050 J.S.バッハ/ハープ/吉野直子

アルバムの写真とうとう、最後です。

吉野直子。 ハープ奏者です。 

J.S.バッハということもあるのですが、最後にこの人を紹介したいと思います。

ハープという楽器はとても神秘的です。 この楽器は、中世やそれ以前にはずいぶんともてはやされた時代もあるのでしょう。 だけれど僕達が日常耳にする音楽にはほとんどこれは登場しません。 しかし、大抵の人はハープという楽器を知っています。 なぜでしょう。 天使が持っている楽器だから? 著明な作曲家でこの楽器のための曲を残している人はほとんどいない。 だから曲としては不毛の地帯なのです、この楽器は。 だけれど、僕達は大抵この楽器の音を知っている。 なぜなのでしょう。 それはこの楽器の音がみんな好きだからでしょう。 いろいろな曲が編曲されてこの楽器でやられる。 それで、僕達はいつとはなしにそんなものを耳にしているのです。

僕が知っているハープ奏者というと、スザナ・ミルドニアンとウルズラ・ホリガーくらいしかいません。 両者ともバロックを少しやるからでしょう。 この人々のはそれなりに聴きました。 だけれど、正直いってハープという楽器がほんとうに自分でわかったというまでにはなりませんでした。 それで僕はハープという楽器のことさえ、ずいぶんと忘れていました。

ある日、『フーガの技法』のところに登場させた友人のところを久々に訪ねると、吉野直子の『アラベスク』というアルバムをかけてくれました。 これは僕が日常的には聴かないドビュッシーなんかが入っているものでしたが、僕はすっかりこれに参ってしまった。 そこには今まで聴いたことのない、『ハープという楽器』がありました。 僕はその音が頭にこびり着いて離れなくなってしまっていた。 帰京すると即座にそのCDを手に入れました。 そして、それを聴きながら僕は彼女のバッハを夢見ていた。 そうこうするうちに、彼女がバッハを弾くというではないか。 僕は勇んで出かけた。 もちろんバッハはこの楽器のための曲を残していない。 演目は予想のとおり、クラヴィーアものでした。 フランス組曲の6番。 

この写真にあるように、漆黒の衣装に身を包んで彼女は現われました。 袖から出て、歩み、挨拶、そしてハープへ向かうまでの完璧なステージマナー。 この人はどこでこれを身に付けたのだろう。 僕は正直いって演奏を聴く前からすっかりこの人に魅せられてしまっていました。 始まりはたしかヘンデルだったと思う。 最初の音からもう僕は別の世界に行っていた。 なんて表現したらいいのだろう。 少しも気取りがなくて、優しくて伸びやかで、それでいてきちっとした緊張の糸がピンと張られている。 次ぎのバッハになって、僕は至福の喜びを久々に味わった。 音のまん中にきちっとした核があって、これが今までの僕が知っているハープ奏者の誰とも違う。 それでいて、ちっとも硬い音ではなくて、流れるようなこの曲そのものの演奏だ。 この曲があたかもハープのために創られたものと思わせる。 僕は本当に満足した。 それからほどなく、このCDが出た。 パルティータの1番、イギリス組曲の2番、そしてフランス組曲の3番 といいところが取り上げられています。 僕はこの人がこれからどこへゆくのかとても楽しみです。

レーベル:SONY

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uploaded:2004