スイス・アルプス・サイクリングの最終日です。 予備日二日目のこの日は、ベルン郊外のチーズで有名なエメンタールを巡ることにしました。 晴れていれば昨日見たベルナー・オーバーラントのアルプスの山々が見えるはずです。
しかし朝目覚めるとベルンの空は厚い雲で覆われています。 天気予報は曇りなので、まあ行ってみるか〜、と宿を出ました。 気温は低めで長袖で丁度いい案配です。
首都ベルンは大きな町ですが、15分も走ればもうそこは郊外です。 こういったところが日本の大都市とはまったく違います。
『今日でサイクリングはおしまいね〜』 とサリーナが行き、オットマッターが後を追います。
市内を抜けると緑の丘陵地帯になり、すぐにアップダウンが始まりました。 今日はブルクドルフまでの60kmの予定ですが、ちょうど半分の30km地点までは穏やかな上りなのです。
ひたすら続く緑の道をどんどん行きます。 特別な眺望はありませんが、なだらかな丘に赤茶色の瓦屋根、そして所々にトウモロコシや野菜の畑といったものが広がります。
この道はとても静かで、車はまったくと言っていいほど通らず、これまではどこにでもいたサイクリストの姿もあまりありません。 こんなのどかな道をパッカパッカと農家の馬車が行くから、ちょっとびっくりです。 ここはベルン市街から10kmほどしか離れていないのですから。
お天気は徐々に良くなりつつあるようです。 遠くの空が明るくなってきました。 道は相変わらず緩い上りです。
今日のコースはほとんどがカントリーロードを行きますが、極僅かの区間は幹線道を走ります。 その幹線道には狭いながらも区分けされた自転車レーンが設けられています。
道の脇を列車が走り抜けて行きました。 スイスの鉄道ってみなあの赤い色の車両ばかりかと思ったらこれは緑。
幹線道から再びカントリーロードに入るとちょっとした村が現れました。 うねった道に導かれながらこの村の中を通り抜けます。
しばらく行くと道が合流し、車の道になりました。 スイスの家は立派な大型のものが多く、地方によって屋根の形に特徴があります。 このあたりは切り妻屋根の上の方を斜めに切り落としたようなものが多い。
この先でエンメ川に出ます。 そこには屋根付きの木造の橋が架かっています。 この橋の屋根は勾配が緩く、寄せ棟なのがちょっとめずらしい。
エンメ川に沿ってしばらく行くと、エメンタールのエメンという文字の付いたエメンマットまでやってきました。 ここで進路を変え、エメンタールで一番大きな町、ラングナウ・エメンタールに向かいます。
そのラングナウには実は特に見るべきものはありませんでした。 エメンタールの中心的な町とのことだったので、多少期待していたのですが。。
晴れていれば見えたばずのベルナー・オーバーラントの山々も今日は残念ながら見ることができません。 街中でちょっとお茶を飲んで、来た道を引き返します。
街は大したことはありませんでしたが、エメンマットからここまでのアプローチはのんびりしていていい感じでした。
エメンマットまで戻ると、道はラングナウ方面からくる川とアエシャウ方面からくる川とが合流したエンメ川沿いを進みます。 林の中のダートを抜け、
小さな村々を抜けて進みます。 ここに来て空には青い色が射してきました。
エンメ川はひどく浅く、ラインやローヌといった川とは違い、白く濁っておらず透明な流れです。 そのエンメ川を小さなアーチの吊橋で渡ります。
このあたりは、川沿いの林の中と村の中と半々位で、ようやく数人のサイクリストとも出会いました。
林を抜けると突然木造の橋が。 これはなかなか立派です。
橋を渡り、シンボリックに聳える教会の塔の前を左折してしばらく行くと、ちょっとした街を通り抜けます。
その先にはまたしても木造の橋が。 この橋は元はこの近くの別のところにあったもので1839年に建造されましたが、1955年に解体され、1957-58年にこの場所に再建されたものだそうです。 そのスパンはなんと60.15m。 スパンではヨーロッパ最長の木造アーチ橋だそうです。
橋を眺めつつ、
『え〜本当? そんなに長くは見えないけどね〜』 と首をかしげるオットマッターと、
『おっ、もうスイスを800km走ったよ〜 この橋は800km達成記念の橋だー』 とあまり橋とは関係ない話をするサイダー。
橋を渡ると草地でなにやらゲームをしています。 ものすごく長いフィールドに板切れを手にした人々がある間隔で並んでいます。 そこになにかヴ〜ンと飛んできました。 高く持ち上げられた板切れに飛んできたものがバシッと当たる。 これはいったいなんだ?
