ヴァルダール(Valldal)の朝は曇り。14°Cで少し肌寒い。午前中は曇りだが午後は晴れるという。今日の午後は世界遺産のガイランゲルフィヨルド(Geirangerfjord)なので、天気だと良いと思っていたが、どうやら期待できそうだ。
私たちの宿はノールダース・フィヨルド(Norddalsfjorden)とヴァルドゥラ川(Valldøla)に面したちょっぴり贅沢なホテルで、朝食も豪華だ。スモークサーモンは文句なくおいしいし、ノルウェイの朝食ではよく見かけるニシンの酢付けもなかなかイケる。
ここからガイランゲル・フィヨルドまでは30kmほどなので時間はたっぷりある。そこでこのあたりのフィヨルドを眺められるところに行ってみることにした。
ここから東に少し行ったところにミェーフェル山(Mefjellet)があり、そこから見るノールダルス・フィヨルドと、その奥のタ・フィヨルド(Tafjorden)への眺望は素晴らしいという。
しかしそこへ行くにはトンネルを通らなければならない。
ここでノルウェイのトンネルについて述べておくと、数が非常に多い。しかも長いものが多い。狭いものが多い。無灯のものもある。自転車通行不可のものも多い。サイクリストにとってトンネルほど厄介なものはない。まして日本とは環境が異なる国のトンネルだ。それがどんなものなのか容易には想像できない。だが大変有益な情報があった。”Map of Norwegian tunnels”
これによるとここで通るトンネルは、1km少々で交通量が少なく問題ない、とある。これを信じて行って見ると、まさにその通りだった。
トンネルを抜けると静かなフィヨルドが現れる。
ここは私たちの宿から2kmほどしか離れていないが、宿から見るそれよりぐっと幅が狭まっており、さざ波一つない。宿のあるあたりまではノールダルス・フィヨルドと呼ばれるが、それより奥はタ・フィヨルドと呼ばれる。
ここはフューラ(Fjøra)という村で、ミェーフェル山へはここから上る。
フィヨルドは山を氷河が削ってできたU字谷に海の水が入ったもので、上の写真を見ても分かるように、水辺を離れれば即、上りとなる。その上りは大抵強烈だ。
急勾配の道をえっちらおっちらと上って行くと、フィヨルドに遠近感が出てくる。
タ・フィヨルドは、フューラで135°曲がってさらに奥に続いていく。
道は徐々に高度を上げていく。10%以上の激坂が続いてハヒハヒだ。
そのハヒハヒの度合いに応じて景色が良くなるから、なかなかハヒハヒを止められない。
昨日、有名な『トロールの梯子』というZ坂の連続のような坂を上ったが、実はフィヨルドにはああした坂道は結構ある。
ここも対岸に道があれば、そこからここはそんな風に見えるだろう。
えっこらよっこら、えっこらよっこらと上って行き、標高350mほどになると視界が開けた。
南東には緩いカーブを描いて奥へ延びて行くタ・フィヨルドが見え(TOP写真)、西にはより伸びやかなノールダルス・フィヨルドが見える。
『わお〜、ここはきれいね〜。朝練に来た甲斐があったね。』 と、サリーナ。
実はサリーナは、ここへ来るか、宿でゴロゴロしているか迷っていたのだった。
ミェーフェル山山頂へはここからさらに徒歩で上って行くのだが、それはもういい。私たちはこの景色で充分満足だ。何と言ったって今日は午後の部もあるのだから、ここで無理をするわけにはいかない。
道は民家に突き当たっておしまいとなるので、やってきた道を引き返す。
帰りもフィヨルドを眺めながら、のんびりヴァルダールの宿に戻った。
11時、荷物を纏めて今度はガイランゲルに出発だ。このルートは、昨日ヴァルダールから始めた絶景ルート "the Golden Route" の続きだ。
宿のあるエリアにはノールダルス・フィヨルドに遊歩道があって快適だ。
