ルッフテモンのB&B
アルデンヌの『アンリエの森』(Forêt d'Anlier)に囲まれた小さな村ルッフテモン(Louftémont)は、本当に何もないところ。この村にただ一軒だけあるB&Bでおいしい朝食をいただいたあと、マダムに見送られながら出発します。
『今日は生憎のお天気ね〜』 と、マダムは空を見上げながら私たちを気遣ってくれます。
ルッフテモンからの上り
村の小さな教会に別れを告げ北上を始めようとすれば、すぐに空から雨粒が。村の角にあった小さな小屋で雨支度を整え、再出発です。
まず、ルッフテモンを出る道は上り。
牛さんを横目に走るサイダー
4kmほど上ると、道はようやく穏やかな下りになりました。
雨の中の牧草地では、赤牛さんがごろごろしています。
アンリエの森へ
道はいつしか『アンリエの森』の中に入っていました。この森は深く、いつ抜けるとも知れないほどです。
しかし、森の中に一本だけ延びる道をどんどん進むと、4kmほどで森を抜けました。森の中を走るときはとても気分がいいのですが、ちょっと寂しい心もとない気持ちにもなります。しかし森の先にはいつでも小さな村が待っています。
フォヴィエ
森から牧草地に出ると、すぐにフォヴィエ(Fouvillers)です。どうやら雨は上がったようです。
アルデンヌでのサイクリングのいいところの一つは、豊かな自然の中にありながら、人が住む集落が数kmごとに現れるので、自然の中に完全に取り残されてしまったという不安を感じなくていいところでしょう。
フォヴィエのかわいらしい民家
アルデンヌの民家には、南欧のそれらような華やかさはなく、スイスや南ドイツのようにどの家の窓辺もみんな同じ花が飾られるということもないけれど、それぞれがちょっとだけ工夫をして、さりげなく飾られています。
フォヴィエの聖母被昇天祭市
人々が集まっているところに出ました。日曜市かなと思いましたが、今日は金曜日です。
よく考えてみると8月15日は聖母被昇天祭なので、きっとそのお祭りなのでしょう。
フォヴィエの聖母被昇天祭市その2
思い思いにテントを張り、その下に、こちらも思い思いのものが並べられています。
フォヴィエの聖母被昇天祭市その3
このテーブルには食器やガラス器といったものが並べられています。
さらに森を行く
ちょっと楽しい聖母被昇天祭の市を覗いたあとは、再び森に入ります。アルデンヌには丘と森しかない!
この森を上って下り、
丘を下る
牧草地の中を上って下ると、次の村が現れます。
丘を上るサリーナ
オット(Hotte)、ムニュフォンテーニュ(Menufontaine)といった小さな村を過ぎると、また牧草地の中の上りが始まります。
丘を行くサイダー
こうした上りは、高度ではせいぜい数十mから100mといったところですが、これがどこまでも続くのがアルデンヌ。
アルデンヌの景色その1
アルデンヌの景色その2
丘の上に上れば、その風景はざっとこんな感じ。360°地平線が見渡せます。
麦畑
周囲は森。その中に開かれるのは牧草地がほとんどですが、たまにこんな畑もあります。
アカツメクサの畑
ここはアカツメクサらしい畑。多分、飼料用でしょう。
寝転ぶ牛さんの横を行く
牧草地にいるのは、大抵牛さん。
グランドリュその1
丘を下るとグランドリュ(Grandru)です。
グランドリュその2
小さな教会があり、こうした伝統的な作りの家も何軒か残っています。
村の出入口にある減速装置
そうそう、アルデンヌの村々の出入口には、車を減速させるために、プランターがよく置かれています。
大抵こうしたところで使われるのは路面にカマボコ型の突起を付けるスピードバンプですが、あれは自転車には危険です。これならバンプでコケることもないし、何よりきれいですね。
またまた丘を行く
グランドリュからはまた丘を上ります。穏やかな坂を上って下って...
一昨日までのナミュールからベルギー南端のトルニーまでのルートでは、ちょっと大きめの川があったこともあり、アップダウンはやや大きめでしたが、このあたりはかなり穏やかです。
赤いアジサイ
道端に咲くアジサイです。ヨーロッパのアジサイは土壌の性質から赤いものが多いのです。
シブレ
小川をいくつも渡り、小さな村をいくつも通り抜け、シブレ(Sibret)までやってきました。
そろそろお昼時なのですが、この村もとても小さいのでカフェやレストランといった施設はありません。この東4kmほどのところにあるバストーニュは、このあたりでは大きな街なので、そこまで行けばレストランがありますが、これは少々遠回りになるので、予定ルート上にある村にカフェがあったら寄ることにし、バストーニュはパスすることにします。
またまた牧草地
シブレ(Sibret)を通過すると、またすぐに牧草地になります。このあたりの村はみんなとてもちっちゃいので、村を通過するというよりは、緑の中にバラ蒔かれたごま粒のごとく、牧草地の中に村が点在しているといった方が分かりやすいでしょう。
ごろ寝の牛さん
ごろ寝の牛さん。
マルド=サン=テティエンヌ
ごま粒の一つ、マルド=サン=テティエンヌ(Marde-Saint-Etienne)です。
マルド=サン=テティエンヌその2
石の壁に煉瓦でトリミングされた窓、黒いスレートの屋根、そして窓には花。この民家も、アルデンヌの典型的なものです。
マルド=サン=テティエンヌからは、バストーニュから来る主要道が通るシャン(Champs)に向かうことにしました。その先のジヴリ(Givry)にカフェがあるらしいとの情報があったので。
第二次大戦のタンク
