横須賀美術館と金沢文庫でコラボした『運慶展』が開かれているらしい。これは行かなくては、と仏像好きのサリーナが2つの美術館を結ぶポタ企画。
12月に入ってさすがに寒くなってきましたが、比較的穏やかそうな日を狙って金沢文庫駅に降り立ったのは“結構仏像好き”のサイダー、カメラはサリーナ。
駅から住宅街を抜けると1kmほどで金沢文庫に到着。金沢文庫は、鎌倉時代に北条氏の分流である『金沢流北条氏(かねさわりゅうほうじょうし)』の北条実時が設けた文庫で、現在は神奈川県立の歴史博物館となっています。
この展示、運慶作の木造大威徳明王像が目玉なのですが、とても小さくてびっくり。そして展示をほぼ見終わった10時からボランティアの方による解説が行われ、『見る前に聞ければ良かったね~』などと言いつつ知識を増やして金沢文庫を後にします。
続いて金沢文庫の隣にある称名寺(しょうみょうじ)を訪ねます。
称名寺は北条実時が開基した金沢流北条氏の菩提寺で、境内は国の史跡に指定されています。文化財も数多くありますが、大部分は金沢文庫により管理されているとのこと。運慶作の木造大威徳明王像もその一つです。
境内に入ると正面には金堂があり、背景には金沢三山。そして金堂の前は池が広がる浄土式庭園となっています。
暖かい日差しを浴びて赤い反橋を渡っていると、池の端からわらわらと水面をこちらに向かってくる集団あり。
それはオナガガモの群れでした。いつもここから餌をもらっているのでしょうか。私たちにチラチラ視線を投げかけてきますが、ゴメン。何もないよ・・
反橋を渡り終えたあたりに、今度はアオサギを発見。
彫刻の置物のようにじっと構え、こちらは微動だにしません。
そして、平橋を渡って金堂に到着。
現在の建物は1681年に改築されたものだそうで、神奈川県指定重要文化財となっています。
金堂の東隣にあるのは釈迦堂。
茅葺きの建物は1862年の建立とのこと。屋根のてっぺんにある天窓のようなものの三角の意匠が面白い。
称名寺の庭園は整備工事中なので見学はここまでにして、参道を南へ進みます。
南の端には惣門(赤門)があり、こちらが称名寺の本来の入口です。
称名寺から東へ進み、海の公園に着きました。
駐車場の脇を抜けて、芝生の多目的広場の横をぐるっと回ります。
すると、松林の先にきらきら光る海辺が見えてきました。海の公園の砂浜に到着~
美しい砂浜が突然のように現れてびっくりです。
ここは横浜市内で唯一の海水浴場ですが、実は人工の砂浜で、千葉県から砂を運んで整備したものだとか。左手には八景島シーパラダイスのジェットコースターが見えます。
暖かいとはいえ冬ですからほとんど人はいませんが、遠浅の海ではボードセーリングやSUPも楽しめるそうです。
砂浜の右手側に見える小山は、これから向かう野島。
では砂浜に沿って、松林の中を野島方面へ向かいましょう。海を眺めながら走るのは快適です。
公園南側の駐車場に着いたところで、道路の上の高架の軌道をカラフルな電車が通っていきました。
これは金沢シーサイドラインで、新杉田駅と金沢八景駅を結ぶ海辺を走っています。
金沢シーサイドラインと並行して少し走ったら、野島橋を渡って野島に入ります。
この川は野島運河といって、平潟湾と東京湾を繋ぐために人工的に掘られたもの。野島は、第二次大戦中は軍関連施設とされ、横須賀側を埋め立てて海軍施設と連続させる計画があり、代わりに平潟湾と東京湾を結ぶ運河が作られたのだとか。
釣り船が並ぶ野島側の運河沿いを通り、野島公園に入ります。ここには旧伊藤博文金沢別邸がありますが、この時は茅葺き屋根修復工事中のため休館となっておりスルー。
東京湾沿いまで来ると、正面に八景島がよく見えます。
公園内は海を眺めつつ快適に走れます。
左手は東京湾ですが右手側は小山になっており、歌川広重が描いた金沢八景のこんもりした野島山です。
『海辺にカモがいたよ~』と楽しげなサリーナ。
風もなく穏やかで暖かい日差しを浴びて、爽快に走っていきます。
