フェズ 初日
モロッコ旅行も終盤、私たちはついにフェズにやってきました。ここには世界一大きいメディナがあります。
車でメディナに入れる唯一の道を通ってルーシフ広場(Place R'cif)へ。その北側にあるシド・ラオード門(Bab Sid L'Aouad)からメディナに入ります。
フェズは、8世紀の終わりにイドリス1世によって創設され、810年にイドリス2世によって都とされました。そして859年にアフリカ大陸で最も古く大きいモスクと言われているカラウィイーン・モスクおよびカラウィイーン大学が創設され、その後のいくつかのイスラム王朝の下で発展しました。
街は、最も古い城壁に囲まれた『フェズ・ル・バリ』、13世紀に建設された『フェズ・ル・ジェディド』、そして20世紀のフランス占領下でつくられた『新市街』の3つに分けられます。
私たちはフェズ・ル・バリの奥へと足を踏み入れます。
すぐに何人もの『ガイド』から声をかけられます。いらないいらない、と言いつつ進みますが、1人の男性が『自分の家はすぐそこで、家を見せてあげる』と言ってきたので、一緒に行くことにしました。
早速家に上がらせてもらうと、タイルを敷いた1階の居間は2層分の吹抜けがあり、涼しくて気持ちのいい大空間です。
居間は壁に沿ってソファが置いてあり、家族や友人が集まって楽しくおしゃべりできそうです。
装飾もなかなかきれいでした。ちょっとリッチな家族のお宅ということでしょうか。
屋上テラスからは、フェズ・ル・バリの街並みが見渡せました。
緑の屋根のモスクやミナレットが見えます。
建物の屋根はみなフラットな陸屋根で、多くの建物で中庭や明かり取りが設けられています。
さて、街歩きを始めましょう。
通りを挟んで小さな店が並び、人通りも出ています。
そんな通りから細い路地へ入ると、水場があって色とりどりの糸がぶら下がっていました。
ここで糸を染色しており、フェズ川に近いこのあたりは染色職人のスークとのことです。
メディナの真ん中を細く流れるフェズ川にさしかかりました。この川の水は、周囲の染色などの手工業に利用されています。
狭い路地で荷を運ぶロバとすれ違います。
車が進入できず、坂や階段も多いフェズ・ル・バリでは、今もロバが荷物運びに活躍しています。
道の両側には3~4階建の壁が建ち、薄暗い路地を進む。時折日が差すところに出てくるとちょっとホッとします。
そして、タンネリ・ショワラ(なめし革工場)に到着。ここでは工場内を見学できます。
このなめし革工場は500年以上の伝統を誇る施設だそうで、動物の皮を洗ったら、まずプールに浸けられ柔らかくされます。
この柔らかくする液体は、鳩の糞のアンモニアを使っているとのこと。
そんなわけで、一帯にはすごい悪臭が漂っています。
柔らかくなった皮は、続いて染色工程へ。
丸い桶にはさまざまな染料が入れられ、そこで革が染められていきます。染料は自然由来のものだそうで、例えば赤はポピー、黄色はサフラン、青はインディゴとのこと。
作業する人たちは半裸で桶の中に入っていきます。重い革を運んだり桶に浸けたりと、かなりの重労働です。
そして、横の建物の屋上を見ると、染色された革が並べて天日干しされています。
ここでは、籾殻か藁のようなものを屋上に敷き詰めていました。これは何のためなのかわかりませんでしたが、ともかく全て手作業でなめしと染色の工程が進められています。
伝統的な製法がそのまま受け継がれるなめし革工場、かなりインパクトのある工場見学でした。
続いて、今度は打って変わってゴージャスな邸宅のようなところにやってきました。ここは、実は絨緞屋さんです。
宮殿のような雰囲気のこの部屋で絨毯を選びます。私たちは見るだけですが。
柱の装飾も凝っています。柱のレリーフの色とりどりの彩色は、これまでの建物では見たことがありません。私としてはシンプルな白の方が好みではありますが。
そして2階へ。吹き抜けの手すりには絨毯がいくつも飾ってあります。
2階の吹き抜けからは、1階の床の美しい模様が眺められます。お客さんは、この床にいくつもの絨毯を並べて選ぶのでしょう。
店を出て、次に入ったのは宿屋だったという建物。3階建の建物の四角い中庭に面して通路があり、その外側には部屋が並んでいます。
続いて訪れたのは、アル・アッタリーン・マドラサ(Al Attarine Madrasa)。1325年に建設された神学校です。
ムワッヒド朝に変わって13~15世紀にかけて栄えたベニメリン朝のスルタンは宗教教育に力を入れ、各所に神学校を建設しています。
このマドラサの中央には美しい四角い中庭があり、祈りの部屋に繋がっています。
タイルの床と壁、繊細な漆喰の彫刻、そして目を上にやると、木造の透かし彫りの壁、天井、垂木などが重厚な趣を醸し出しています。
2階から中庭を見下ろす木造の窓、そしてその周りのレースのような漆喰の装飾も美しい。
中庭から祈りの部屋への木の扉にも繊細な彫刻が施されており、緑や茶色、白、黒の幾何学模様のタイルの壁、白く緻密な漆喰の壁と共に格調高い姿を見せています。
