ここは鄙びた温泉保養地のサンディエゴ・デ・ロス・バニョス(San Diego de los Baños)です。
昨日、泊まったホテルのプールサイドのDJの一人フアン・カルロスが、温泉は是非入った方が良いと進めてくれたので行ってみることにしました。ここでは温泉のことをバルネラリオ( Balnerario)と呼ぶようです。それは朝の8時からと聞いたように思うので、8時にホテルを出発。バルネラリオは私たちが泊まったホテルのすぐ横にありました。
白っぽいコンクリートの建物の入口には、お客さんらしいおばあさんたちや白衣のおばさんたちがいました。しかしオープンは8時半だったのでしばらく受付が開くのを待ちます。
その間、横に流れているサンディエゴ川の岸辺をちょとだけ散歩。
8時半になったのでバルネラリオに戻りましたが、まだ受付は開いていないようなのでラウンジでくつろぎます。
ようやく受付が開いたので行ってみると、『入浴に加えてマッサージもありますが、どうしますか?』と聞かれ、朝からマッサージすると走れないよなあ、と入浴だけにすることにした。
個室のお風呂はこんな感じ。体温と同じくらいのぬるいお湯に20分浸かります。西洋文化圏の温泉施設は基本的には医学的な治療や療養を主な目的とするので、医療専門家などの資格者の指導下で入浴するのが原則です。こうした理由から、日本のような温泉気分を味わうことはかなりむずかしいのです。
個室以外に集団入浴場もありますが、そちらの浴槽はプールのような作りで、当然水着着用です。個室にしてもプールにしても、日本の温泉に慣れている身としては、やっぱりちょっと盛り上がりに欠けますね。でもどちらかといえば空間が広いプールの方が良かったかも。
温泉は一応の体験として良かったということにして、いざ、身支度を整えて出発です。
今日は田舎の小さな村ソロア(Soroa)まで、およそ60kmの旅。
ここで出発の準備をしている間に3組のサイクリストと出会いました。
『やあやあ、君たちの自転車のタイヤ、ずいぶんちっちゃいね〜 今日はどこまで行くんだい?』
『ちっちゃいタイヤでもちゃんと走れますよ。今日はソロアまで行きます。』
『え、これからソロアに行くの? それは大変だねえ… 私たちは逆方向でビニャーレスへ向かうからいいんだけれどね。』
そうなのです。ここのところ風向きはずっと北東からで、私たちのコースは向い風なのでした。
3組の中には何とBirdyのカップルも! 彼らはニュージーランドから来たんだって。
彼らもビニャーレスまでだそうです。しかし交差する行程なのでお互い泊まった宿のアドレスなど、情報交換しました。
サンディエゴ・デ・ロス・バニョスは小さな街ですが、温泉保養地だけありホテルが数軒あります。
メインロードに立つのはホテル・リベルタード(Hotel Libertad)で、この周辺には人溜まりができています。
サンディエゴ・デ・ロス・バニョスはグアニグアニコ山脈(La Cordillera de Guaniguanico)の南麓にある街で、昨日はこの山脈内を走ったのでかなりアップダウンがありました。目指すソロアも同山脈の南麓にあるので、今日は山脈には入らずに南側の平地を行きます。ということで今日はほとんどアップダウンはなし。
サンディエゴ・デ・ロス・バニョスの街を出るとすぐに、うしろにグアニグアニコ山脈が見え出します。そして道の周囲には民家がパラパラ。それ以外はほとんど何もなくなります。写真は街を出て5分の景色。このあたりは大いなる田舎です。
エントロンケ・サンディエゴ(Entronque San Diego)までは一般道のカレテーラ・ア・サン・ディエゴ(Carretera a San Diego)を行きます。
これはご覧のとおりののんびり道で、見掛けるのは僅かな馬車や自転車で、車はほとんど走っていません。
エントロンケ・サンディエゴから進路を東にとりカレテーラ・セントラル(Carretera Central)に入ると、道脇はサトウキビ畑になりました。
サトウキビはタバコとともにキューバの農業の主力品目です。
畑の向こうに見えるのはグアニグアニコ山脈。昨日はあの中を走っていたので結構大変でしたが、今日はあそこに向かうのは最後の最後なので問題ないはずです。しかしこの冬のキューバは北東の風で、これがきつい。
今日はあの山脈とはこれくらいの距離を保ったまま、ほぼ平行に東へ移動します。このあたりではどこにでも生えているヤシの木は南国の象徴ですね。
一年中暖かい地方では、多くの植物が手をかけなくとも実ってくれるので、あまり仕事をしなくともなんとか食べていけます。これが、一年のうちの大半が雪に閉ざされるような地方だとそうはいかず、みんなで協力して働かないと飢え死にしてしまいます。だから社会主義的な国は寒い地域に多いのだと思いますが、キューバが社会主義になったのはこれとは異なる理由ですね。
キューバは日本と比べると川はかなり少ないように思います。
ここでめずらしくきれいなこんな小川を渡りました。
キューバではハバナを別にすれば車はほとんど走っていません。しかし、ハバナからビニャーレスに移動するまでに、そしてそこからもこんなふうに満杯の人を乗せたトラックを時々見掛けました。よく見ればこのトラックには自転車を積み込んでいる方もいます。これはトラックですが、機能としてはバスなのだと思います。
村の交差点には、乗せてくれるトラックが通るのを辛抱強く待つ人たちが何人もいます。たまに通勤姿の人もいるのですが、ちゃんと定時に着けるのかな?
