ソリア
ブルゴスから南東約140kmのソリアへ移動し、ここでスペイン在住の友人のマリちゃんと合流です。
カスティーリャ・イ・レオン州の東端にあるソリアは、標高1,000mを超える台地上にあります。この街の東から南へと流れるドゥエロ川は、かつてキリスト教徒とイスラム教徒との境界線とされ、ソリアはレコンキスタの重要な戦略拠点であったといいます。そして13世紀に入ると牧羊と羊毛の交易が盛んとなり、16世紀頃まで大きく繁栄しました。
そんな街の繁栄を物語るゴマラ邸(Palacio de los Condes de Gómara)は、街の中心部にある邸宅です。1592年の完成。
通り沿いに長く伸びたファサードのデザインは2面に分かれ、バルコニーを持つ左手側に主要な入口があり、アーチの連なる右手側の端には塔が聳えています。
そこから東へ進んでいくと、塔のあるサン・ペドロ大聖堂が見えます。
現在見られる建物は16世紀のゴシック様式ですが、12世紀の教会の上に再建されたものだそうです。
そして、その教会の回廊は12世紀半ばから13世紀初頭にかけて建てられたロマネスク様式のものです。
この回廊の北側部分は当初のものがそのまま残っているのだそうで、5つずつのアーチを持つ3つの区間に分かれています。
アーチを支える細い2本の柱の上の柱頭には、草花や鳥、動物、人の頭など、さまざまなモチーフが刻まれています。
これは中央に天使、そして両側は人の顔を持つ鳥なんでしょうか。植物が絡みついています。
別の柱頭に目をやると、こちらのデザインは鳥と植物か。リズミカルに連続する柱とさまざまなモチーフが姿を現す柱頭がとても美しいロマネスクの回廊でした。
次に訪れたのは、12世紀に建てられたサント・ドミンゴ教会です。創設者はアルフォンソ8世とその妻レオノール。
ファサードの中央に入口があり、その上に薔薇窓があります。入口の両側の壁には2層の柱とアーチが連なっています。シンプルですがとてもエレガントな感じ。
特に目を引くのが、この四重のアーキボルトに覆われた入口周りです。アーキボルトの彫刻は、天地創造からアダムとイヴ、黙示録の24人の老人が楽器を奏でる姿、キリストの物語など、さまざまな内容が表されているそうです。
そして写真では欠けていますが、この入口の上部左右にアルフォンソ8世とその妻レオノールの像があります。ただし、右の王妃レオノールは傷みがひどいそうで、覆われていて見えません。
入口上の半円形部分には、中央にキリスト像、その周りに4人の福音史家、そして左右にヨゼフとマリアが配置されています。
マリアではなくヨゼフの胸にキリストが抱かれているのは世界でも珍しい例なのだそう。
教会内部は窓が少なく静けさに包まれています。
内部の交差部や祭壇部分は、後年改修された16世紀末頃のルネサンス様式なのだそうです。
サント・ドミンゴ教会から南へ下っていくと、細い路地に歴史を感じさせる建物が並んでいて楽しい。
写真の左の建物はソリエール邸(Casa de los Solier)で、ゴマラ邸の6年後の1598年に建てられた邸宅だそうです。
さらに南へ進んだ突き当たりに、12世紀に建てられたサン・フアン・デ・ラバネラ教会があります。
この教会は、ロマネスク様式でラテン十字の内陣を持つ稀な例なのだそうです。15世紀に2つの礼拝堂が追加され、16世紀には交差部の上に塔が設けられました。
後陣は半円形をしています。3本の柱に挟まれた2つの窓と、その両側に2つずつのレリーフで飾られた窓のないアーチが並び、リズム感を出しています。
入口は13世紀のものですが、実は、この教会の門の傷みが激しかったことから、街の西側にあるサン・ニコラス教会にあった門を1908年にこちらに移設したのだそうです。サン・ニコラス教会の方は遺跡として保存されています。