ずんずん進んで野島公園の東端を回り込んだところに、崖に穿たれた大きな洞窟がありました。
『これ何だろうね?』
これは、戦争の遺跡で『野島掩体壕(のじまえんたいごう)』です。看板の説明によれば、第二次大戦末期の1945年に横須賀海軍航空隊の戦闘機を空襲から守るため野島山をくり抜いて建造されたそうです。
100機もの戦闘機を収納できるものだったそうですが、一度も使われずに終戦を迎えたとのこと。崩落の危険があるため、立入禁止となっています。
松林の中、公園をさらに進みます。
左手の先にはバーベキュー・キャンプ場がありますが、私たちは右の出口方面へ。
野島から六浦へと平潟湾を渡る夕照橋は、白い欄干に擬宝珠(ぎぼし)が飾られた目を惹く意匠です。この場所は、歌川広重が描いた金沢八景の『野島夕照』のあたりと言われています。
橋の中ほどのスペースで止まって景色を眺めます。
平潟湾の出口方向には釣り船や船倉庫が並んでいました。この辺りでアジやカサゴ、クロダイなどが釣れるようです。
橋を渡った先から眺めると、こんもり野島山と釣り船の水辺の景色がいい感じ。(TOP写真)
橋を渡ったら平潟湾から南へ、鷹取川沿いを進みます。川沿いは桜並木。
このあたりから、海沿いは自衛隊の敷地となり丘陵地が海辺まで迫っているため、トンネルをくぐったり丘を迂回したりとルートは右往左往することになります。
深浦に迫る小山の上に見えるのは正観寺(しょうかんじ)。三浦半島21カ所薬師如来霊場の札所の一つだそうです。
そして、少し上ったところで梅田隧道に入ります。
1880年代にこのあたりの海岸が海軍用地となり、住民は船を使って行き来することができなくなったため、1887年に地元有志が私財を投じてこの梅田隧道を完成させたそうです。工事費軽減のため、監獄の服役囚延べ4千人を使ったとのこと。
ここは今でも住民の大切な通り道になっているそうです。私たちもありがたくトンネルを使わせてもらいます。
トンネルを抜けたら、そこは下り坂。住宅地の中をどんどん下っていきます。
そして国道16号を渡ったらまた上り。池の谷戸公園を回り込むように上って下りる道のりです。
その上りの途中、道端に小さな花壇があり、その名も『町内花壇』。町内の人々に手入れされているのでしょう。ほのぼのといい雰囲気で癒されますね。
池の谷戸公園を下ったら、再び国道16号を渡って海側へ。海辺は変わらず自衛隊と倉庫群が占めており、少し内陸側を通ります。
この写真の広めの歩道、実は戦前まで田浦駅からの軍事用引込線が敷かれていたそうです。周囲一帯は弾薬庫とその施設で、弾薬の積み降ろしはこの少し先の比与宇トンネルで行われたとか。
ここまでは幹線道路を避けてきましたが、この先エスケイプ路が見つからず、已むなく国道16号のトンネルを2つ通ります。車道は交通量が多く狭い歩道を走らざるを得ませんでしたが、歩行者も対向自転車もなくホッと一息。
そして踏切を渡ると横須賀駅。ここでやっと海辺に出ることができます。
海辺のヴェルニー公園は、かつては臨海公園と呼ばれていましたが、江戸末期から明治にかけて横須賀製鉄所などの建設に貢献したフランス人技師ヴェルニーの名を冠し、フランス庭園様式を取り入れた公園として整備され、2001年にリニューアルオープン。
公園内にはフランス式花壇や噴水があり、多品種のバラが楽しめます。
右手には横須賀芸術劇場などの建物群が見えています。
公園の海辺に出てみると、左手に海上自衛隊の艦船が接岸しています。おお、ここは軍港。。
そして、正面にも接岸する艦船とその前を高速で通り過ぎる旭日旗を掲げた小型船。
しばらく海を眺めたら、お昼時になったのでどぶ板通りへ。
戦前には道の中央にどぶ川が流れていたためこの通称ですが、米兵向けの土産物・飲食店などで栄えて今は観光客にも人気の通りです。
スカジャンの店、ハンバーガーショップなどが並ぶ表通りを進んだら、路地の奥へと分け入ります。
