関東地方の平地にも紅葉シーズンがやってきました。この時期、標高が高い奥多摩あたりはすでに色褪せ始めていますが、都心の平地はまだこれから。そこでほんの少し山に入った奥武蔵に出かけることにしました。
私たちが池袋から乗った西武池袋線の電車は停車予定外の駅で突然ストップ。トラブルがあり足止めを食ってしまいました。スタート地点の吾野駅には予定より30分遅れて到着。この時期は日没が早いので、この差はちょっと痛いです。
今年の夏は異常に暑く、11月に入ってから急に冷え込んで来たのですが、さて紅葉はどんな調子でしょうか。
吾野駅周辺の山は全体としてはうっすら色付き始めたばかりのように見えますが、ケヤキは焼けたようになっていて、すでに茶色になっています。その他の木々の中には紅葉せずに葉を落としているものもあります。夏の暑さの影響でしょうか。
今日の紅葉ポイントは三箇所で、東郷公園(秩父御嶽神社)、鳥居観音、名栗湖と有馬川。山の紅葉を楽しむというよりは観光名所巡り的な要素が強いのですが、東郷公園から鳥居観音へ向かう途中の天目指峠(あまめざすとうげ)を越える道や有馬川周辺はそれなりに楽しめるだろうと期待しています。
まずは最初の紅葉ポイントの東郷公園に向かいます。吾野駅の前を通る道はかつて江戸と秩父を結んだ秩父街道で、吾野はその宿場町だったため、現在も駅の東側には大正時代頃の民家がいくつか残っています。
この道端の紅葉はボチボチ。手前に見えるのはドウダンツツジでこれは良い色に染まっています。
旧秩父街道からR299に出るとほどなく、秩父御嶽神社の入口に立つ鳥居が見えてきます。
この鳥居周辺のもみじは真っ赤です。
秩父御嶽神社は東郷公園とも呼ばれます。この境内図を見てもわかるように、ここには秩父御嶽神社の他に東郷神社というものがあり、東郷平八郎が祀られているのです。
この神社はもみじが多いようで、それは境内の奥まで続いています。
最初の階段の下までやってきました。この周辺は、赤に加えオレンジ色と黄色が入り交じってきれい。
上へ向かうルートは大きくは三つありますが、ここは正当に真ん中の階段ルートを行きます。
この階段の周囲は暗い針葉樹なので、その中にある陽の光を受けたもみじは本当に眩いばかりに輝いて見えます。
最初の階段が終わりバルコニーに出ました。振り返ればここからの景色も見事です。始めてここに来たサリーナは、ワーとかアーとか叫び声を上げて喜んでいます。(TOP写真)
階段の先にはこの人が立っています。東郷平八郎。
その周囲は見事に赤く染まった紅葉。
東郷像の足下には戦艦三笠の被弾甲板があります。
『三笠』は日露戦争の日本海海戦で連合艦隊旗艦を務めた戦艦で、東郷は連合艦隊の司令長官でした。
山の天辺にある秩父御嶽神社まではまだだいぶ上らなければならないので、今日はここまでとし、八海山神社を経由して下ることにしました。
この八海山神社を経由するルートは狭い地道で、行きに使った中央の階段ルートとはかなり違った趣です。
このルート上には乃木希典の像が立っています。
ここは東郷公園なので先の東郷像よりだいぶ格が落ちる扱いですが、乃木希典もまた陸軍で日清・日露戦争を戦った人でした。誰の責任かはともかく、乃木が指揮を取り膨大な戦死者を出した旅順攻囲戦はあまりに有名です。
東郷公園を出た時点での遅れは40分。あれれ、さらに遅れちまったよ。それはともかく、次に目指すは『天目指峠』です。これは本日唯一の峠で、これさえ越えればもう楽勝です。
このあたりには大型の施設はほとんどないのですが、唯一目立つものとして休暇村奥武蔵があります。ここにはランチができるちょっとしたレストランもあるので、時々利用させてもらっています。
西武線が通るこのあたりの筋を流れているのは高麗川。高麗川は日高市の『巾着田』で有名ですが、この辺りはそこと比べるとだいぶ渓流の趣です。
この川の源は自転車乗りにはなじみが深い苅場坂峠付近にあります。
R299は自転車乗りにとってはあまり走りやすい道ではありませんから私たちは滅多に使わないのですが、今日は仕方ありません。
ロードバイクで30km/h以上で走れば車道を走ってもいいと思いますが、私たちのような20km/hのポタラーなら自転車も走行可能な歩道の方が安心です。
R299から分かれるr395南川上名栗線の分岐に到着。この先はぐっと交通量が減るのでホッとします。
ここまでも度々見掛けましたが、この分岐には『子ノ権現』の大きな看板が立っています。子ノ権現はこの辺を走るサイクリストにとっては有名な場所で、そこに至るには20%とも言われる激坂をクリアしなければならないのです。
日陰ですが高麗川の紅葉がいい感じ。
南川上名栗線に入るとすぐに高麗川を渡ります。
ここから天目指峠までは250mの上り。
橋を渡った途端に坂好きなコテッチャンが飛び出して行きます。
コテッチャンは最近動画を撮ることに夢中で、ちょっと景色が面白くなると先頭を行くのです。
この道脇には小さな川が流れています。道の名が『南川 上名栗線』なのでこの川の名は南川かと思いましたが久通川(くずうがわ)のようです。南川はどうやらこの辺りの地名らしいです。
日陰から日向に出ると、そこには黄色くなりかけた木やオレンジ色の葉をひらひらさせた木があります。
紅葉は天気次第、お日様の光次第で良くも悪くも見えますね。今日はまさに紅葉日和になりました。
南川上名栗線の序盤はこのような4〜5%の緩い上りが続きます。
特別いい景色というほどのものではありませんが、里の雰囲気があり好感が持てます。
『この道はいい感じね〜』とにこやかに上るサリーナとコテッチャン。
暗い針葉樹の背景にオレンジ色のもみじが映えます。
ここも!
