ぴーちくパーチクいう鳥の声で目覚める。
今朝方まで降っていた雨はどうやら上がったようです。
『昨夜はテントが潰れるんじゃあないかとヒヤヒヤしっぱなしで、寝られなかった〜』と、マイテントを張ったベネデッタ。
『いや〜、床が浸水するんじゃあないかと思いましてね〜』 と、プリン。
『雨がテントを叩く音が凄くて、目が覚めちゃった〜』 とは、なんちゃってテントのミルミル。
一通り、昨夜の嵐のような雨の恐怖を語り合ったら、朝食の準備にかかります。
例によって火係のプリンとサイダーがソーセージとパンを焼き、ベネデッタとレイナがスープとコーヒーを湧かします。
簡単な朝食を済ませたら、自転車の出発準備を。
天気予報によれば、今日は午前中は曇り、午後は雨になりそうです。
それで午前中は予定のとおり桧原湖を一周することにし、午後の部は昼食を摂りながらでも考えようということに。
私たちのキャンプ場は曽原湖のすぐ南にあるので、まず曽原湖を廻ってみることにしました。
曽原湖は周囲4kmほどの小さな湖です。キャンプ場を出るとすぐにその曽原湖に辿り着きます。岸辺では朝早くから釣り人が糸を垂らしています。
ここは曽原湖の南端部分で、道路から曽原湖が眺められるのはこのあたりだけのようです。
ここ以外は岸から少し離れた所を道が通っているため、湖面は見えないのです。
ともかく東岸の道をどんどこ行くと、湖の北部で湖側に細い激坂の分岐が現れます。
『まさか、あの道、行かないよね〜』 と、サイダーの性格をよく知るベネデッタ。
サイダーは聞こえなかったふりをしてその道に入って行きます。
『え〜、本当にこれ上るの〜〜』
ということで、全員、速、押しに。
この道は曽原湖畔探勝路と言うらしく、ジョガー向けに作られたのか、路面はゴムチップで覆われています。しかしあまり利用者がいないようで、苔が表面を覆っているところも多く、雨上がりのこの日はスリッピーで、用心しながら進んで行きます。
入口部は激坂ですが、その後はなんとか自転車に乗って進むことが出来るようになります。
鬱蒼とした森の中をゆっくり進んで行くと、左手が少し開けているところにやってきました。
明るい方に視線を移すと、曽原湖がかなり下に見えます。
いつの間にか、だいぶ上ってきていたのですね。
曽原湖の周りの熊が出てきそうな道をさらに進んで、ぐわ〜んと下ると桧原湖です。
桧原湖は裏磐梯最大の湖で、1888年(明治21年)の磐梯山の大噴火によって長瀬川が土石流によって塞き止められて出来たそうです。一周は30kmほどと、ちょっとサイクリングするのにちょうどいい距離です。
私たちはこの桧原湖を反時計廻りに廻ります。
地図ではほとんど平らに見える桧原湖の周回路ですが、実はアップダウンが結構あります。
序盤は細かいアップダウンを繰り返します。
昨晩、浸水と暴風でテントが飛ばされないかでヒヤヒヤしっぱなしだったベネデッタは、ここを三速のブロンプトンで挑みます。
序盤のアップダウンが終わり、直線基調の平坦部を経て再び上りが始まると、桔梗山の横までずっと上りが続きます。前半の山場は東岸北部にあるこの桔梗山付近です。
もっともその勾配は穏やかなので、ここは初級者でもOK。
その桔梗山の手前に小さな駐車スペースがありました。
ここで木々の合間から桧原湖を眺め、ひと息付きます。
この駐車スペースから桔梗山を廻った先のピークまでは、ひと漕ぎです。
なんとか前半の山場を乗り切ると、このピークから早稲沢までは穏やかな下り。
早稲沢から桧原湖の北岸を行き、西岸に入ったかと思うころ、右手に会津米沢街道桧原歴史館が現れます。
会津街道とも呼ばれた米沢街道は、現在の山形県米沢市と福島県会津若松市を結んでいました。そのうちの一つは、米沢から桧原峠を経て北塩原村の大塩、喜多方市の熊倉を通り、会津若松へ至っていたそうです。つまりこのあたりをかつての米沢街道は通っていたのです。
そしてかつてここには桧原宿がありました。それは磐梯山の噴火により今は桧原湖の底に眠っているようです。
