都心から一時間の五井駅でたった一両だけの小湊鐵道線に乗換えると、これはまことに古びた感じの車両で、今ではローカル線でもほとんどはワンマン化しているのに、ここにはなんと切符切りの車掌さんがいます。
この素敵な車両にゴトゴト揺られること40分。着いた高滝駅は無人の駅で、先の車掌さんが降りて、切符を回収しています。
このプラットフォームで自転車を組み立てて、いざ出発。
外に出るとすぐに高滝湖が現れます。その湖面には釣りを楽しんでいるのか、幾隻かのボートが浮かんでいます。ボートにしては妙な形のものは良く見れば彫刻のよう。湖の東の岸辺には『水と彫刻の丘』という施設があるので、これはその展示物の一つのようです。
賀茂橋を渡り、高滝湖をぐるっと廻り込むように走るレイクラインに入り、里美駅を過ぎたところからカントリーロードを進みます。道が線路と並走するところでちょうど向かい側から小湊鐵道線の車両がやってきました。ライトを点灯し汽笛を上げてやってきます。これはちょうど写真の車両があるあたりに、小さな小さな踏切があるからでしょう。
この道が線路と並走する区間は僅か200mほどなので、ここですれ違えたのはかなり奇跡的です。
この周囲の風景はこんな感じ。こんもりした山間に小さな畑が広がり、民家がポツポツと建っています。のどかでいい雰囲気です。しかし道はアップダウンの連続。
飯給(いたぶ)駅の先、柿木台というあたりで小湊鐵道線の線路を渡ると、
そのすぐ先に素掘りのトンネルが。このトンネルの形状はちょっと変わっていて、丸くなく将棋の駒のようです。短いですが壁には照明が付けられているので、利用頻度が高いのでしょう。
すぐ先にもう一つ。こっちは丸いですね。こういう道を通るとなんとなくワクワクしてきます。
さらに進めば今度はトンネルではなく、小さな切り通しです。房総は小さな山の連続なのでこうしたトンネルや切り通しがあちこちにあるんですね。
切り通しの先で再び小湊鐵道線の線路と並走したのち、三つ目のトンネルが現れました。ここは再び将棋型でちょっと距離が長いものでした。
三つ目のトンネルを越えると県道172号線に出ました。月崎駅の東側からは大福山まで延びる林道月崎大久保線があるので、これに入ります。林道とはいってもこの道の入口は写真のとおりで、黄色い看板に林道の表示があるだけの普通の道です。
林道にしてはかなり広めで、舗装の整った道です。すぐに緩い上りが始まり、山奥へと進んで行きます。
道の両側はほぼ木々に塞がれていますが、所々でその木々の合間から見えるのは、連なった小高い山々とその合間にちょっとだけ開かれた畑です。道の端っこに黒っぽいものが見えます。猫かな~、と思っていると
『あ~、サル~』 とサリーナの叫び。その黒っぽいものの正体はなんと野生の猿だったのです。このあとももう一度猿に遭遇しました。このあたりにはまだ結構野生の猿が生息しているんですね。
基本的に上りの道ですが、アップダウンがかなり多くヘーコラ。そして細まった道はついにダートに。しかし砂利の路面は固く締まっているので、問題なく進みます。このダート区間は一カ所ではなく、ひどく短いものから数百m程度のものまでの数カ所からなりますが、合わせて1kmほどなので、大したことはありません。
道幅が広がり舗装路となると空が若干広がり、山頂が近づいたように思います。しかしここからもちょっとした下りがあり、上り返します。
ほとんど建物がなかった道端にようやくそれが現れると、林道月崎大久保線は林道女ガ倉線に突き当たります。女ガ倉線を数百m上ると、行く手の視界が開け小さな東屋が現れました。大福山に到着したようです。
この東屋で房総の山並みを眺めながら一休みします。実はこの東屋が大福山の展望台だと思ってしまったのですが、どうやら展望台はこの山側にあるようで、そこに上るとほぼ360°の眺めが得られるといいます。
しかしこの東屋付近からの眺めもなかなかでした。(TOP写真も)
東屋から200mほど先の山の中にはひっそりと白鳥神社が佇んでいます。小さな社の脇には巨大な御神木が聳えています。
大福山で房総の眺めを堪能したあとは、林道大福山線で南に下ります。この線は道幅は4mほどと広めですが、2kmに渡り砂利道です。ただし路面は締まっていて走りやすい。