ノンスリップ加工の路面が現れました。ここまでは比較的上りやすい勾配でしたが、そろそろ急になりそうです。
左手を流れていた久通川が右手に移動するとお堂が現れ、こんな景色に。このあたりは上久通(かみくづう)という集落のようです。
ここのある民家の庭先では『籾すり』が行われていました。籾すりは籾から籾殻もみがらを除去して玄米にする作業で、かつてはどこの米作農家でも見ることができましたが、最近は屋外でやられることはほとんどなくなったため、滅多に見なくなりました。
集落の先に小さな三角屋根の小屋が見えてきました。あれはハイカー向けのトイレで、ここで道はヘアピンを描いています。うしろを見るとミッチーの姿がないようなので、ここで一息入れることにしました。
少し遅れてやってきたミッチーによると、昨日飲み会がありそこでだいぶ飲んだらしく、今日はちょっと調子が悪いらしいです。
ヘアピンを回るとその先は針葉樹林の中に道が消えて行きます。激坂!
ここから南川上名栗線の上りは本格的になります。
えっこらよっこらとゆっくり上り詰めて行くサリーナ。
コテッチャンはビデオを回しながらグワーッと上って行きます。
ヘアピンカーブを4つか5つ回って天目指峠に到着。
この峠には子ノ権現と伊豆ヶ岳を結ぶハイキングルートが出て来ていますが、残念ながら見晴らしはありません。
なぜならこの峠は切り通しだからです。カーブで最初は気が付かなかったのですが、ここには昭和35年3月の日付がある開鑿記念碑があります。
ちなみに『天目指』ですが、これは天を目指すという意味ではなく、現地案内板によると『天目』は豆柿という山に自生する柿のことで、『指』は焼畑のことだそう。
天目指峠を出たのはなんと予定より50分遅れ。あれ〜、これはあかん!
まあ、そうは言っても遅れてしまったものは仕方ありません。とりあえず名栗川に下って鳥居観音を目指しましょう。
名栗川は入間川の上流部の名で、かつてはそう呼ばれていましたが最近は入間川と呼ばれることが多いようです。
その源はこのすぐ近くの大持山の南東斜面です。これからはこの名栗川に沿って下ります。
上名栗の森河原あたりの景色です。
このあたりはこれと言った特徴はないものの、鄙びていて悪くありません。
名栗川沿いの集落を眺めながらのんびり下って、鳥居観音に到着。この観音さまの入口は狭く、あれれれ、と思うほどですが、入口の先には赤いもみじが見えています。
鳥居観音の境内はとても広く、その上山の中に展開しているため、ひと回りすれば1時間は掛かります。ここまで予定より45分も遅れているので、ここを巡れば名栗湖から上の有馬渓谷へは行けなくなりそうです。入口から見た感じは紅葉はなかなか良さそうな気配なので、有馬渓谷を諦め、観音さまにお参りすることにしました。
ここには遊歩道と車道とがあり、遊歩道は巻き道的に上り、車道はほぼ直線的に山の上に向かっています。私たちは行きは遊歩道、帰りは車道を使うことにしました。遊歩道を少し上ると一番奥にある玄奘三蔵塔が見えてきました。
ここの紅葉は玄奘三蔵塔あたりが一番いいとのことなのですが、どうやらその辺はすでに終わっているようです。しかし、途中はまだ見頃が続いています。
遊歩道は境内の主な建物を繋いでいます。最初に現れたのは仁王門です。
この門の中には年代は新しそうですが左右にしっかり二体の仁王像が睨みを利かせていました。
鳥居観音で最初に建てられた建物で今は恩重堂というところを通り、地球儀の平和観音にやってきました。この平和観音からは周囲がよく見渡せます。
左に見える塔が玄奘三蔵塔で、右は救世大観音。あの救世大観音は展望塔になっています。
こうして見渡すと、山の上の方の紅葉はほとんど終わりですね。
下には名栗川の谷と原の集落が見えます。
