ダーレン(Dalen)の静かな朝。周囲はまだ朝靄に包まれています。
この民宿は「アウルラン・アップル・ファーム」という名前なので、この周囲の畑に植えられているのはリンゴの若木なのでしょう。
キッチンで朝ご飯とランチパックをつくり、9時過ぎにいざ出発。
今日は、アウルラン(Aurland)から7km先のフィヨルドの先端の町フロム(Flåm)まで走り、そこから鉄道に乗ります。
まず3km離れたアウルランに向かいます。
朝もやが少しずつ晴れて、青空が広がってきました。
アウルラン川を渡り、フィヨルド沿いに南東へ。
フィヨルドの対岸は1,400m前後の山並みが続き、ところどころで川が滝のようになってフィヨルドに流れ込んでいます。
そんな景色を楽しみながらE16を進んでいくと、
前方にフィヨルドの先端が見えてきました。
「あそこがフロムだね」とサリーナ。
フロムの3kmほど手前から、フィヨルドに沿って車道と分離された自転車歩行者道が現れました。
「これは快適〜」とサイダー。
フロムはフィヨルドクルーズの出発点、そしてフロム鉄道(Flåmsbana)の出発点として、観光客でにぎわっています。
豪華客船も停泊中。これはクイーン・エリザベス号でした。
そして、10時過ぎにフロム鉄道の始発駅に到着。
右手に1両の客車が見えますが、私たちの列車は11:05発でまだ入線していないので、隣にあるミュージアムに行ってみました。
フロム鉄道は、オスロ〜ベルゲン間を走るベルゲン鉄道とアウルランフィヨルドを結ぶ路線で、ミュルダール(Myrdal)からフロムまでの20kmを約1時間かけて走ります。
1923年に着工し、開通したのは1940年。トンネルのほとんどは手掘りだそうで、こんなつるはしで掘ったんですね。
これはレトロな車両ですね。
「かわいい〜」と大喜びのサリーナ。
そして、保線点検用の足漕ぎトロッコ。線路を走る自転車です。
その隣には、エンジンのついたオートバイ型もありました。
結構面白くて夢中で見ているうちに、いつの間にか私たちの列車が入線していました。
あわてて自転車を持ってうろうろしていると、係の人が「裏側だよ」と教えてくれました。
自転車は、客車の最後尾車両に反対側からスロープで係の人が乗せてくれました。
他にも大きなマウンテンバイクが積まれています。
座席指定はなく自由席で、とりあえず座ってほっと一息。車両の内部は木を使った暖かみのあるインテリアです。
列車は11:05、時間通りに静かにフロム駅を出発しました。
フロム鉄道は、フロム川の流れるフロム渓谷に沿って少しずつ高度を上げていきます。
オールド・フロムの村、そしていくつもの滝を通り過ぎます。
フロム駅から20分ほどで、ベレークヴァム(Berekvam)という駅に着きました。
駅員さんが降りたので「どうしたのかな」と思っていると、対向列車がやってきました。フロム鉄道はここだけ複線になっていて、列車はここですれ違うのです。
すれ違い終了。すれ違った列車と別れて、こちらはさらに上っていきます。
コルダール駅(Kårdal)を過ぎ、ショースフォッセン駅(Kjosfossen)の手前で、進行方向右側に滝とジグザグの道が見えました。絵に描いたようなジグザグ。。
実は、滝の上左に見えるのはこの列車の終着のミュルダール駅。あとで、私たちはこのジグザグを下ることになるのです。
ほどなくショースフォッセン駅に到着。この駅の前後は岩山のトンネルで、その間のホームが張り出した展望台から大迫力のショース滝が眺められます。
列車はここでしばらく停車。ゴーゴーと絶え間なく流れるショース滝(Kjosfossen)を見ていると、それに負けない大音量で音楽が流れ、滝の中腹あたりでピンクの衣装の女性のダンスが始まりました。妖精が観光客へサービスしてくれたようです。
標高669mのショースフォッセン駅を出ると、フロム鉄道は馬蹄形のカーブを描きながらヴァトナハルセントンネル(Vatnahalsen tunnel)で高度を上げていきます。
馬蹄形の上端のヴァトナハルセン駅は811m。この駅の前にはホテルがあり、降りる人もいました。
