サンフランシスコから飛行機で約1時間半、ロサンゼルスに到着しました。さて、ロサンゼルスで観光といえばハリウッドやビバリーヒルズ、あるいはビーチでしょうか。
郊外がとてつもなく広がるこの大都市、『街歩き』が好きで車を運転しない私たちにとってはちょっと途方に暮れる街です。ここは潔く、ダウンタウンの街歩きとユニバーサルスタジオの2つに絞ることにしました。
というわけで、本日はダウンタウンを歩きます。まず覗いたのは『グランド・セントラル・マーケット』。
1917年に開設したこの市場は、当時ロサンゼルスのダウンタウンの商業や娯楽の中心であったブロードウェイにあり、さまざまな『食』を提供し、食の提供者を育成し、人々の集まる場として機能し続けているのだそうです。
いろいろな種類の果物が並んでいます。グレープフルーツ、りんご、アボカド、ネクタリンなどなど。
こちらは野菜。トマト、レモン、とうもろこし、ニンジンなどなど。カラフルで美味しそう。
基本食材だけではありません。手前はナッツやジェリービーンズを売っているお店です。子どもが目を輝かせて見入っています。
チーズ屋、花屋、総菜屋にカフェなど、いろいろ並んでいて楽しい。
このあたりからブロードウェイ沿いの南西6~7ブロックの界隈は『ヒストリック・コア』と呼ばれ、1900~1950年代にロサンゼルスのビジネスの中心だったところです。
通り沿いには、当時建設された意匠を凝らした劇場や商業ビルなどが軒を連ねています。その一つ、グランド・セントラル・マーケットからブロードウェイを挟んで斜向かいにあるレンガ貼りの建物が『ブラッドベリー・ビル』。
金鉱王ルイス・L・ブラッドベリーによって1893年に建てられたブラッドベリー・ビルの外観は特にインパクトのあるものではなく、赤レンガの壁、そして最上階の窓とコーニスはイタリア・ルネッサンス風です。
アーチの入口から建物内に入ってみましょう。
木枠のガラスの扉を開け、やや薄暗い中で階段の横を進んでいくと、いきなり5層分の高い吹き抜け空間が現れ、天井のガラスから明るい光が差しています。
この吹き抜けには各階の廊下が面しており、そこに鋳鉄製の黒っぽい階段と、向かい合う2機のエレベーターが取り付いています。
そして、壁は飴色の釉薬を施したタイルやレンガ、漆喰のレリーフが落ち着いたエレガントな雰囲気。
廊下や階段の黒い鋳鉄は植物が絡みつくようなデザイン、そこに木の手すりが回って穏やかさを与えています。
エレベーターの枠は鉄のフレームのみのオープンなもので、この細長く上に伸びる空間に軽快な躍動感を与えています。
壁に挟まれたエレベーターの扉も黒い鋳鉄で美しい模様。
そして、扉の上部はさらにレースのような繊細なつくり、これがオフィスビルとは。こんなところで仕事をしてみたいものです。
私サリーナがこの建物を特に見たかったのは、ここが1982年の映画『ブレードランナー』のロケ地だからでもあります。オープンなエレベーターなど映画そのままで盛り上がりましたが、映画ではもっと荒廃したイメージだったので、実際の建物のエレガントな雰囲気にはビックリでした。
階段の手すり部分の鋳鉄。これらの美しい造作はフランスでつくられ、この建物に設置する前に1893年のシカゴ・ワールドフェアに出展されたのだそう。
建物のステキな空間に満足してブラッドベリー・ビルをあとにしました。
そのブラッドベリー・ビルのサードストリートを挟んだ向かいには、『ビクター・クロージング』と書かれた大きな壁画がありました。
この壁画のある建物がビクター・クロージングという会社のビル、そして踊っている男性はアンソニー・クイン、背景の建物はブラッドベリー・ビルの入口だそう。このビルにはラテン系をテーマにした壁画が3つ描かれています。
さて、ここからは少し北東方面へ歩きます。
ロサンゼルスのダウンタウンは1930年代までは大きく繁栄していたものの、車交通の発達と郊外化の進展によって衰退し、多くの歴史的な建物が駐車場整備のために壊されたそうです。しかし近年はダウンタウン活性化の取り組みも進められています。
ダウンタウンには移民も多く、中南米の人々向けにスペイン語で書かれた店の看板もよく見かけます。
次に着いたのは、真っ白な塔のある教会のような建物ですが、これは『ユニオン駅』。
1939年に開設したこの駅は、スペインのミッションとアールデコの混在したデザインで、『アメリカ合衆国最後の大駅舎建築』と呼ばれているそうです。
現在も南カリフォルニアの列車交通のハブとして機能しているこの駅は、1980年に国の歴史的な建造物として登録されています。
駅舎の中に入ってみましょう。入口ホールの正面に大きな待合室、そして左手にチケット販売のロビーがあります。
大空間は大きなアーチで仕切られていますが、小さな待合室などへの入口デザインはちょっとしたアクセントになっています。
ここはチケットロビーの販売カウンターだったところ。写真の右側がカウンターです。高い天井には木で組まれたトラス、壁や床はタイルや大理石でゆったりと落ち着いたイメージ。そこに、連続する高い窓から明るい陽が注いでいます。
再び映画『ブレードランナー』の話になりますが、このユニオン駅の駅舎もそのロケに使われました。
ユニオン駅から道路を挟んで北には、『ロサンゼルス・ターミナル・アネックス郵便局』があります。
1940年に完成したこの郵便局は、前年に開設したユニオン駅との調和を意図してスペインのミッションやコロニアル風のデザインになっています。
そして、ユニオン駅の西、アラメダ通りを介した対面には "ロサンゼルスで最も古い通り" とされる『オルヴェラ通り』があります。
