梅雨が明けてからずっと猛暑が続いています。この日は高所なら涼しかろうと山梨県の二箇所を候補に上げていましたが、一方は最高気温37°Cと猛暑も猛暑で、その上午後は大雨注意ときた。もう一方は雷注意報が発動されており、こちらは万が一の時にはまったく逃げ場がないとあって、両方とも断念せざるをえなくなりました。
そこで近場でできるだけ涼しいところをと、やってきたのは奥武蔵。西武池袋線の電車が高麗駅を出ると、辺りは急に山深くなりました。早朝、都心を出発した時にはすでにかなり暑さを感じるほどに気温は上がっていましたが、到着した吾野駅(あがのえき)の空気は澄んでいて、さわやか。都心からたったの1時間で、こうも違うとは驚きです。やってきた甲斐があろうというものです。
ここは高麗川の狭い谷で、両側からは山が迫ってきています。
その底にR299武州街道が通っています。
武州街道は入間から秩父を通り、志賀坂トンネルを抜けて群馬県に続く道で、このあたりで唯一の主要道です。
古くから街道であったと思われ、現在もかつての雰囲気が僅かに残っています。
ハードなサイクリストはこんな日でも炎天下をバリバリ走るのでしょうか。ある方は今日、三浦に行くと行っていましたが、私たちにはとてもそんなことはできません。ゆるゆると、わずかな距離を自転車で進むだけです。あたしたち、なんてったってポタリング倶楽部だもんね〜
今日はこの高麗川の谷から奥武蔵グリーンラインに上り、その周囲にある滝を眺めて涼むという計画です。サイクリングというよりも、単なる涼み企画といった方がいいかもしれません。^^
高麗川を渡って、長沢から小さな沢に沿ってその上流に向かいます。
この沢の名はわかりませんが集落の名が長沢なので、長沢というのかもしれません。
この細い道に入ったとたんに道は緩い上りになり、これは奥武蔵グリーンラインまで約7km続きます。まったく下ることなく。
数分も上れば、日向の気温はすぐに30°Cを超えるようになります。
八徳への分岐
2kmほど行くと志田で、ここに分岐が現れます。右は八徳(やっとこ)に続く道です。
八徳は山の中腹に築かれた小さな集落で、鄙びた景色が美しいところですが、今回はそちらには行かず、左の高山不動尊がある方に向かいます。
この分岐を過ぎると、周囲は森になります。蝉が鳴いています。ジージーのアブラゼミ、ミンミンのミンミンゼミ、オーシツクツクのツクツクボウシ。
都心で聞く蝉の声は発狂したようにうるさいですが、なぜか森の蝉の声はやさしい。蝉時雨なる言葉がありますが、時雨は小雨ですよね。都会では時雨なんて生易しいものではなく、蝉豪雨としか思えませんが、ここではまさに時雨という言葉がぴったり。
隣には相変わらず小さなせせらぎが流れており、森に入ったことで、急激に気温が下がり涼しくなります。
しかし勾配はちょっと上がったようで、エッチラオッチラがはじまります。
この坂をものともせずに上って行くのは、左、この辺りが縄張りのサンダリアス。
右は最近ワークマンに入り浸っているムカエル。
『ワークマン、安くてサイコ〜〜』 だそうな。
今日はどの自転車で来るか迷いに迷ったシュンシュン。
結局いつものブロンプトンと相成りましてございます。
愛車は一台だけよ、といつものカルメン2世号でやってきたのはサリーナ。
まだ序盤だというのに、この坂にすでにヨロヨロ。
高麗川の谷から奥武蔵グリーンラインに上る道はいずれもきついです。その中では、この吾野から高山不動尊に上る道は比較的難易度が低いのですが、それでも最後の方は路面がコンクリート舗装になり、激坂になります。
ここはじっくり腰を据えてエッコラヨッコラ。勾配はきついですが気温は26°Cと低く、快適。
吾野駅を出て一時間と少々。森の先に光が見えます。高山不動尊の入口に到着です。
この入口のすぐ先には三輪神社があり、その足下には冷たい山水が運ばれてきていて、そこで身体を冷やさせてもらいました。あ〜、冷たくていい気持ち!