前方へ進むと、フィールドの端っこではこんなことをしていました。 平べったい円形のパックのようなものを、細い金属の棒の先に円筒状の木が付いたバットというかクラブというか、そんなもので打つのです。
この競技、ホルヌッセンというそうで、スイスのスポーツとのこと。 ぶっ飛んで行くパックは恐ろしいほどのスピードで最大300km/hにもなるそうです。 世の中には面白い競技があるものですね。
ホルヌッセンをしげしげと眺めた後は、再びエンメ川沿いの林の中をひた走ります。 本日の終着点ブルクドルフにほどなく到着ですが、スイス・アルプス・サイクリングの完走を祝うことに専念して街の写真を撮り忘れました。 テヘへ。。
ブルクドルフからベルン経由でチューリッヒに辿り着きました。 何度もお世話になったスイスの列車、最後は二階建てでした。 もちろん自転車置場ありです。 チューリッヒの駅には自転車とサイクリストがわんさかです。
チューリッヒを流れるリマト川に再会です。 スイス・アルプス・サイクリングはこのリマト川から始まったのでした。 ちょっとなつかしい。
リマト川を渡り、宿のある繁華街に。 この前と同じようにここは観光客でいっぱい。
さて、オットマッターは明日帰国するので、これが三人の最後の晩餐です。 フォンデュはもう試したけれどオットマッターが、もう一度、というので近くのフォンデュ屋さんへ。 チーズフォンデュは使うチーズによって微妙に味が違うのが面白いですね。 もちろん私たちはお気に入りのヴァシュランを混ぜて。 そしてチーズフォンデュの最後はオットマッターによれば、さくらんぼのキルシュヴァッサーを加えた『おこげ』を食べるのが『通』だそうです。
翌23日の午前中は街歩き。 スイスの旅の締めくくりにふさわしいお天気の中、まずリマト川の西にある小高い丘リンデンホフに上りました。 この丘は眺めがよく、ぐるっとチューリッヒの街が見渡せます。 リマト川の向こう岸に聳えるのはチューリッヒで一番高い尖塔を持つプレディガー教会。
丘の上ではしばし周囲の景色を楽しみながら、楽しかったスイス・アルプス・サイクリングを思い起こして談笑しました。
昼頃オットマッターと別れたサイダーとサリーナは、チューリッヒ湖巡りに出発です。
この船、ただの観光船かと思いしや、実は定期航路を兼ねたもののようで、あちこちの船着場で人を下ろしたり乗せたりしていました。 意外と水路の需要もあるようです。
小さなビーチ状の入り江で水浴びする人々やヨットでクルーズを楽しむ人々を眺めながら進めば、ヨットの停泊場の後ろには緑豊かな郊外の住宅地が広がっていました。
スイスは物価が高いことでも知られていますが、人々の暮らしもかなりリッチに感じます。 これは自家用ボートのパーキング付きの住宅です。 こんな家がチューリッヒ湖の周りにはずらっと並んでいるのです。
一時間ほどチューリッヒ湖のクルーズを楽しみ、旧市街に戻ると、リマト川にはボートやら浮き輪でぷかぷかしながら大勢の人々が流れて行きます。 ただの遊びにしては変だな、と思って観察していると、どうやらこれはなんかのデモ行進らしい。 とある橋にこの人々が差し掛かると、橋の上では仲間と思われる人々が爆竹をならしたりして騒いでいます。 水上デモ行進でも、漁船軍団のは見たことがありますが、こういったのは初めてです。
スイスの旅もこの日が最後です。 13日間のサイクリングと3日間の展望ハイキング、いやぁ〜、本当に全部が素晴らしかった。
スイス中どこにでもあるのは緑の丘陵。 このどこにでもあるものがとても素晴らしい。 もちろんアルプスの山々は他に変えうるものがない。 マッターホルンは言うに及ばず、アイガー、メンヒ、ユングフラウ、そして名も知らぬ山々も素晴らしい。
アッペンツェルのかわいらしい家々。 古いフリブールやベルンの街は美しく、ぶどう畑が広がるエーグルやシオンもきれい。 ラインとローヌという二つの大河もまた、渓谷とともにすばらしい表情でした。
どこに行ってもおししいチーズとワインが、これらをより魅力的にしてきました。
ちょっと思い起こしても、すべてがすばらしくて困ってしまうほど。 心が豊かになったスイス・アルプスの旅でした。