リエージュ=ギユマン駅
ベルギーの旅も後半です。ここまでのアルデンヌ地方の旅はナミュールから始まり、反時計廻りに廻ってリエージュまででした。ここからはナミュールの南20kmほどのところにあるディナンを出発し、時計廻りに廻ってシャルルロアまでです。
まずは鉄道でリエージュからナミュール経由でディナンまで。なるべく早く走り始めたいと朝5時半に宿を出発し、リエージュ=ギユマン駅に向かいます。まだ暗い街の向こうに白い光を放って輝く建物が見えてくると、そこがリエージュ=ギユマン駅でした。
ギユマン駅の庇
リエージュ=ギユマン駅は長編成の高速列車の発着に対応した駅改良工事が行われ、駅舎はスペイン人のサンチャゴ・カラトラヴァの設計で2008年に完成したものです。白いコンクリート、ガラスとスチールの連続する美しい建物の姿に圧倒されながら、1階のチケット売り場に入っていきます。
プラットフォームへのエスカレーター
1階部分にはチケット売り場のほかカフェ、店舗などがあり、その上階にプラットフォームがあります。
プラットフォーム
プラットフォームは5面、そして9番線を備え、ガラスとスチールの大きな屋根で覆われています。プラットフォームの端のエスカレーターでもう1層分上がると全体が見渡せ、その向こうには街の景色が広がり開放感に溢れています。
プラットフォーム南側に伸びる屋根
駅の北東側は市街地が広がり、南西側は緑の多い丘陵の住宅地で、この新しいギユマン駅は、線路で分断されていた丘陵の住宅地と市街地を歩道橋でつなぎ、プラットフォームの上層は、西側の住宅地からの道路と結ばれているのです。
プラットフォームの北側
大屋根から南には各プラットフォーム上に長く屋根が伸び、北側は曲線の屋根が上方に突き出て並んでいます。
大屋根
とにかくどこを撮っても絵になる。
列車でくつろぐサイダー
リエージュ=ギユマン駅から6:47発の列車に乗り、40分でこの旅の出発地ナミュールに到着します。ナミュール駅7:49発の列車に乗り換えると、20分ほどでディナンに到着するはず。列車に乗り込み『カッコイイ駅だったね〜』と満足そうなサイダーです。
乗り違えて列車を降りた駅
『あれ、何だか方角が変? 西に向かって進んでるよ』とiPhoneで地図を見ていたサリーナ。前に座っていた女性に聞いてみると、『あら、これはシャルルロワ行きよ。ディナンには行かないわ』
ガビ〜ン!!あわてて次の駅で降りてみれば、そこは駅舎もない小さな駅でした。ナミュールに戻る列車を待つこと30分。
ディナン駅を出発
ナミュールに戻り9時17分発のディナン行き列車に乗り、ようやくディナン駅に到着したのは10時近く。せっかく早起きしたのにありゃりゃ。。 気を取り直し、青空の広がる中、ディナンの中心部を目指して出発です。
サックスの並ぶ橋とノートル=ダム教会
ナミュールからムーズ川を上流へとさかのぼったところにあるディナンは、渓谷を監視するために11世紀に初めて建てられた岩山の上の城砦と、その下に建つ玉ねぎ帽子を被ったノートル=ダム教会(Collégiale Notre-Dame de Dinant)がランドマークで、ディナンドリーという真鍮細工でも有名です。
そしてディナンは楽器『サックス』が生まれた街でもあります。今年はサックスを発明したアドルフ・サックスの生誕200年ということで、さまざまなイベントも開催されているようです。街の中央のムーズ川にかかる橋には、サックス・アートが並び、いろいろな国の国旗もはためいています。日本の旗もありました。
シタデルからディナンの街を眺める
まずは、この絵のような街を一望に眺められる城砦『シタデル』へ。当然上りです。サン・ジャック通りをわっせわっせと100mほどの高さを上り、シタデル入口に到着。入場料1人8ユーロを払って入ると、ムーズ川とディナンの美しい街並みが眼下に広がっています。
ディナンの眺望
城砦自体には特に眺望はなく大砲などが置かれているだけでしたが、岩山と渓谷、そして美しい街の織りなすこの眺望はやはりすばらしいものでした。
クック・ド・ディナンを購入
自転車で街に戻り、街の名物を探します。一つはクック・ド・ディナン(Couques de Dinant)という蜂蜜と小麦粉だけでつくるという堅焼きクッキーです。
クック・ド・ディナン
馬、象、猫などの動物やお魚、ぶどう、その他さまざまな形と大きさのものがあります。我々はお魚形のものを購入。どんなお味でしょうか?