アーキボルトに覆われた入口上部には7人の彫刻があり、中央はサン・ニコラスとのこと。
さて、市役所などの建物に囲まれた街の中心広場、プラサ・マヨールにやってきました。
その一角には子どもたちの遊び場がつくられています。
大勢の子どもたちを乗せて数珠つなぎになった観光用のカートもやってきました。みんな大はしゃぎで楽しそう。
私たちは、街の東端を流れるドゥエロ川を渡ります。
ドゥエロ川は総延長897km。ワインのぶどう生産でも有名なこの川は、ここから西へ向かって流れ、ポルトガルではドウロ川と名を変え、ポルトで大西洋へ注いでいます。
その川沿い、街の対岸にあるのがサン・フアン・デ・ドゥエロ修道院です。キリスト教の防御のため、12世紀半ばにこの場所に建てられました。
通りの反対側の土手を上ると、塀の内部に小さな教会と回廊の柱が見えます。
ロマネスクの教会内部は、シンプルな長方形の内陣の奥に半円形の後陣があります。
ちょっと変わっているのは、後陣の手前の両側に、左は半球形、右は円錐形の天蓋を持つ四つの柱に支えられたスペースがあること。
天蓋を支える柱の柱頭にはさまざまなレリーフが施されています。
キリストの誕生のレリーフもあるということなので、これらの人物は3人の王様でしょうか。
そして天蓋の中を見てみると、交差するヴォールトを支える部分にも彫刻が見られます。
左は植物のようですが、右は大きな目を持つ動物ですね。
教会の横にある回廊は、屋根はなく連続する柱が残るのみですが、これらの柱がとてもユニークで他には見られないものです。
北東の角には、イスラム風の馬蹄形アーチ。
そして、北面の東側半分の柱は、4本の柱が十字に束ねられた形で、柱頭には植物文様の他、1箇所のみ人面鳥のようなレリーフが見られます。
一方、北西の角を挟む北面の西半分と西面の北半分は、柱の下に基壇があり、2本の柱がアーチを支える典型的なロマネスク様式の柱です。
柱頭のレリーフには植物や鳥や動物、人の姿もみられます。
これは頭部が欠けていますが、鳥ですよね?
こちらは南面の柱。交差するアーチはイスラム風のデザインですが、その形は手前と奥では異なり、また柱も手前は四角、奥は2本組のものです。
その南面の真ん中はここだけ柱が抜けていますが、取れたんじゃないですよね?
両側が太い柱で支えられているので、入口ということでしょうか。
ロマネスク教会と回廊が大好きなサリーナは、さまざまな形の柱の不思議な連続にとても盛り上がっています。
南西角の馬蹄形アーチの前で、マリちゃんに記念写真を撮ってもらいました。
サント・ドミンゴ・デ・シロス
さて、今回カスティーリャ・イ・レオン州を訪れた大きな目的はロマネスクの教会を見ることでした。中でも特に見たかったのがサント・ドミンゴ・デ・シロス修道院です。
修道院のあるサント・ドミンゴ・デ・シロス村は、ソリアとブルゴスの間のブルゴス寄りにありますが、バスはブルゴス発の夕方の1便のみらしい。そんなわけで、一旦ブルゴスに戻って夕方のバスに乗ります。小さなローカルバスで、常連の地元の方たちが細かく乗り降りしていきます。
ブルゴスから1時間半ほどでサント・ドミンゴ・デ・シロスに到着。ホテルを見つけて部屋を確保し、まだ明るいうちにちょっとだけ散策することにしました。
サント・ドミンゴ・デ・シロスは細い路地が2~3本交差するだけの小さな村ですが、寄り添って建つ石造りの家並みは趣きがあります。
1階部分がポーチになって2階が張り出している家が3軒ほど並んでいました。
この木の柱は壊れそうで、ちょっと心配になります。
こちらの路地からは、奥に修道院の教会の塔が見えます。
教会の建物は再建されたもので、18世紀中頃から建設が始まり1816年に完成したバロック様式です。
村の中心のマヨール広場に戻ってきました。その角が修道院です。