お社であげられている祝詞を聞きながら奥に進んで行くと、
お地蔵さんのうしろに樹齢800年ともいわれる大銀杏があります。
この木は立っているロケーションもあるのですが、生い茂った枝葉に隠れて全貌が見えません。見えるのは幹の下の方だけで、そこには気根がたくさん出ています。
通常の根っこからだけでは呼吸が十分ではない巨大化したこうした木々は、気根を伸ばしてそれを助けるようになるようです。
この大銀杏の下を通ってその上に出ると、そこには高山不動尊の不動堂に上る階段が現れます。
この階段、45°を超える急勾配で、踏面がとても狭くて、上り難いことこの上なし。
万が一足を踏み外すと本当に真っ逆さまに落っこちてしまいます。ここは慎重に登って行きます。
ヘコヘコしながらなんとか登り切ると、不動堂の前に出ます。高山不動尊は関東三大不動のひとつともされるお不動様で、この不動堂はかつては柿葺きだったろうと思われる大屋根が見事。ご本尊の軍荼利明王立像(ぐんだりみょうおうぞう)は国の重要文化財に指定されているのですが、そのご開帳は年一回だけで普段は見ることができません。
この境内は風がさーっと取り抜けてとても涼しいです。
お不動様にお参りして少し涼んだら、すぐ近くに落ちる高山三滝と呼ばれる三つの滝、白滝、不動滝、大滝に向かいます。白滝がもっとも近く大滝がもっとも遠いので、まずは白滝を目指します。
北西に進んで行くと最初の分岐点に出ました。ここで高山三滝への誘導標識が二つあったので左に行ったのですが、反対側から上ってきたハイカーに聞くと、滝はなかったと思うとのこと。れれれ。。。この道は方向からすると大滝に向かっているようです。
戻ってやり直し。今度は右へ行ってみます。するとこちらは森の中に細い踏み跡がウネウネと下って行っています。え、これ下るの。。。
これを下ると、帰りに上ってくるのが大変そうでちょっと躊躇しましたが、ここまで来て引き返すわけにはいきません。不動三滝はこの企画のメインイベントなのですから。
仕方がないので覚悟を決めて下り出します。下から上ってきたトレイルランの方に聞くと、三滝のうちの白滝と不動滝には流れがありまあまあだけれど、大滝は枯れているとのことなので、白滝と不動滝に行くことにしました。
沢まで下ると、そこに白滝と西吾野駅方面への誘導標識があります。最初に遠い方の不動滝に行こうと思ったので西吾野駅方面に向かったのですが、この道は広くて川沿いを下って行きます。なんだか様子がちょっと違いそうだな。地図とにらめっこしてどうもこの道ではないと判断。とりあえず戻って、白滝から先に行くことにしました。
その白滝へは、こんな人一人がやっと通れるような道を上って行きます。
急な斜面を進んで行くと次第に水の音が大きくなり、木々の合間からきれいな白い一筋の流れが見えてきます。
そのうしろは真っ黒な岩。
白滝です。ここのところ快晴続きであまり雨が降っていないため、水があるかどうか心配でしたが、ここははっきりとその流れを確認できるだけの量が落ちています。
豪快とはいえませんが、ひっそりとしていて、爽やか。ここの気温は26°Cしかありません。涼しい! やってきた甲斐があるというものです。
ここでいつものように滝行をするもの一人。
白滝で身体を冷やしたら不動滝に向かいます。白滝に来る途中に気付いたのですが、最初に下って行った川沿いの道のすぐ上に細い道ありました。これがどうやら不動滝に続くもののようです。この分岐に不動滝への誘導標識はないのですが、小山を廻り込んでいる様子からして、まず間違いないでしょう。
しばらく進むと大滝と不動滝への誘導標識が現れました。やはりこの道で正解でした。ここから先の道はかなり狭く、しかもその斜面は60°を超えていそう。転げ落ちると生きて戻れないかもしれません。
左に落ちていく斜面が急に変わり、右手の視界が開くと、鮮やかな黄緑色の葉っぱの向こうに、真っ黒な巨大な岩が現れます。この大きさは白滝の比ではありません。
『ひゃ〜、でっかい岩〜〜』 と、唸るサリーナ。
染み出す水に濡れたこの巨大岩の中央部はわずかに凹んでいて、そこからうっすらと水が滴り落ちています。これが不動滝です。
その流れは細く、周囲の岩が巨大なので、この両方をいっぺんに写真に収めるのはむずかしいです。
写真の右端にサンダリアスが写っているので、岩の巨大さがわかるでしょうか。
うっすらとした清い流れ。
やや高い位置から不動滝を見下ろした図。
ここでも滝行はサイダー。
ヨーッ、水も滴るいい男!