フレミッシュ
もう一つの名物は、フレミッシュ(Flamiche)というチーズのキッシュ。今日のおやつ用に2切れカットしてもらいました。あとでレシピを調べてみると、チーズのほかにポロネギ、卵、ミルクなどが入っているようです。
ムーズ川の橋から見たディナン
買い物を終え、11時半にディナンを出発。まずはムーズ川沿いの自転車道を北上していきます。
この自転車道はRAVel 2という鉄道廃線跡を活用したルートです。RAVel とは、ワロン地方の鉄道廃線跡や運河の引船道を活用して、歩行者・自転車などの利用者や条件によっては乗馬のための移動ネットワークとして、1995年から始まったプロジェクトだそうです。
ムーズ川沿いの自転車道
市街地はすぐに終わり、岩山と緑に囲まれ、現役の鉄道軌道と並行した川辺のRAVel 2を快適に走ります。
今日はナミュール州にある四つの小さな美しい村を巡りますが、その前にちょっと寄るところがあります。それはムーズ川の支流のモリニエ川の渓谷の上に建つマレッツ修道院。ベルギービールの中には修道院で造られるアビイビールという種類がありますが、このマレッツ修道院で造られるのがそのタイプなのです。
マレッツ修道院を目指して走る
ディナンから5kmほど川沿いを走った後、ムーズ川沿いのRAVel 2と別れて西に進路を変え、マレッツ修道院に向かうL150Aという自転車道に入りました。
レイルバイク
この自転車道は途中から横に線路が出現します。このルートも廃線跡なのですが、その線路を利用してレイルバイクを楽しむことができるのです。家族連れやカップルなどがレイルバイクを漕いで楽しんでいました。
旧マレッツ駅
ムーズ川を離れて15kmほどのところにある旧マレッツ駅には古い列車車両が置かれ、その駅を越えトンネルを抜けると、マレッツ修道院の足下に到着です。
マレッツのシャトーフェルム
ここからは上り。わっせわっせとシャトーフェルムの横を上り、森を抜けるとそこがマレッツ修道院でした。
マレッツ修道院の教会
ここはベネディクト派の修道院で、建物はネオゴシック様式です。ベルギーの宗教画家から寄付された土地にババリア人修道士が共同体をつくったのが始まりで、その後1878年に修道院になったそうです。
マレッツ修道院のカフェ
マレッツ修道院にはカフェが併設されており、マレッツのビール(生もある)やチーズ、パンを味わうことができます。ビールは外部委託になってしまいましたが、チーズは現在でもこの敷地内で作られているそうです。時刻は午後1時。おなかもすいたので、早速カフェに入ります。
マレッツの生ビール
かつて生水の浄化はひどく困難で、ビールはこれよりも安全な飲み物でした。その上栄養価も高いので『液体のパン』とも呼ばれたそうです。修道士たちは自らの飲料用に醸造し、それを人々に施しつつ、布教していったというわけです。今日、アビイビールはそのほとんどが修道院ではなく、修道院からライセンスを得た外部の醸造者が造っています。現在のマレッツは、デュベル・モルトガット醸造所 (DUVEL MOORTGAT)によって造られています。
ビールの種類は3種、ブロンド6%、ブリューネ8%、トリプル10%です。
ブロンド、ブリューネとチーズ
ブロンドとブリューネの生、修道院でつくっているチーズの写真です。生ビールは陶器のマグで、濃厚なチーズは木のまな板に載って塩を添えて出てきます。
ランチはイタリアンサラダ(パスタのサラダ)、鶏肉のローストにリンゴのソース。どちらも大盛り!
