今年のゴールデン・ウィークは北アルプスを眺めに行きました。水が張られた田んぼに映る雪が残る北アルプスは、それはそれはきれいでした。しかし、そこに不足したものがあったとするなら、それは田植えが済んだ緑色の田んぼと、おいしい海の幸でしょう。今回はこの二つを堪能し、加えて青い海を眺めるという企てです。
目的地は、この時期田植えがあらかた済んでいるところ、そして海の幸がおいしいところ、ということで千葉県にしました。
やってきたのは日本の空の玄関である成田空港と成田山新勝寺があることで知られる成田市。
その中心部には京成成田駅とJR成田駅が近接してあり、いずれの線も都心から一時間少々で来られます。京成成田駅に降りると、成田山新勝寺の提灯があちこちに。これを見ると、成田にとって新勝寺がどれだけ重要なものなのかがわかります。
さて、この企画の前半は、根木名川(ねこながわ)と木戸川が流れる谷津(やつ)を辿って、そこに築かれた田んぼを眺めながら太平洋を目指すというものです。
まずは成田の中心市街地を逸れて、根木名川の谷津に入ります。
谷津とは丘陵地が浸食されて形成された谷状の地形で、谷戸(やと)、谷地(やち)などとも呼ばれるものです。ここでは千葉県で一般的な用語である谷津を用います。
谷津は水が集まりやすい地形であることから、そこでは古くから稲作が行われてきました。
谷津の中の田んぼは谷津田と呼ばれ、ほとんどの場合、丘陵との境を成すその外辺部には道が続いています。
丘陵と谷津田の境は自然が作ったものですから、それは複雑な曲線でできています。この曲線に沿って作られた道は、自転車で走るのに適度な変化をもたらしくれ、とても気持ちがいいのです。
稲はつい最近植えられたばかりで、余った苗が田んぼの隅っこに置かれていることもあります。
場所によっては今、田植えの真っ最中というところも。
この前ピザパーティーでお会いしたビジターのコテッチャンですが、私たちの走行に参加するのは今回が初めて。
『この道、いいね。こんな道が大好きだよ〜』 と、お気に召していただけたようで。
7kmほど走ったところで根木名川から木戸川の谷戸へ乗り換えます。
その途中に通りかかった畑の際に、紫色のシソと緑色のミントが植えられていました。
そのミントの大きなこと。サリーナは植木鉢でミントを育てているのですが、それはかなり小さく、この巨大な緑色の葉っぱがなんなのか初めはわかりませんでした。地植えにするとミントってすごく大きくなるんです。
赤いてんとう虫はサリーナのミントにしばらく来ていたマリオか?
春から夏に移ろうというこの季節は花がたくさんです。
これはアヤメ。
このすぐ横にハナショウブも咲いていました。
カキツバタがあれば三人娘勢揃いでしたが、これはなかったようです。
オルレア・ホワイトレースとシラン(紫蘭)も。
木戸川の谷津に入りました。
先ほどの根木名川は利根川の支流である香取川に流れ込みますが、この木戸川は九十九里浜で太平洋に流れ込みます。つまり上の写真のアヤメを見た辺りからここまでのどこかに分水嶺があったことになりますね。
木戸川の谷津の上流部は丘陵際の林がきれいに残っていて、比較的良い状態が保たれています。
穏やかな田んぼの水面に波が立っています。良く見るとそこでは鴨が泳いでいました。
稲を育てる方法の一つとして『アイガモ農法』というものがあります。アイガモを田んぼに放って雑草や害虫を食べてもらい、泳ぎまわってもらうことで土がかき混ぜられ、酸素が多く混入して根から吸収されやすくなるといいます。またアイガモのフンが稲の肥料になるそうです。
最近鴨に詳しくなったサリーナによれば、ここで泳いでいるのはカルガモらしいので、アイガモ農法ではなくどこかから飛んでやってきたのかもしれません。
鴨を見たすぐ先に今度は白鷺がたくさんいました。中にはアオサギもいます。
これだけ多くのサギがいるということは、この田んぼに餌となる魚やカエルやザリガニなどがたくさんいるということですね。先ほどの鴨がアイガモ農法のものであるかどうかはともかく、ここでは無農薬か少なくとも減農薬で稲が育てられているのでしょう。
今日のこのコースは、レイナの電動アシストバイクのバッテリーの持ちをチェックするためのものでもあります。レイナが乗るハリークインのバッテリーは、カタログ上では低アシストモードで80km走れることになっています。ということで今回はほとんどアップダウンがないコースとし、距離は70kmほどに設定してみました。
レイナによれば今のところ快調だそうですが、ギアが一組しかないため、下り坂や高速走行ではクランクの回転数を上げなければならないのがきついそうです。
最近は孫の世話に忙しいマージコですが、今日はなんとかその孫をなだめて出かけてきたようです。
『なんといても今日は、うまいもんが食べられそうだからね。』 と。
狭かった谷津が徐々に広がってきました。
田んぼの向こう側には少し平地があるようで、集落が築かれています。
ほとんどの場合、谷津の中央部には川が流れています。ここでは木戸川がそれです。
