昨日、風光明媚ながらもアップダウンと強風のソグネ山岳道路(Sognefjellsvegen)でかなりのダメージを受けた私たちだが、今日は久しぶりの休養日。
ここはソグネフィヨルド(Sognefjorden)の最深部になるルストラフィヨルド(Lustrafjorden)のショルデン(Skjolden)から3kmほどのところにあるキャンプ場で、目の前には素晴らしいフューリアス滝(Fureasfossen )が流れ落ちている。この滝の名はかつてあった『松の丘』を意味する農場から来ているらしい。
朝起きると、その滝が見えないほどけぶっていたが、時間が経つにつれ雲の向こうに白い流れが見てくる。
さて、今日はどうしようか。食材はちょっとはあるが、ビールが切れているのでショルデンまで行って補給するつもりだ。ついでにその近くの滝へ行ってみることにする。
今朝方は雨で、朝食後それが止むのを待っていたが、どうやらなんとか上がったようだ。天気予報ではこれからは曇りなので、出かけることにする。私たちが旅するノルウェイの地方の天気は概してあんまり良くないので、雨が降らなければ良しとする。
弁当を準備し外に出ると、滝の下にうごめくものが。昨日はいなかった数頭の牛が草を食んでいる。黒いのと茶色のと。両方とも毛むくじゃらだ。寒い地方特有の種なのか、これとほとんど同じ牛を去年、スコットランドで見掛けた。がっしり体型で短足だ。
雲とも靄ともつかぬ白いものが立ちこめる中を出発。
ショルデンまで、道はフォートゥンダル川(Fortundalselva)に沿って下って行く。
すぐにこの川は広がり、アイズ湖(Eidsvatnet)となる。
向かい岸には民家がパラパラと建っているのが見える。そろそろショルデンのようだ。
道が右にカーブすると、先ほどまで右手にあった山が正面に移動し、アイズ湖が急速に狭くなってくる。
アイズ湖のすぐ先はルストラフィヨルドだ。
アイズ湖とこのルストラフィヨルドの間の短い区間を流れるのは、アイズ川(Eidselvi)。
アイズ川はRv55の橋の先に架かる歩行者専用橋のすぐ先で、ルストラフィヨルドに流れ込む。
そうそう、景観ルートのソグネ山岳道路はこの先も続き、ルストラフィヨルドの北岸を進んでガウプン(Gaupen)までを指すようだ。
このあたりがショルデンの中心部で、白い建物がたくさん並んでいる。
この旅の走り始めのドンボス(Dombås)周辺の民家の外壁はほとんどが赤茶色だったが、ここは白。土地柄とはどこにでもあるものだ。
この建物はそうした中でも伝統的な造りのようで、ポーチの装飾が特徴的だ。
こうした建物は明日の宿泊地のラールダール(Lærdal)の中心部に多く残っている。
さて、これがルストラフィヨルドだ。ここはソグネフィヨルドの奥の奥で、大西洋から200km以上奥まっている。幅は極めて狭く、このあたりは1kmほどしかない。これが海だと言われても、にわかには信じ難い。
何より、水がしょっぱくないのだ。フィヨルドは氷河が削った谷に海の水が入ったものだ。だから本来その水はしょっぱいはずだ。ところが実際はしょっぱくない。推測だがこの理由は、フィヨルドにはそこら中から川が流れ込んでおり、これが塩を薄めてしまって、ほとんど淡水化したためだと思われる。
ショルデンでルストラフィヨルドを眺めたら、今日の目的地のボーリ滝(Bølifossen)へ向かう。
ボーリ滝は、メリクリ川(Mørkridselvi)を遡ったメリクリ谷(Mørkridsdalen)の奥にある。
ショルデンからメリクリ谷に延びる道は、メリクリ川に沿うFv333と、それから少し山側に行ったところにあるカントリーロードの二本がある。
私たちは行きはFv333、帰りにカントリーロードを通ることにした。