ソソワ
すっかりいい気分で気がつくと14時半。予定より1時間近く遅れています。さてここから今日は4つの『美しい村』巡りに出発です。
最初の村ソソワ(Sosoye)はマレッツ修道院から約2kmとすぐ近く、曲がりくねったモリニエ渓谷(La Molignee)にたたずんでいます。
ソソワとランジネルの山
この小さな美しい村は、ランジネルの山を背後に、教会と石灰石で造られた家々が並んでいます。
キリスト降誕教会
村の中心の少し奥まったところにあるキリスト降誕教会は18世紀の建物。
キリスト降誕教会内部
白壁の内部は美しく修復され、木の祭壇とともに清楚で落ち着いた雰囲気です。
教会と納屋
教会の奥には、緑の芝生に囲まれた赤い屋根の納屋があり、これも歴史ある17世紀の建物です。
牧草地を行く
小さな美しい村ソソワを出発し、牧草地をアップダウンしながら南下すると教会の塔が見えてきました。
ファラエンの教会
小さな美しい村その2は、ソソワの隣村のファラエン (Falaen) 。小さな谷の斜面にあるこの村の家々は、ほとんどが19世紀に建てられたもので、ソソワ同様に石灰石で造られています。
シャトーフェルム入口
そしてここには立派な3つの塔を持つシャトーフェルム(農場と城が一緒になったもの)もありました。
シャトーフェルム
赤煉瓦壁のこのシャトーフェルムは17世紀の建物だそうです。
牧草地の丘を上る
ファラエンからはしばらく南下を続けます。牧草地のアップダウンが繰り返され、
アンテの村
ときどき小さな村を抜け、
また牧草地
また牧草地、そして森と、いつものアルデンヌです。
スールムに入る
ファラエンから15kmほど南下し、N977から分れた道を1kmほど行くと、小さな美しい村その3のスールム (Soulme)が現れます。幹線道路から離れた丘の上の村は、昔ながらのたたずまいを見せています。
スールムの教会
11世紀のロマネスクの塔を持つ教会を中心に、18世紀から19世紀に建てられた伝統的な石造の民家が50軒ほど寄り添っています。
花と緑に覆われた民家
石灰岩の壁にスレート屋根、煙突のある民家は緑に覆われ、窓辺には花が溢れていました。
民家の窓辺
気がつけばもう17時を回り、アルデンヌの丘を上り下りしてかなり足にきています。街角のベンチにへたへたと座り込んでしばし休憩。ここで、ディナンで購入したチーズのキッシュ『フレミッシュ』でエネルギー補給です。おいしい〜、でも今日の宿泊地まではまだ20kmもある。。
ダートの上り
それで村を出たとたん、これかい!(怒) サリーナの厳しい視線を避け、ごろごろ石のダートの上りを無言で押すサイダー。
麦畑と丘
でも丘に上ればこのすてきなパノラマにうっとりです。このあたりは麦畑が広がり、刈り取りの真っ最中でした。
下りを飛ばす
上れば下りあり。広い空の下を飛ばします。
サイクリングロード
ファラエンから5kmほど南下したところで、アスティエール(Hastière)とマリオンブール(Marionboure)を東西に繋ぐ自転車道に出ます。まっすぐ、平坦で快適なサイクリングロードを西に6kmほど走ります。
牧草地を突っ切る
自転車道が森を抜け、視界が広がったところで自転車道を離れて再び南下します。西陽を浴びながら牧草地を突っ切って走ります。
マターニュ・ラ.プティ
マターニュ・ラ・プティ(Matagne la Petit)という小さな村を抜けると、
西陽を浴びて走るサリーナ
そこは再び広い牧草地と麦畑。広い空。
走るサイダー
広大な景色の中を抜け、森を通ると上り坂となり、今日の終着地であり小さな美しい村その4のヴィエルヴ・シュール・ヴィロワン (Vierves-sur-Viroin) に到着。
ヴィエルヴ・シュール・ヴィロワン
この村はヴィロワン・エルムトン自然公園(Parc naturel Viroin-Hermeton)の中にあり、端にはヴィロワン川(La Viroin)が流れています。17世紀の建物も残るこの村ですが、牧師館と僅か三十数軒の家しかありません。
細い坂道を上ると村の中心の小さな広場に出ます。その奥には教会とお城がありました。
Le Petit Mesnil
すでに19時過ぎ、観光は明日にしてたどりついた私たちの今宵の宿は、ヴィロワン川を渡った南側の小さなホテルレストラン、プティ・メスニル(Le Petit Mesnil)。レストランの扉には鍵がかかっていて少々不安になりましたが、オーベルジュと書いてある建物がホテルの入口で、若いお兄さんが対応してくれました。荷物をおろし自転車をガレージに入れ、部屋に入ってしばしくつろぎます。
St. Feuillienの生
20時過ぎ、レストランに下りてみると、閉まっているように見えたレストランには2組ほどお客がいました。本日は休業ですが、どうやらホテルの滞在客には夕食を提供しているようです。
席についた私たち、ここではアビイビールのSt.Feuillienの生をいただきます。これは、ワロン地方西部の都市モンス(Mons)の東15kmほどのところにあるRoeulxという町でつくられています。
メインのステーキ
今日のメインはミニョン・ステーキのプロヴィンシャルソース。ソースにはトマトやパプリカがたっぷり。
ところでこの小さな家族経営のホテル、ほとんどフランス語しか通じません。1人前を2人で食べます、という説明に一苦労でしたが、何とか通じて無事いただいた写真のステーキは1人半人前! これでも日本人的には巨大なのでした。