この川は田んぼの落ち水を排水する役目を果たしています。谷津の中央部を流れる川はその周辺でもっとも低い部分なのです。田んぼへの給水は、丘陵から湧き出した水を貯めた溜池などからされます。
田んぼの外側は林で、ほとんどの場合、いきなり丘が立ち上がっています。
ですから谷津から抜け出す時は大抵上りになります。
首都圏の道は舗装率が高く、こんなところまで舗装するのかというところも見受けられますね。この谷津の道もほとんどのところが舗装されていますが、ここはその舗装が禿げて元の地道に戻ろうとしています。
木戸川の谷津をだいぶ下って来て、そろそろその出口が近づいてました。
ここで左岸側から右岸側へ渡ると、上流部に比べ谷津の幅がかなり広がったことが実感できます。
対岸を走っていたのは県道でした。これをちょっと行くと、
田越橋で木戸川を渡ります。
ここで丘陵地は終わり、つまり谷津が終わって、この後木戸川は九十九里平野を8kmほど流れ、九十九里浜のほぼ中央部で太平洋に注ぎます。その地形のためか、東日本大震災の時には津波がこの橋のところまで押し寄せたそうです。
房総半島は東京湾に面した内房と太平洋に面した外房に分かれるのだと思っていましたが、外房は館山の洲崎から勝浦の『おせんころがし』まで、あるいは拡大しても太東岬(たいとうざき)までだそうですから、ここは外房ではないようです。元々、内房外房の『房』は安房国(あわのくに)を意味し、それは現在の勝浦あたりまでだったようなのです。
ここは安房国に対していうと上総国(かづさのくに)になります。渡ったJRの線路は外房線だとばかり思っていたのですが、そんな理由からなのか、これは外房線ではなく総武本線でした。総武本線は下総国(しもうさのくに)の銚子駅と武蔵国(むさしのくに)の東京駅を結んでいるのでした。
谷津を出て九十九里平野に入ったので、景色は大きく変わりました。先ほどまで周囲を取り巻いていた丘陵はまったく見えず、ただ広い空間が広がっています。
このあたりも田んぼが相変わらず多いのですが、畑もあちこちで見掛けるようになります。
さて、昼食は今日のメインイベントの一つなのですが、海鮮は決まり。刺身系にするか焼き系にするか。天気予報では気温は20°C近くあるはずなのですが、曇天で肌寒く感じることもあり、ここは『焼き』に決定。
向かうは蓮沼海岸です。
海沿いを走る県道30号飯岡一宮線に沿って広がる住宅地を抜けると、蓮沼海浜公園が見えてきました。
目指す『焼き』の食堂はこの蓮沼海浜公園に面してあります。
やって来たのは『自分で焼く やき蛤の店』土屋水産。
ご覧のとおりに小洒落たレストランではありませんが、
店頭には生け簀がずらりと並んでおり、ハマグリやホタテなどがぎっしり。
今回注文したのはBBQセットで一人前は、ながらみ3個、ハマグリ2個、ホタテ1個、エビ1匹、さつま揚げ1枚、鯵の干物1枚というもの。
ながらみは写真の一番奥にある小さな巻貝で、これは塩ゆでしてあり、そのままいただきます。通常は『ながらみ』ではなくきれいなピンク色をした『さくら貝』だそうです。
本日のメンバーは左列手前から、『わ〜、これはすごいですね〜』と食べる気満々の女王様レイナ、『アタシ、貝は大好きなのよ!』という企て人サイダー、『貝は消化が良くないっていうんですが、今日は食べますよ〜』のタキスキー。
右列奥から『私の故郷でも貝は食べますがムール貝です。こんなのはないですね〜』とコテッチャン、『今日はグルメポタだもんね〜』と笑顔のサリーナ、『貝殻外してくんないとボク食べられないよ〜』といつもの王様レイ、カメラは早くテーブルに着いて食べ始めたい爺じのマージコでした。
おっと、ついでに鯵の刺身も頼んじゃおう、と追加。鯵の旬になりましたからね。この鯵がまた脂がのっていておいしいのなんの。
『私は海辺で育ったので東京の鯵は食べられないんですが、これはおいしいですね〜』と浜っ子のレイナ。
ハマグリの旬は通常春(2月〜4月ごろ)なのでこの時期はどうかなと思ったのですが、これはまったく問題なし。お隣の鹿島灘のハマグリの旬は5月いっぱいくらいまで続くそうですから、環境に寄るのでしょうね。
ホタテは卵を食べるなら冬ですが、貝柱が大きくなる夏も旬で、今食べ時です。
貝の焼き方はお店の方が丁寧に教えてくれました。この方によるとホタテはよく焼けば全ての部分が食べられるそうです。一般的には取り除く黒い部分のウロ(中腸線)も食べて大丈夫だそうです。でもこれはあまりおいしくないかな。アタシは貝柱は生に近い状態で、その他の部分はよく焼いていただきます。
前の写真のホタテに見えるベロのようなものですが、左側のものはピンク色で右側のものは白です。これは卵巣か精巣かの違い、つまり雌雄の違いで、雌の卵巣はピンク色、雄の精巣は白だそうです。
エビも大きくて立派。
鯵の干物もスーパーに売っているものとはひと味もふた味も違います。
ごはんが進みそうですが、これはもうお腹いっぱいで入りませんよ〜
ごちそうさまでした!
