいの岩場!
ここには外国からの観光客が一組いて、岩の上であぐらをかき瞑想に耽っていました。
天狗滝は落差が38mだそうですが、岩壁に沿って流れ落ちるためかそんなに高くは見えず、比較的静かな印象を受けます。滝壺は浅く、小さな河原もあるので水に浸かるのにもってこいですが、すでに気温はだいぶ下がっていて26°Cしかないので、ここでジャブンはなし。これまで気付きませんでしたが、この滝は本宿の北秋川橋から見えるそうです。
天狗滝に満足したら慎重に山道を下り、マージコとシンチェンゾーが待っている温泉に向かいます。サイクリングと滝ポチャのあとの温泉は最高です。
さて、この企画ですが、結果として最高の出来になりました。暑い夏に走れるところは限られますが、森と滝があればかなり涼しく、滝壺にポチャすればさらに身体を冷やすことができます。そうそう、その後の温泉も大切なポイントですね。