山の様子が分かったので、救世大観音へは行かずに玄奘三蔵塔の近くで車道に出て引き返すことにしました。
山全体としては見頃を過ぎつつありますが、まだこんな紅葉が残っています。
竜宮城様式の玉華門を通り、
絶好調の紅葉を眺め、
山を下りてきました。
これで本日のメインの紅葉巡りは終了。昼食です。
予定していた蕎麦屋さんが臨時休業だったので、鳥居観音の川向こうにあるちょっと洒落たお店に向かいます。
ということで名栗川を渡るのですが、この橋はキャンプ場の中に設けられた人道橋です。
名栗川もここはかなり人工的に整備されています。
やってきたのは『古民家ひらぬま』というイタリアンレストランで、建物は築120年ほどで、飯能市景観重要建造物に指定されています。
時間はゆっくり過ぎていきます。(笑) 案の定、ここでさらに遅れ、ついに予定より1時間の遅れとなったてしまったのでした。
こうなると有馬渓谷を走るのは絶望的ですが、一応有馬ダムまで行ってみることにしました。
有馬ダムは少し高いところにあるので、満腹で上るのはちょっときついです。
有馬ダムはこのあたりではいくらか有名な観光スポットらしく、車、オートバイ、自転車といったものでやって来ている人がそれなりにいます。
有馬ダムで塞き止められた有間川は名栗湖を形成しています。有間川はこの奥から流れて来ていてそこは有馬渓谷とも呼ばれるのですが、それが作り出す谷は狭く、もうほとんど日影になっています。手前に日が当たっているゾーンがありますが、これもあと僅かで山の影に入ります。
ということで、この先の有馬渓谷へ行ってもきれいな紅葉はやはり期待できません。今日は残念ですがここで引き上げることにします。
向かうは西武線の飯能駅です。
有馬ダムから下るとすぐに旧名栗郵便局があります。1929年(昭和4年)築で左右対称のデザイン。細やかな左官による装飾が美しいです。
ここにはちょっとレトロな橋もあります。名栗川橋。1924年(大正13年)竣工のRC造アーチ橋です。
大きさの割に、コンクリートのヴォリュームを感じ、ずんぐり見えるような気がします。
飯能駅までのメインロードはr70飯能下名栗線ですが、その旧道が残っているところは旧道を使います。
鄙びていていい感じ。
こうした道になるといきなり燃えるのは我らが虎徹コテッチャン。びゅんびゅん行きます。
日向だけど日影という名の集落。
特になんともない集落ですが、小さな神社とそのうしろの黄色く染まった銀杏がいいですね。
房ヶ谷戸には板切れを渡しただけの流れ橋があります。この前来た時は渡れたのですが、ご覧のように壊れていました。またそのうちきっと復活するでしょう。
房ヶ谷戸から原市場へ向かうと道はダートに。
走りやすくて気分がリフレッシュされるゾーンです。
岩本には赤い吊り橋の弁天橋が架かっています。この橋に下るまでは短いものの、もの凄い急勾配で自転車から降りなければならないほどです。
橋も狭くてちょっと怖い。
その弁天橋の下を流れる名栗川は渓流の趣で、このあたりから飯能の街の入口にある岩根橋あたりまでを名栗渓谷と呼ぶようです。
時は16時。お日様がぐっと高度を下げ、向かいの山を赤く染めています。有馬渓谷へ向かわなかったので予定よりずいぶん早く飯能に到着しそうです。
飯能の街へはこの割石橋を渡って入ります。
下には飯能河原が広がっています。そこを流れているのは入間川。このあたりはたぶんもう名栗川とは呼ばないと思います。
明るいうちに飯能駅に到着。この時期は明るいうちに目的地に着くのが結構むずかしいので、うれしいです。
あまりに早く着き過ぎたので、早い時間から開いているレストランへ。中華の点心で軽く〆ました。
今日のコースはサイクリング的な面白さには今一つ欠けるのですが、紅葉の時期なのでそれなりに楽しめたかな。