こうやって見ると、ノールダルス・フィヨルドとタ・フィヨルドの幅の違いや、織りなす風景の違いを実感する。フィヨルドは奥に行けば行くほど景色が良くなるというが、それはここにも当てはまる事実だ。
宿の前のゾーンからRv63に出てリンゲ(Linge)へ向かう。
かつてはヴァルダールからガイランゲルまでフェリーがあったのだが、この航路は今はなくなったので、リンゲからエイズダル(Eidsdal)に渡って、そのあとは陸路だ。
11:20にリンゲのフェリー乗場に着くと、すでにフェリーは接岸しており車が乗り込んでいる。私たちが乗り込むと同時に、このフェリーは出航した。
自転車は折り畳まないでそのまま乗り込める。片道10分の航海で500円。自転車は無料だ。
フェリーからノールダルス・フィヨルドの奥を見てみると、一隻のフェリーが見える。
あのフェリーのちょうどうしろあたりが、今朝までいたヴァルダールだ。
10分の航海はあっという間だ。景色をゆっくり見る間もなくエイズダルに到着。
エイズダルは小さいけれど街で、カフェがありスーパーマーケットもある。
ここで休憩をとも考えたのだが、まだ疲れていないので少し走ってからにする。
エイズダルから道はフィヨルドに直行して延びている。
つまりここからはU字谷コースとなる。
その谷底には川が流れる。これからしばらく私たちの旅の供をしてくれるのはこの川だ。
フェリー乗場を出るとすぐにこんな景色になる。緑の谷だ。
下の方の谷は広く、空間に広がりを感じる。うしろに見える山はフィヨルドの向こう側のもの。
道は穏やかに上っていく。勾配はずっと5%で気持ち良く上れる範囲だ。これは中間点にある湖まで変わらない。氷河というのは精密な造形をするものだ。
先に雪が残る岩山が見えてきた。おそらくあれは1,528mのトゥレティナニッバ(Tretindanibba)だろう。
そして谷間から平らな頭を出しているのは、1,629mのエイズフーナ(Eidshornet)か。
エイズフーナのhornetは英語のhornのことだ。マッターホルンのホルンである。Eidsは何だろう。フェリーが着いたところもEidsだったから、このあたりの土地の名なのかもしれない。
エイズフーナから手前に延びてくる斜面は、きれいなくらい真っすぐだ。
ここは谷が広がっていて、周囲には牧草地が見られる。
いつの間にか青空が広がっている。
こうなると北国のノルウェイでも暑い。サイダーは半袖になっている。
この谷ではここまであまり意識できなかったのだが、ここに来て氷河に由来するU字が見えてきた。
そこにはエイズ湖(Eidsvatnet)があり、その向こう側にあのエイズフーナが聳えている。湖の名もEidsなのに気付く。
この湖の畔にはトイレとテーブルがあるので、ここでお昼にする。こんな景色を見ながらのランチは最高だ。近くでは家族連れがドローンを飛ばして遊んでいる。実物のドローンは初めて見た。
道はエイズ湖の畔を進んで行く。
先にはV字谷が見える。この先は急に谷が狭まっている。
エイズ湖の周りには民家がパラパラと建っていて、芝生のような緑の牧草と赤い外壁の対比がきれいだ。
エイズフーナが手が届きそうなところまでやってきた。
それにしてもこの斜面、見事なほど真っすぐに氷河は削ってくれたものだ。
エイズ湖の周囲はフラットだったが、また上りになった。しかし勾配は穏やかだ。
道に沿って小川が流れている。そこに、山の斜面に沿ってたくさん細い川が流れ落ちている。
V字谷に入った。前も後ろも、両側とも切り立った岩だ。
その岩の間を上って行くとトンネルが現れた。このトンネルには迂回路がある。たぶんこちらが旧道なのだろう。ご覧のような砂利道だ。
このトンネルがピークかと思ったが、そうではなかった。トンネルの先も上りは続いていた。
