この日はバスク州のビルバオ(Bilbao)からカンタブリア州のサンタンデール(Santander)にバスで移動し、サンタンデールを散策します。
ビルバオからサンタンデールまではちょうど100kmで、1.5時間の旅。ビルバオの中心部を出たバスは、スーパーカップで優勝した地元サッカーチームのアスレティック・ビルバオのホームスタジアムであるサン・マメス・バリアの横を通り、高速道路に入ります。
しばらくすると大西洋が見えてきます。
スペインは地中海にも面していますが、地中海が内海で穏やかなのに対し、こちらは外洋なのでもっと荒々しく、水の色も違うように見えます。
ここは『緑のスペイン』なので、周囲は緑の木々に覆われています。スペインのイメージを代表するアンダルシアあたりの、乾燥した赤茶けた台地が続く風景とはまるで異なります。
写真に写っているのは丘ですが、このあたりにはこれよりずっと高い山がたくさんあります。
こうした風景を眺めていると、バスは予定通りの1.5時間でサンタンデールの駅前に着きました。
実はバスターミナルがどこにあるか調べていなかったのですが、ここは街の中心に近く、便利なところでした。
宿に向かうべく駅前にあるトンネルに向かうと、そこはもの凄い人だかり。
車は通行止めになっていて、どうやら蚤の市のようなものが行われているらしい。そういえば今日は日曜日なのです。
このトンネルを抜けるとヘスス・デ・モナステリオ通り(Calle Jesús de Monasterio)です。
サンタンデールの目抜き通りといった面持ちのこの通りには、立派な建物が連なっています。
この通りを入った、駅から1kmほどのところにある宿に荷を解くと、ちょうど正午。一休みして街の散策に出かけます。
サンタンデールは19世紀にスペイン王室が夏の離宮を置いて以来、高級リゾート地として名を馳せた街なので、とりあえずその離宮に行ってみることにします。
宿を出るとすぐ、サンタンデールとカンタブリアの近現代美術館(Museo de Arte Moderno y Contemporáneo de Santander y Cantabria)があります。
さらに東へ進むと市役所です。
サンタンデールは1941年に大火があり、中世から続く歴史的な中心部はほぼ壊滅的な被害を受けたといいます。このため現在サンタンデールには古い建物があまり残っていないそうなのですが、先の美術館やこの市役所はその大火をくぐりぬけたようです。
市役所の前から東に延びるファン・デ・エレラ通り(Call Juan de Herrera)は石の舗装で、歩行者専用風になっており、快適に進みます。
この通り沿いには受胎告知教会(Iglesia de la Anunciación)が立ち、さらにその先のポルティカーダ広場(Plaza Porticada)に繋がります。
ポルティカーダ広場は財務省などが入った建物に囲まれた中庭のような広場で、どうやらこのあたりが街の一つの中心になっているようです。
この広場から、南側の海沿いを通るサンタンデールのメインストリートともいうべきペレダ通り(Paseo de Pereda)に抜けます。
ペレダ通りの海側は広い歩行者空間になっており、ここは海を眺めながら散策できて気持ちいい。
その海にはヨット。
サンタンデールの北側は直接大西洋に面していますが、この南側は湾になっていて、海は穏やかです。
ヨットを眺めながら進んで行くとマリーナがあり、さらに行けば道が二手に別れ、一方は高台へ向かい、もう一方は海沿いを行きます。私たちは海沿いの道を選択。
この道をしばらく行くと行き止まりとなり、先にはビーチが広がるようになります。このビーチはなかなか気持ち良さそう。
対岸にもビーチが見え、その向こうには東西300km以上に渡るカンタブリア山脈が見えています。こちら側のビーチには木道が設えられていて、自転車も通れるようになっているので、ここを突っ切ることにしました。
ビーチの先の坂を上ると、夏の離宮が立つ岬の付け根に出ます。宮殿はこの岬の一番高いところに立っているので、ここからも上り。
この岬は全体が宮殿の庭のような雰囲気です。