しかしそれに続くものはおらず・・・
いや〜、この滝、いいです。圧倒的迫力です。ただ残念なのは白滝もそうですが、ここにはまったりと過ごすのに適当なスペースがないことです。しかしそれでもここは魅力充分でしょう。
もう一つの大滝はまた今度ということにして、不動滝から高山不動尊に戻ります。朝方は晴れていましたがこの時はすでに空はうっすらと雲に覆われています。
このあとは高山不動尊奥の院があり、関東八州、すなわち安房、上野、下野、相模、武蔵、上総、下総そして常陸の眺望があるという関八州見晴台に行くつもりにしていましたが、この空では見晴らしは期待できません。そこで関八州見晴台はあきらめ、高山不動尊の境内で軽食をいただきながらしばしまったり。
さて、高山不動尊からは奥武蔵グリーンラインに上るのですが、これが激坂なのです。路面はノンスリップ加工のコンクリート舗装。これを見ただけて闘志が萎える面々です。あたしはここ、全面押し。^^
えっこらよっこらと自転車を押し上げていると南西の視界が開き、高麗川の谷を挟んだ山が見えます。
遠方に見えるのはそのさらに南を流れる入間川の谷をつくる山々でしょう。
20分近く自転車を押し上げて、ようやく奥武蔵グリーンラインに辿り着きました。ここまで路面にはずっと○○印が付きっぱなし! へばった〜〜
奥武蔵グリーンラインは昨年秋の台風19号以来、あちこちで通行止めになっており、このあたりも埼玉県のWEBペイジではそのように案内されています。ただ問題箇所はこれより西で、東への通行は問題なしとの情報があったのでここまでやってきたのですが、果たして結果はその通りで、ここに通行止めの表示はありません。
奥武蔵グリーンラインに乗って森に入ると、スーと風が抜けて行きとても涼しく感じます。日向は32°Cですが、森の中は29°C。体感温度はもっと低く感じます。
ここの標高は650mほどで、高度で涼しく感じるほどに高くはありませんが、それに加え森とせせらぎとの相乗効果で涼しいのでしょう。
黒山展望台は少なくともこの時期は鬱蒼とした木々に阻まれ眺望は期待できないのでパスし、傘杉峠までやってきました。傘杉峠は峠とはありますが、ほぼ尾根伝いを行く奥武蔵グリーンラインではここはピークではありません。この道の他の峠と名の付くところ同様、ここは尾根に上ってくる道があるだけです。
ここにはちょっとした標識が置かれています。振り返って見るとそれは、この先通行止めの標識でした。私たちが通ってきた限りでは高山不動尊からこの傘杉峠まで、不安なところはまったくなかったように思いますし、他に通行されている方も見受けました。かつては何らかの問題があったのかもしれませんが、この標識は現状を反映していないように感じます。
さて、昼食に向かいます。このあたりで昼食がいただけるのは顔振峠にある茶屋数軒とイタリアン・レストランくらいです。顔振は、『かあぶり』『こおぶり』『こうぶり』といくつかの呼び方があるようです。
コロナ禍で営業しているのかどうかちょっと心配でしたが、顔振峠の顔振茶屋と平九郎茶屋は開いていました。富士見茶屋はしばらく前からずっと閉まっていますね。
ここからはお天気ならば富士山の頭が見えるのですが、この時は残念。
顔振茶屋さんでお蕎麦をいただいていると、西からゴロゴロ。雲行きがちょっと怪しくなってきました。茶屋のおかみさんによるとこの西の秩父地方では良く雷が発生するそうですが、それは『秩父の雷、音ばかり』と言われ、あまりこちらには来ないそうです。北の足利方面で雷が鳴ったらそれはすぐさまやってくるので要注意だそうです。
『秩父の雷、音ばかり』なら良いのですがそれにも例外はあるでしょうから、ここはちょっとだけ急ぎます。
顔振峠から奥武蔵グリーンラインを南に進むと下りです。少し先で左手前から上ってくる道が合流します。この道が奥武蔵グリーンラインの続きで、ここはクイックターンするように進まなければならなかったのですが、すっかり忘れていて吾野駅方面に直進してしまいました。戻ってやり直し。
阿寺までやってくると林道阿寺線の分岐が現れます。これより東の奥武蔵グリーンラインは通行止めで、ここは重傷で完全に通れないそうなので、やむなく林道阿寺線に入ります。
この林道阿寺線、下ること下ること、いったいどこまで下るんだ〜と思うくらいに豪快に下って行きます。まあ普段なら下りは楽しいのですが、ここはこの下りが直接すぐあとの上りに繋がるので、ひやひやしっぱなし。
『お〜い、そんなに下らないでくれ〜〜』(笑)
虎秀(こしゅう)でようやく平らになったら、林道松倉線で奥武蔵グリーンライン復帰を目指します。
この林道松倉線、案の定、入るとすぐに激坂に。
路面は水平にノンスリップ用の筋が入れられたコンクリート舗装。ここ、自転車を押し上げるのもきつい!