しかしこの先はそう長くはない。1.5kmほどで視界が開き、ずっと先の山が見え出した。あの山はフィヨルドの向こう側のものだ。左手に大きな駐車場が現れた。あそこがピークだ。
駐車場の先は急に落ち込んだ谷で、ガイランゲル・フィヨルドがちょっと見える。
そこには大型客船が浮かんでいる。さすがに人気のガイランゲル・フィヨルド、世界遺産だ。
フィヨルドの色はターコイズ・ブルー。
ここから待望の下りが始まる。しかし考えてみれば今通ってきた道は、ピークの位置が極端にガイランゲル・フィヨルド側に偏っている。何せガイランゲル・フィヨルドはほとんどこの真下にあるのだから。
ガイランゲル・フィヨルド側の道は、『鷲の道(Ørnesvingen)』と呼ばれ、11のヘアピンカーブが連続する。
『鷲の道』を下り出すとすぐ、次のカーブのところにたくさん車が止まっている。そこには『鷲の曲がり角』(Ørnesvingen)という名の展望台がある。
展望台からはガイランゲル・フィヨルドの末端と、
『
『七姉妹の滝』方面のガイランゲル・フィヨルドが一望にできる。
このフィヨルドにはたくさん滝が流れ落ちているが、『七姉妹の滝』はその中でもっとも美しく、またもっとも有名なものだ。
フィヨルドの末端にあるのはガイランゲルという名の小さな村だ。有名なフィヨルドの村としては、想像より遥かに小規模だ。だがそこにはひっきりなしに大型客船がやってきて、またそこを発着する観光船もたくさんある。
この周辺の山はみんな標高1,500mクラスだ。小さなフィヨルドの周りに、よくこれだけ山が並んだものだ。
展望台から眺望を楽しんだら『鷲の道』を下る。
道幅は狭く、時にはバスも上がってくるから用心しなければならない。
ぐわ〜ん、ぐわ〜んと下って、
ドーッとガイランゲル・フィヨルドに落っこちていく。
落っこちるにつれ、フィヨルドは微妙に姿を変えていく。
フィヨルドまで下ってきた。その畔から『鷲の道』を見上げる。
下から見ると、ジグザグを繰り返しながら上って行く道がはっきり見える。これは確かに、見る者にアピールする絵だ。
ちなみに『鷲の道』の名は、かつてここにたくさん鷲が生息していたことに由来するという。
ガイランゲルの中心部に辿り着いた。港の周りに観光施設がたくさん並んでいる。オスロを出てからは、こんなにたくさんの観光客を見るのは初めてだ。
ここで明日のクルーズ船の予約をした。
ガイランゲルの私たちの宿はフィヨルドの対岸にあるキャンプ場だ。
このキャンプ場があるのは正確にはホムロン(Homlong)という場所のようで、ガイランゲルからそこまでの道は、細かい砂利敷きだ。
私たちはキャンプ場でキャンプはせず、コテージに宿泊する。
1号室、写真の一番手前の部屋で、部屋に冷蔵庫、バルコニーに電気コンロが付いている。水廻りは共同だが、清潔で問題ない。シャワーは有料だが不思議なことに洗濯機と乾燥機は無料。とにかく洗濯機と乾燥機があることはありがたい。全体になかなか快適な施設だ。
充分に食事を作れる設備が整っていることがわかったので、ガイランゲルに戻って食材を買い込む。サーモン、味付きポーク、フィッシュケーキ(かまぼこみたいなもの)、玉ねぎ、サラダ用野菜、野菜スープの元、ビールなどを仕入れた。
そして今宵のメニューは、野菜スープ、サラダ(レタス、ルッコラ、玉ねぎ、オリーブ)、メインはポークと玉ねぎの合わせ炒めフィッシュケーキ添え、それれにパン。もちろんビールと食後のコーヒー付きだ。レストランでこれをオーダーすると、軽く8,000円以上になるだろう。
夜のガイランゲル・フィヨルドは大型客船がいなくなり、静寂そのもの。昼間とはまったく異なる姿を見せていた。
さて、明日は自転車休養日。ガイランゲル・フィヨルドをクルーズし、ちょっとしたハイキングをする。