"Hasta la Victoria siempre" 『勝利まで永遠に』
チェ・ゲバラが残したもっとも有名な言葉とその肖像が描かれたトイレ。今でもキューバの人たちにとってチェは英雄なのですね。
カレテーラ・セントラルは中央道または中央自動車道というような意味なので、これまでより少しは交通量があるのかと思いましたが、これは全然。せいぜい農作業用の大きなトラクターが通るくらいでした。(笑)
平野部でさしたる街もないため、道は直線基調。アップダウンといえば、せいぜい写真の程度です。
横には例のグアニグアニコ山脈が走っているのですが、それもいつも見えるわけではなし、見えたにせよそこに並ぶ山々はあまり特徴がないなので、少々飽きてきました。
私たちがこの旅で参考にしたロンリープラネットのガイドブックでは、この南を通る高速道路(Autopista Habana-Pinar del Río)をコースに取り入れているようなので、私たちもここでその道にシフトしてみることにしました。
カレテーラ・セントラルからその高速道路まではこんな地道です。
日本では高速道路と言うと自動車専用道路を指すことが多いですが、ここは自動車専用というわけではなく、まさに高速で走れる道という意味なのでしょう。ただただまっすぐな広い道が続いています。
キューバでは車はとても少ないのでこの高速道路を走る車も滅多になく、自転車をちらほら見かける程度です。
この道、途中に村もなく、周囲に樹木もないため強い向い風です。レース志向の走り屋には楽しい道かもしれませんが、のんびり旅が好きな私たちは、すぐに疲れて飽きてしまいました。
『このアウトピスタはつまらないからさっきの道に戻ろう!』 と、高速道路とカレテーラ・セントラルが交差するところで乗り換えようとしますが、その方法がわからずいったん地道に出てから土手をよじ登りました。
向い風の上に単調で日陰がなく暑い高速道路を走ってきたサリーナはハンガーノック体質もあり、へろへろで道端にへたり込みました。(TOP写真)
もう1時を過ぎています。このあたりで食事をしないと倒れそうです。カレテーラ・セントラルには小さな村がいくつか並んでいるようなので、レストランを探しながら進むことにします。
しかし例によって村は小さくすぐに通り抜けてしまい、見掛けるのはこの写真のススキのような植物の畑ばかりになります。実はこの植物はサトウキビで、ススキの穂のように見えるものがその花です。
少し大きめの村サン・クリストバルまで何とかたどり着き、見つけたカフェでとりあえず喉を潤しました
ところがこのカフェでは食事はできないようなのでレストランを探して街中をうろうろ。これが意外と見つかりません。街角で出会った学生さんにレストランはないか聞いてみると、住宅地の一角にあるレストランまで連れて行ってくれ、ようやくお昼にありつきました。あ〜助かった。
サン・クリストバルを出たのは3時半で、まだまだ暑いです。
今日の終着地のソロアまではあと15kmほどですが、それはあのグアニグアニコ山脈に入ったすぐのところです。
『今日は最後にあの山を上らなくちゃんらないのね。あんまりきつくないといいけど〜』 と、グアニグアニコ山脈を眺めてつぶやくサリーナ。
カンデラリア(Candelaria)で北に折れカレテーラ・カンデラリア・ソロア(Carretera Candelaria Soroa)に入ってしばらく行くと、いよいよグアニグアニコ山脈に差し掛かったようで上りになります。しかしここまで来ればソロアはもうすぐです。
その時、『やあ。どこまで行くの?』と声をかけてきたのは、かっこいいサイクリストのラザロ。
しばらく一緒に走っていろいろおしゃべりしているうちに冗談半分で、『ブエルタ・ア・クーバ(キューバ最高の自転車レース)に出るの?』と聞けば、『そう、良く知っているね。出るんだよ。』と。どうやら彼は本物のトップアスリートらしいです。
そうこうしているいるうちに上りがきつくなり、ラザロとサイダーが先行、サリーナはよろよろと超低速でそのあとに続きますが、
『も、もうだめ〜』
ということで、ラザロにこのあたりの民宿を紹介してもらいました。
着いた民宿でもしばらくおしゃべりは続き、自転車談議で大いに盛り上がったのでした。
『私はチッポリーナ!』
『わしはレモンだぜ!』
『僕はクライマーでTTも得意。カセロが好きだな〜』
彼はブエルタ・ア・クーバに出るようなアスリートですが、キューバではヘルメットを手に入れるのも難しいみたいです。そんなわけで、サイダーは旅が終わったらヘルメットを彼にプレゼントすることにしました。そのヘルメットにジオポタシールを貼って、ブエルタ・ア・クーバで優勝するんだ〜! ということで彼もジオポタ・メンバー(強制加入)となったのでした。
ソロアは自然保護区で、熱帯の森林や川・滝といったものが素敵なところですが、街というほどのものはなく、民家がパラパラと立つだけでレストランはありません。
というわけで、夕食は民宿でいただきます。サラダにスープ、そして鶏と、これは民宿ででてくる一般的なメニューです。
この料理を作ってくれたのはマイテさん。いかにもキューバの方という雰囲気の素敵な方です。
今日は高速道路で向かい風があったものの、平坦コースでまずまずらくちんでした。明日はグアニグアニコ山脈の中を走ってメキシコ湾に出、プラヤ・バラコア(Playa Baracoa)まで行きます。山岳コースで距離も少々長くなります。無事に辿り着けるかな〜