修道院の横から南へ続く道沿いには小さな水の流れがつくられており、水路の一部が屋根で覆われているところは洗濯場か何かだったんでしょうか。
その先には村の入口のサン・フアン・デ・シロス門があります。門を抜けて、さらに先の丘に上ってみます。
わっせわっせと上っていくと、次第に見晴らしが開けてきました。丘の上には小さな礼拝堂があります。
そこからは、荒涼とした平原に囲まれたサント・ドミンゴ・デ・シロス村が見渡せました。塔とその手前左の建物は修道院、右の方に見えるのはサン・ペドロ教会です。
丘の上では地元の女性たちが景色を眺めながらおしゃべりしています。
そして、子どもたちも遊びに来ていました。この丘は村の人々の憩いの場なのでしょう。
カメラを向けるとポーズしてくれるのがかわいい。
丘から東に目をやると、色とりどりの三角が並んでいてびっくり。キャンプ場のようです。
日も傾いてきたので、そろそろ丘を下りてホテルに戻ります。静かな村のホテルでゆっくり過ごします。
私たちが泊まったホテルは修道院の目の前のマヨール広場にあります。1745年の建物がトレス・コロナスというホテルとレストランになっていて、インテリアもとてもいい雰囲気です。
この小さな村に立派なホテルがあったのは驚きでした。修道院を訪ねる旅人が宿泊するのでしょう。
翌日は修道院のオープンと同時に入場。何せ、ホテルは修道院の目の前にありますから。
早速回廊に入ると、中庭の中央には水盤、そして斜め横に大きな糸杉が一本聳えています。
このベネディクト派のサント・ドミンゴ・デ・シロス修道院の創設は7世紀に遡ると言われていますが、その後のイスラム支配の時代の空白を経て、この回廊は、下層が11世紀後半から12世紀初頭にかけて、上層は12世紀の後半につくられたそうです。
1階の回廊の柱は基壇の上にありますが、北面と東面に1箇所ずつ基壇が切れて中庭に入る入口が設けられています。
より重要なのは1階で、その建築は明らかに2つの時期に分かれているといいます。最初に北面と東面の回廊が11世紀終わりに、続いて南面と西面が12世紀に、異なる工房によってつくられたのだとか。
写真の回廊の通路中央には、この修道院にその名前を冠することとなったサント・ドミンゴの墓が安置されています。
こちらは南面。柱頭には多様な植物文様が彫られ、写真の最も手前の柱頭には鹿のような動物の姿も見られます。
南面の柱頭の一つには、鳥の姿をした魔物のようなレリーフがありました。どれも活き活きと動き出しそうです。
そして、北東の角の柱の大きなレリーフは『トマの不信』。キリストと、12使徒の中でキリストの復活を疑うトマの姿が刻まれています。
感情を排除し穏やかに中空を見つめるロマネスクの群像ですが、回廊に降り注ぐ光と影でその感情が見事に浮き上がってくるようにも見えます。
その柱の別の面には『エマウスの巡礼』のレリーフ。エルサレムの近郊のエマウスに向かうキリストの弟子2人がキリストに出会ったシーンを描いています。
柱の光と影が強いコントラストを生み出している西面の回廊。柱頭をさまざまな植物の文様が飾っています。
ここでは、ただ静かな時間が流れていきます。
回廊の東側にある門は『プエルタ・デ・ラス・ヴィルヘネス』。再建前のロマネスクの教会への入口だったそうです。
また、回廊の隣の古い修道院の部屋は博物館となっています。写真は、再建以前のロマネスク教会の門の上にあったというレリーフ。
再び回廊に戻り、このロマネスクの至宝に別れを告げます。
18世紀に教会は建て替えらたものの、回廊は資金がなくてそのままになっていたとか。そういうわけで、幸運にもこの美しい回廊が残ったのです。
荒野の中にひっそりと佇むサント・ドミンゴ・デ・シロス。
この小さな村に泊まり、丘を散策し、そしてじっくりとロマネスクの美しい回廊に浸ることができました。