やき蛤に満足したら、蓮沼海浜公園のパークゴルフ場の横にある展望台に上ります。ん〜ん、この展望台はゴルフ場のコースを見るためのものかな。海はあまり良く見えませんでした。
ということで、展望台を下りて防砂林を突っ切り、海岸へ向かいます。
出たところは人っ子一人いない海岸。ジオポタ貸し切りです。
なんだかいつもと違ってかなり揃ったジャンプです。
浜辺にひっそりと咲いているのは昼顔。
太平洋の遥か彼方に故郷があるコテッチャン。
今日は残念ながら青い海というわけにはいきませんでしたが、とにかく広い太平洋に会えてよかったですね。
今日のメインイベントは以上にて終了。
このあたりは海沿いの道を行っても海は見えず、見えたとしてもこの天気ですからあまりパッとしません。ということで、ここからはしばらく内陸の田んぼの中を行くことにします。
蓮沼の地名は面白いことに一丁目二丁目ではなく、イロハらしく、ここは『ハ』。
この4月に2年ぶりで復活したタキスキーですが、体調が徐々に戻りつつあるようでその後は連続参加。
『貝、おいしかった〜』
今晩体調を壊さなければいいのですがね。
14インチホイールのちび自転車『紅赤号』に乗るコテッチャンは、いつもは一人で走っているのでついついペースが早くなってしまうそうですが、今日の私たちののんびり走法に耐えられたでしょうか。
さすがに関東平野の九十九里平野、道はどこまでも続き、真っ平ら。周囲に高層建築はなく、見えるのは灰色の雲だけです。
ちょっと飽きてきた〜〜
おや、こんなところにトンビが舞っていると思ったら、それは凧でした。
この凧、かなりよくできているとは思いますが、効果あるのかな。
県道122号飯岡片貝線に出て今日の午前中その横を走った木戸川を渡ります。
谷津田の中を流れる木戸川は人工的な設えでしたが、ここは自然の要素が多いですね。
このあたりの水田の給排水用の水路はかなり細かく配されているようで、縦横あちこちに張り巡らされています。
作田川に出たところで田んぼ道はおしまいにして海岸へ出てみることにしました。
先ほどの木戸川と違ってこの作田川の護岸は比較的新しく、がっちりしたコンクリートで造られています。この川も東日本大震災で被害を受けており、このあたりは堤防のかさ上げがされたのでしょう。
ちょっと変わった『なかよし橋』を渡ります。
こうして見ると作田川は結構広い川です。
県道30号飯岡一宮線をくぐると片貝港に出ます。
河口には新港もありますがここは古い方で、漁船が並んだ並んだ。写真は底びき網の船だそうです。
片貝海岸に出ました。ここはなんとジオポタ初期の1999年、ゴールデン・ウィーク・ツアーで立ち寄って昼食をいただいたところでした。
この海岸には道らしきものが通っているようなので行ってみることにしました。
しかしその道は予想の通り砂に埋もれていました。土手に這い上って土手上の道を行くも、これもすぐ行き止まりに。そしてそこから下ったスロープは途中でおしまい。え〜こんな造りはないじゃろよ。
このあたりでお茶して少しゆっくりしたかったのですが、適当な店が見つからなかったので、海辺はこれにておしまい。ここからは都内へ戻る列車の本数が多い、JR外房線の大網駅を目指すことにしました。
進路を北に取るとすぐ正面に龍神神社がありました。
海辺は神社が多いところですが、このすぐ近くに龍神社が二つもあるので、このあたりには龍にまつわる伝説があるのでしょう。
真亀川、北幸谷川、南白亀川(なばきがわ)と進んで大網駅に到着。
レイナは本日の走行距離72kmに対して、基本的には低アシストモードを適用していましたが、バッテリーはまだ十分に残っているということでした。今後は坂道が増えたらどうか、どのくらい使ったらバッテリーがへたるのかといったところを検証することになりそうです。
今日のコース、後半はあまりに平坦で、広い空間に田んぼばかりと変化に乏しいため、最後の方は少々飽きてしまいましたが、前半の谷津田は変化があり、特にこの田植えの季節はとてもきれいです。昼の焼き蛤もおいしかったですね。
ということでこのコースは後半をカットし、海を眺めて蛤を食べたら最短駅に直行というのが良いかもしれません。距離を伸ばしたければ前半を少しアレンジして丘陵地を走るか、成田山に立ち寄るも良し、成田空港を発着する飛行機を眺めるも良し。あるいは後半、海沿いではなく山側へ戻って再び丘陵地に入るかな。とにかく焼き蛤はくせになりそう。(笑)