そして、終点のミュルダール駅に到着です。フロム鉄道は、滝と渓谷など、変化に富む景色を眺められて楽しかった。
ここからは自転車です。駅にはレンタサイクルがあって、自転車で下りを楽しもうという人も結構いました。
積んでいた自転車は、「ちっちゃいね〜」とニコニコしながら係の人が出してくれました。
フロム鉄道と別れて「いざ出発!」とサリーナ。
ここからフロム方面へのサイクリング&ハイキングルートは、まず駅の前方からホームに並行した木製通路を後方へ進みます。
ここには駅と、数軒の小さな家があるのみ。駅の関係者のお宅かな。
木製通路はすぐに終わり、下りのダート路になります。
下り勾配はかなりキツく、しかも大きなゴロゴロ砂利のダート。「これじゃあ、自転車に乗れないよ〜」と押して進むサリーナ。
でも、ご安心あれ。そんなゴロゴロダートは短く、1kmほど進むとラーラルヴァエン(Rallarvegen)というルートにぶつかります。vegenは道路の意味で、Rallarはおそらく鉄道のことだと思われます。
このラーラルヴァエンは、ベルゲン鉄道およびフロム鉄道の建設工事のために100年以上前につくられた道で、ベルゲン鉄道に沿ってHaugastølからミュルダールまで、そしてフロム鉄道に沿ってミュルダールからフロムまで続いています。
そんなラーラルヴァエンが自転車ルートとして開放されたのは1974年のこと。今では多くのサイクリストがこのルートを楽しんでいます。
Haugastølからフロムまでは全長約90km。私たちはそのうちミュルダールからフロムまでの17kmを下っていきます。
ここは、フロム鉄道から見たあのジグザグ道です。路面は締まったダート。
周囲は涼しげな木々に囲まれ、「これなら乗って下れる〜」と嬉しそうなサリーナ。
そして、途中のカーブではミュルダール滝(Myrdalsfossen)が姿を見せました。
この滝もフロム鉄道から見えましたね。
ミュルダール滝とともに、さらにジグザグと下っていきます。
しばらくすると、周囲の木々がなくなり視界が広がります。下から見ると、こんな感じ。
その中をジグザグ下るサイダー。
九十九折れの激坂下り終了。「ああ、楽しかった〜」とサイダー。
ここからは緩やかな下りの舗装路になります。ちなみにラーラルヴァエンの始点ヘイガステル(Haugastøl)からここまではずっとダートで、最高標高1,343mの結構ワイルドな道が続くようです。
フロム川に合流しました。ここからはフロム渓谷を下っていきます。
谷が少し広がっているところに出てきました。
前方には家畜の群れ、そして右手には農場の建物がいくつか見えます。
群れはヤギさんでした。人なつこくて、私たちが停まっているとすぐに寄ってきます。ヤギの楽園を走るサイダー。
ここはラーラルーサ(Rallarrosa)という農場で、夏に10km下からヤギたちを連れてきて放牧し、フレッシュなヤギのチーズをつくって販売しています。事前に調べていたのに、立ち寄るのを忘れてチーズを買い損ねてしまいました。
ヤギの向こうに見えた川は、その先でフロム川に合流し、フロム川に架かる橋のあたりでコーダル滝(Kårdalsfossen)になっています。
この橋の上で、私たちに大きく手を振るグループが。何と、同じ民宿に泊まっていた中国人3人と偶然の再会です。「車でベルゲンに行く前にちょっとハイキングしてるんだよ」「そうなの〜、私たちは鉄道で上ってこれから下るのよ」
じゃあね〜、と別れて先へ進みます。
傍らのフロム川は、ときに静かに流れ、
ときに激しい急流となります。
谷間もときどき狭まり、ここで並行していた鉄道路線はトンネルに入り、私たちの目の前には不意に上り坂が現れました。
「久しぶりの上りで足が回らないよ〜」とサリーナ。
再び谷が広がってきて、上り終了。
フロム鉄道の路線がトンネルを抜けて、山裾を通っているのが見えます。
そして目の前に現れた細い滝は崖を落ちて木々の緑の中を流れています。
鉄道も楽しいけれど、変化に富んだ景色をゆっくり見ながら下れる自転車は最高!