メリクリ川は河口付近で大きく蛇行していて、Fv333は川に着いたり離れたりしながら、谷奥へ進んで行く。
道の脇には農家が並び、狭いながらも牧草地が作られている。
三度目にメリクリ川に出会うと、そこは川底が浅いのか、川面がざわついている。
ここで道はメリクリ川を離れ上り出し、うしろにはルストラフィヨルドが見えるようになる。
この上りが納まると、Fv333とカントリーロードが合流し、メリクリ谷の奥へと入っていく。
山と谷は広がったり狭まったりを繰り返すものだ。
ここは谷が少し広いようで、先ほどまでは猫の額くらいしかなかった牧草地が、大きく左右に広がっている。
その中を行くサリーナは、
『今日はきつい上りもないし、距離も短いから、らくちんね〜』 と、軽くペダルを回している。
先に見えていた山が近付いてきて、谷がぐっと狭まっているのが見えるようになる。
その谷間に入ったかと思うと、垂れ込める雲の先に滝が落ちているのが見え出す。
ごく穏やかな上り道で、その滝に近付いていく。
滝は二つの山の間から落ちてきている。ドリヴァンヌ滝(Drivandefossen)だ。Drivandeは英語のDriveを意味するようだが、なぜこの滝がこう呼ばれるのかはわからない。ここから見えるのは高さ50mほどだが、頂部まで入れると650mもの落差があるという。
『あの滝が今日の目的地かなぁ〜』 とサリーナ。
『いやいや、これは手前の滝みたいだよ。ボーリ滝は山の中で、そこまではハイキングしないと見られないらしいよ。』 と、サイダー。
ここでメリクリ川を眺めると、川面はざわめき、白っぽく濁った翡翠色をしている。この色は氷河から流れ出した川で良く見られるものだ。この谷の上には氷河があるに違いない。
うしろにブレハイメン山脈が控えるこの一帯は、ブレハイメン国立公園(Breheimen nasjonalpark)で、その中には少なくとも三つの氷河が流れている。
滝からさらに谷奥へ向かうと、いつの間にか道は砂利道になった。
しかもここから斜度がきつくなる。
ここで自転車で下ってきたカップルとすれ違った。
この道はこの先で行き止まりになるので、彼らも私たち同様、滝を見に行ったのかもしれない。彼らはここまでこの道で見掛けた、唯一の観光客だ。
ショルデンから舗装路で6km、その後砂利道を3kmほど行くと、道はなくなり、小さな駐車スペースが現れる。フーヌヴォルン(Hødnevollen)に到着したのだ。
ここにはハイキングルートの案内板と、その先にそれらの方向を示す標識があるだけで、あとは何にもない。
谷はぐっと狭まっている。その中にあのメリクリ川が、ほとんど滝のようになって流れ落ちている。
ここからいよいよハイク開始だ。
足元にはヘザーが生えている。
この植物はツツジ科のカルーナ属。カルーナ属の種はヘザー(ギョリュウモドキ、カルーナ・ブルガリスとも)一種のみで、これはノルウェイの国花になっている。
そして横を見れば、険しい岩山が迫っている。
その岩山の一部が崩落したらしく、下の方には瓦礫が積み重なっている。
この瓦礫の上には苔が生えており、ここしばらくは新たな崩落がないようなので、慎重に瓦礫の上を進んで行く。
ノルウェイは寒い国なので、花は夏に一気に咲く。だから今、ノルウェイは花盛りだ。
名前はわからないけれど、かわいらしい花を見つけた。
これは苔の一種だろうか。瑞々しい黄緑がとてもきれいだ。
さて、歩を先へ進めよう。
土の道が終わって、足元は岩が敷き詰められた遊歩道に変わる。
道脇のメリクリ川の流れは、ますます激しさを増している。
道を小さな流れが横切っている。その流れを作っているのは、こんな小さな滝だ。
この流れの横で、奇妙な物を発見。