林道松倉線は自転車で来るべき道ではないですね。普段なら絶対にこの道は通りません。でもこの日は仕方がないのです、他に道がないのですから。
この超激坂を一台の車が下ってきました。え、いったいどこから。。このすぐ上にはユガテの集落があります。おそらくそこからやってきたのでしょう。しかしこんなところでの生活って、いったいどんなでしょうか。ちょっと想像できないですね。
さて、押して押して、また押して、、、20分も押し上げると、なんとか奥武蔵グリーンラインに出ることができました。
このすぐ西には天文岩があるので、立ち寄ってみます。天文岩はたった今上ってきた林道松倉線の入口にあった虎秀に生まれた天文学者が修行したところと伝えられています。大岩の割れ目に祠があり、そこで修行したらしいです。この大岩にはあちこちに人工的な加工が施されているのですが、それがこの天文学者と関係があるのかどうなのかは分かりませんでした。
天文岩を眺めたら奥武蔵グリーンラインをさらに東に下ります。このあたりは標高が400mを切っているので、最初に奥武蔵グリーンラインに上った時ほどには涼しくありません。
北向地蔵までやってきました。日本のお寺さんや神社さんには南向き信仰があり、それらのほとんどは南に向けて建てられます。ごくまれにこのように北を向いたものがあるのですが、そうしたもののほとんどは、その親に当たるものがその先にあるのです。この親は野州(栃木県)の岩舟地蔵で、ここはその分身とされているのです。
この北向地蔵の前にはシュウカイドウが花を咲かせていました。早いところではもうこの花は終わっていますが、ここは少し標高が高いから残っているのでしょう。
ここに来てカナカナのヒグラシも鳴き出しました。
北向地蔵で奥武蔵グリーンラインは北に向きを変えます。鎌北湖の北を通る道までは快適な下りで涼しく、いい気持ち。下ったら、そこで奥武蔵グリーンラインはおしまいです。
ここからはカントリーロードを西へ向かい、もう一つの滝、獅子ヶ滝を目指します。
大谷木の集落には変わった形の茅葺き屋根の民家が立っています。
残念ながらもうそこに人は住んでいないようですが、建物だけはかろうじて残っていました。
標高は250mで、かなり蒸し暑さを感じるようになってきました。
大谷木の集落がなくなると、道は砂利道になります。しかも上りできっつい! しかし獅子ヶ滝に行くにはこの先にある小さなピークを越えなければなりません。
エッコラヨッコラ、のろのろとピークまで自転車を押し上げると、その少し先からは路面がきれいになって獅子ヶ滝の入口に下ります。
この入口から獅子ヶ滝まではわずか1分ととても近く、ちょこっと滝に行きたい時にはうれしいのですが、逆にアプローチが短すぎて少しあっけない気がします。
獅子ヶ滝は落差5mほどのとても小さな滝です。
それでかここを訪れる人はほとんどいないようで、いつ来てもひっそりしているのがいいところ。静かに流れ落ちるこの滝を見ると、ここでのんびり瞑想をしていたくなります。
獅子ヶ滝で本日の滝巡りは終了。山を下ってスパに向かいます。
遠方ではまだゴロゴロという音がしていますが雨は降ってきません。どうやら『秩父の雷、音ばかり』は本当だったようですね。
オーパーク越生は最近までゆうパーク越生という名でした。ホテル、スパ、キャンプ場などからなる複合施設で、なんと駐車場は一杯です。しかしお風呂はガラガラ。ここにはみなさん、キャンプ場を目当てにいらしているようです。
ここのお風呂は温泉ではないようですが、サイクリングのあとに汗を流すにはとてもいいです。露天風呂があるし、いつ来てもあまり混雑していないですからね。
さて、お風呂でさっぱりしたら帰途に着きます。
本日の終着はJRの毛呂駅と東武越生線の東毛呂駅。シュンシュンとサンダリアスはスパに寄らずに毛呂駅に向かったので、残ったムカエル、サリーナ、サイダーで東毛呂駅に向かいます。
この企画、奥武蔵グリーンラインが通行止めだったのでずっと保留にしていたものをアレンジしたものなのですが、思い切って来て良かったです。奥武蔵グリーンラインは思った以上に涼しかったですし、ちょっとハードかなと思った高山三滝のハイクもそれなりに楽しく、白滝と不動滝は見応えがありました。
残念ながら今回は関八州見晴台は諦めることになりましたが、空気が澄んでいる時期にはとても素敵な眺めがあるので、その季節には是非どうぞ。
都心から一時間で涼めるところのリストにこのコース、さっそく入れました。