そして、今日のお昼に私たちが選んだのはペルー料理。"El Pechugon"(エル・ペチュゴン)というお店です。
サイダーとサリーナが5年前に旅したペルーの食事はとてもおいしかったので、期待を込めて扉を開けます。
明るい店内では米兵と思われる人たちや中南米の家族がテーブルを囲んでいました。
ラテンの音楽にキレキレダンスの男女が踊る映像が流れ、白い壁はポスターなどが所狭しと飾られている。ここはいきなりペルーです。
じっくりメニューを吟味し、私たちが頼んだのは白身魚のセビチェと鶏肉のアヒ・アマリーリョ。セビチェは白身魚と玉ねぎ、香草などのマリネで、とうもろこしとさつまいも添え。アヒ・アマリーリョはペルーの黄色いチリソース。辛くない優しい味です。
むむ、これは美味い! ペルーでの旅が蘇ってきました。ここは本場と同じくどれも大盛り皿ですが、きれいに完食。お店のお母さんとスペイン語のおしゃべりも弾み、大満足のお昼でした。
昼食を終えて三笠公園通りに入り、遊歩道の日本丸モニュメントを通り過ぎます。
日本丸は航海練習用の帆船で、1984年に竣工した日本丸Ⅱ世が横須賀で建造されたのを記念して、メインマストを1/3の大きさで再現してここに設置したのだそうです。
そして、通りの終点に三笠公園があります。日露戦争でバルチック艦隊を迎撃した戦艦『三笠』が記念艦としてここに復元・保存されています。
東郷平八郎像の前で、戦艦『三笠』をバックに記念撮影。
三笠公園を出たら、ここからはよこすか海岸通りを一路横須賀美術館へ。
うみかぜ公園の横を通っていたら面白いもの発見。BMXパークです。何でも、2022年に開催されたBMXのジャパンカップで使用した大会用パークがここに常設され、2022年10月にオープンしたそうです。
ところで、よこすか海岸通りの街路樹は椰子の木。南国リゾートの雰囲気を出していますね。
しかし、よこすか海岸通りからは海が見えないので海辺を走ろうと思ったのですが、残念ながら海辺の遊歩道は自転車進入禁止でした。遊歩道と自転車と、どうにか共存できないものでしょうか。
小さな漁港に出てきてやっと海に出会います。ここは大津港。
漁港を過ぎると馬堀海岸。ヤシ並木が続きます。
そして道は緩い上り坂になり、走水海岸と集落が眼下に見えてきました。
東京湾の向こうには猿島や横須賀中心部の超高層の姿も眺められます。
そこから程なく、芝生の上に白い壁とガラスの建物が見えてきました。
ついに、今日のポタの主目的の横須賀美術館に到着です。
左側の建物のスロープを上がったところに自転車置き場があり、そこに自転車を停めて美術館に入り運慶展へ。
浄楽寺の運慶仏5体、阿弥陀三尊像と毘沙門天、不動明王と対面です。さすがは運慶。特に毘沙門天は迫力満点でした。
鑑賞後、エレベーターで屋上に上ってみました。ガラスの天井部分の間に展望スペースがあります。
そこからは正面に房総半島が見えて、あまりに近いのにびっくり。
日暮れ近い東京湾を一望し、行き交う船を眺め、海ほたるの白い橋までよく見えました。
下階に戻り天井を見上げると、屋根のガラス面からの光が円形に差し込んでいます。なかなか贅沢なつくりですね。
ところでこの建物にはイタリアンレストラン『アクアマーレ』が入っています。そして、近くの走水にはアジフライが有名な味美食堂も。機会あればぜひ色々味わってみたいものです。
横須賀美術館で今日のポタの目的はコンプリート。展示も建物もステキでした。
2つの運慶展でじっくり展示を見たり昼食を堪能しているうちに時間は過ぎて、すでに16時。日没が早い時期でもあり、この後予定していた観音崎や浦賀の渡しはまたの機会にして、ここからまっすぐ帰路につくことにしました。
走ってきたルートを戻って最も近い馬堀海岸駅に到着。今日のポタは走行30km弱でフィニッシュとなりました。
2つの運慶展が繋いでくれたポタ。あまり足を向けない方面でもあり、新鮮で楽しかったです。チャンスがあれば、また文化的なポタ企画も考えたいものですね。