『ロサンゼルス』は、1781年にスペイン王カルロス3世の命によりメキシコから11家族が移住し、この地を『天使の女王の村』(El Pueblo de Nuestra Señora la Reina de los Ángeles)と名付けたことから始まったそうです。
この通りには1800年代前半の建物も残り、現在はカラフルな手工芸品などの土産物やカフェ、屋台が並ぶメキシカン・マーケットとして賑わっています。
週末にはメキシコの民俗舞踊なども行われ、今は観光客で賑わうオルヴェラ通りですが、町の創設から100年ほど経過した1900年前後には、町の拡大に伴って地域は衰退し建物も荒れ果て、メキシコやシチリアなどからの貧しい移民労働者が住むエリアになっていたそうです。
その通りを蘇らせたのがクリスティン・スターリング(Christine Sterling)という女性でした。
彼女はロサンゼルスの最も歴史あるオルヴェラ通りを荒廃から救おうと、1926年に活動を始めます。この通りをメキシコ人たちのマーケットおよび文化センターとする構想を持って新聞社や市当局に働きかけ、その協力を得て資金を集め再生を進めます。
そして1930年、オルヴェラ通りは歴史ある地区でメキシコ文化を継承する歩行者専用の『パセオ・デ・ロサンゼルス』としてオープンしたのだそうです。
通りの南側にはプラザがあり、そこからオルヴェラ通りへの入口には十字架に古い町の名前を記したモニュメントがあります。
そして、その横には1926年に建設された『プラザ・ユナイテッド・メソジスト教会』の塔が建っています。
今日のダウンタウン散策はここで終了。ロサンゼルスの成り立ちと20世紀前半のダウンタウン繁栄の名残を訪ね、映画『ブレードランナー』の世界に浸ることもできました。
さて、明日はさらに映画の世界へ。。
翌朝。朝の散歩でリトル・トーキョーへ。こぢんまりしたエリアです。
中華街のインパクトに比べると、やっぱり随分おとなしい雰囲気ですね。手前の屋台は借り手募集中。
そして、シャトルバスでダウンタウンから北西へ15kmほど、ユニバーサルスタジオに着きました。
このテーマパークは、本物の映画スタジオによるスタジオツアーが発展したもので、1964年から本格運営されているそうです。
まずはトラムに乗って映画のセットの中へ。
そこにはクラシックな街角がありました。これ、みんなハリボテなんですかね。
セットとは思えない街並みが続きます。誰もいないからゴーストタウンのよう。やりますねえ。
そして次の角からは中世ヨーロッパ風の街並み。よくできてます。
トラムツアーは途中、地下鉄駅での大地震とかキングコングなどのアトラクションも組み込まれています。
ヒットした映画やテレビシリーズをテーマにしたアトラクションもいろいろあります。『スター・トレック』、『マイアミ・ヴァイス』、そして西部劇のスタント・ショウ。『バックドラフト』では燃え盛る熱い火や煙が伝わってきて、ギャー!と叫びそうに。
結構楽しく過ごして満足のサリーナです。
翌日、今日はシカゴへの移動日ですが、ロサンゼルスで最後に訪れたのは現代美術館(Museum of Contemporary Art, Los Angeles)、通称MOCAです。
右奥のガラスのピラミッドを乗せた赤い建物がそれ。
日本人の建築家磯崎新の設計によるこのロサンゼルス現代美術館(グランド・アヴェニュー)は、1988年にオープン。
写真はその入口前にあるピラミッド型の泉です。
そして、美術館のエントランス。赤っぽい石張りの壁に囲まれた中庭で、屋根の上のピラミッドが迎えてくれます。
ロサンゼルス現代美術館は、ロサンゼルスで唯一の現代美術に特化した美術館で、この建物の完成前の1983年にリトル・トーキョーの一角の古い倉庫・車庫の建物で仮オープン。その建物は建築家フランク・ゲーリーによって改修され、現在も『ゲフィン現代美術館』としてMOCAの施設となっているそうです。
グランドアヴェニュー側には、円筒形のウイングが顔を見せ、中庭へと招き入れてくれます。
高層ビルの建ち並ぶ界隈にあって、この美術館は落ち着いたくつろぎの公共空間も提供してくれます。
おまけのこれは、駐車場のサインだったかな。
グランドアヴェニューを少し南へ下りフィフス・ストリートに入ると、ロサンゼルス中央図書館がありました。
この建物は1926年に完成したそうで、何だか日本の国会議事堂を思い起こします。古代エジプト・地中海リバイバル様式というのだとか。後ろの超高層は『シティ・ナショナル・プラザ』のツインビル。
このちょっとクラシックな雰囲気の建物は1926年に完成した『地下鉄ターミナルビル』というオフィスビル。地下鉄のコンコースに直結する入口があったそうです。(*改修され、2005年以降は『メトロ417』というアパート)
ダウンタウンでは、1920~30年代のロサンゼルス繁栄時代の建物を中心に見ながら街歩きすることができました。
そろそろロサンゼルスを出発する時間となりました。シカゴまでは飛行機で4時間ほど。
到着したのはシカゴ・オヘア空港。この巨大な空港では、飛行機が到着してからターミナルビルにたどり着くまでにも結構な時間がかかります。遠い。。
ホテルに着いて荷物を置いたら、何はともあれ夜景を楽しみましょう。100階建のジョン・ハンコック・センターの94階展望フロアから南を見れば、超高層ビル群とまっすぐに延びる道路の豪華な夜景が目に飛び込んできます。
さて明日からは、シカゴ現代建築を巡る街歩きです。