マリスク半島(Murrisk)のウェストポート(Westport)から首都ダブリン(Dublin)にバスで移動してきた。アイルランドではバスの方が鉄道より発達していて、しかも運行時間も正確だという。その車両は日本の高速バスタイプなので、自転車も簡単に荷物室に積み込める。
ダブリンはアイルランドの人口の半数近くが集中する大都市だ。
その目ぬき通りのグラフトン通り(Grafton)は買い物通りで、現地の人や観光客ですごい賑わい。西部の田園地帯からやってくると頭がクラクラする。
ダブリンの歴史は古く、歴史的な建造物がたくさんある。それらの中でもまず訪れなければならないのはダブリン城(Dublin Castle)だろう。ここは45分のツアーに参加した。
この城は13世紀初頭にバイキングの入植とともに建てられた。現在見られるほとんどの部分は18世紀のものだが、レコード・タワーは1226年に建てられた当初の姿を保っている。その右側に見えるのはチャペルロイヤル。
この敷地内に東洋美術及び古文書を専門とするチェスター・ビーティ図書館(Chester Beatty Library)が近年オープンしたので覗いてみた。西洋、イスラム、日本その他の図書が展示されているが、ここはとにかく中世の書物がすばらしい。
ダブリンには大変珍しいことに大聖堂が2つある。その理由については他に譲るとして、これは古い方でクライスト・チャーチ(Christ Church Cathedral)。
ここに石造の教会が建てられたのは12世紀のことで、元はロマネスク様式だったがそれにゴシック様式が加えられた。
内部のほとんどはゴシック様式だが、南翼廊にあるダブリンの守護聖人ローレンス・オトゥールの礼拝堂では、ロマネスク様式とゴシック様式のアーチが重なる珍しい天井がある。
もう一つの大聖堂はセント・パトリック大聖堂(St Patrick's Cathedral)だ。聖パトリックはアイルランドにキリスト教を広めた人だ。
このセント・パトリック大聖堂も中世の建築で、クライスト・チャーチよりわずかにあとに建てられた。規模はクライスト・チャーチより大きく、アイルランド最大の教会と言われている。
この建物もゴシック様式だが、クライスト・チャーチよりがっしりどっしりした印象を受ける。
歴代のここの首席司祭の中でもっとも有名なのは、ガリバー旅行記の著者であるジョナサン・スウィフトだろう。スウィフトと彼の永遠の恋人ステラはここに埋葬されている。
セント・パトリック大聖堂の墓に大きなケルト十字の墓碑が立っていた。
ケルト十字の起源はキリスト教以前にまで遡るようだが、今日はケルト系キリスト教の特徴的なシンボルとなっている。
これは、ジョージ王朝時代の庭園広場の中では最大規模のセント・ステファンズ・グリーンの向かいにあるユニテリアン教会(St.Stephen's Unitarian Church)。
この建物もゴシック様式だが比較的新しい1863年竣工で、その前を馬車がパッカパッカ。
ダブリン城、クライスト・チャーチ、セント・パトリック大聖堂、この三つの見どころに並ぶものとしてはトリニティー・カレッジ(Trinity College)の図書館とそこに所蔵されている『ケルズの書』だろう。
図書館は内部が大変素晴らしいが、ケルズの書とともに、残念ながら写真では紹介することができない。
世界の主要な都市にはその都市を特徴付ける川が流れていることが多い。ダブリンではその中央部を東西方向に流れるリフィー川がそれに当たる。さらに興味深いことにここには都市を取り囲むようにして大きな運河が2つ開削され、いずれも19世紀初頭に完成している。
その一つはリフィー川の北にあるロイヤル運河、もう一つはその南にある大運河(Grand Canal)だ。大運河はここから遥か西を流れるシャノン川(River Shannon)まで132km続いている。
ダブリンはグラフトン通りやそれから続くオコンネル通り、そしてテンプル・バーといった繁華街を除けば、裏通りは閑静な住宅地になっている。
前の写真の大運河沿いの建物もこの写真の建物も、一見しては新しいか古いかわからないが、いずれもそれなりに年月を経たものだ。
長い一棟かと思える建物も、実はいくつかの建物が集まったものであることは多い。
写真の2棟は、高さ、外壁の煉瓦、玄関や窓の形と色といったほとんどのものが同じだが、よく見れば微妙に異なっている。
玄関を複数の持つ建物は多いがそのデザインは基本的に同じで、せいぜいドアの色が異なるくらいだ。
自己主張を最低限に押さえることによって都市に調和が生まれている。混沌とした東京とは対照的だ。
ダブリンの郊外に1795年オープンの国立植物園(National Botanic Gardens)がある。
その中の温室がすばらしく素敵だった。これは鋳鉄製造業者のリチャード・ターナー(Richard Turner)によって1848年に完成された。ターナーは当時最先端を行く温室設計家でもあった。
鉄とガラスの建築として有名なものの中に、1851年にロンドンのハイド・パークで開かれた第1回万国博覧会の会場として建てられたジョセフ・パクストンの『水晶宮』があるが、この時の設計競技でターナーは2等賞を受賞している。水晶宮は失われたが、ターナーのこの温室は幾多の試練を乗り越えて現在も私たちの前にある。
惚れ惚れする美しい曲線!
植物はたくさんたくさんあったが、オオオニバスはここで始めて見た。
オオオニバスは漢字では大鬼蓮と書く。なるほど、花を見ればこれは蓮なのがわかる。
ダブリンの自転車情報を少し。
この都市は車密度はそれなりに高いので自転車で走りやすいとは言えないが、自転車レーンが設けられているところもある。
これは "Cycleways" という自転車店のショウ・ウィンドウでブロンプトンが置かれている。Birdyもあったがここではブロンプトンの方が人気だという。
この店で自転車のパッキング用にダンボール箱をもらった。
歩き疲れたらパブに入ってギネス1パイントを。
ギネスはここダブリンで生まれた。
パブには必ずといっていいほどギネスがあり、その液体を運ぶトラックが街中を隈無く走っている。
ということで、ダブリンに来たからにはやはりギネス・ストアハウス(Guinness Storehouse)へ行かねばならない。
セント・ジェームズ・ゲート醸造所に併設されたギネス・ストアハウスはビールの醸造工程の見学と試飲ができる施設で、外観はクラッシックな煉瓦造のようにも見えるが、実は1902年築の鉄骨造で発酵プラントだった建物をリノベーションしたものだ。2000年にオープンしたばかりで、内部は現代的に改修されており気持ちがいい。
写真は見学コースで見られる古い仕込みタンク。
ギネス・ストアハウスの最後は最上階のバーでダブリンの街を眺めながら黒い液体を楽しむ。アイルランドにはいろいろなメーカーのいろいろな種類のビールがあるが、やっぱりギネスに止めを刺す。
今回のアイルランドは、おおらかで美しい自然とどこでも聴けるアイリッシュ・ミュージック、そしておいしい酒を満喫した旅だった。