さらに尾根沿いを走っているようで、視界が開けているところが多く、気持ち良く走れます。
快晴で暖かく、いい雰囲気の山道をどんどこ行くサリーナです。
林道大福山線が終わると、林道戸面蔵玉線(とづらくらだません)のトンネルの上を通り、ぐるっと廻り込むようにして戸面蔵玉線に入り、養老渓谷へと向かいます。
この線は舗装路で穏やかな下り。先ほどの大福山線とはずいぶん印象が違うのは視界があまり開けていないからでしょうか。しかし最初の林道月崎大久保線ともこれまた違った印象で、林道としてはあまり特徴がある道ではないような気がします。
養老渓谷が近づくと、『出世観音→』の小さな看板が目に入りました。出世観音の入口は養老渓谷沿いの県道にあるので、これはどうやら裏道のようです。
杉林の中の細い道はひっそりとしていて、しんと静まり返っていました。本当に出世観音に辿り着くのかと思いつつも、この道にひかれてどんどん奥へ進みます。
目の前にダートの激坂が現れ、そこを押しでそろそろと下ると出世観音でした。この観音様は、かつて源頼朝が再起をかけて祈願した所だそうです。
ここから下の道までは細い階段しかなく、えっこらえっこらと自転車を担いで下ります。
降りた先には養老川が流れ、赤い観音橋が架かっています。一見木造の橋かと思いましたが、鉄骨造だったのがちょっと残念。
観音橋を渡り県道に出ると、そのすぐ南側に中瀬遊歩道の入口がありました。この遊歩道は川沿いにあり、弘文洞跡を通るコースになっているので入ってみました。
削り取られたような地層がむき出しの地形が現れ、その前に養老川、そしてその岸辺に幅1mほどの遊歩道があります。
しかしこの遊歩道は数十mで途切れ、川の反対側に移ります。そこには川の中に飛び石状のものが敷設されていて、対岸に渡れるようになっていました。ちょっとおっかなびっくり、自転車を担いで渡ります。
秋にはすばらしい紅葉が見られるという養老渓谷ですが、この時期は木々もまだひっそりとしています。
養老川沿いに続く中瀬遊歩道は、今日は誰もいない茶店の前を通り、再び川を渡り、先へと続きます。遊歩道なので路面は土で、最近雨が降ったのかぬかるんでいるところがありました。
自転車を押したり引いたりして進むと少し道が広まったようなところにベンチがあり、小さな看板が建っています。その看板によるとここは『弘文洞跡』。
これは養老川の支流、蕪来川(かぶらいがわ)を川回ししてつくったトンネルの跡で、今では川の両側に分かれて切り立つ二つの崖は、元々は繋がったトンネルだったそうですが、1979年に崩壊したのだそうです。
2kmほどの中瀬遊歩道は葛藤というあたりで終わり、道に出ます。ここから橋を渡り北東へ進めば県道に出ますが、私たちはこの道を南へ進み、筒森へ向かいます。
最初は広い普通の道だったものが、あるところから急に狭まり、行く手にはまたまた素掘りのトンネルが現れます。今日は幾つ目のトンネルだったか分からなくなってしまいました。このトンネルの先にももう一つトンネルが見えます。
トンネルを抜け、山間のいい感じの道をどんどん進みます。この道には林道の標識がないのですが、感じとしては林道ですね。
しかしこの道の路面はずっと舗装されていて、ダートはありません。ちょっとしたアップダウンがあり、サイクリングにぴったりの道です。
『この道、楽しいね~』とサイダーがのんびり行きます。
3kmほどこの林道らしき道を楽しむと筒森に到着。ここからは国道ですが、車は多くないので問題ありません。
『もうすぐ亀山湖、温泉~~』 とサリーナが飛ばす。
しかしこの国道、筒森から1km少々のところにあるトンネルまでは上りで、ちょっとへ~こら。その後は下り基調ですが、ちょっとしたアップダウンが連続します。
左手にちらっと赤い橋が見えると亀山湖到着です。
今日の宿はこの湖畔にあり、すぐ隣は稲ヶ崎キャンプ場。
ちらっと湖を覗いてから、ゆっくり温泉に浸かりました。あ~、よか~
小湊鐵道のかわいらしい一両編成の車両から始まった今日のコースは、房総の中腹部のいいとこ取りのようです。3つの水辺とダートの残る林道、大福山からの眺め、そして素掘りのトンネルと、どれも楽しいものでした。