020 テレマン/パリ四重奏曲集/有田正広+トウキョウ・バロック・トリオ

アルバムの写真テレマン(1681-1767)は言わずと知れた、ドイツのバロックの大家です。 現在では同時代のバッハやヘンデルがあまりに有名すぎて、少々その影に隠れがちですが、当時はこの両名を凌ぐ人気があったようです。 その作風はこのどちらとも大きく違います。 元気で、伸びやかで堂々としていて、堅苦しいところが全然なくて、とても楽しい。

僕は休日の昼下がりに、ちょっと白ワインでも飲みながらテレマンを聴きたいと思うだろう。 それで、彼のなにを取ろう。 やっぱり『ターフェルムジーク』かな。 でも、ここではその代表作ではなくて、もっと編成のちいさなこれにしよう。 最近時流の演奏だと、ちょっとモーゼルは似合わない。 もっと辛口のフランケンあたりかな。

このレコードについて

パリ四重奏曲集というのは実は新旧の2つの版があって、どちらも、フルート、ヴァイオリン、ガンバ、通奏低音という編成によるものだけれど、これは新しい出版のほうの6曲。 

有田正広はもはや日本を代表するフルート・トラヴェルソ奏者というのでは足りないでしょう。 世界的な奏者となりました。 ちなみにフルート・トラヴェルソというのは横笛のことで、今でいうフルートのことです。 なぜフルートと言わず、フルート・トラヴェルソと言うかというと、当時フルートと言えば『たて笛』、つまりリコーダーのことを指したからで、特別にトラヴェルソ(横の)と呼ぶことでリコーダーと取り違えないようにしたのです。 もちろん、ここでは現代の金属製でキーのたくさん付いたフルートではなく、古楽器が使われています。 現代のフルートでは出せない柔らかな、そして伸びやかな音が楽しめるでしょう。

トウキョウ・バロック・トリオは有田より一世代若い3人のメンバーからなり、同時期にオランダやベルギーに学んでいる。 ヴァイオリンとガンバは日本人、チェンバロはフランス人。 こちらも古楽器によります。 ヴァイオリンの音とフレージングに注目してみてください。 当時のヴァイオリンは現在のそれと若干形状が異なり、その違いからフレージングも現代の弾き方とは異なるものとなります。

有田の演奏は時にややメリハリに欠けることもあるけれど、周りが若いからか、ここでは活き活きとした演奏です。 そしてトウキョウ・バロック・トリオのほうは、あのやっぱりオランダ系の切れ込みの鋭い演奏をする。 有田がいるためかそれが行き過ぎないものとなって、好演だ。

レーベル:Aliare

実はここにこの演奏を取り上げたのには『裏』がある。
本当は、別のものを考えていた。
けれど、つい、魔がさした。
トウキョウ・バロック・トリオのうちの一人を僕は、良くとはいえないけれど、ある程度知っている。

高校生だった。
『その人』は僕の通った高校からそんなに離れていない、同じ市内の別の高校に通っていた。
当時僕は、『その人』と同じ高校へ通うある人と親しくしていた。
そのある人は僕が音楽に入れ込んでいたのを知っていたからか、同級だった『その人』を紹介してくれた。

当時『その人』は今とは別の楽器をやっていた。 そう、驚くほどにはうまくなかったかな。
ある時、『その人』は言った。 『体育学部にゆくか音楽をやるか悩んでいる…』 って。
当時『その人』は、確か、ソフトボール部に入っていたと思う。 体格もすばらしいものがあり、確かに体育学部も相応しいように思えた。
今となっては笑える話しだけれど、『その人』は本気で悩んでいたようだ。
僕は古楽が好きだったから、『古楽器なんかどお〜』って言った。
暫くして、会うと『決めた、音楽やることに。』 ってことだった。
聞けば新たに古楽器をはじめたと言う。
もちろんこれは、僕がなんか言ったこととは関係ないだろう。 でも僕は、少し嬉しかった。

それから暫くして、『その人』が音楽大学へ進んだことを知った。
すでに僕は、『その人』が古楽の道を歩んでいることを知っていた。
『その人』の先生の演奏を僕は好きだったから、時々演奏会へ出かけていったし、
当時僕は、とある音楽事務所に出入りしていて、半ばそこのスタッフのようになっていて、『その人』の先生のコンサートを企画したりもした。
そんなところでたまに『その人』に出会うこともあった。

ある時、里帰りした故郷の駅前で、ばったり『その人』に出会った。
ずいぶん大人びていたように思う。
僕は茶化した。
『おいおい、あんまり日本の古楽のレベルを落とさないでくれよ!』
『その人』は相変わらず気の強い口調で 『フン失礼な! 今度○○さんと競演することになったよ、来てね!』
僕はその演奏会には行けなかった。
そうこうするうちに、『その人』は海外に留学してしまった。

あれから何年が経ったのだろう。
僕はいまだに『その人』の演奏を聴いていない。

そう、だからせめてCDでも聴いて『その人』にエールを送ることにする。

< 前へ サイダーの音楽遍歴 TOP 次へ >
その他 TOP GEO POTTERING home
GEO POTTERING trademark

GEO POTTERING
uploaded:2004