宮殿への上りの途中から、有名な駱駝ビーチ(El Camello)と鰯ビーチ(El Sardinero)が見えます。王室の面々が海水浴をしたビーチです。
どうやら左に見えるのが駱駝で右が鰯のよう。
駱駝ビーチのほうはどうして駱駝なのかよくわかりませんが、鰯ビーチのほうは細長くて、鰯のように見えるからでしょう。
現在ここに立つ宮殿はマグダレーナ宮殿(Palacio de la Magdalena)といい、20世紀初頭に、市民の有志がアルフォンソ13世に寄進したお金が使われて建てられたそうです。
スペイン王室はかねてより絶大な人気があったのですね。
この宮殿、ちょっと普通のスペイン建築と雰囲気が違うと思いませんか。どうやら建築家が英国人らしいのです。どうしてわざわざ英国人の建築家を使ったかはわかりませんが、当時の王妃の母国が英国だったことと関係があるのかもしれません。
このときマグダレーナ宮殿の内部は見学できなかったので、外周を少し見学したのち、鰯ビーチに行ってみることにしました。
その鰯ビーチの前に立つのがグランカジノ(Gran Casino del Sardinero)です。
優雅な白い外装のこの建物の中では、ブラックジャックやルーレットが行われているのです。高級そうなのでドレスコードがあるのかと思ったら『カジュアル』だって。でもTシャツに短パン、ビーチサンダルとなると...
さて、グランカジノの前の鰯ビーチはとても長いビーチでした。なんとなく鰯のように見えるかも。
そしてこの日、そこはすごい人でした。カラフルなパルソルがあちこちに立ち、寝転んだり泳いだり走ったりと、それぞれが思い思いに楽しんでいます。場合によったらここらで海水浴をと思ったのですが、この人出に恐れをなし、さっさと退散です。
時は14時。そろそろ昼食にしてもいいころです。スペインの食事時間帯は日本より2時間ほど遅く、昼は14時から、夜は21時からです。ということでレストランを探します。ビーチ近くはガチャガチャしていそうなので、少し内陸に入ってみると、うまい具合に一軒のバルが見つかりました。スペインのバルでは大抵、ちゃんとした食事もできるのです。
今回の旅のカンタブリアとアストゥリアスは海に面しているので、どこでもおいしい魚介類が楽しめます。ここで早くもカメノテ(percebes)を発見! さっと塩茹でしただけのカメノテですが、私たちはこれが大好物なのでした。
昼食後は、最初に見た南のビーチでひと泳ぎすることにしました。
ここはマグダレーナビーチというようで、駱駝や鰯に比べて人が少なく波も穏やかなので、気分よく過ごせそうです。
日向は33°Cで裸で過ごすにはちょっと暑そうな気温ですが、水温は意外と低く、長い間浸かっていられないほどです。
しかし、水に浸かっては甲羅干しをし、また水に浸かっては甲羅干しをと繰り返すにはちょうどよかった。
海に浸かってさっぱりしたら、街へ戻ります。その途中、レンタサイクルを見かけました。
これは街角にあるステーションから自転車を取り出し、他のステーションで返すというもので、スペインではかなり早い時期にこのシステムが普及しました。簡単で便利でニーズが高いようです。
駅近くにあるペレダ庭園(Jardines de Pereda)まで戻ってきました。
ここは駅とベイゾーンを繋ぐ、サンタンデールでももっとも重要なポイントの一つで、このあたりに中心部の見どころが集中しています。
そのペレダ庭園のすぐ西にあるのが大聖堂(Catedral de Nuestra Señora de la Asunción de Santander)。
この大聖堂は12世紀の終わり頃から14世紀にかけて建てられたもので、ロマネスク様式をベースにしていますが、残念なことに例の大火災で大きなダメージを受けたといいます。しかしその直後から再建がはじまり、現在は立派な姿を見せています。
ここではロマネスクからゴシックへと移り行く空気が感じられます。
さて、明日からいよいよ本格的な自転車旅の始まりです。ここサンタンデールから、かのジャン・ポール・サルトルに代表作『嘔吐』の主人公をもって『スペインで最も美しい村』と言わしめたサンティリャーナ・デル・マルまで行きます。