自転車ルートは線路と川、そして牧草地と農場が見える場所に出てきました。列車のすれ違いを行ったベレークヴァム駅の近くのようです。
このあたりでちょっと休憩。道端でお昼のサンドイッチを食べていると、次々と自転車が通っていきます。
昼食を終えて走り出し、線路を越えると今度は鉄道が上を走っていきます。ちょうど列車が上を通り過ぎました。
右手にはフロム川がすぐ近くを流れています。そしてこのあと道は線路まで上って踏切を渡り、線路はトンネルに入ります。(TOP写真)
自転車で下る人たちと一緒に、渓谷の道をさらに進みます。
このルートは最初の激坂を除けば、家族連れの子どもたちも安心して走れる楽しいコースです。
正面左に滝が見えたので、脇道に入ってみるとフロム川に橋がかかり、滝のちょうど真下に出てきました。この滝はルーアンナ滝(Rjoandefossen)です。
いいね、いいね〜 というわけで、サイクリストに写真を撮ってもらいました。
橋から見たフロム川の流れも美しく、光を受けて輝いています。
もう行程の3/4くらいは来たはずです。終わってしまうのがもったいないなあ。
さらに川沿いをずんずん進んでいくと、谷が広がって牧草地の向こうに家並みが見えてきました。
オールド・フロムの村に到着です。
ここには木造のかわいいフロム教会があります。
実は、この同じ場所にスターヴ教会があり、それが1670年に現在の教会に建て替えられたそうです。
オールド・フロムを過ぎれば、ラーラルヴァエン終点のフロムはもう近い。
川沿いを進んでいくと、ほどなくフロム駅に着きました。
予定よりずいぶん早く到着。サイクリングにぴったりの楽しいルートでした。
フロム駅では、レンタサイクルの人たちが借りた自転車を返しています。
あとはアウルランまで来た道を帰るだけ。自転車道を走るサイダー。クイーン・エリザベス号はまだフロム港の沖合に停泊しています。
まだ午後3時と時間も早いので、途中のオッテルネス農場(Otternes Bygdetun)に寄ってみることにしました。
オッテルネス農場はフロムとアウルランの中間あたりの高台にあり、ここには18世紀の民家など27棟の展示があるといいます。
というわけで、E16から激坂をエッチラオッチラ上ります。すると眼下にアウルランフィヨルドの絶景が広がってきました。
前を見上げれば、高台の上に民家のような建物が連なっています。あれがオッテルネス農場なのでしょう。
上り終えて民家群の中に入っていきますが、なぜか受付のようなものは見当たらず、民家の扉も閉まっています。
あらら、今日は休み? それとも廃業しちゃったのかな?
フィヨルドを望む崖側には、赤い壁の建物が並んでいます。手前の建物の土台はネズミ返しのようで、倉庫なのでしょうか。
民家の内部は見られなかったけれど、農場の先にはベンチのある見晴し台があって、アウルランフィヨルドの眺めが楽しめます。
こちらは、アウルラン方面の眺め。
そして、反対側はフロム方面の眺め。雲が出てきて小雨も降りちょっと暗いのは残念ですが、晴れていればすばらしい絶景でしょう。
景色を楽しんだあとは再びE16まで下り、そこからは一路アウルランに向かいます。
アウルランに着くころにはまた陽がさしてきました。晴れたり曇ったり雨になったり、天気はめまぐるしく変わります。
アウルランでは、明日の移動に備えてフェリー乗り場をチェックしました。
そして、アウルラン川に沿ってダーレンの民宿に戻ります。
民宿の200mほど手前にも滝がありました。トゥーリー滝(Turlifossen)です。
脇道を入って近づいてみようとしましたが、すぐに道がなくなり牧草地になったので道の端から眺めて終了。
夕方5時前に民宿に着き、ビールとつまみでくつろいだあとは、ゆっくり自炊の夕食です。ところでスーパーで安売り缶詰を見つけ、最近はオリーブに加えてこれをつまみの定番にしています。今日はサバのトマト煮。結構いけますよ。
今日はフロム鉄道で景観ルートを上り、帰りは下り基調のラーラルヴァエン。渓谷の中の景色をゆっくり楽しみながら走ることができるこのコース、本当に自転車にピッタリで、「世界のジオポタコース」として認定することにしました!
さて、明日はフェリーでアウルランフィヨルドからナーロイフィヨルド(Nærøyfjord)先端のグドヴァンゲン(Gudvangen)まで行き、そこからヴォス(Voss)まで走ります。この行程、またしても激坂があるらしいがどうなるのか?