かつてこの近くの大塩裏磐梯温泉からは塩が採れ、会津藩にも納めていたそうです。その製造は塩の専売化とともに途絶えてしまったようですが、現在地元の人々により『会津山塩』として復活しています。この地ではその塩を使った山塩ラーメンが人気だとか。
さて、街道が通っていた時代に思いを馳せたら、桧原湖の西岸をどんどこ南下します。
西岸の北部はフラットで快調に進んで行きます。
道脇に伝統的な民家が見えてきました。
このあたりは豪雪地帯なので、勾配のきつい大屋根、雪よけの土庇らしき造りが見て取れます。
直線基調の道が穏やかに上り出すと、その先で道幅がぐっと狭まりました。
このあと道はうねうねとなり、ちょっと山道風になります。
うねうね道が収まり道が大きく方向を変えると、左手に東岸の桔梗山が見えてきます。
この写真を見てもわかるように、桧原湖の周囲はぐるりと山が取り囲んでいます。
この先は桧原湖の北部では早稲沢に次ぐ集落の桧原で、郵便局もあります。
ここから南西の山へ向かう道を行くと大塩峠で、これがかつての街道でしょう。ここに桧原の名が残ることからも、かつての桧原宿はこのあたりにあったのかもしれません。
桧原を過ぎると、桧原湖に突き出した低い堂場山が見えてきます。
桧原湖を北部から見るとこの堂場山が突き出しているので狭く感じますが、実は桧原湖はここから見える何倍も大きい湖です。
さて、その堂場山の付け根を突っ切ると桧原トンネルが現れます。
このトンネルは2014年に開通したばりで、延長650m。
まだ開通したばかりなので旧道が残っており、歩行者と自転車は旧道へのサインが設けられています。
これはサイクリストにとってはうれしいことですが、桧原トンネルには安全に自転車が通行できるだけのスペースがないようです。この旧道をこれから先も維持管理していくことができるのでしょうか。
それはともかくも、ここはありがたく旧道を使わせてもらいます。
しかし案の定、この旧道、ほとんど手入れはされておらず、枯れ枝や落ち葉で埋まりそうです。
桧原トンネルの旧道が終わるともう一つのトンネル、野鳥の森トンネルが現れます。ここにも旧道があります。
この旧道もしばらくは使えそうです。こうした快適な旧道は、いつまでも残ってほしいものですね。
この旧道が終わると、桧原湖のほぼ中央部に出ます。
湖面には遊覧船が走り、釣り人の小舟もたくさん浮かんでいます。
道がカーブする直前にちょっとした駐車スペースが現れました。そこの標識には『磐梯山眺望』とあります。
やってきた道を20mほど戻ると、その磐梯山が一望にできます。ここから見る磐梯山は、1888年(明治21年)の噴火で山体崩壊したあとの姿です。現在は山が二つに分れていますが、その前は左右の稜線を結ぶような姿をしており、より巨大な山だったのです。
磐梯山の裏側をじっくり眺めたら、休憩ポイントの道の駅に向かいます。
道の駅裏磐梯は急坂の上にあるので、ここはちょっとあへあへ。
『休憩の定番はソフトクリームよね。』と、裏磐梯特産の山塩入りを選んだレイナ。
ほんのちょっぴり塩気があり、おいしい。
道の駅での休憩のあとは、本日一番の試練が待っています。
桧原湖の南西端まで進み、そこから内陸に入ると、長い直線の上りが見えます。
えっこらよっこらと上り詰め、やっとこの上りが終わったと思ったら、カーブの先にまた上りが。
『え〜、まだ上るの〜ぉ。。』
ここをなんとか堪え、さらに二漕ぎ三漕ぎして、やっと頂上に到達。
『やった〜、下りだ〜〜』 と、本日がすでに終わった気分の面々です。
その後は高速の下りで、あっという間に裏磐梯の中心部というべき剣ケ峰に到着。
剣ケ峰の交差点でお昼を摂りながら、午後の部の打ち合わせをします。天気予報によれば15時ごろからパラパラしそうですが、それまでは大丈夫らしい。しかしこの午後はカヌーの予定。万が一雨に当たると逃げ場がないのでこれは諦め、小野川湖の奥にある小野川不動滝を見に行くことにしました。