このマドラサは、ベニメリン朝の建築の傑作の一つとされています。
細かい装飾を見てみましょう。
タイルの黒や上の漆喰は、つる草植物のようにデザインされた文字でしょうね。
窓の木のレリーフと、レース模様の漆喰壁。あまりの繊細さにため息が出ます。
ところで、この神学校の名前アル・アッタリーン(香料)は、周辺地区がスパイスや香料のスークであることに因んでいます。マドラサは、外のスークの喧騒を忘れる静寂の空間でした。
マドラサを出ると、すぐ隣には小さな衣料品などの店が集まるモールのような場所がありました。
このお店はたくさんの糸を売っています。扇のように飾られたとてもカラフルな糸が目を引きます。
そして、すぐ近くには『ムーレイ・イドリス2世廟』(Zaouia of Moulay Idriss II)がありました。
807年から828年までモロッコを治め、フェズに都を置いたムーレイ・イドリス2世が埋葬され、礼拝所となっています。
ムーレイ・イドリス2世廟には、ムスリムではないため入ることはできません。ちょっと覗くだけ。きらびやかな霊廟への入口が見えました。
さらに路地を少し西へ進むと、ネジャリーン広場という小さな広場に出ました。ネジャーリンとは大工という意味だそうで、この周辺には大工さんや家具職人が多いのだそう。
また、広場には美しいタイルと彫刻の泉があります。
そして、少し歩いたこの辺りが大工さんや家具職人のエリアなのでしょう。小さな区画は作業場になっており、脇にはハシゴなども置かれています。
帰り道、先ほど見学したアル・アッタリーン・マドラサが付属するカラウィーイーンモスク(カラウィーイーン大学)をちょっとだけ覗いてみました。大きく立派な建物の中庭に、ゴザを敷いて人々が集っていました。
ここもムスリムではないため私たちは入れませんが、当初859年に建てられ、増改築されて現在では2万人を収容できるモスクなのだそうです。
本日のフェズの街歩きはこのあたりで終了。世界最大のメディナのうちほんの少し訪問したにすぎませんが、迷路を彷徨いながら職人たちの伝統的な手工業と工芸に触れ、美しいマドラサにも出会うことができました。
明日はメクネスとその周辺に日帰りで出かけ、明後日また残りのフェズ歩きを楽しみます。
フェズ 最終日
さて、フェズの最終日です。今日はまず、世界最大のメディナ『フェズ・ル・バリ』の全体を見渡すところから始めましょう。(TOP写真も)
その絶好の場所は『フェズ・ル・バリ』の北の丘の上、14世紀頃からベニメリン朝の王家の人々が埋葬された『ベニメリン(マリーン)朝の墓地』(Marinid Tombs)あたりです。
道路の向こうに城壁、そしてその向こうに1000年以上もの歴史を重ねて密集するフェズ・ル・バリの街並みが見渡せます。
古都フェズの全体像を堪能したら、今日のフェズ・ル・バリは西の端、ブー・ジュルード門からスタートです。
ここには12世紀から門がありましたが、城壁の門自体が次第に防御の意味をなさなくなり、20世紀に入ってフランスの占領地となると、旧市街に入るより大型の門に変更することが必要となり、1913年に現在の門がつくられたそうです。
3つのアーチを持つ壁面はタイルで覆われ、この門は今ではフェズのメディナの象徴的な存在となっており、また一般的には車両は入れないことになっているとか。
このブー・ジュルード門を入って100mほどのところに、『ブー・イナニヤ・マドラサ』があります。門からはちょうど正面にこのマドラサのミナレットが聳え立っているのが見えます。
1356年に建てられたこのマドラサ(神学校)は、ベニメリン朝の代表的な建築で、またフェズでは唯一ミナレットを持つマドラサだということです。
他のベニメリン朝の建築と同様、中庭の床と壁や柱の下部には幾何学模様のタイルが貼られ、上部は漆喰の壁、そしてその上は木造の壁、天井、屋根が組まれ、一面に繊細な装飾が施されています。
アーチの天蓋部分には、鍾乳洞のような漆喰の飾り。そして壁にはレースのような模様。
他のマドラサと同じように、2階には学生の部屋があります。
そして、2階中央の透かし彫り窓。内部からは星が降っているように見えるのでしょうか。
この壁にも星がちりばめられ、その中に文字が描かれています。
大きな木の扉にも美しい幾何学模様が彫られています。
マドラサは、年月の経過に伴って教育の場という役割だけでなく地域のモスクとしての役割も果たすようになり、社会的な支援の場にもなったといいます。
マドラサの見学を終えたら、あとはフェズ・ル・バリをぶらぶらと彷徨うのみ。
小さな店を覗きながら、荷物を運ぶロバ、ジュラバで通り過ぎる人々と共に、あてもなく散策を続けます。
そして、フェズの宿にもステキなプールがありました。散策に疲れたらひと泳ぎ。子どもたちとすぐ仲良くなるショコさんです。
古都フェズは、ゆっくり時間をとって彷徨いながら過ごしたいところです。