最初はなんだかよく分からなかったが、それは巨大なナメクジだった。殻を付けたらかわいらしいカタツムリになるのに、ナメクジって損な生き物ですね。でも、これに殻を付けても、やっぱり不気味かも。。
次第に道は川を離れていく。さっきまですぐ横を流れていたメリクリ川がずいぶん下に見えるようになってきた。
このあと道は木々に閉ざされるようになり、周囲の視界がなくなる。そしてずっと険しい上りとなっていく。今朝方の雨で足場は悪く、これ以降の写真はなし。
フーヌヴォルンから一時間ほど歩いたが、道はますます険しさを増すばかりで、視界も開かない。地図で確認すると滝はあさっての方角にある。道、間違えたかも。。仮にこの道がボーリ滝まで続いているとしても、まだ滝までの半分ほどしか歩いていないことになる。実はここは、滝の位置も、そこまでのルートもあまり確かではなかったのだ。
道は上へ続いているし、しっかり先人の足跡も残っているから、この道が某かのハイキングルートであることは確かだ。しかしここで、空からパラパラと雨粒が落ちてきた。ここいら辺が引き返し時だろう。
なんとか弁当が食べられそうな岩場を見つけてよじ登り、急いでサンドイッチにありつく。幸い雨は大したことはなく、天井を覆う木々のおかげで、濡れずに済んだ。
弁当を食べ終わったら、そそくさと下りに入る。下りはなんだかんだ言っても、やっぱり速い。
あっという間にメリクリ川まで戻ってきた。そして、そこからは道も穏やかになるので、のんびり行く。
フーヌヴォルンの上り口まで下りてきた。そしたらここで、昨夜キッチンで一緒だったフランス人の家族が上ってきた。このハイキングルートで出会った初めての人々が彼らだったので、ちょっとびっくり。
このフランス人たちと挨拶を交わし、フーヌヴォルンを後にする。
帰りは下りなので地道でもらくちんだ。
上りは長く感じられた地道もすぐに終わり、舗装路になった。
ここでボーリ滝に行けなかった代わりにドリヴァンヌ滝の散策に向かうという選択肢もあったのだが、今日はもう心が帰り支度をしてしまっているので、これはすんなりパスすることに。
その後道は二手に分れる。ここは山側のカントリーロードに入る。
すると、これまで下りだった道は上り出し。ちょっとギコギコしなければならない。
ググッーと斜度が上がると、右手にルストラフィヨルドが見え出した。
天気のせいもあるけれど、このフィヨルドには観光船もなく、ひっそりとした感じがなかなか良い。
この上りのあとはショルデンまで下りだ。ショルデンの中心部にあるスーパーマーケットでビールを仕入れ、宿へ向かう。
ショルデンから宿までは僅かながら、ずっと上りだ。
道脇にフォートゥンダル川が出てきて、その先に宿の前に落ちているフューリアス滝が見え出した。
我らがあの滝は、こうして見ても、なかなか見応えがある。
連泊すると、宿が我が家のように感じられて、『ああ、帰ってきたな。』という気分になれるのがいい。
ああ、帰ってきた。
今日はボーリ滝には辿り着けなかったけれど、そこへ向かうまでのメリクリ川沿いはきれいで、サイクリングもハイキングもなかなか良かったので、良しとしよう。
シャワーを浴び、一休みしたら夕食だ。今宵は、豆と白身魚のスープ、トマトソースのハンバーグ、サラダ、ねじりんぼうのパスタ、茹でトウモロコシだ。トマトソースは昨日の失敗をふまえ、独自にアレンジ。玉ねぎやオリーブを加えたら、俄然うまくなった。
ここに、滝を見に行っていたフランス人家族がやってきて、またニンジンをポリポリやっている。彼らはよほどニンジンが好きなようだ。
さて、明日はルストラフィヨルドを下り、世界遺産のウルネス・スターヴ教会(Urnes stavkyrkje)を見学して、ソグネフィヨルドの奥にあるラールダールへ行く。