そうと決まれば雨にならないうちにキャンプ場に戻りたいので、早々に出発します。ここでミルミルは離脱し、帰途へ。実はこれが大正解になろうとは、この時だれも思わなかったのですが。
R459を離れ、小野川湖に向かう道に入ってどんどこ。ところがこの道がなぜか上りでちょっとあへあへです。しかも15時からという雨が早くも降り出してきました。
小野川湖の東端に着く頃には、結構雨足が強くなっていて、小野川湖をゆっくり眺める余裕無し。
しかもここから不動滝までは、さらにきつい上りが続くのです。
えっこらよっこらと上り詰めて、不動滝へのアプローチ道を折り返すと、そこは激坂。雨はザーザー。もうやってられねーぜ! 状態です。
しかしとにかく、小野川不動滝探勝路の入口に辿り着きました。
ここで、かつてこの滝まで行ったことがあるというヒデちゃんが、
『滝までは一時間くらいかかります。途中にきつい階段がありますよ。』 と言うではありませんか。
『え〜、一時間! こんな雨の中、そんなに歩けないよ〜』 とみんな。
しかし入口の案内を見ると、滝までは600mとあります。それならせいぜい片道20〜30分だろうと、予定の通り、滝へ。
ヒデちゃんが言う一時間は、きっと往復の勘違いだろうと思いますが、きつい階段はその通りでした。
自転車を降りても、えっこらよっこらです。
この階段をなんとか上り切ったベネデッタ。
『私、がんばったよー』
階段を上り切ると平場に地道が続いています。この道は滝に向かう方角と反対側にも延びていて、そちらを行くと小野川湖畔探勝路に続くようです。
この階段上部から滝に向かえば、すぐにザーッという音が聞こえ、滝が見えてきます。
昨夜雨が降ったこともあってか、小野川不動滝は水量豊富でかなり見応えがありました。しかしこの時、雨はジャバジャバでゆっくり滝を見物するどころではなく、豪快に流れ落ちる滝を一目見たら、さっさと引き返すことに。
そそくさと自転車を停めた駐車場に戻り、ジャバジャバ降り落ちる雨の中、10km離れたキャンプ場へ戻ります。この間、ベネデッタはランナーと競争。ほとんど同じスピードで、上り坂ではあやうく抜かれそうに。しかしなんとか下り坂で差を広げることができたのでした。この写真は撮れなかったのですが、動画にあるかも。
さて、なんとかキャンプ場に辿り着くと、なんとまあ、雨が止んでいるではないですか。とにかくここはまずは温泉と、本館の浴場へ自転車で向かいます。ひと風呂浴びて生き返った、さあキャンプ場へ戻ろうという時になると、雨は土砂降りに。キャンプ場に辿り着いてみんな安心し切ったのか全員カッパの持参無しで、仕方がないので小降りになるのを待って、傘を借りて歩いて戻りました。
雨はジャバジャバです。今日の夕飯は昨日同様にBBQ、そしてダッチオーブン。とにかくアウトドアで調理しなけりゃいけません。
調理棟の片隅に陣取り、調理の準備開始。ところが最初に陣取った場所は風上で雨が容赦なく吹き込んできます。そこで対角の風下に移動し、準備のし直しです。
例によってプリンちゃんとサイダーが火起こしし、なんとか調理できる状態になったら、代わる代わる焼きに入ります。なんだか怪しい手付きは、あんまり調理経験がなさそうなヒデちゃん。
火の面倒を見終わったプリンちゃんは、ただ飲むだけ。隣は、あたしゃ〜食べるだけよ! のベネデッタ。
この二人、まだ結婚三年目でラブラブ。
『キャンプって初めてなんですが、楽しいですね〜』 と、人生初キャンプのレイナ。
『レイナ、肉をおくれ!』 と、ただ喰うだけのジーク。こらジーク、仕事せんか=
『ジークさん、これ、ビールと雨入りの焼そばなんですが、いいですかぁ〜』
火に掛けっぱなしで誰も面倒を見なかったダッチオーブンは、勝手に出来上がって、まずまずそれなりの味に。でもこれ、食べるのに忙しくて写真はなし。
まあこんな調子でこの夜も、てんやわんやで支離滅裂になって行くのですが、BBQが終わっても強い雨は降り止まないのでした。
さて、明日はいったいどうなる?