シャンの入口には、第二次世界大戦で使われたタンクの頭部が置かれていました。このすぐ東にあるバストーニュは、第二次世界大戦の『バストーニュの戦い』で知られており、このあたりにはこうしたモニュメントがあちこちに残されているのです。
そうそう、バストーニュは自転車のロードレースが好きな方なら、クラシックと呼ばれる伝統あるワンデイレースのうちの一つ、ドワイエンヌ(Doyenne=最古参)と呼ばれている1892年から行われている、『リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ』でもおなじみの地ですね。
ジヴリ
シャンを過ぎ、ジヴリに入ったのでカフェを探しますが見当たりません。
村人に訪ねるも、このあたりには食事ができるところはないといいます。おそらくかつてはカフェがあったのでしょうが、潰れてしまったのでしょう。アルデンヌでは昔カフェをやっていたらしき建物をあちこちで見かけますから。
下にジヴルール
今日のお昼はうまくすればカフェで、と思ってはいたのですが、これがないことは予想していたので、ジブリの丘を上ったところで、サンドイッチを作って簡単に済ませました。
その丘を下るとジヴルール(Gevroule)です。ほら、牧草地の中のごま粒でしょ。
ジヴルール
この小さな村に、こんなに大きな教会が。アルデンヌの村にはどこにでも教会があり、それらはみんな立派。
こうした教会の建設費用や維持費って、いったいどうなっているのでしょう。
続丘
もちろんジヴルールからも丘です。
時々森
そして時々森を抜けます。この森は3km。ちょっと上って、豪快に150mほど下ります。
輝く草原
森を抜ければ、辺りは輝く草原。
もちろん、下りのあとなので、上り。
ちょっと砂利道を行く
私たちは基本的に主要道を避けてルートを作っています。そうして作ったルートは、大抵は気持ちいいカントリーロードなのですが、稀にこんなことになることもあります。
まあ、こうしたところはたいがい大した距離にはならないので、あまり問題にはなりませんが。
美しい草原を行く
今朝は雨でしたが、ここに来てお日様が顔を出してきました。日に照らされた緑の草原は、まるでおとぎ話に出てくるような美しさです。
美しい草原
緑の絨毯。
穏やかなアップダウン
この絨毯の中を穏やかに上り下りして行きます。
イーヴ
先にまた、ごま粒が現れました。草原の端っこにあるイーヴ(Hives)です。
この村を過ぎると、道は針葉樹の森の中の細道となり、
ラ・ロッシュ=アン=アルデンヌ
これを豪快に下って、ラ・ロッシュ=アン=アルデンヌに到着です。
ウルト川と城塞
大きく蛇行して流れるウルト川(L' Ourthe)の右岸に、9世紀頃に起源をもつとされる中世の城塞の廃墟が見えます。
今日見ることができる城塞は、主に12世紀のものだそうですが、円塔や地下牢などには中世の城塞の特徴が残っているとか。
ラ・ロッシュ=アン=アルデンヌのメインストリート
ウルト川を渡り、街の中心に辿り着けば、そこはもの凄い人でした。
よく知らなかったけれど、ここはちょっとした観光地のようです。
私たちのB&B
メインストリートの外れに、本日の私たちの宿はありました。
B&B内部
このB&Bは小さなキッチンがあって、ちょっとした料理に便利です。
ここには二泊するので、丁度いい。
La Féodale
荷を解いたらさっそくビールです。まずはご当地ものの、La Féodale de La Roche を。
これはかなり新しい銘柄で、アンバーとブリューネがあります。ラベルにはお城と伯爵夫人、それに黒い騎士が描かれており、これはラ・ロッシュのお城の伝説から来ているそうです。珍しくこのビールはグラスではなく、陶器のコップで飲まれます。
定番ビール二種
さて、次ぎは銘々のお気に入りを。サリーナはいつもの修道院ビール、レフのブリューネを。これはいつでも安心して飲める秀作。
サイダーはトラピスト・ビールのウェストマールのトリペル。これはベルギービールの中でもサイダーのベスト3に入る逸品だとか。アルコール度数9.5%のトリペルにして、香り高くフルーティー。酸味、甘み、苦みともに控えめですが、そのバランスが見事。
La Fontanellaでの夕食
夕食は私たちが宿泊しているB&Bがやっているレストランで。
アルデンヌのレストランでは、食前に『つまみ』が出てくることが結構あります。そうした場合は大抵、『これはサービスですよ。』といって置いていくのですが、この日はオリーブとサラミが出てきました。日本の『突き出し』とか『お通し』と呼ばれるものは日本独自のものではなく、イタリアの一部の地方やポルトガルなどにもありますが、そうしたものは大抵有料です。しかし、ここアルデンヌでは本当にサービスでタダ。
La Fontanellaの面々に囲まれるサリーナ
そして、私たちがはるばる日本からやってきたのを知って、シードル(りんごの発泡酒)をごちそうしてくれました。
極東といわれる日本からベルギーまではどれくらい時間が掛かるのか、とか、なんでこんな坂だらけのアルデンヌを自転車で走っているのか、とか、いろいろと質問が。いや〜、ここは楽しかった。
さて、明日は休養日。ここでこれまでの旅を振り返ってみると、予想していたとはいえアルデンヌは坂だらけで、連日、累積登坂高度は1,000mを越えています。今日はこれまでで一番軽かったので、せいぜい700〜800mかと思ったら、それでも1,000m。山を上ったわけではないのにね。ふえ〜〜
さてさて、明日はこれまでの疲れを癒すべく、ここラ・ロッシュ=アン=アルデンヌで、たっぷりとビールを飲んで過ごすつもりです。